俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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映影祭の章・第一幕

 

 

 1.フォンテーヌ廷 ホテル・ドゥボール

 

 

 前回のあらすじ! 先日晴れて特別な決闘代理人になった俺ことルドは、俺の隣人にして友人であるフリーナの依頼によりこの度開かれる千霊映影祭。そこで提供する映影の手伝いをすることになった。

 正直演技のことなんて何もわからんが、大道具や機材を運ぶ力仕事は山ほどあるとの話なので、そっち方面で役に立てるだろう。

 今日は役者さんとの顔合わせの日、そして序盤のシーンの撮影の日だったらしく、フリーナと共に挨拶に伺ったのだが……。

 

「……『剣鬼』無銘のルド=ウィーク。こんな所で貴方に会うなんて」

「あ、綾華ちゃん……! 刀はあかんて! 鯉口チャキチャキするのはやめよ? なっ?」

 

 俺は稲妻三奉行の一つ。神里家のご令嬢、神里綾華様に今にも斬られそうになっていた。うーん自業自得ッ! 稲妻で暴れすぎたのだ。俺は死ぬ覚悟を固めた。

 

「こらこら綾華。ここにいるのはフリーナ様のご友人にして撮影をするための仲間でもあるんですよ。失礼のないように」

「兄様!」

 

 兄様っ! 俺の事を分かってくださるんですね! 稲妻では割と大悪党の俺を前に冷静な姿勢……さすが当主は格が違った。俺は安心して一息つく。

 

「ですが……えぇ、"不幸な事故"なら、この先起こるかもしれませんね」

 

 この兄妹怖すぎー! 頭稲妻かよ。でも俺も同じ境遇の人間が目の前に現れたら斬り掛かるだろうしそんなもんなのかな。お家芸ってやつだ。

 

「ま、待つんだ! ルドになにかするつもりなら、許さないぞ!」

「せや! 二人とも落ち着きぃ! 」

 

 俺と綾華さんの間に挟まる影が二人。フリーナと……誰だ? いかにも花火師でござい! って感じだ。快活な話し方も相まってすごく話しやすそう

 威嚇するリスみたいになってるフリーナを見て綾華さんのチャキチャキが止まる。やはり小動物の可愛らしさは戦意を抑える効果があるんだな。それを見ていた綾人様がくすりと微笑んだ。

 

「……ふふ、将軍様に言われてはいましたが、本当に邪気が無くなったようですね。安心しましたよ、ルド君」

「その節はご迷惑をおかけしました。文字通り心を入れ替えて日々精進しております」

「えぇ……さっきまでの殺気とかは一体どこに行ったんだ」

 

 こんなのは挨拶に決まってるだろ。稲妻ジョーク! 俺は綾人様と握手を交わした。綾華さんは……うん、そりゃ警戒されるわな。神里家を含んだ三奉行は雷電将軍による俺の処刑に立ち会っていた。その時たまたま目があった綾華お嬢様にトラウマ級の笑顔を見せて怖がらせているのでこの扱いは妥当である。余計なことしかしないな過去の俺

 仲直りを諦めたわけでもないけどな。ゆっくりやってこーぜ。俺達は自己紹介の続きをした。

 花火のような女の子は宵宮さんというらしい。稲妻人は俺の名前を聞くだけで嫌悪感を表すと思っていたのでめちゃくちゃ普通に挨拶されて戸惑った。お、オデがごわぐねぇのが……?

 彼女の信念として実際に何かされた訳じゃないうちから仲良くするのを諦めるのは良くないことらしい。なるほどね、あんたみたいな人が居たら村はあんなことには……いや、よそう。

 俺の雰囲気が昔のままじゃないことを綾華さんも察してくれたのか、ひとまず敵対モードを解いてくれた。助かる

 

「あ、あの……とりあえず、撮影を始めてもいいだろうか」

 

 そう言うのはこの撮影のプロデューサーであるグザヴィエさん。今回の映影祭において人手不足資金不足で困っていたところにこの超豪華メンバーが舞い降りてきた超幸運な人である。

 一つ不幸だったのは稲妻に因縁がある俺が加わってしまったことだが、バランス取れてるからいいよね! 過去の俺がすみません

 

「ほら、フリーナ大監督様よ。いつまで威嚇してんだ。俺は大丈夫だから仕事してこい」

「むぅ、わかったよ ……さぁ、撮影を始めよう! 今この場において君達は役者だ。過去の話は終わった後に、まずはいい作品を作ることを考えようじゃないか!」

 

 さすがだフリーナ。今の一声で皆の意識がひとつに纏まった。これはいい作品ができそうだな。

 さて、俺もセットの準備に取り掛かるか。今の俺は協調性もある善良なフォンテーヌ人ってことをアピールさせてもらおう。

 

