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2021.02.23 Tuesday
「さくらももこが岡田あーみんの彼氏を略奪したのはデマ」説を探ってみた
JUGEMテーマ:少女漫画全般
yahoo知恵袋にこんな質問があった。
※回答がひとつもつかなかったようで質問は削除済み
デマだという確たるネット記事が見当たらないので、やけに確信的に「デマのようですね」と言い切るのが若干引っかかったのだが、この という噂は昔からまことしやかに囁かれてきたものだ。 検索窓に「さくらももこ」或いは「岡田あーみん」と入れると、サジェストで二人の名前が並んで出てくるくらい有名な噂である。
「デマのようですね」と断言されると「そうなのか?」と否定的な疑念が湧くのだが一方で私自身この噂を肯定する明確なソースを見たことがない。
ということで「さくらももこが岡田あーみんの彼氏を略奪した」という噂を探ってみたいと思う。
まずは登場人物の簡単な説明からしていこう(敬称略)。
①さくらももこ 国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」の作者。エッセイストとしても売れており、エッセイの初期三作品はすべてミリオンセラー。 2018年8月15日、乳がんにより逝去。
②岡田あーみん 1983年にデビューし、単行本は『お父さんは心配症』『こいつら100%伝説』『ルナティック雑技団』の三作品のみだが2020年代の現在でもカルト的な人気を誇る少女ギャグ漫画家。「あ~みん」の表記ゆれあり。
③宮永正隆 元『りぼん』の編集者。現在40代以上の「全国200万乙女」だったりぼんっ子だった人は知っているらしい「みーやんのとんでもケチャップ」という大人気読者コーナーを担当していた。さくら氏、岡田氏両名の元担当編集者で、さくら氏の元夫(1989年 -1998年)。つまり「略奪された彼氏」とされる人物。
実際、この噂の真偽は当事者である宮永氏か岡田氏が語ることでしか白黒はつかないということは明言しておく。
この噂を裏付ける有力な情報とされているのが、 「あーみんごめんよォ。」事件だ。 単行本の漫画と漫画の間にある空白ページで唐突に小さく白ハゲの人物二人が描かれており、左の人物には「わたし」、右の人物には「心細いのでついてきてもらった友人。」と矢印で説明書きがあり、「個人的でわるいのだが『あーみんごめんよォ。』」とあるのみ(『』は吹き出しで「わたし」が喋っている)。※画像検索結果のページ 前後の脈絡はなく、説明もなにもないまさしく「私信」のページだ。
一見重要かつ深刻そうにも思えるが、80~90年代の少女漫画家同士はやけに
・1987年7月 合作漫画「お父さんは心配症+ちびまる子ちゃん」掲載(りぼん昭和62年8月号) ・1988年1月『お父さんは心配症 4』(※合作漫画・合作エッセイ漫画収録) ・1988年2月「あーみんごめんよォ。」(『ちびまる子ちゃん 2』※合作漫画・合作エッセイ漫画収録) ・1989年 担当編集者・宮永正隆と結婚。(1998年離婚)
そして有名なこの事件、yahoo知恵袋にてこんな質問と回答が出てきた。 こちらは「あーみんごめんよォ。事件の私見」であり、稀有な「さくらももこ略奪愛否定」でもある。 だが、
この質問に対しての
この回答(反論)は100%誤りであると断言できる。
【理由その1】 この「あーみんごめんよォ。」という謝罪が描かれているのは『ちびまる子ちゃん 2』(りぼんマスコットコミックス)だ。 そして、岡田あーみんとの合作漫画もこの2巻に収録されている。 SNSでもあるまいし、作家が担当編集者の目を通さずに原稿を勝手に本にすることは出来ない。(なんのための編集者だよ) そもそも、その合作漫画だって編集者がネームからなにから目を通してから描かれているわけで、本当にまずいならネームの段階で編集者が弾く。うっかりそれが誌面に掲載されても、単行本になった時点で修正が入る。
【理由その2】 アオリをつけるのは編集者(つまり宮永氏)の仕事だ。 さくら氏が岡田氏の性別をバラしたと担当編集・宮永氏に怒られること自体がありえない。
ただし、さくら氏が合作エッセイ漫画において「(あーみんは)ハンサム」「(あーみんと)いっしょに(同じ布団で)ねたんだよ。トホホ。もうおよめにいけねぇよ。ホント」等と書いていたため、「これを読んであーみんが男だと思っていた」という読者は2000年代以降も多数確認出来る。 同漫画は1987年7月発売のりぼん8月号、および『ちびまる子ちゃん 2』の発売一ヶ月前に発行された『お父さんは心配性 4』にも掲載されているので、もしかしたら「岡田あーみん先生は男だったんですか?」という問い合わせがあったのかもしれない。 つまり「あーみんの性別をバラした謝罪」は100%有り得ないが、「読者にあーみんが男であると勘違いさせたことに対する謝罪」の可能性はなくもない。 或いは性別云々はそもそも無関係で、エッセイ漫画で結構変人ぽく描かれていたので、それに対する謝罪(あくまで冗談の延長での)ということも有り得る。 また前述の通り、仲のいい漫画家がまるでTwitterでリプを送るかのごとく気軽にメッセージ(私信)を書いたりしていた時代なので、性別云々略奪云々とはまったく無関係の個人的な遣り取りであることも考えられる。
