俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1. フォンテーヌ 決闘闘技場 医務室
「うぅ……ルド。ルドぉ……、なんで約束を破っちゃうんだよ。死んじゃ嫌だよぉ」
「ぐぐ……フリーナ゛、頭をぐりぐり擦り付けるな。苦しい、死ぬ……」
前回のあらすじ! クロリンデさんに対し神の目の奥義、元素爆発『鬼神演戯』を発動した俺は、怒涛の連撃により見事大逆転勝利! 出来たら良かったのだが、凡人の俺がそんな強力な必殺技をノーリスクで発動できるわけが無い。
『鬼神演戯』は受けたダメージを全て覆して分身を作り出すが、代償として発動中はガリガリ体力が減っていく。だから速く勝負を決める必要があったのだが、今まで溜まっていた分の元素力も使って限界を越えて運用した結果、予想以上に消費が激しく俺の体力の全てを使い切っても支払いしきれない
当然数十秒で俺の意識は闇に消え、決闘も敗北。こうして医務室に運び込まれ命の危機真っ只中。部屋に飛び込んできたフリーナに泣きつかれているという訳だ。
もう少しでクロリンデさんに一撃当たりそうだったんだけどなぁ……やっぱ強すぎないかあの人
「そんなめそめそするなよフリーナ。ほら、この回復薬の点滴がついてる間は死なないからさ」
「それが切れたら破産して死んじゃうんだろ!」
うーむ困った。正直コミカルに流そうとはしているが、死にかけているのは本当なのだ。常備してある回復薬はこれで最後らしいし、医務室の先生は匙を投げて部屋を出ていってしまった。お手上げだから最後に話しとけってことらしい
「あんたもしょんぼりしてんなクロリンデさん。決闘に勝った人がする顔じゃねぇぞ」
「……ルド」
俺の寝るベッドの右側、フリーナの反対側に座るクロリンデさんはいつも通りの無表情に見えるが、俺も伊達に何度も戦っていない。彼女の小さな感情のゆらぎくらいなら分かるようになった。
「自分のせいで〜なんて思ってくれるなよ。あんたに受けた傷は治ってるし、今死にかけてるのは自業自得だからさ」
「だが……」
「それより感想が聞きたい。今日の俺は強かったか?」
「……あぁ。あのまま波状攻撃が続けば、少し危なかったかも」
「そりゃ披露した甲斐がある……少しなんだ」
少しだけだったらしい。命を掛けてこれである。やってられんぜ天才様との戦いはよ
「私は審判の方を見てくる。それと、今日は勝ったと思ってないから……また続きをしよう」
「……! あぁ、わかった」
クロリンデさんが部屋を出ていく。残ったのはフリーナと俺のみ、点滴が落ちる音と鼻をすする音しか聞こえなくなった
「さて、俺の教えられる神の目の使い方はこれで全部だ。元素力の核心は掴めたか?」
「……いらない。君の命と引き換えに、神の目を使いこなしても何の意味もない。あんな誓いをされても何も嬉しくない!」
「……」
「君が斬られた時、君が倒れた時。僕の心がどれ程軋んだか……どうしてこんな無茶をしたんだ」
「……理由か」
主な理由は二つ。一つ目はおやっさんに対する偏見を少しでも緩和するため。
今『湖の光』の店主は自分の利益とフリーナの愛顧欲しさに、大手のレシピを盗み出し証拠隠滅の為に殺人まで犯した残虐非道な犯人として民衆に思われている。きっと今日の決闘も、依頼人の性格を真似た俺が蛮族みたいに飛びかかって正義のクロリンデさんに退治されるはずと、会場のほとんどが思っていたことだろう。
だが俺は今回自分が死にかけることすら厭わずに戦った。民衆はついこの前まで汚名をきせられたままだったカーレスさんを思い出したはずだ。そしてこう思う。「あのルド=ウィークがそこまでする何かが、この審判にはあるのではないか」と、俺の依頼人を見る目が確かという今までの信頼が試されるな。
もう審判に『諭示裁定カーディナル』は無い為観客の印象など関係ないのだが、舞台に上がるおやっさんの恐怖を和らげてやりたかったのだ。
