俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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映影祭の章 終幕

 

 

 1.フォンテーヌ 決闘闘技場

 

 

「ぐぉぱああぁぁ!!」

 

 火を吹く様な勢いで闘技場の空を舞う影。感電反応で全身からビリビリと紫電を放つ姿は矢の如し……どうも、ルド=ウィークです。

 今日はモリスの決闘の日だ。お相手はおなじみクロリンデさん。いつもより攻撃のキレが良いな。もしかして怒ってらっしゃる?

 会場の盛り上がりは最高潮だ。俺が派手に吹き飛ばされる度に歓声があがる。決闘の前にモリスの悪行を公開したのと、俺が彼の性格をトレースして最大限言いそうな前口上をしたのが原因だろう。今日はなんとこの日のために見繕ったモリスなりきりセットを身につけている。こだわりのメガネがきらりと光るぜ。

 観客の心情は「モリス許せん」と「ルド、ボコボコにされろ」が半々ってところか。クロリンデさんは俺をボコボコにするに一票かな。

 

 長い滞空時間を使って会場を見渡す、観客の中でも目立つ特巡隊の制服と、彼女達に挟まれた席にベロニカさんを見つけた。

 顔を真っ赤にして笑いやがって。今までの貼り付けた笑みはどこいったんだか、憑き物が落ちたようないい顔だ。

 このままあっさり終わっても面白くない。未だ全身を巡る雷元素を束ねて元素エネルギーに変換、神の目のチャージを完了させた。くるんと回って着地した後、輝きを放つ神の目から元素爆発を発動する。モリス! 俺に力を貸してくれ!

 

「『鬼神演戯』!」

 

 今回の分身は大して傷を受けていないので一体だけだ。現れた翁面の俺を作り替えてモリスそっくりに変形させる。依頼人との共同戦闘だ!

 先行させたモリスを追いかけるようにクロリンデさんに肉薄する。俺たちの絆を見せてやるぜェ!

 

 正面から斬りかかったモリスが真っ二つにされた。も、モリスさんっ!

 その後ろに居た俺も当然クロリンデさんにしっかり捕捉されている。

 

「ぶへっ!!」

 

 防御のために立てた剣の腹がクロリンデさんの突きによって押し込まれ、鈍器となって俺の顔面に直撃した。かけていたメガネがひしゃげて吹き飛ぶ。

 うおぉ、鼻血が……ッ! 数歩後ろに下がって痛みで呻く間にもクロリンデさんが静かに歩み寄ってくる。纏う雰囲気が尋常じゃない……やべーな殺されるのでは?

 ま、こんなもんだろ。持ち直した俺は戦法をかなぐり捨ててがむしゃらに突っ込んだ。決め台詞はどうするかな……

 

「私は選択を間違えてなどいない! これは仕方の無いことなのだあぁ!」

「……はぁ」

「グェー!?」

 

 えげつない速度で放たれる突きを全身に受けて俺の身体が吹き飛ぶ。チカッと白刃が煌めいた後に衝撃が遅れてやってくるのやばすぎるだろ

 身体を捻り、回転も使って最大限致命傷は避けたがそうしなきゃ死んでたな

 地面を跳ねながら転がって、壁に叩きつけられた所で俺は気絶した。

 

 

 2.フォンテーヌ エピクレシス歌劇場

 

 

「あぁ笑った……。母さんが居なくなってからこんなに笑ったの初めてです」

「そりゃよかったな。俺もボコボコにされたかいがあるってもんだ」

「君、そうは言ってるけどボコって感じじゃなかったからね? ボロとかズタって表現の方が正しかったよ」

 

 そう言ってくれるなフリーナよ。ズタでもボロでも表面だけだ。『無銘』は防御にも活かせる流派だからな。歌い手さんも回復ありがとう。もう全回復してるからそんなに抱擁しなくても大丈夫ですよ