さくら氏はちびまる子ちゃんの8巻で「あーみんは女だよ」と改めて否定している。
さて、件の単行本の発売日は1988年2月、さくら氏と宮永氏の結婚が1989年である。 確かに1988年に略奪、1989年に結婚となれば時系列としては自然といえば自然だが。 時系列の一覧をもう一度見てほしい。 「あーみんごめんよォ。」は、合作漫画と同じ2巻、合作漫画とセットで描かれている。
もし言説通り「あなたの恋人を奪っちゃってごめんね!」という意味なら、合作漫画のあとにこれを描くのはなかなかのサイコパスじゃねえか? しかし20代女子の天然を装ったマウントと捉えれば、サイコパスという程ではないにしろ、なくはないのか……? そして私はさくら氏のファンではない(エッセイも流し読みしかしたことがない)ので判断がつかないのだが、ファンやアンチの意見を見ると「そういうことをしそうな人だ」とは若干思われていたようだ。 だが、この噂を信じている人の何人が「合作漫画と一緒に描かれている」ということを把握しているのだろうか?
それにしても、先の回答はネット上では数少ない「さくらももこ擁護派」なのだが、あまりに雑魚すぎる。
では本題。 この噂は誰が言い出したのか?
なんと探し始めた私にも意外だったが、割と明確に答えが出てしまった。
それは2001年6月24日、2ちゃんねるの少女漫画板の「岡田あーみんについて語ろうpart3」に書き込まれた
というレスである。
現在確認できる中で「宮永正隆氏が岡田あーみん氏と付き合っており、さくらももこ氏が略奪した」という内容の最古のものだ。
このレスは「自分が小学生のときに友人とした噂話」であり「そんなことないだろーが…」と書いてある。
書いた本人も否定しているし、スレ内の薄い反応から見ても、つまり「これ以前にこの言説は流布していなかった」ということである。 2001年5月の段階では、そもそも二人が不仲だった説も見当たらない。
恐らくこの書き込みが、噂の発端である。
その後、さくらももこ関連や岡田あーみん関連のスレッドでは「さくらももこにいじめられたせいで岡田あーみんはノイローゼになった」「さくらももこのせいで漫画家をやめた」という書き込みが頻出、これ以降にもこの類の書き込みは少女漫画板のあちこちで見られるようになる。 曖昧な記憶が混じり合ったり、「こうかもしれない(妄想)」「こうに違いない(推論)」が徐々に、或いは急速に「こうだった(確定)」と変化していったのではないかということが考えられる。
これらの初期の「さくらももこ・岡田あーみんが仲違いした」に類する書き込みは、書き込んだ人間の単なる思いつきで書かれた可能性も当然あるが、新しくもたらされる情報の殆どが「らしいよ」「って聞いた(見た)ことある」のような伝聞形式である。つまり、例えば2ちゃんねる以外の掲示板、チャットルームやオフ会、文通などで噂が出回っていた可能性が非常に高い。 過去には有名な岡田あーみんのファンサイトがあり、そこでの話も2ちゃんねるに限らずいろいろな場所に持ち込まれていた模様。このサイトに関しては現在では噂話関連のログが読めないのだが、恐らくこちらにこの”略奪説”が持ち込まれ、そこで確定的事実と認定され、あちこちのスレに持ち込まれたのではないか、と予想している。あくまで予想ではあるが。 岡田氏の現在に関する「結婚して奈良で漬物屋をやっている」(梅田・京都説もあり)「漬物屋ではなく佃煮屋をやっている」「アル中で入院中」という説はその個人サイト(ファンサイト)の掲示板などで書かれていた「噂話」だという。 「岡田あーみん結婚説」「奈良で漬物屋をやっている」の現状確認可能な範囲での最古のものは1999年07月03日のこちらのサイトの書き込み。 2ちゃんねるでは2000年に少女漫画板に立った「岡田あーみんの情報求む!」スレ(恐らくこれがあーみん関連の実質1スレ目)の
4 :>1:2000/02/26(土) 07:39
