俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ
おはよう。今日もなんかいい感じの朝だな。昨日の決闘でちょっと怪我した痛みも無い素晴らしい朝だ。隣に精霊さんが鎮座しているのがその理由かな? なんでいるんだ
「……おはよう。精霊さん」
『…………』
……き、気まずい。こちらの『
俺が完全に起きたのを見届けた精霊さんは静かに消える。最近はずっとこんな感じで、俺が決闘した日の夜に現れては目覚めとともに消えるという謎の行動を繰り返していた。
彼女が部屋に出現する時、必然的にいい朝を迎えられるので俺としては歓迎なのだが、目覚めた瞬間あののっぺりとしたフェイスに覗き込まれていた時は幼少期以来のおねしょを体験するところだった。適切な距離感ってのは大事だ。うん
「……お。おはようクラバレッタさん。今日も朝から掃除してて偉いな」
気分がいいので散歩でもしようかと外に出ると、器用にモップを挟んで廊下を掃除するクラバレッタさんと出会った。
俺の挨拶にびっ! とハサミをあげて挨拶してくれる彼女とも随分と仲良くなった。彼女達サロンメンバーはフリーナの事が大好きなので、ファーストコンタクトは「うちのフリーナさん泣かしてんじゃねーぞ」といった軽いお仕置だったようだ。俺の制裁が終わった後は普通に話せる仲になった。言葉は無いが意思疎通はできるのが不思議でたまらない……。
外に出ると、今日は休日なのもあってか人が結構多い。我らがメゾン・ド・フォンテーヌはどちらかと言えば裏路地に建っているのだが、それでも露店やらが開かれ活気があった。平和だねぇ
「……あ、あれ。フリーナ様の」
「おぉ……フリーナ様の」
「あっ! フリーナ様の……おはようございます!」
…………。
道ですれ違う人、露天商井戸端会議中の奥様方。果てはメリュジーヌさんまで何故か俺を見て「フリーナ(様)の」と呟く。いつの間に俺は右腕と左足をマシナリーに改造した錬金術師になったのだ。
何となくこの視線は落ち着かない……! 稲妻の村に居た時の視線とはまた違う生暖かいような視線だ。微笑ましいとでも言うべきか? なんだ! 何が起きている!?
「それについては私から説明しよう」
「ヌヴィレット様!?」
この国の最高審判官様がこんな木っ端な俺に何を説明してくださるというのか? 国のトップ直々に出向くのなら、余程重大な事が起きているのだろう。ごくりと唾を飲み込んで、俺はヌヴィレット様の言葉を待った。
「現在、君は民からフリーナ殿の想い人。という扱いで見られている」
「……はぁ?」
「困惑するのも無理はない事だが、これを見て欲しい」
そう言いながらヌヴィレット様は手鏡を取り出し、俺から少し離れた後にそれを見せた。当然、そこには俺の顔が映るのだが
「な……なな、何ィーーッ!?」
見慣れたはずの俺の顔。真っ黒な雲が濁りとなってかかっていたはずの目は晴れ渡り。元の空色を取り戻している。
問題はもう片方、俺の左目は色が変わり、まさにフリーナと同じ色のオッドアイになっていた。手鏡を奪い取って近くで確認すると、元の色に戻っている。遠目で見た時だけ色が変わるのか! 気付かないわけだ。
ということはこの生暖かい視線、「恋人同士でペアカラコン……素敵っ!」 てこと? やかましいわ!
2.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ 隣人部屋前
「おいおいおいおいフリーナ! フリーナァ! でてこいフリー……がああぁ折れる!」
「それ以上いけない。人体の構造上、その方向に腕は曲がらないのだ」
気が付かない間に所有物宣言をされていた事情を聞くために、俺達はフリーナの部屋の前に来ていた。呼び鈴、ノックに声掛け。持てる技の全てをドアに叩き込もうとした所で礼儀作法に厳しいジェントルマン・アッシャーに関節を決められる。いつもすみませんね
「……全く、君はいつもいつも騒がしいね。おはようルド。それに……ヌヴィレット? 君がここに来るなんて珍しい」
「おはようフリーナ。元気そうで何よりだ」
俺の腕が終わりかけているのを横目に、エプロン姿のフリーナがでてきた。料理中だったのか
「僕だって日々成長しているのさ、毎日パスタや外食だと不健康だと旅人にも言われたしね」
とりあえず入りなよ。と促されたのでお邪魔することに。部屋の中は焼き菓子っぽい甘い香りが漂っていた。
クラバレッタさんがせっせとテーブルにティーカップ等を並べていく。お茶会でも開くのか?
