俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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決闘者の章・第三幕

 

 

 1.フォンテーヌ廷 レストラン『湖の光』

 

 

 情報を集めるため奔走する俺は、とりあえず店に戻って中を探させてもらおうとした。しかし捜査の関係上部外者立ち入り禁止とのことで追い出される。おかしいな、稲妻の探偵モノ小説なら現場を自由に捜査できるのだが……? 見た目が子供じゃないのが原因か

 とぼとぼと店を後にした所で見知った金髪縦ロールのお嬢様ことナヴィアさんに声をかけられた。

 

「ちょっと、あんた……」

「ん? あぁ、ナヴィアさん。どーも。ちょっと今忙しくってさぅおう!?」

「聞いたよ……クロリンデと決闘するんでしょ」

 

 さすがは『棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)』会長さんである。耳が早い。

 大剣をブンブン振り回すわんぱくアームでガクガクと揺さぶられながら俺はナヴィアさんのありがたいお話を聞いていた。俺がどうやら『棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)』の前会長、ナヴィアさんのお父様にあたるカーレスさんと同じ目にあうことを危惧してくれているようだ。優しい……いや、同じ苦痛をもう一度クロリンデさんに味わわせないために言ってるなこれ。複雑な友情いいね!

 

「わかった? 絶対にさっさと気絶するか、降参するのよ。審判に関しては私達も協力するから絶対に無茶はしちゃダメ」

「ハイ、アリガトウゴザイマス」

 

 用が済んだのかべちっと地面に放された俺にナヴィアさんが忠告して去っていく。ガクガクされてほとんど聞いちゃいないがどうやら協力してくれるらしい。友情!

 さて、やれることはどんどんやっていこう。やらなくていいに越したことはないが、やらなきゃいけないことだってあるよな。

 俺は届け物の予約のために、狛荷屋のフォンテーヌ支部を目指すのだった

 

 

 2.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ(仮称)

 

 

「ルド、居るかい?」

 

 情報を集めるために奔走してはや二日、いよいよ明日が決闘の日である。部屋に戻ってさて寝るか。といったあたりでドアの外から声がかかる。

 ドアを開けるとパジャマ姿のフリーナが立っていた。全体的にしっとりほこほこしてるのはシャワーを浴びてきたからなのか。うーんいいね

 

「むっ、あまり女の子の身体をじろじろ見るものじゃないよ」

「あぁ、すまんね。でも俺はヌヴィフリ派だから大丈夫」

「ヌヴィ……? まあいいや、少し話をしたいんだ。部屋に入ってもいいかい?」

 

 見られて困るものなどこの部屋には無い(流れた)ので快く通す。全く使っていない備え付けのベッドにフリーナを座らせ、稲妻から取り寄せたグリーンティをご馳走する。この生活の中でフリーナも大分稲妻式おもてなしを気に入ってくれているらしく、美味しそうに緑茶を飲むフリーナを見ながら、俺も隣に座って同じく茶を飲んだ。

 

「……いよいよ明日だね。旅人は証拠を見つけてくれているだろうか」

「こればっかりは祈るしかないな。ま、明日俺が勝てば全部解決だ。大船に乗ったつもりで──」

「ダメだよ。君は勝とうとしちゃダメだ」

 

 小さな手が、細い指が俺の服の袖を掴む。それは微かに震えていた。

 横を向くと彼女の色違いの瞳と目が合う。

 

「最近、君の目がどんどん変わっていくのが分かるんだ。大事なものを全部投げ捨てるかのような、透明な色をしていくのを感じる」

「……はは、俺の目は曰く『メロピデ要塞の生活排水パイプの汚れ』らしいぜ? 透明なんてそんな」

「茶化さないでくれ。どうせ、凡人が勝つためにどれだけ命を掛けられるか。とか思ってるんだろ?」

「……」

「僕達は出会ってそんなに経っていない。君が僕の500年間を知らないように僕も君の半生を知らない。でも、これだけは分かるんだ。君はきっと、その折れた刀を持って稲妻を出る時も同じ目と覚悟をしてたって」

 

 そんなに俺はわかりやすいのか。困ったな……。どうやら俺の命はあの国を出てからどんどん重くなってしまったらしい。

 こういう時どうしたらいいかわかんねぇわ。とりあえず笑えばいいんじゃないかな

 