 ところ変わってここはエピクレシス歌劇場。いつもの格好に着替えた俺はフリーナと一緒にこれからメロピデ要塞に移動するベロニカさんを見送りに来ていた。モリスは今頃針のむしろのようになっている歌劇場内で審判を受けている頃だろう。

 

「いつもあんな感じなんですか? そっくりの衣装まで用意して、ふふ……っごめんなさい! 貴方が吹き飛ばされる度にモリスが重なっちゃって。きっと復讐を成し遂げるよりスッキリしちゃいました」

 

 派手に転げ回って盛大に吹き飛ぶのは俺の十八番だからな。法があろうと被害者が存在するなら相手を罰してやりたい、許せないと言った感情はどうしようも無いものだ。俺が代わりにぶっ飛ばされてやる事で少しでも胸が軽くなるのならいくらでも飛ばされてやろうというものである。

 とはいえ、わざわざモリスなりきりセットまで見繕ったのは力を入れすぎたな。ベロニカの考えを模倣したせいなのか、彼のせいでフリーナに危険が迫ったせいなのかは知らないが、俺もモリスに少なからず怒りがあったのかもしれん。

 

「あの、ルドさん」

「何だよ」

「いつか、刑期が終わって戻ってきたら……会いに行ってもいいですか?」

「んなっ!?」

 

 どうしたフリーナ。そんな素っ頓狂な声出す程のことでもないだろ……歌い手さん? 抱擁がきつくなってきて水元素の羽(腕?)が首にくい込んで苦しいんですけど……っ!

 もちろん、その時はぜひお兄さんも一緒にと伝えると彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。

 時計を確認したシュヴルーズさんが何か連絡を取り出した。そろそろ時間かな

 

「っと、そうだ……ベロニカさんに聞かなきゃいけないことがあったんだ」

「? なんでしょう」

「俺の幼少期のこと、誰から聞いた? ただの勘だけじゃないんだろ」

 

 そう。いくら俺がわかりやすかろうと、俺の隠した過去がベロニカさんと同じであると確信できる程ではないはずだ。

 それなのに彼女はまだ何も気付いていない俺を観察し、他愛ない雑談のつもりだったあれこれで同じ境遇と確信して協力を持ちかけた。最初から情報を得て俺に目をつけていたのなら説明がつく。

 これは答え合わせだ。フリーナ以外に俺の過去を知ってる奴なんて一人しかいない。

 

「えっと、それは……あれ? 私、誰に聞かされたんでしたっけ……? 確か、しわがれた声だったような。ごめんなさい……」

「……ありがとう。それだけ分かれば十分だ」

 

 そこまで話して、メロピデ要塞行きの昇降機が到着した。シュヴルーズさんに授賞式があることを伝えてベロニカさんに別れをつげる。

 少し申し訳なさそうに、それでも笑顔で手を振るベロニカさんに手を振り返して、俺達もフォンテーヌ廷に帰るために歩き出す。じゃあな、お兄さんと仲良く過ごせよ

 

「ねぇルド。ベロニカに君のことを話したのはやっぱり……」

「だろうな。俺もついこの間まであんな目立つ面姿を忘れてたし、そういう術でもあるんじゃねえの? 俺のお師匠様はよ」

 

 十年間俺に剣を教え、その後ぱったり姿を現さなかった師匠……。どこへ行ったかと思えば俺の中でからから笑ってやがったあの翁はフリーナの元素力に流されて消えたはずだ。

 それがまた形を成して俺を試すような真似をしてくるとはな。ベロニカさんの大胆にすぎる復讐のやり方はまさか彼等の影響があったのか?