「クッキーを焼いたからルドに食べてもらおうと思っていたんだ」
「そりゃタイミングがいいな。俺もお前に聞かなきゃいけねぇ事があるんだよ」
話は菓子を齧りながらでもできる。客人をいつまでも立たせているのも失礼との事なので、席に着いてお茶をいただくことになった。クッキーうめぇなぁ!
「話ってのはよ、俺の目についてだ。どうしてこんなことになっている」
「それを話すにはまず君の体質について説明する必要がある。これはフリーナにも共有しておくべきだろう」
「俺の体質? これはフリーナの影響じゃないのか」
「間違いなく彼女の影響だ。しかし君はどうやら、他人の元素力に影響を受けやすい体質のようだ」
元素に影響を受けやすい体質、ねぇ……。思い当たる節しか無い。『鬼神演戯』の中に潜んでいたあいつらに、雷電将軍の……うっ、寒気が
「君は先日クロリンデとの決闘にて、命を使い果たしかねない程の元素爆発を使ったな。その時君の中にあった元素力は全て消費され空の状態になった」
「その空っぽになった俺を救うためにフリーナが元素力を注ぎ込んだ結果が、この目ってことか? 」
「その通りだ」
ふむ……だとするなら、この目は一時的な問題で、俺が元素を使っていけば自動的にフリーナの元素力は消えて俺の元素力が補充されていくってことだよな。
だが、俺は既に決闘で何回か神の目を使っている。さすがにもうフリーナの元素力は残っていないはずだ。はずなのだが
今朝も居たよなぁ! 夜な夜な俺を回復しに来る精霊さんがよォ!
そう言いながらフリーナの方を向くと彼女は顔を完全に背けて紅茶を飲んでいた。こ、こいつ……!
「白状しろ、なんでこんなことをした!」
「……だって、君すぐ怪我するだろ。心配になるんだよ! クロリンデはいつも無傷だったのに!」
「おぉ……怒るに怒れない理由やめろよな……いや待て、俺にクロリンデさんレベルの強さを要求してないか。さすがに無理だぞ」
つまるところ、俺が決闘する=死にかけるの式がフリーナの中に出来上がってしまっているらしい。
心配してくれるのはとてもありがたいのだが、これでは俺とフリーナの関係が誤解されたままだ。それでいいのか!?
そもそも、この噂を広めたのは誰なんだ。俺はだいぶ前から目の色が変わっていたようだが、今日に至るまで誰にも指摘されなかったぞ
「全員が君の体質について理解出来たところで、これを見て欲しい」
「これは……スチームバード新聞じゃないか。君も取ってるんだね」
ヌヴィレット様が取りだしたのは『スチームバード新聞』フォンテーヌ廷で発行されている中だけに留まらず世界中で主流の新聞だな。
で、ご丁寧に赤ペンで囲ってあるところがそれか……ふむふむ、なるほどなるほど。
「綺良々ッ!」
「にゃん!」
俺の声に窓から箱型の猫さんが入ってくる。
「このコラムを書いたやつを取り寄せたい。料金は着払い、
「わぁ……! まっかせて!!」
俺から新聞を受け取った綺良々は風のように、また窓から出ていった。
よし。
俺は座って紅茶を飲んだ。あとは犯人が捕まるのを待つだけでいい
「いや、よし。じゃないだろ! 何なんだ今のは!」
「何って普通の宅配サービスだが? 配達員と仲良くしてるとこういう時便利だよな」
「仲良くってそういう問題じゃ「お荷物です〜」速いなもうっ!」
「ぐへ!」
「よう……あんたは偏向報道だけはするタイプじゃないと思ってたんだがな。えぇシャルロットさんよ」
マジックポケットから新鮮な魚肉を取り出し、ササッと刺身に加工して綺良々に差し出しながら、こんなふざけたコラムを書いてくれた張本人ことシャルロットさんを問い詰める。
「いてて、一体何が……はっ! フリーナ様にヌヴィレット様!?なになに、いつも頑張ってる私に独占取材のプレゼントですか! 」
「ブレねえなあんた……」
目を輝かしてメモとペンを取り出している所で悪いが、キリキリ吐いてもらおうか。
俺とフリーナの関係を誤解させるような記事を書いてなんのつもりだ。
「誤解なんてそんな! 私はしっかり事実を確認して記事にしましたとも!」
「当事者がよォ! されてねぇんだよ事実確認をよォ!」
俺はキレた。しかしシャルロットさんも一歩も引かない。彼女にとって自分の記事を偏向報道扱いされることは耐え難いことなのだろう。頑固な!