「馬鹿だな、俺はまだお前に神の目の使い方を教えきれてないんだ。それまで死なないよ。知ってるだろ? 俺は割と適当な決闘代理人だってこと」

「……うん。そうだね。君はそういう人だ」

「そうだ、明日は応援に来てくれよ。せいぜい転がり回って時間稼いで、派手に降参するからさ」

「勿論、応援に行くとも。君は僕の眼差しを受けながら、無茶しないように精一杯頑張るんだ。わかったね?」

「了解了解。ならさっさと寝ようぜ。隣だけど送ってくよ」

「……いや、今日はここで寝る」

「は?」

 

 フリーナがそのままベッドに横になる。いや、使ってはいないが来客用に掃除はしてるし問題ないが、問題ないのか!?

 もぞっと顔を動かしてこちらを見るフリーナがいたずらっぽく笑う。

 

「なんだよ。僕が泊まったらいけないのかい? それとも、君に何か出来る程の度胸があるのかな?」

「…………いや? 俺はヌヴィフリ派だから大丈夫だが? じゃあ、明かり消すぞ」

「おやすみ、ルド……手、繋いでてよ」

「……おう、おやすみ」

 

 ほっそい指、マメのひとつもない柔らかな掌。

 いやいや、フリーナは友人フリーナは友人……!

 俺は! ヌヴィフリ派! だから!!

 

 

 3.フォンテーヌ? 原始胎海?

 

 

 泡が弾ける。深海に沈む。闇に解けていく。

 闇だと思っていたそれは、どうやら超巨大なナニカの身体だった

 

「………………違うんですよ、俺はヌヴィフリ派なので!」

 

 俺は咄嗟に弁明した。そうしなければならない気がしたのだ

 

「そうか。その言葉の意味は全くわからないが、明日の健闘を祈る」

「どうか、彼女を悲しませることのないように」

 

 デカすぎる声が耳どころか身体中に響いて何も聞き取れん。なんてー!?

 闇が蠢く。その場に踏ん張ることも出来ずに大きな流れに呑まれていく

 泡が浮上する。浅瀬へと進む。闇が晴れる。

 

 

 4.フォンテーヌ 決闘闘技場 控え室

 

 

 勘弁してくれ……! 夢の内容は思い出せないが、ベストを尽くさねば死ぬ! 尽くさなくても死ぬ気がする!

 

「ルド」

 

 控え室で武器の点検をしていると、今日の対戦相手のクロリンデさんが入ってきた。こんなの初めて! どうしたのだろうか

 

「今日は、その刀も登録してあるのだな」

「おう、今日は……いやいつも本気だけど、今日はさらに一味違うぜ。俺は」

「…………」

「だからあんたも心置き無く闘ってくれや。別に、俺はあんたに何か押し付けるつもりはないし、きっとカーレスさんもあんたにそこまで苦しんで欲しくなかったと思うぜ」

「! 君は……いや、君がそう望むなら、私も全力を出す」

 

 そう言い残して彼女は去っていった。

 おうおう。望むところよ。なんせ今日の俺には色々加護が着いてっからな。負ける気がしねぇ

 武装の点検ヨシ! 俺は鏡の前で片足を上げ、肘をまげて人差し指を伸ばしポーズをとった。

 ふと、時計を見る。時間は正午二十分前。正午の時刻を示したら決闘が始まる。

 

 さて、ここ一番の大勝負。乗り切ってやろうじゃないか

 

 

 5.フォンテーヌ 決闘闘技場

 

 

『やああぁってきましたあぁ! 今回の大目玉決闘! 対戦カードは我らが最強! 常勝不敗のクロリンデェ!!』

『そしてそして! 今日は二度目の予言の日かァ!? もたらすのは破滅か栄光か! 異国の武器を携えた異国の決闘者ルド=ウィークゥ!!』

 

 ああうるせー! だから俺は異国人じゃねぇって言ってんだろ。なんてな。今はとても落ち着いている。

 俺の生まれも、育ちもどうでもいい。今日この決闘はただの俺として、全力でこの闘いをやり抜く。自分でも怖いほどに心は凪いでいた。

 ふと、一般客席の中に見知った隣人の姿を見つけた。熱い視線だ照れちゃうぜ。

 心配そうな顔すんなよな。決闘ってのは怪我してなんぼだろが。

 

「クロリンデ、今日の俺の依頼人はいい人でな。いつもみたいにふざけたりはできねぇぞ」

「問題ない。君の本気でも、私には届かないから」

「くく、そうかい」

 