 

「……ま、実害無くて何とかなってるなら気にしすぎないのが俺なのでした。フリーナ、授賞式の前になんか食べていこうぜ」

 

 考えたって仕方の無い事を考えるくらいなら、今日のメニューをどうするか考えた方が有意義だ。そうだろフリーナ! なんか近いんだけど歩きにくくないか? 気の所為? そうか……

 

 

 3. フォンテーヌ廷 千霊映影祭 受賞式会場

 

 

「あっ、ルド! 決闘はどうだったんだ……って、なんだよそのボロボロの服? モリスが着てた服に似てるけど」

「ようパイモンさん。これは気にしなくていいぞ、決闘な。バッチリ負けてきた!」

「誇らしげに言うなよな……」

 

 授賞式の会場に着くとグザヴィエさんと旅人さん達が一番乗りだったようで、俺達を出迎えてくれた。

 ここ数日、完成した映影『二銃士』は大ヒットと言っていい勢いで観客を魅了していた。見目麗しいヒロインたち! 大迫力のアクション!……上映の数だけ爆発する俺。伯爵のラストバトルがかなり派手に出来上がった為、最初に撮った俺の撮影でもメインを食わない程度になったらしいな。編集したグザヴィエさんがそう言っていた。

 ともかく、これで『フリーナ賞』は俺達の手の中と言っても過言じゃないわけだ。グザヴィエさんは不安そうだがフリーナが90%確実と言っているんだからそうなんだよ。

 そんなグザヴィエさんだが、この映影祭を機に会社を立ち上げるらしい。いいじゃないか映影会社。彼とまだ見ぬ社員が作る映影がどんなものになるのかこれから楽しみである。会社名は今から考えるそうだが大事だぞ名前は。自分の流派の名前を『無銘』で通している俺が言うのもなんだがな

 

 そうこうしているうちに他の撮影メンバーも集まり授賞式が始まった。

 ほう、最優秀賞だけじゃなくて色んな部門の賞があるのか。おっ! 千織さんの作った衣装がデザイン部門で評価されたな。本人は当然って感じの顔だがクロリンデさんの感情の機微を感じ取れるようになった俺にはわかる。あれは当然って顔だな……つまりわからん。

 

「続いての名脇役賞ですが……こちら! 『二銃士』から殺し屋役を演じたルド=ウィークさん!」

 

 ……はっ!? 突然名前を呼ばれたせいで固まってしまった。つまりなんだ、俺が盛大に爆発したシーンが評価されたのか。観客の見る目おかしくないか? 脇役というかやられ役なんだが……。

 フリーナに小突かれて正気を取り戻した俺は壇上に上がって楯を受け取る。爆発に巻き込まれたようなシルエットが貼り付けられていてなんか不名誉だなこれ。

 

「そして! 栄えある第一回千霊映影祭『フリーナ賞』に輝いたのは──」

「映影『二銃士』です!」

 

 ふふん。フリーナが手がけた映影だ、当然だろ。俺は横のフリーナと一緒にドヤ顔をした。

 表彰台に上がってフリーナそっくりの像が取り付けられたトロフィーを受け取るグザヴィエさんは撮影を手伝ってくれたスタッフ達への感謝と、会社を立ち上げることを宣言する。

 会社名は『ガンズフィルムカンパニー』か。いい名前じゃないか……

 これにて千霊映影祭の授賞式は大きな拍手を持って終了した。何? 写真撮影? よっしゃそこに並べ、良いのをパシャリと撮ってやるよ

 

「何言ってるんだ。君も入るんだよ!名脇役だろう!」

「おい皮肉か? 今ここで爆発してもいいんだぞ」

 

 ぎゃいぎゃいとフリーナと言い争いつつ、いざシャッターが切られる時には完璧なキメ顔とポーズを取る。ちっ、フリーナもバッチリキメたか……流石だな

 その後は皆さんご歓談の時間である。グザヴィエさんがフリーナの撮影会を始めてしまったために俺は射的をしながら時間を潰すことにした……おい! 今の当たってただろ! 俺に銃の才能は無かったらしい。

 