シャルロットさんがほわんほわんと回想に入る。これは……俺とクロリンデさんの決闘が終わった後の医務室か。扉の前で聞き耳を立てるシャルロットさん。突撃インタビューするつもりがなんかシリアスやってるから入れなかったんだな。
「……僕にとって君は特別な人だ! 」
「……行かないでっ……一緒に帰ろうよ! 」
「あぁあ……っうあああぁ!」
(はわわ……これはとてつもないスクープを手に入れてしまったぁ!)
何がはわわだ! お前完全に盗み聞きした挙句の勘違いじゃねぇか!
「違いますー! ちゃんとその後確認取りましたもん! というより貴方こそ良く記事を読んでくださいよ! 私は『フリーナ様の想い人!?』ってテーマで書いたんです。つまり当事者は貴方ではなくフリーナ様なの! ですよねフリーナ様!」
「どうなんだフリーナ!?」
どうなんだ! ヌヴィレット様もなんか言ってやってくださいよと思ったが、この人優雅に紅茶を飲むだけで我関せずだな。そういうところもクールだぜ
フリーナは俯いている。ちょっと震えてない? よく見ると耳が赤い
「…………い?」
「へ? なんて?」
「君が、僕の特別な人だと、困るのかい……?」
……お前それは、その顔はずるいだろ! この記事に書いてあることが本当だと認めるのか! いや、待て待て! 俺は……っ
───あぁもう!
キラキラとした目でパシャパシャと写真を撮られながら、ここに事実確認は成された。
俺はフリーナの大切な人で
…………俺にとっても、フリーナは割と大切な人に入るということだ。
友人として、だけどな!!
3.フォンテーヌ エピクレシス歌劇場
『……っ』
『あぁ……泣かないでくれ、星の乙女よ。私は貴女の涙を見るために聖剣を振るった訳では無いのだ』
身体の半分を呪いに浸しながら、倒れ伏した騎士はそれでも乙女の涙を拭う。
俺がわざわざフォーマルな格好に身を包んで歌劇場で観ている演目は『聖剣の騎士と星の乙女』 宙から飛来し幽閉された星の乙女と、彼女を救うために命を削りながら聖剣を振るう騎士の悲恋を描く内容だ。
フリーナに初公演のチケットを貰ったので観に来たのだが、流石と言うべきか圧倒される演技と歌唱だ。普段のお調子乗りな彼女とは似ても似つかん。
星の乙女演じるフリーナは、白いドレスを身にまとい、ベールを被った顔に悲哀の表情を浮かべ、死にゆく騎士に歌を送って劇の幕は下りた。
……なんか見覚えあるんだよなぁ。設定や配役が全く違うのは分かるのだが、どうにも既視感しかない演目だった。
途中の騎士の宣言も、眼差しを向ける星の乙女に己の全てをかけてどーのこーのの部分。凄かったんだけど何故か逃げたくなったもん。
両脇をナヴィアさんとクロリンデさんに挟まれているから逃げられなかったが、それが無ければ終幕まで俺はいなかっただろう。
再び幕が上がって役者達が挨拶をしていく。フリーナもいつものマスコット的スターに戻ってるな。そうそう、お前にはしょぼくれ顔より調子に乗りまくったその顔のが似合ってるよ。
……お、目が合った。
「……ふふっ」
何その顔!? 俺は知らない表情で笑いかけるフリーナに慄いた。ドサッと何人かが倒れる音。そしてこちらに注がれる殺気ッ!!
俺の席の回りは『
幕が下りる。今度こそ終わりだ。さぁ逃げよう速く逃げよう。俺の命が終わる前に!