どうよ俺の完璧な印象操作。得意気にそう説明する
「……確かに。この決闘が始まった時から比例して、君を応援する人がどんどん多くなっていた」
「だろ? 普段適当な決闘代理人が見せる必死な姿、推理小説が好きな奴なんかは特に裏があると考えてくれると思ってな」
「それで、二つめの理由は? 必死に戦うだけなら無茶のない範囲で元素を使って戦えば良かったじゃないか。今君が死にかけている理由にはならない」
あー……それな。
端的に言ってしまえば俺が弱いからだった。クロリンデさんに斬られた傷だって根性と食いしばりがあったから動けていただけで本来ならあれだけで死ぬような傷だ。肩口斬られたかな? と思ったら普通に致命傷でビビったのは俺もである。彼女に責任を押し付けないためにも、俺は元素爆発を使わなければなら無かった。
あとは、そうだな。意地もあったと思う。神の目を持っていた事があるだけの凡人。その記憶も恥として小箱に封印した俺に、神の目の使い方を教えてくれと頼んできた隣人がいた。それが無ければ小箱が再び開くことは無かっただろう。
俺は特別な人間じゃない。フォンテーヌの滅びを回避する術は持たなかったし、話に聞く深淵の化け物を退治する力もない。それでも、このまま凡人としてお前に腐ったままの俺を見せ続けることを許せなかった。
俺がここに来て初めてこの人のために! と戦える依頼人、俺の全力を必ず受け止めてくれると信じられる相手。そしてその全てを見届けてくれる友達。こんな大きな舞台で自分の全てを出し切らないのは裏切りだと思ったのだ。
「……凡人がなんだ。僕にとって君は特別な人だ! 君が初めてなんだ。神であるフリーナ様でも、神だったフリーナ殿でもなく、僕を初めからただのフリーナとして見てくれた友達は、君だけなんだよ」
それは俺が初めて隣人宅に突撃した時の話か。その時は不敬なー!とかなんとか言われたが、ちゃんと嬉しかったのかよ早く言えよな。
「頼むよ、君が居なくなったら……また僕はひとりぼっちだ。一生独りでもいいと思っていた僕の所に勝手に乗り込んできて、この生活を楽しいと思い始めたところに君は勝手に去るのか! なんて自分勝手なんだ」
「……悪いな。俺も友達なんていなかったから、どこまでいっても自分本位なんだろうよ。でもお前にはこれからどんどん友達が増えていくよ。皆いい人達ばかりだからな」
今回こんな俺に協力してくれた旅人さんやナヴィアさん。全部終わったら『湖の光』の料理をご馳走する約束をしたパイモンさん。フリーナの周りには特別な友人が沢山いる。何を心配することがあるのやらだ。
約束を守れそうに無いことと、お礼を伝えることが出来そうに無いことが心残りだな……。
管に繋がれた回復薬はもう少ない。そろそろ時間か
「なぁ、フリーナ。俺にもう一度神の目を使う決心をさせてくれてありがとう。凡人だと思ってたけど実は俺、結構特別だったんだな」
「当たり前だろ、この僕の友達なんだぞ……他の誰がなんと言おうと君は特別なんだよ。やめてよ、これから死ぬようなこと言わないで」
「残念だが時間だ……。俺の神の目と刀な、一緒に埋めといてくれよ。形見になんてするなよ。俺はお前にも何も押し付けるつもりなんてないぜ」
「まって、待ってよ……逝かないで! 帰ろうよ。『メゾン・ド・フォンテーヌ』に一緒に帰るんだ!」
はは、改めて聞くとおもしれー名前。フリーナが認めたのでこれでやっと(仮称)が外れるぜ。(自称)でも良かったな、と今は思うがもう関係ない
フリーナ。きっとこれからお前はたくさんの人と仲良くなって、幸せに人生を過ごすんだ。こんな自分勝手な隣人のことは忘れて、貰った神の目を使って楽しく生きてくれ。
回復薬が切れた。死の気配がやってくる。まず耳が聞こえなくなった。目の前が暗くなっていく……あーあー、そんなに泣くなよ。涙を拭ってやりたいが身体が動かん。
最後まで左手を握る熱を感じながら、俺は死んだ。
2.???? ??? ???