「ルド君」

「これは綾人様。此度の撮影とフォンテーヌの視察、お疲れ様でした」

「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。所で、例の件は考えられましたか?」

「へ? 例の件?」

 

 例の件ってなんだ? 皆目見当もつかない。綾人さん曰く、俺が神の目をぶら下げているなら当然その事も知っているはずらしいのだが。

 

「ふむ、おかしいですね。将軍様は確かに文を同梱したと言っていましたが、神の目以外にも箱には何か入っていませんでしたか?」

「入ってたも何も、雷電将軍の無表情ピースサインの写真くらいしか……もしかして?」

 

 インパクト強すぎて裏まで確認するわけないだろ! 俺は絶賛鍵付きの引き出しの中に封印中の呪物を思い出した。

 

「えぇ、近いうちに稲妻にルド君を呼びたいと将軍様は仰られていました。軽い封印のみを施して故郷に帰した事が気がかりだったようで。恐らく手紙を出してからしばらく経っても返事が無いので私にも言伝を頼んだのでしょう」

 

 もし、戻ってきた神の目で再び暴れているようなら今度こそ討伐するようにとも言われていたらしい。こわー……やはり稲妻は怖いところなのだと俺は確信した。ていうか目の濁りは封印だったのかよ。あれのせいで最初アンナに警戒されたり大変だったんだぞ

 

 そうか、雷電将軍直々の勅命なら俺も赴くしかあるまい。もし許されるのなら、稲妻という国をちゃんと見てみたいしな。あの村にも……両親の墓を立ててやりたいし行く必要があるだろう。

 伝えることは伝えたのか綾人さんは行ってしまった。なんでも鍋遊びに使える食材を探すのだとか……フリーナとやったらお互いに不幸になりそうな遊びだな

 

「ルド、お待たせ。一つポーズを取ってあげたら色んな人が並び出して困っちゃったよ……何かあった?」

「おつかれさん。いや何、近いうちに俺は稲妻に行かなきゃならんらしい」

「稲妻に!?」

 

 どうして急に……と、疑問を浮かべるフリーナに先程のことを説明する。そうだな……俺の知ってるルートでは二年かかったが、あれは色んなところで滞在してぼーっとしてたりがあったから普通に行けば片道一週間もあれば着くだろ。今は稲妻行きの船も多そうだしな

 

「往復で二週間か……結構な旅行になるね。僕は初めての旅だから今から用意するものが多そうだ」

「は?」

「へ?」

 

 まさか……着いてくる気か? これは俺の問題で俺が付けるべきケジメだし、フリーナに着いてきてもらう理由はないのだが……

 

「ふん。もう忘れたのかい? お互い助け合うって言っただろう。今回撮影を手伝ってくれたんだ。お返しとして僕が君について行く事は何もおかしくないと思うんだけど?」

「……本音は?」

「稲妻……君が作ってくれる料理の本場の味が知りたい! どんな娯楽があるのかな。劇はあるのかなぁ!」

 

 そんな事だろうと思ったぜ。しかし俺の用事を済ませる間にこいつが退屈するようなことは無さそうだ。思えば500年間自由の無かったフリーナが外の世界を見てみたいと願うのは道理だな。稲妻でできた友人とすぐ再会できそうなのも彼女にとって嬉しいことだろう。

 フリーナが軽いステップで俺の隣に並び立ち、コソコソ話をするように続ける。

 

「それに……君の居ない二週間は想像しただけでつまらなさそうだからね」

「…………そうかよ」

 

 またこいつは勘違いさせるような事を言って……。よし! そういうことなら俺も遠慮はしない。地の果て海の果てまで着いてきてもらうとしよう。

 俺の旅支度もしないとな。前回の旅は着の身着のまま、折れた刀だけ持っての旅だったが……今回はフリーナもいるししっかり準備するべきだろう。必要な物を頭の中でリストアップしながら、俺達は千霊祭を祝う明かりの中を進むのだった。

 

 

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