俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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前回の誤字報告ありがとうございます。大変助かっております


映影祭の章・第二幕

 

 

 1.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ

 

 

「……ふぁ、あ」

 

 住み慣れた部屋で布団から身を起こす。今日もいい朝いい一日だ。まだ日が登ってないみたいだけど

 微睡む身体を伸ばしてストレッチをしようと腕をあげると、右手を握る白い手が目に入って呼吸が一瞬止まった。

 ビクッとした衝撃で布団の上にあった台本が飛び跳ねる。あぁ、思い出した。

 握られた右手はそのままに、空いた左手で隣のベッドの膨らんだ毛布をめくる。そこには見慣れた隣人が本当に緩んだ表情で眠っていた。

 昨日の食事の後、遅くまで二人で台本を読み返して演出の相談をしていたのだった。俺が先に寝落ちしたようだが……なんで帰ってないんだこいつ。

 来客用に掃除しているベッドはもはやフリーナ専用といった形になっていた。誰に作って貰ったのやらサロンメンバーのぬいぐるみが増えているし、なんというべきか、ここだけ空気が違う。ここまで魔改造されたらさすがの俺もここをフリーナの第二の拠点として認めてやっても……いや良くない。

 

「…………まだ朝早いし、起こしてもやることないしなぁ」

 

 こういう時はこいつが起きるまで外に出て素振りでもしている方がいいかもしれない。また勘違いされて溺れるのはごめんだからな

 そーっと握られた指を離そうとしていると、無意識なのか抵抗してくる。なんなんだ!

 だめだ。離そうとすると凄い不機嫌そうな声を出される。大人しく手を繋がれたまま台本でも読んで時間を潰すか。

 ……原作にも目を通したがやはり俺にはアイリスとチューリップの復讐は理解できても共感はできない。俺は両親の最期の言葉を覚えている。あの人たちは復讐を望まなかった。もし俺の知らない間に二人が殺されていたらどうだ? いや、仮に父さんと母さんが俺に復讐を願ったとしても俺はそうしなかっただろう。それは俺が幼かったからだろうか。

 

 復讐……していたらどうなっていたんだろう。初めから目に復讐心を宿らせて師匠に剣を教わり、幼少期の全てをそのために捧げていたら……村の人間に復讐できたら、俺は願いを見つけられていた? 戦場に飛び出して敵を求めて暴れ回ることもなかったのか?

 

「……違うよ。君の願いはそこにはないはずだ」

「自然に人の心を読むな。おはよう。急に話しかけられたからびっくりして心臓が飛び出たぞ」

「ふふ、ごめんごめん。おはようルド、君はほんとにわかりやす……えぇー!? ほんとに飛び出てる!」

 

 俺は口から飛び出した水元素の疑似心臓を霧散させた。朝から驚かせられたお返しだ。

 寝起き特有のぽやっとした声で囁きやがって……耳が熱い。やっと右手が開放されたので俺は眠気覚ましのコーヒーを用意してやろうと立ち上がった。

 

「ルド、耳が赤いけど……?」

「まだ寝ぼけてるみたいだしお前のコーヒーはブラックに決定な。ゴリゴリに苦いの作ってやるからちゃんと目を覚ませよ」

「な、何で!?」

 

 うるせーうるせー。純粋な青年の気持ちを弄ぶな。これだから精神年齢五百歳以上の元神様はよぉ!

 でも、フリーナにハッキリと願いはそこにないと言われてしまえばストンと納得してしまう。そうだな、俺の願いはそこにはないはずだ。

 恩と仇のバランスを取って彼女のコーヒーはミルク多め砂糖少なめにしてやろう

 

 

 2.フォンテーヌ廷 道具倉庫

 

 

「ベロニカさーん。次のシーンに使うセットの道具ってこれでいいんだっけ?」

「えぇ、それとそこの機材を……重いから気をつけてくださいね」

「はいよ……っと」

 

 コーヒーを飲んだ後、フリーナに鍵を預けて先に家を出た俺は午後からの撮影に使うセットを同じく道具係のベロニカさんと共に運んでいた。今回から戦闘シーンも入ってくるから小道具も大道具もたんまり運ばなければならない。骨が折れるぜ

 そう思えば、ベロニカさんは軽々と重そうな道具を運んでいく。俺も武人の端くれ、体重移動や姿勢から彼女が何か習っていた事はわかる。何故かそれを隠そうとしている動きも含めて謎だが、知られたくない過去なんて誰にでもあるしな。気にしすぎるのも失礼な話だ。俺は空気を読めるフォンテーヌ人なのでね

 

「あの、何か気になることでも?」

 

 視線で普通にバレた。彼女が鋭いのかフリーナの言うように俺がわかりやすいのか……七聖召喚でも初めてみるか?

 ベロニカさんの過去に触れるつもりはないので無難な質問を考えた結果、この『二銃士』のストーリーについて聞くことにした。もし主人公と同じ境遇になったらどうします? ってな。

 ……あれ、どうやら琴線に触れてしまったらしい。スっと顔から表情が消えた。それも一瞬ですぐに笑顔が貼り付けられる。

 

「……勿論、復讐すると思います。大切な家族が殺されて犯人は罰も受けずに平穏を謳歌している……そんなの許せないでしょう?」

「そうか……そうだよな」

 

 それだけ言ったらベロニカさんは先に行ってしまった。あの顔、ガッツリ過去に触れた感触だったな。これなら武術うんぬんの質問をしていた方がマシだったかもしれん。

 この物語はフィクションだ。悪事を働く強大な悪役に正義の弾丸を叩き込む。そんなシンプルな話に現実の複雑な事情を当てはめるのもナンセンスだな。

 やっちまったもんは仕方がない。ただの世間話と受け取って貰えることを祈って俺もさっさと準備を済ませてしまおう

 

 

 3.映影『二銃士』 シーン2

 

 

 さて、時間は流れてセットの準備も完了。フリーナ監督や旅人さんとも合流していざいざ撮影開始だ。順調に伯爵家の人間を始末し情報を集めて行くアイリスとチューリップ。そんな二人の前に、とうとう母親を殺した張本人の殺し屋が現れる! どうするアイリス! どうするチューリップ!