「続いての審判……フォンテーヌ生まれ稲妻育ちのルド=ウィーク」
死んだと思った俺はなんかよくわからんところで『鬼神演戯』の分身達に囲まれて審判を受けていた。稲妻には死後の世界で閻魔とかいうやつに今まで犯した罪を問われるらしいが、これがソレ? どこまで稲妻文化どっぷりなんだ俺は。
「罪状。お前弱すぎ。神の目使わなさすぎ。隣人泣かせすぎ。求刑は死刑。異議は?」
「異議なし」
鬼、天狗、翁の姿に変化した分身が何やら物騒なことを言っている。罪状おかしいだろ。異議あり異議あり!! なんだ隣人泣かせすぎ罪って……その通りだな。
俺は死ぬ覚悟をした。やっぱりこういうのって腹を斬るのが正しいのかな
分身ですらなくなった何者か達が正座する俺の周りに座って絡んでくる。肩組むな頭撫でんな。馴れ馴れしいな
「相変わらず弱いのぉ小僧。儂らの流派でかような小娘一匹に傷一つ与えられんとは」
「何が『無銘』か。ちゃんとした流派名があるのだぞ。それさえ聞いていれば今頃お前は……」
「そういうところが気に入ったから技を教えた所もあるがの。まだまだ未熟者だよお前は」
上から鬼、天狗、翁の順番に話しかけられる。何だこいつら……これから俺は死ぬんだろ。
「あぁ、死ぬぞ」
「俺達が殺す」
「異議があるなら挑んでも良いぞ?」
……いや、やめとく。今更戻ったところでどんな顔すればいいかわかんねーし
俺の手には折れて無くしたはずの刀の切っ先が握られていた。切腹しやすそうな丁度いい長さだ
「……こいつやらないだけで戦ったら勝てるみたいなこと言ったな」
「どうする? 殺っとく?」
「かか、やはり面白いやつだ」
そういうつもりじゃないけど、まあいいか。介錯の手間が省けるってことで
俺は両手でしっかりと切っ先を握って……左手が熱くなっていることに気づいた。
握っていたはずの切っ先が溶けて眩い光を放つ水流が溢れる。分身達が驚き天狗が俺に刀を振り下ろすが、水が俺を囲んで刀を弾いた。
「こ、これは……」
「おい、嘘だろう」
「ははははッ! おい馬鹿弟子! いい友人を持ったじゃないか」
さっきからなんなんだこの翁、師匠みたいなことばっかり言いやがって
鬼と天狗は『無銘』の型を用いて水のバリアを破壊しようとする。その間にも、溢れる水は止めどなく俺から溢れ続けバリアの中を満たしていく
おい、これ俺が溺れないか? 溺死は中々に苦しい死に方と聞くのだが、切腹とどっちが苦しいかと聞かれたらどっちでもいいな。
それに、この水からは嫌な気を感じない。安心して身を任せられるような暖かな水だった。
「ふざけるなッ!ここまで来て失敗するとか聞いとらんぞ!」
「お前が弱かろうが身体が手に入ればそれでいいのだ! さっさと死んで身体を寄越せ!」
「───静粛に」
カツン、と杖を突き立てる音が響いた。
見上げると、闇しかないと思っていた空に一筋の光が入り込み、逆光になるように人影が立っている。
あの堂々たる立ち姿……。その場の全員が動きを止めてかの人を見る。
「この国で私の居ない私人審判は許されていない。そして、被告人ルド=ウィーク」
「は、はひ!」
噛んだ。こんな威光たっぷりのお方に名前を呼ばれて緊張しない奴なんて居ないだろ。
「君は私の忠告を無視し、彼女を悲しませた。よってここに隣人泣かせすぎの罪についての判決を下す」
あんたもそれを言うのかよ。そんな堂々と言われたら本当にあるような気がしてきた。今度璃月の法律家にも聞いてみようかな。
もう水は首元まで迫っている。このまま溺れて死ねというのなら、受け入れよう。俺は最高審判官様の言葉を待った
「起きて、誠心誠意彼女に謝罪するといい……それが君への罰だ。これからも彼女をよろしく頼む」
それってどういう……言い終わる前に水が全身を包む。瞼が重くなり意識が消える直前、何もせずにこちらを傍観するだけだった翁がニヤリと笑ったのが見えた。やっぱりあの爺さん……師匠?
瞼を閉じてもなお眩い光の中、俺は眠りに落ちた。