俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.映影『二銃士』 シーン3(クランクアップ!)
「───カット! アイリス、チューリップ。これにてクランクアップだ!お疲れ様!」
その言葉にその場にいた全員が歓声をあげ拍手と共に役者を讃える。綾華さんとシュヴルーズさん、二人の撮影が最後まで順調に進んでよかった。撮り直しになった回数は数える程だし、それだってクオリティアップの為のリテイクだ。胸を張っていい作品ができたと言えるだろう。
俺たち裏方は撮影の時に準備するだけで良いが、今回の功労者は役者のスケジュールを完璧に管理しきったプロデューサーだろうな。いやすげーよ、シュヴルーズさんは特に仕事上拘束が難しいからな。でかい山場を乗り切ったグザヴィエさんは安心したように椅子に座り込んでいた。死んでる……?
ともあれ、後は時間に余裕がある役者で間のシーンを撮ってしまえば映影『二銃士』の完成である。めでたいね
「ルドさん。大道具を片付けるので手伝って貰えませんか?」
おっと、やりきった感を出していいのは彼等だけだ。一部出演したとはいえ俺は道具係だからな。ベロニカさんに呼ばれたので俺も仕事を全うしなければ。ひょいひょいっと道具を持ち上げて先を歩く彼女に追いついた。
「……二銃士のラストシーン。どうでした?」
どうとは? 急に感想を求められたので面食らってしまった。
二人が復讐を果たすべき相手であり父親でもある伯爵を討ち取るシーンは俺の殺陣なんて地味すぎるくらいの大立ち回りだった。伯爵が雇った凄腕の用心棒達を紙切れのように吹き飛ばし、氷元素と炎元素があちこちで元素反応を起こす。とうとう追いつめられた伯爵に銃を突きつけ、最後の決めゼリフを叩き込む。洗練された動きに華もあって上映が今から楽しみで仕方ないぜ。
そんな感想を話せばベロニカさんはどこか不満げな様子、アクションシーンのことじゃない? ならシナリオの方の感想か
「彼女達は己の全てをかけて復讐をやり遂げたんです。母も、仇であり父親でもある伯爵も……それら全てを失っても残る正義がある。それを確信しました」
「……そうだな。俺もあのシーンにはグッと来るものがあったよ」
「ですよね!」
急に上機嫌になったな。ふむ……何かが引っかかるんだよなぁ
俺は人を見る目だけはある。彼女はなんと言うか、『二銃士』に己を重ねているような、それを肯定することで自分は間違っていないと信じたいような……悪人とも善人ともとれる雰囲気があった。
こういう手合いは俺の依頼人にも居たな。見極めが難しいからただの悪人よりよっぽどタチが悪い。どうか善人側であって欲しいが
「……やっぱり、気づいてるんですね」
「は?」
倉庫に着いて道具を片付けていると、後ろからゴリっと固いものを押し付けられた。おっとぉ……?
ぶわっと神経が尖り押し付けられている物の形状を察する。これは拳銃だな。それも演技用の物じゃない、人を殺すために最適化された冷たい鉄の感触……本物だ。
俺はとりあえず両手を上げて敵対の意思が無いことを示した。あー嫌だ。顔は見えないけど絶対いつか見た感情の抜け落ちた表情をしているのがわかる……何に気づいたって? 銃を突きつけられるくらい嫌われてたってことくらいしかわからんのだが。
「撮影中、私の事をずっと観察してましたよね。それだけじゃない、さりげなく復讐についてどう思うか聞いてきたり、殺し屋の演技をあんなにあの日に似せたのだって……もう気付いていて、そんなことをしたんでしょう?」
やばい。なんの事やらさっぱりわからん……あの日ってどの日だ。俺は頭をフル回転させた。ここで素直に勘違いですよと言ってしまえば俺は彼女に殺されるかもしれん。
心の中の俺がガリガリとノートを書き綴り、一つの仮説をはじき出す。彼女の纏う雰囲気はそういうことだったのか。俺はつい先日起きたサーンドル河での銃殺事件を思い出した。
その犯人はこいつで、殺された人間は彼女の仇かなにかだったのだろう。そして俺の行動がベロニカさんにはお前の犯行に気づいているぞというサインになっていたのでは? ただの世間話や演技がどうしてこんなことに! 心の中の俺は大号泣中だ。
「私、もうすぐ目的を果たせそうなんです。あの日の復讐をやっと」
「……そうか。それがお前の選択なんだな」
俺は全てわかってますよアピールをした。ここで下手なことを言ってボロを出す訳にはいかない。
すすすっとベロニカさんがこちらににじり寄る気配。耳元に息がかかる。普通ならドキドキ展開だろうが命を握られてるからな。別の意味でドキドキしている。
「私と同じ境遇の貴方には、見届けて欲しいんです。どうか邪魔しないで」
「なん……っ」
こいつは俺の何を知っている……? 『剣鬼』になる前の幼少期の話はフリーナにしかしていない。俺の動揺はベロニカさんにも伝わったらしい、突きつけられていた銃が離れる。振り返ってみると彼女は何も持っていない両手をヒラヒラさせて笑っていた。こわ〜……
「さ、戻りましょうか。皆さん待っているかも知れませんし」
「…………あぁ、そうだな」
「もし、この事を他言したら……分かってますよね?」
「俺は今日のことを何も聞いていない。それでいいだろ」
「えぇ、よく出来ました」
同じ境遇ね。その言葉が本当なら彼女の人生は『二銃士』とよく似たものなのだろう。
親の仇をとる。それだけのために人生をかけている彼女の決意を否定する言葉を俺は思いつかなかった。
「随分と遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」
「すまんな、ベロニカさんとラストシーンの感想話してたんだよ」
俺達が帰ってきたのを確認した後、夜も遅いのですぐ解散という運びになった。それは良いのだが、先程からやたらとフリーナの距離が近い。何?