 

「くくく……依頼人から聞いていた時からまさかとは思っていたが、あの時のガキ共が二銃士とはなぁ?」

 

 で、肝心の殺し屋役だが……そう、俺である。

 本物そっくりに作った剣をぺろぺろしながらさりげなくフリーナの方を見ると、目を輝かせてノリノリのご様子。後で覚えてろ

 これがフリーナの考えた綾華さんと俺の仲直り大作戦。要は演技でボコられて一緒にいい作品を作った達成感でなんかいい感じにしちゃおうということらしい。ちなみに今さっき聞いた

 元々殺し屋の役は居なかったそうなのでプロデューサー的にもオールオッケー。アートディレクターの千織さんも血糊なら任せろということだった。こいつら俺をボコる方向に全力すぎる!

 

「貴方が、お母様を……っ」

「そうさ。本当はこの剣で直接楽しみたかったんだがなぁ、自殺に見せかけろと言われちゃ仕方ねえ」

「その点、お前達は最高だ。どんな手を使っても殺せばいいんだからな!」

 

 俺のやることはいつもの決闘と変わらない。台本に書いてあるのは簡単な設定のみ、そこから殺し屋(こいつ)の人柄を読み取り、性格をトレースする。あっという間に残虐非道な殺し屋さんの出来上がりだ。

 ただ、ここのシーンは見せ場の一つだ。いつものように蛮族殺法かましてはい終わりじゃ出る意味がない。見応えのある殺陣を演じてメインを奪わない程度に派手に死ぬ。これに限るだろう

 

 戦闘シーンはセリフも含めてアドリブだらけだ。それぞれが戦闘経験を積んでいるので相手がどうしたいか、その役ならどう行動するのかがすぐに分かる。アイリスは突然現れた宿敵に感情がぐちゃぐちゃになって動けない。母親のことを思い出せば当然だ。そこを狙えば姉のチューリップは妹を守るために前に出るだろう

 

「……ぐっ!」

「ははははッ! どうした! ほら、大事な家族がまた死ぬぞ! 怖いなら隠れてろ、姉でたっぷり楽しんだら次はお前の番だ!」

 

 ぎり……っと歯が軋む音。アイリスだ。ここから覚悟を決めた彼女がチューリップに加勢して俺は負ける。

 して、ベロニカさん? そんな親の仇を見るような目で俺を見てどうしたんです?

 チューリップと入れ替わるように飛び込んだアイリスと切り結ぶ。あ、あの。これ一応模造剣なのでそんなに力を入れられると折れるんですけど!

 

……『剣鬼』ッ!

「殺し屋な」

 

 思わず素が出てしまった。いけないいけない。今の俺は殺し屋……綾華さんは完全に役に入り込んでいる。しかし、纏う気迫は完全に役じゃなく俺を狙っていた。演技! 演技ですよ綾華さん!

 

「アイリスっ!」

「ぐっ!?」

 

 横から銃で俺を狙うチューリップの攻撃をバックステップで躱し、返す刀で反撃すれば、アイリスに止められる。

 二人の完璧な連携により徐々に俺は押され始めた。そうだ。二銃士は二人で一人、呼吸をピッタリ合わせた彼女たちに敵などいない

 ついに俺の剣が弾き飛ばされた。すかさず映影機に映らないように血糊を口に含む。さぁこい!

 アイリスが剣を振る必殺の間合い、にしては近くないですか綾華さん!?

 

「ォご……ッ!?」

 

 身体が前傾に折れ曲がり、口に含んだ血糊が空気と一緒に吐き出された。

 まさかの柄頭。それが俺の鳩尾に深く突き刺さっている。神里流っていつからそんな喧嘩殺法になったんだろう。

 柄に手を添えて居合のような動作をとるアイリス……綾華さんが見える。は、派手……っ! 派手に死ななければッ! 俺は水元素を服の下にある血糊と混ぜて準備した。

 

「せぇいッ!」

「あばあぁぁぁ!!」

 

 斬り上げられた衝撃で吹き飛び、服ごと爆発するように血糊を破裂させる。綾華さんの衣装を汚すことのない距離まで飛んでどしゃっと着地し、血の雨を全身に浴びた。

 ハラハラと舞い落ちるレインボーローズの花弁を血で汚しながら、トドメの弾丸をチューリップの決めゼリフと共に受けて俺は死んだ。

 

「……カット! る、ルドー! 」

 

 フリーナの治療を受けた後に映像を確認した結果、流石に派手に死にすぎとの事なので最後のシーンのみ撮り直しになった。そんなぁ

 しかし身体を張ったかいがあったのか、俺を殺してすっきりしたのか。綾華さんは俺に一言謝った後、少し雰囲気が柔らかくなった。これは作戦成功とみていいのだろうか? 代わりにベロニカさんの好感度が少し下がったように感じる……。なんで?

 

 

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