4.フォンテーヌ エピクレシス歌劇場 舞台役者控え室
「フリーナ様直々に招待状を貰ったくせに感想も言いに行かないのはどうなんだ」と二人に言われてしまったため、俺はフリーナのいる楽屋までやってきていた。一応部外者なんだけどな……警備員さんも顔パスできるとかどうなってんだ
「あっ、ルド!」
「ようフリーナ。話には聞いていたけど、凄かったな」
ノックをして部屋に入ると、ちょうど着替え終わったのかいつものフリーナが迎えてくれた。今までこういう所に縁がなかった為、拙い俺の感想でも彼女的には満足したらしい。大して無い胸をこれでもかと張りながら得意気にした。
「ふふん。僕の素晴らしい歌劇を今まで見てこなかったこと、それをさぞ後悔したことだろう」
「ほんとにな。演目に既視感がありまくりじゃなければ、もう少し物語にも入り込めたんだが……」
「それは僕からの罰と思ってくれよ。君は僕に『星の乙女』と同じ苦しみを味わわせるところだったんだ。よーく反省してこの公演が終わるまで羞恥に苦しむといい!」
「へーへー……。俺的には、あのコラムの方がダメージあったけどな。お前のファンが減らなかったようで本当に良かったよ」
しばらく世間を騒がせたフリーナ様の想い人報道は「大切な友人」という解釈で受け入れられ、程なくして俺をそういう目で見る人間も殆ど居なくなった。時折殺気が飛んでくるので全く無くなったわけではないが。
俺の目の変化もだいぶ薄くなった。回復が止んだのではなく身体が慣れた結果らしい。そしてこれ以上濃くなることも薄くなることも無いとのこと……命を救ってもらった代価にしちゃ安いもんだが、なんだかな。
「やっぱり、迷惑だったかな」
「あん?」
「君の目の事とか、コラムの事とか」
そんなことを気にしている癖に俺にあんな顔で笑いかけたのか……俺は溜息をついてフリーナのデコを小突いた。
「いたっ! なにするんだ!」
「俺はお前関連のことで迷惑だなんて一度も思ったことないぞ」
「っ! そ、そうなのか……」
「あぁ、逆に俺の方がお前に迷惑かけてないかビクビクしてるくらいだ」
「僕だって、君のことを迷惑だなんて一度も……いや、結構あるな。朝早い時間に起こしに来るし、理由も大体どうでもいいし」
「だろ? 俺たちの間に迷惑なんて言葉は成立しないのさ」
「話を聞いていたのか!?」
なははは。
よし、いつものフリーナだな。
「そうだフリーナ。初公演の記念に飯いこうぜ」
「あ、うん。いつもの所?」
「いや、今日はせっかくフォーマルな格好に着替えてるんだ。ちょっとくらい贅沢したって良いだろ」
「……なら、いいお店を知ってるんだ。そこへ行こう」
ほう。この国の大スターお墨付きの店ならさぞ美味しい店なのだろう。五百年続く超老舗とかだったらどうしよう……モラ足りるかな。
控え室を出て長い廊下を歩きながらフリーナが何かあるんだろ? という顔で見てくる。何かあるといえばあるんだが……。
「店に着いたら話したいことがあるんだ。俺の過去についてな」
「いいの? 話したくなさそうにしてたじゃないか」
確かに恥だらけの半生だ。正直思い出すのも嫌だが……。
それでも、何も知らない状態で俺の事を手放しに大切だとは言って欲しくない。我ながら面倒くさいなと思うが、必要なことなのだ。
「わかった。安心してくれ、今日のお店はそういう話も安全にできるからね」
「……そりゃ楽しみだ」
その後、店に着いた俺達は色んな事を話した。俺の過去。師匠の事、暴れていた期間の目を背けたくなるような愚かな話。フリーナの五百年に及ぶ神の時代の話も聞けたのは良かった。苦しみしかないと思っていたのだが、案外楽しい事もあったようだ。笑い話みたいな失敗談を肴に俺達は飲んで食べた。食べて、飲んで呑んで飲んで呑んであのフリーナさん!? 机の上はステージじゃなくってよ!?