 ──抜刀

 

 刀は抜かない。無鋒の剣を正面に持ち、その後下ろす。

 切っ先が地面に着くかのギリギリで、こちらの準備が完了した。

 開始の声が響くと同時にクロリンデさんが雷光を纏って突き進む。こういう速度勝負で雷元素に勝る元素は無い。だがな

 目にも止まらぬ速度の突きを下から掬うようにして受け流す。まるで水面に技を放ったように感じたことだろう。これが俺に叩き込まれた流派。今日は一味違うと言った意味がこの初撃でわかってくれたと思う

 クロリンデさんと目が合う。心做しか闘志のようなものを感じるぜ。俺もだ

 熱い決闘を、始めようかッ!

 

 

 6.フォンテーヌ 決闘闘技場

 

 

「がああァ!!」

 

 何度目かもわからない打ち合いの末、身体が追いつかない速度の突きを直撃の寸前で刃を咬ませて防御する。しかし勢いを全く殺せないために無様に吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がっていく。

 分かっていた。彼女が強いことは、この強者揃いの決闘代理人の中で常勝不敗なんてそうそうつかない異名を持つ彼女に、神の目を持っていた事があるだけの凡人は易々と勝つことはできないと

 いつまでも膝を着いて体力を回復することはできない。咄嗟に土に汚れるのを無視して横飛びする。さっきまで俺がいた所を雷を纏った弾丸が数発穿った。精密機械かな?

 

「守ってばかりでは……ッ!?」

「知ってるよォ!」

 

 土煙を吹き飛ばしクロリンデさんが迫る。

 こっちだってただゴロゴロと転がされ続けていない。反撃のチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ

 俺だって決闘代理人の中ではあんたくらいにしか負けてないんだ。いつまでもやられっぱなしと思うなよ!

 

「しゃあァ!」

 

 俺の出せる最高の威力で最速の五連撃。俺に剣を教えた師匠が使う謎の流派『無銘』は時に速く、時に強く。流れる水のように変幻自在の剣

 この五連撃は流派の中でも最速の技、見切れるか!

 

 やっぱこの人マシナリーかなんかだよ。極めて冷静に全て弾かれた。初見で対応してくるのやめてくれ

 しかし反撃をされるだけの隙は生まれなかったようだ。互いに衝撃を受けて間合いが離れる

 

「……もう、降参した方がいい」

「何言ってんだ。勝負はこれからだろうが! 」

「剣を見てみろ」

 

 ミシッと不吉な音が響く。

 見れば俺の剣は刃こぼれが目立ち、柄に近い部分には大きなヒビが入っていた。店売りの、それも安物の剣で無茶をし過ぎた。だとしても、だ

 

「あと一発。これで決めりゃあ問題ないだろ」

「……君は本当に」

 

 クロリンデさんが苦い顔をする。嫌な思い出でも蘇ったのか? 戦闘の最中に気を抜くとは……こちらも大技のタメがあるので動かないけどな

 イメージするのは決壊寸前のダム。塞き止められた水を一点から解放するかの如く、流派の中で最も勢いのある一突き。

 勢い良く飛び込む俺と、それを冷静に待ち構えるクロリンデさん。ここが勝負の時と見た!

 

「おぉぉらァァ!!」

「……ふッ!」

 

 互い違いに入れ替わって残心。風きり音をたてて何かが飛んでいく音。言わなくても分かる。目の前の剣は柄から先が無くなっていた。

 右肩から左脇腹にかけてじわじわと何かが染み出す感覚。これも言わなくても分かる。

 俺の体から勢いよく血が吹き出した。

 

 

 7.フォンテーヌ 決闘闘技場

 

 

 バタバタと血が流れていく。観客は久しぶりに見る血に大興奮半分悲鳴半分と言ったところだ、悪趣味な奴らめ。このまま降参すれば直ぐに医療班が駆けつけてくれることだろう

 だが、まだ俺の闘志は消えてない。

 剣を放り捨ててもう一本。腰に差した刀を手に取る。

 

「死ぬぞ……何がそこまで君を動かす」

「クロリンデさんよ。あんたにはいつも嫌な役を押し付けて申し訳ねえな」

「何を──」

 

 帯から鞘を外して左手へ、そして右手を大きく上へ伸ばす。

 クロリンデさんは困惑している。そりゃ致命傷喰らった人間が変なことしだしたら警戒するわな

 