「……ふーん。随分と仲良くなったみたいだね」
「そーだな。綾華さんともだいぶ話せるようになったし、お前が撮影に誘ってくれたおかげだ。ありがとな」
「うっ……どういたしまして」
なんだその複雑そうな顔。まあいいや、さっさと帰ろうぜ。今日はなんだか疲れてしまった
こういう時はさっさと寝るに限るんだよな。そうしようそうしよう
その晩、サーンドル河で起きた銃殺事件の犯人として『二銃士』の作者、バティストという男が捕まった。もう何もわからーん!
2.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ
「……あー」
「る、ルドっ! 吹きこぼれそうになってるよ!」
「おー……」
あれ、俺は何をしていたんだったか。確か新聞を読んでたらフリーナに呼ばれて昼飯を作ろうって話になって……なんでパスタが吹きこぼれてるんだ?
「すまんフリーナ。考え事してたわ」
「今日のニュースの事? 大丈夫だよ、作者が捕まったからと言って作品が公開できなくなったわけじゃないんだ。むしろ大きな注目を浴びることになるだろうね」
安心しなよ。とフリーナは言うが、俺の懸念は別にあった。
恐らく今回捕まったバティストさんは身代わりか、あっても共犯者程度だと思う。ならなぜそんなことをしたのか? 十中八九ベロニカさんの為だ。彼女が捕まらないように、復讐を果たせるように邪魔な特巡隊の捜査を終わらせた。そうとしか考えられない。彼らの関係が気になるところだな
だとしたら、枷の外れたベロニカさんは大胆に行動するかもしれない。俺は彼女の復讐相手は知らないからどうしようもないが、もし考え無しに殺人を犯そうもんならこの映影は公開されずにお蔵入りだろう。
考え事をしながらでろでろに湯だったパスタを取り出し皿に盛り付ける、失敗したのは俺のでいいだろう。ささっと作り直そうか
食材を用意してガチャガチャとやって……ほい! 俺は何らかのメーターが丁度いいところに来るような所で火を止めた。
「できたぞフリーナ。ルド特製稲妻風パスタだ」
「あぁうん……なんのメーターだったのかは聞かないでおくよ」
そりゃお前……なんのメーターなんだろうな? ま、美味かったらなんでもいいんだよ。
フリーナは創作料理が嫌いらしいが、何故か俺が作る料理は美味そうに食べてくれる。稲妻の味に慣れてる俺が作るフォンテーヌ料理も似たようなもんだろうに
「今日も撮影はあるんだからしっかりしてくれよ? セットの固定が甘くて怪我人が出たらそれこそ公開の危機だからね」
「分かってるよ。考えるだけ無駄だしこれっきりだ……美味いか?」
「うん! 毎日作ってほしいくらい美味しいよ」
………俺以外の稲妻人には絶対に言うなよそれ。そう思いながら俺もパスタを頬張るのだった
ルド特製稲妻風パスタ
ルドのオリジナル料理。そばから派生
頭の天辺から爪の先まで稲妻文化に染まった男が作り出した狂気の料理。自作の醤油と出汁で味付けし、きのこの風味と鶏肉のさっぱりとした味が麺によく絡む。ただし気まぐれに麺の固さや具材が変わる適当な決闘代理人クオリティである。
フリーナ宅に突撃引越しパスタを食らわせた時の料理もこれ