 

 2. 映影『二銃士』 シーン1

 

 

 今日の撮影は序盤も序盤。この後復讐鬼に堕ちる二人の幸せな幼少期時代のシーンだ。本当は兄妹でやってもらう予定だったらしいが綾人さんはちょっとキャラに合わないので演技指導のゲストであるシュヴルーズさんが代役として入った。初対面だからよく知らんが、『二銃士』の大ファンでセリフは全部頭に入っているらしい。さすがは特巡隊、土壇場の度胸が凄いな。

 役者が揃ったところで撮影スタート! フリーナ監督のお手並み拝見といこう

 撮影は滞りなく進んでいく…………幼いうちから周囲の悪意に晒される中、幼さ故の無知で過ごす二人の演技は中々の出来だった。俺から言わせれば、もう少し気づいていてもいいけどな。子供は子供なりに空気を読めるものだ。

 昔のことを思い出して遠い目をしているとフリーナがじっとりとこちらを見てくるのがわかる。見るな見るな、次のシーン行きましょ。

 セットを調整してお次は母親とのシーン。綾華さんの演技はとても上手で、本職こっちでも十分通用するレベルだ。悪意渦巻く屋敷の中でも、三人なら支えあって生きていける……そんな淡い願いを本気で信じているように見えた。しかし無情にも母親はその存在を疎まれ毒殺されてしまう。愛する者の死体を目撃した二人が復讐を決意するところで、今日の撮影は終了した。

 

 セットを片して外で休憩していると、一仕事終えたグザヴィエさんも外の空気を吸いに出てきた。

 お疲れ様です〜と軽く世間話をしていると、この人もこの人で苦労してきたらしい。行く先々で旅人さんに助けて貰ってなければここにいなさそう……。幸運に愛されてないとこうはならないだろ。この場合は悪運か

 

「そういえば、君は撮影中少し暗い顔をしていたな。あまりこういう話は得意じゃなかっただろうか」

 

 やだこの人洞察力高くない……? 俺がわかりやすいのかもしれないが、初対面で見抜かれるようなことはしていないはずなのだが。

 それはそれとして『二銃士』の話は復讐を誓った二人が最終的に目的を果たす物語だ。悪を打ち倒す正義の物語なので特に苦手意識はないと伝えた。

 ただ、あの二人を見て何故俺はそうしなかったのだろうと考えてしまったのだ。剣を習った俺は真っ先に両親を奪った村の人間に復讐するべきだったのでは? と。戦場を転々として大立ち回りができた俺になら村ひとつくらい容易く滅ぼせたはずだ。しかし今考えても復讐心なんて俺には無い。それが薄情だと言われれば、そうなのかもな。

 

「君にも色々あったんだろう……俺にできることはいい作品を作ることだけだからな、この作品を通して君も何か見つけられることを祈るよ。また明日からもよろしく頼む」

 

 じーん。いい人だなこの人……。長い間稲妻で過ごしていたのなら、この人だって俺の悪名を聞いていた筈なのに。

 いい人にはいい仕事で返そうじゃないか。俺が決意を固めた所で今日は解散ということになった。手を振って挨拶する宵宮さんに手を振り返して、一緒に居る綾華さんにも怖がらせない程度の笑顔で別れをつげる。すっげえ複雑な顔されたけど、とりあえず一歩前進だな。

 

「る、ルドっ! 今日は一緒に食事でもどうかな? それと帰ったあとも監督として相談があるんだ。もちろん付き合ってくれるよね」

「……そんな無理やり元気付けようとしなくても俺は大丈夫だぞ。でもありがとな! お礼にモフってやろう」

「わああぁ!」

 

 ひょこっと顔を覗き込んできて一丁前に元気付けようとしてくるフリーナの髪をわしゃわしゃする。ふわふわしてていい手触りだ! 間抜けな声を上げて逃げられるのを想像していたが彼女はわーきゃー言いつつ逃げなかった。俺に気を使うなってんだ。調子狂うぜ

 さすがにモフり過ぎたので櫛も使って髪を整えてやっていると、遠くの方で旅人さん達とシュヴルーズさんが歩いて行くのが見えた。へぇ、もう仲良くなったのか……コツとかあるのかな? 俺も頑張らないと!

 フリーナのちょこんと乗った帽子を調整して修正は完了した。毎回思うけどこれどうやって乗ってるんだ。気合い? 聞くと怒られた。うーむ、コミュニケーションは要訓練だな。

 今回の俺の個人的なミッションは二つ、撮影を完璧に成功させること。そして過去の出来事を清算して綾華さんとの関係をフラットにすることだ。その先に俺の願いが見つかることを期待して、俺はフリーナと一緒に夜のフォンテーヌ廷を歩き出した。

 

 

 

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