というレス。 このレスをした人は誰から聞いたとか、知り合いであるとか、どこで見たとか、そういった情報も一切出していない。恐らく件のファンサイトでの書き込みか、前述の「漫画家の行方」的なサイトの情報を書き込んでいる。 たったこの1レスでこのスレ内ではもう「結婚した」ということが事実として受け止められている。 今の時代なら「ソースは?」とすぐ言われそうなものだが、当時の2ちゃんねるではあらゆる発言の殆どが事実となってしまっていた。これは、今の時代では別の掲示板やSNSなどでよく見られる事象でもある。 「ソースは?」や「○○だったりして、っていうお前の妄想はいらないよ」と指摘が入らない空間では、2020年代も尚、事実ではないことが事実として流布しがちだ。 SNSだけではなく様々なツール、テレビ、新聞、本、井戸端会議などでこういう事態は往々にしてあるだろう。 人はなんてことない事実よりも、よりスキャンダラスな話や、意外性のある話のほうを信じがちだ。 「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と言い放った人がいたが、そうは言っても出入りは自由なわけで、豊川信用金庫事件などのように、嘘を見抜けない人たちの集合体が大きな事件にもなり得ることは肝に銘じておきたい。 参考▶確証バイアス
この略奪愛以外でよく出てくる「さくらももこにいじめられたせいで岡田あーみんはノイローゼになった」という噂は、大洋図書(ミリオンコミックス)から出ていたムック本「COMIC GON!」にあった「岡田あーみんはいじめでノイローゼになり漫画家をやめた」という記載が出どころらしい。これについては実物が確認できないので真偽は定かではないのだが、こちらにも「いじめた相手がさくらももこだ」という文言は一切ない。 こちらもスレ内で推理合戦が行われ、「さくらももこに違いない」という説が出てくる。 因みにその根拠は 「あーみんごめんよォ。」事件 である。
ま た お 前 か 。
こんなに汎用性が高く便利な使われ方をされるとは、さくら氏も夢にも思わなかっただろう。
そもそも根本的な話なのだが、単行本に載せられたこんなイラストが「略奪の証拠」ということになっていること自体に「え?」と思った人もいるに違いない。「噂は知ってたけど、根拠これなの? これだけなの?」と困惑した人もいるだろう。驚くなかれ、本当に「根拠」はこれしか出てこないし、初期は皆これを証拠として信じていた。 だが、恐らく噂を知っていたであろうさくら氏も、知っているであろう宮永氏も、いままで一度もこの噂を否定していないことも「噂を信じている派」を支えている気もする。
【噂の発端への補説について】 こちらのレスは、いかにも「略奪説」を裏付けるようなものに見えるが、1997年10月刊の『お父さんは心配症』の文庫版のあとがきで似た話が出てくる。それによれば、岡田氏は「お父さん」の後に『こいつら100%伝説』『ルナティック雑技団』と二作品連載するのだが、
とのことであり、略奪云々とは無関係であることがわかる。 本当のところは岡田あーみん先生にしかわからないが、これが裏付けのように紐付いた文章の後日談なのだろう。
【余談】 なお、2001年少女漫画板「ちびまる子ちゃんのお姉ちゃんについて語るスレッド」にはこんなレスがある。 (なんで離婚したんだっけ? 旦那が女作ったらしいよ、という会話について)
こちらは噂の中ではとても珍しい「あーみんが略奪した」パターン。 因みにこれは時系列もめちゃくちゃなので、完全にデマ。というか勘違い。 そしてこちらも例によって「聞いたことある」という伝聞パターン。 「あーみんが略奪した説」はこのレスが最古にして最後なので、まあ信憑性は推して知るべし。
また、さくらももこにせよ岡田あーみんにせよ、上記のような「不倫略奪」説(彼氏ではなく「夫」を寝取った説)がある。 こちらは恐らくだが元ジャンプ編集長・瓶子吉久(担当作品は『忍空』『遊☆戯☆王』『BLACK CAT』など)と、その担当作家で妻・かずはじめ(代表作は『MIND ASSASSIN』『明稜帝 梧桐勢十郎』)のエピソードと混同している。 既婚者だった編集者が、担当作家に手を出して離婚。このお二人はその後結婚。お二人が離婚されたという話はいまのところ聞かない。
【余談2】 男出禁の2ちゃんねること(私が言っているだけ)がるちゃん(ガールズちゃんねる)「岡田あーみん好きのガルちゃん民と雑談したい」スレにおいてはなんと新説「岡田あーみん死亡説」が登場。 こちらは後日改めて、別記事を立てて真っ向から否定したいと思う。▶岡田あーみん死亡説を否定する検証はこちら
【余談3】 岡田あーみんは男だと思っていた、と読者に誤解させる一因となったであろう「あーみんはハンサム」という形容だが、こちらは当時りぼん本誌において『ハンサムな彼女』(吉住渉 著)という人気連載作品があった影響もあるのでは……!? と思い調べてみたら、『ハンサムな彼女』の連載は1988年11月号(10月発売)から、合作漫画は1988年の1月と2月発売の単行本だったので全く無関係だったw 作中の説明によれば、「ローレン・バコールとかマレーネ・ディートリッヒみたいな女性を”ハンサムな女”っていうんだ」とのことである。対比として、マリリン・モンローのような女性は ”チーズケーキ” と呼ぶらしい。 |