フリーナの酒癖が案外悪い事を知れたのは今日一番の収穫かもな。
5.フォンテーヌ廷 ヴァザーリ回廊
「えへへ〜ルドぉ……もっと話を聞かせてよぉ」
「フリーナさん貴女飲みすぎよ。淑女ならしゃんとしなさいナ」
クロリンデさんめ、前に二人でご飯行った時はどうやってこのモンスターを鎮めたんだ。無口な彼女には厳しいだろ……教えといてくれよ
完全に潰れたフリーナを背負って、俺達は自宅に向かっていた。そんなに遠くなくて助かったぜ
「ねぇルド……」
「なんだよ。吐きそうなら降ろすからちょっと我慢しろよ」
「……君の願いって、その後見つかったの?」
「…………さてな」
生まれた時から手に持っていたらしい神の目。持ち主の願いの具現化とも言われるそれを、俺は失ったところで特に変わりはなかった。
『鬼神演戯』のあいつらが言ったように、本当に俺の願いが流派のために身体を明け渡すことだったとしたらゾッとするが、そうだとしてもきっと納得はしただろう。
しかし彼等は波に消え、残った俺の願いは謎のままだ。思い出せない程度の願いだったのだろうと切り捨てることさえ出来そうだった。
「へへ、僕はぁ考えたぞ! 君へのお礼をね」
「お礼……? 命を救って貰った以上に貰える恩なんて俺にはないぞ」
「ふふー。言っただろう、お礼は弾むって。死んだらお礼もできないんだから、それはサービスと受け取りたまえ」
「なんか悪いな……で? 何をしてくれるんだよ」
「君の願いを探すのを手伝うのさ」
その声が余りにも真剣味を帯びていたので、足を止めてしまった。
いや、それはあまりにも大きい。俺がやった事と釣り合わない。何年かかるかも分からないし、見つけた願いが下らないものだったらその時俺は何をしてお前に返せばいいんだ。
「その時は僕の夢を手伝ってよ。君の流派は映えるし、動きの参考になるかもしれないしさ。そしてそのお礼にまた僕が君を手伝う」
「そうしてずーっと、持ちつ持たれつで過ごすんだ。悪くないだろ?」
「……あぁ、悪くない生活だ」
なら、さっさと俺の願いを見つけないとな。と声を出しかけた所で、フリーナが完全にこちらに身体を預けてきた。寝たのか……
酔った勢いの寝言にはしてやらねえからな。とことんまで付き合って貰うから覚悟しろよ。
「……フリーナ、部屋に着いたぞ。フリーナさん? えぇ……人の背中でそこまで熟睡できるか普通」
部屋に着いた後も全く起きることのないこの飲んだくれをどうしてくれようか。鍵を探るために身体を触る訳にもいかないし……困った。
仕方がないので俺の部屋にフリーナを運んでベッドに寝かせる。明日勘違いしたフリーナに訴えられませんように……。
翌日、しっかり勘違いなさったフリーナの声と、飛び出したサロンメンバーの水責めによる最高の目覚めをプレゼントされた。寝耳に水ってレベルじゃねぇぞ!
6.フォンテーヌ 決闘闘技場 コロシアム中央
俺の大一番の戦いが終わろうとフリーナの公演が開始されようとこの国の娯楽はやっぱり審判決闘審判だ。今日は普通の客入りだな。
「……げっ、ルドかよ。お前がそっち側ってことは今回は俺の依頼人が黒か」
「おいおい、やる前から決めつけるのは良くないな。お前が勝てば白に変わるってことを忘れんなよ」
今日の決闘はよくある遺産相続のいざこざだ。決闘なんぞに遺産を使うくらいなら仲良く分けろと思うのだが、これで飯食ってるんだから文句はない
新調した銀の剣を抜き放ち、その後下ろす。フリーナに剣を元素に変換しないのかと言われたが、この腰にかかる重さがいいんだよ。
「今日は約束があるんでな。悪いがさっさと終わらせて貰うぜ」
フリーナの奴、タイトなスケジュール組みやがって……俺は開始の合図と同時に飛び出し、面食らった相手にそのまま剣を叩きつけた。
闘技場を出ると、見慣れた帽子とそこから伸びるアホ毛が目につく。
「お疲れ様。予定より早かったじゃないか」
「そりゃー俺は特別だからな。その辺の相手に時間なんてかからんよ」
「やっと自分が特別だという自覚がでてきたんだね。偉い偉い」
頭を撫でようとしてくるフリーナをあしらいつつ、俺は今日の予定を聞いた。約束だけして一切用事を聞いていないのだ。俺以外にこの誘い方はするなよ。友達減るぞ
「フリーナ、来たぞー!」
「あれ、旅人さんにパイモンさん。あんたらもフリーナに呼ばれたのか」
今日何をするのかもう分かっているらしい二人と、またしても何も知らない俺。この差は一体何だ
「こほん。役者が揃った所で、計画を始めようじゃないか」
「待て待て。俺は何も知らされてないんだが、何をするつもりだ。嫌な予感しかしないぞ」
「君にとっても悪くない話さ、君の願いが見つかるかもしれないからね」
「──総監督はこの僕! 今から君達と一緒に映影を撮るのさ!!」
……あぁ、俺はどうやら悪魔の契約書にサインをしてしまったらしい。
それはもう楽しそうに笑うフリーナを見て、これから俺が彼女に振り回されまくる生活を想像してげんなりすると共に、退屈はしなさそうだと思ってしまうのだった。
星三の決闘代理人のお話はこれにておしまい。
沢山のお気に入りと評価。感想もありがとうございました!