「まだ勝負は終わってねぇ、本気で殺しに来い。じゃないとこの決闘は終わらないぜ」

「……直ぐに意識を刈り取る。これ以上君に付き合ってはいられない」

 

 言い終わる前に突進をかけたクロリンデさんの動きは、思わぬ妨害者によって足を止めることになる。

 闘技場の外から壁を登って侵入してきた箱型の猫。それが人型にドロンと変わってこちらに小箱を投げつけて来たのだ。

 

「──高評価、お願いしますっ!!」

「ッ!?」

 

 銃声が二つ。それは寸分違わず小箱に直撃し、勢いよく弾けた。

 眩い光がゆっくりと、俺の上へ伸ばした右手へと収まる。

 

「時間通りだ。星五をくれてやる」

 

 あぁ、右手から力が流れ込んでくる。長い時間神像にはめ込まれていたことが分かる神の目は、普段以上に力を溜め込んでいるようだった。

 

「神の目……!? 登録は」

「ちゃーんとしてある。少し使うのが遅れただけでな」

 

 実況者は慌てふためいているが、ルール違反のペナルティが来ないのがその証拠だ。

 神の目をベルトに取り付け、鞘から刀身をゆっくりと引き抜く。(はばき)から元素で作られた水が溢れ出し折れた部分から刃の形を創った。

 さて、第二ラウンドを始める前にやっとかないといけないことがあるよな。俺は騎士のように刀を掲げる。

 

「我が神の目。元素力を用いた技の全てを、眼差しを向けるただ一人に捧げる! 我が研鑽、我が技巧! とくとご照覧あれッ!」

 

 この位置からは彼女の姿は見えないが、しっかりと視線を感じる。

 悪いなフリーナ。こればっかりは俺の無茶を通させてもらう。よく目に焼き付けておけ。お前が教えを乞うた相手が俺で間違いじゃなかったと証明してやる。

 

「クロリンデ。まだ俺の目は濁ったままかい」

「……いや、この上なく透明だ。危ういほどにな」

 

 剣を構えた先から雷が迸る。彼女も勝負を決めるつもりだな

 どちらともなく走り出し、互いに元素を乗せた刃を叩きつける。俺の水元素の刃が彼女の刃と拮抗し、感電反応を起こしながら火花のように辺りに飛び散った。

 斬る。突く。受ける。躱す。互いにそれの繰り返し、どんどん速度を上げていく。

 限界を越えて溜まった水元素力が溢れて神の目の周りを渦巻いている。今なら使える。神の目の使い方、その奥義とも呼べる元素爆発を

 クロリンデさんは本当に巧く斬ってくれた。袈裟に斬られたこの傷は俺の元素爆発の条件を完全に満たしている。死人一歩手前って所がな

 突きを弾き返して間合いを取る。俺が何をしようとしているのか分かったのだろう。クロリンデさんはすかさず銃を撃つが、銃弾が俺に届くことは無かった。三本の水の刃がそれらを斬り払う

 

「──元素爆発『鬼神演戯』ッ!」

 

 身体に入った大小様々な傷が一瞬で治り、それと同時に現れた人型が三体。俺を守るように囲む。

 これが俺の元素爆発。今まで喰らったダメージを全て覆し、その回復量を参照して分身を作り出す。今回は今まで溜まっていた元素力と合わせて過去最高の純度を誇っている。これなら彼女の防御も振り切って刃が届く

 

「これが……」

「これで正真正銘最後だ。付き合って貰うぜ」

 

 分身達とそれぞれ『無銘』の型をとる。これが俺の全て、俺の半生の証明であり修練の成果。元素爆発を使う相手があの日と同じく雷元素とは運命を感じてしまうね。もちろん皮肉だぞ

 さぁ、ここで勝負を決めよう。押し寄せる津波の如く、俺は分身達と共に最後の攻撃を仕掛けた

 

 




最速の五連撃=通常攻撃
力を込めた突き=重撃
刀に水元素を纏わせる=元素スキル、通常攻撃と重撃が水元素ダメージに変わる
元素爆発『鬼神演戯』 分身はそれぞれ、鬼、天狗、翁の仮面をつけたルドの移し身
体力が減れば減るほど、出せる分身の数が増えていく。最大三体まで、ルドの動きに合わせて水元素の通常攻撃と重撃を繰り出す。
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