ポケモンリーグ委員長から直々のメール、それを相応しくないかもしれないが酒を片手に読んでいく。酔わなきゃこんなのを読むなんてやってられない……筈なのに全く酔えない。最早これは単純な個人のメールの域を越えているのだから当然だ。
「要約すると……貴方の配信見ました、紹介する内容いいですね。その知識も凄いですね、ポケモンリーグで働いてみませんか?いい返事待ってます、か」
如何にも上役らしい堅苦しい文章だが、懇切丁寧な文章がそこにあった。それらを要約すればこうなった、思った通りの勧誘メールで草も生えない。しかもいかにも此方が喜びそうな言い回しを使っていい気分にさせようというのが分かる、絶妙に表現を抑えて嫌味を消している。
「さてと―――」
ハッキリ言ってこんなメールは直ぐに消去して忘れたい所なのだが、返信しなければ角が立つ。しないだろうが自分の本業にも影響が出る可能性だってある……だが内容は決まっている、勿論―――
「お断りします」
真っ先に、その一文を打った。
幾度となくそれを見返した、何がいけなかったのだろうかと思案する。条件なども良い物を取り揃えていた、アオキの事もあるのでその辺りも配慮したつもりだったのだが……返ってきた答えはNO、文章では柔らかに光栄ではあるが過分故に辞退するという感じではあるが不思議と強い拒絶が感じられるのだ。
「しかし……」
拒絶の答えを受けても諦めきれない、そう思う程にラビのポケモン紹介には魅力があった。ナンジャモとはまた違ったタイプ、ポケモンに敬意を払い常にさん付けをし、魅力を発信しながらも如何すれば勝てるのか、何をすれば活きるのかを確りと考えている。何より彼が独自に調査、計算したというポケモンの能力のデータ化というのは非常に興味深かった。
『キラフロルさんは毒化粧という特性で物理攻撃を受ければその度にフィールドにどくびしを撒く事が出来るので先発性能が高いんですが、キラフロルさんは特攻も相当に高いんです』
ラビの配信は時折種族値、と呼ばれるポケモンそれぞれに対応した能力値のデータが登場する。このポケモンが持つポテンシャルを数字にしている、言葉にするだけなら簡単だがこれをデータ化するには膨大なポケモンの能力値を計測し平均化しなければならない、一体なぜ彼がそのような物を持っているのか……そしてそれを踏まえて考えると彼の紹介はエンジョイという楽しさを追い求める言葉では到底言い表せない領域へと入る。
これに関してはパルデア地方でポケモン博士とも言うべきオレンジアカデミーのジニア先生も驚きと感嘆の声を上げていた。是非一度話してみたいとさえ言っていた。
『攻撃も出来ますし毒タイプの嫌らしさと岩タイプの豪快なパワーで切り札に据えるのもよし。毒タイプの搦め手を活かしながらも岩タイプのパワーで相手に一矢報いる先発型もいける、トレーナーの創意工夫が試される面白いポケモンだと思います、ちなみにキラフロルさんは毒化粧の他にもう一つ特性があるのをご存じですか?』
思わず腰が浮きそうになった。自分も大切にしているキラフロル、そのキラフロルの特性が毒化粧の他にもあるというのか?
『改めて言いますとポケモンには隠し特性、私は夢特性と呼んでおりますが配信では此方で統一させていただいております。夢特性を持っているポケモンがいます、ママンボウさんの再生力も夢特性です。キラフロルさんの場合は腐食という鋼タイプや毒タイプを毒状態にすることが出来る特性です。私のキラフロルさんはそうなんですが、鋼や毒タイプをも腐らせる圧倒的な毒濃度を誇るキラフロルさんなのです。ああっキラフロルさん嬉しいのは分かりましたから毒々を準備しないでください!?』
自分の力をみせて褒めて貰おうと思ったのか毒々をスタンバイしながら標的を探し始めたので慌ててキラフロルを止めるラビ。何とか説得してキラフロルは了解したのか頭の上に乗るように浮遊して大人しくし始めた。
「夢特性……」
通常の特性とはまた異なる特性、異なる二つの特性を持っているポケモンはいるが第三の特性にもなる物があるとは知らなかった……これを見て更にラビを勧誘したくなった。一度断られているが何事も直ぐに諦めては意味がない、食い下がってみせる。
『やれやれ……さて今回はこの辺りで配信を締めさせて頂きます、実は明日は私も急に仕事が入ってしまったので休日出勤なのです。時折配信一本にすればいいやもっと配信頻度を増やして欲しいと言った声も頂いて恐縮でありますが、週刊エンジョイポケモン放送局ですのでご了承ください』
こう聞くと彼は仕事が好きなのだという事が分かる。ポケモンリーグの関係者になれば必然的に多忙となってその仕事の時間も減る、好きな事を仕事にしている人間からすればそれは嬉しくないのも当然だろう。これはやり方を変えなければならないな……と思いながらオモダカはある事を思い付いた。これならばイケると思って早速連絡を取った。
「フフフッ彼と話す時が楽しみです」
後日、ラビの下に一件の仕事が舞い込んだ。お世話になっている人から回された仕事でもあるので言われるがままに指定の場所へと向かった……がそこで待ち受けていたのは
「という訳です、本日は宜しくお願い致します」
「……はい」
「なんだかお兄さん元気ないです」
「なんでやろなぁ」
「いやはや、本日は宜しくお願い致しますぞ」
「……どうも」
オモダカを筆頭にポケモンリーグの四天王が勢揃いしている光景だった。今回ばかりは感謝を重ねるばかりだった恩人へと怨みを唱えたくなった。
「コルさん……今回ばかりは怨みます……」