俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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決闘者の章・第二幕

 

 

 1.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ(仮称)

 

「強さの基本は体力から! ということで走りに行くぞフリーナ!」

「わあぁ!な、なになに! 何事だ!?」

 

 呼び鈴、ノック、呼びかけ。俺の持てる技術の全てをフリーナの部屋のドアに叩き込む。人の人生は余りにも短い。故に朝の時間すら無駄には出来ないのだ。

 どたどたと慌ただしい音が響いて玄関のドアが開く。隙間からひょこっと小柄な少女が顔を出した。なんだその寝癖は! 愛嬌があっていいと思う。

 

「……君ってやつは、レディーの起こし方も心得てないのか! こんな朝早くから何の用だい!」

「おはようフリーナ。昨日言ったろ、神の目の使い方を教えると。お前も真剣に教わると言った。師弟関係はここに結ばれたということだ。じゃあ走りに行こう!」

「言ったけど聞いてない!」

 

 ポコポコと叩かれながら、俺も鬼では無いのでフリーナの準備を待つことにする。二度寝するなよと釘を刺して待つこと数分。半袖Tシャツに着替えたフリーナが出てきた。

 

「……ほう」

「な、なんだよ、君が動きやすい服装に着替えろと言ったんじゃないか」

「いや、似合っていると思ってな。どこからどう見ても一般人って感じでいいね!」

「褒めているようでバカにしてるだろ!」

 

 似合っているのは本当だ。普段着飾った服装を好む彼女が見せるラフな格好。これには最高審判官様もにっこり。お日様さんさんである。

「少し……肌を見せすぎでは無いか?」あっはい。

 彼女に一枚羽織ってくるように伝えた。神託は絶対なのだ

 

 

 2.フォンテーヌ廷

 

 

 フリーナと二人でほっほっとフォンテーヌ廷を走る。早朝の空気は澄んでいて走っていると健康になっていく気がするぜ

 しかし、さすが普段劇団で活躍しているだけあってフリーナの体力は俺が思っているよりもあるようだ。最初はペースを合わせていたが、直ぐにそれも必要ないと判断していつものペースにした。それでも余裕そうに着いてくる。

 そしてムキになってペースを完全に無視した全力疾走も虚しく、今は俺の方が彼女のペースについていけずに死にかけていた

 

「カヒュー……ハヒュー……」

「君……大丈夫かい? ほら、お水だよ。むせちゃうからゆっくりと飲んでね」

「女神……?」

「残念、もう神様じゃないよ」

 

 倒れ伏した俺の隣に座ったフリーナに貰った水を飲んで息を整える。なるほど、これだけ体力があるなら神の目の使い方もそれを活かす形にするのがいいかもしれない。

 適当なベンチに座り直してそのことを伝えると彼女は不安そうな顔をした。

 

「それって体力を使い果たして君みたいにダウンしちゃうんじゃないか?」

「そうだな。使うなら体力を回復してくれる人と一緒にいるといい」

「……君、僕の交友関係を知っててそれを言っているのかい?」

「なははは」

 

 ポコポコと叩かれながらフリーナの神の目の使い方を考える。戦闘経験の無い彼女には頼れる仲間が必要不可欠だ。しかし友達を作るのは中々に難しい、俺も稲妻にいた頃は髪の色とか目の色で苦労したものだ。

 俺を叩くのも飽きたのだろう。ふと思い出したようにフリーナが聞く

 

「そういえば、君は神の目でどんな戦い方をしてたの?」

「…………」

「あっ! いや、言いたくないならいいんだ。せっかく帰ってきた神の目も持ち歩かないくらいだし、なにか理由があるんだろう? 」

「理由は大したことはない。こいつと同じだよ」

「それ、君がずっと差してる二本目の武器か。確か稲妻の武器で刀っていう」

 

 俺の腰には無鋒の剣とは別に、もう一本刀を差している。決闘では事前に登録した武器しか使ってはいけない為外しているが、それ以外では外したことの無い刀だ。

 鞘を外してフリーナの前で刀身を引き抜く。刀はさらに鋭利な得物で斬られたように半ばから折れていた

 

「これは俺の弱さの証明。井の中の蛙が雷に打たれた結果だ」

「……神の目を使わないのは、その刀が折れたからなんだね」

「そうだな。あの頃の俺は傲慢かつ無鉄砲で、神の目さえあればなんでも出来ると思い込んでたのさ」

「無鉄砲は今もじゃないか?」

「おい……」

 

 刀を鞘に収めて立ち上がる。フリーナの基本能力を知れたのはいい収穫だった。しかも成長の余地ありと見た。ポテンシャルやべーな

 座ったままのフリーナに手を貸して引き上げる。だいぶ走ったので腹が減ってきた

 

「さて、朝のトレーニングはこれにて終了! 帰って朝飯にしよーぜ」

「はーい。たまにはこうして早起きして身体を動かすのも良いものだね」

「だろう? いつもの店でいいよな。最近は美味いモーニングもでたんだ。すぐ行こうさぁ行こう」

「わわ、ちょっと引っ張らないでよ!」

 

 フリーナの手を引いてガンガン進んでいく。うおォン俺はまるで人間巡水船だ

「君が気にすることでは無いかもしれないが、彼女の汗が冷えて風邪をひいたらどうするつもりだ?」あっはい

 やっぱり帰って着替えてからにしよう。神託は絶対なのだ

 

 

 3.フォンテーヌ廷 庶民の味方なレストラン『湖の光』

 

 

「ルドちゃん。いつも贔屓にしてくれてありがとね! フリーナ様もいつもご愛顧ありがとうございます」

「ルドー! 今日のモーニングね、私も作るの! 楽しみにしててね」

「どもども〜。お、今日はアンナも手伝うのか。頑張れよ」

「こほん。僕を満足させる素晴らしい料理を楽しみにしているよ」

 

 一旦帰って着替えた後、合流して店に入る。このレストランはリーズナブルかつ高クオリティな味をオールウェイズ提供してくれるのだ。極めつけに材料のテイクアウトも出来ちゃうトンデモな食事処である。仲良くなった家族経営の店員さんの暖かな接客と、こじんまりとした雰囲気が稲妻のワビサビを彷彿とさせて俺のお気に入りだ

 フリーナも最初連れていった時は不満げだったが、一度味を知ってしまうともう虜である。メシの顔しやがってよォ

 

「さて、とりあえず方向性を決めておこうぜ」

 

 料理を待つ間、フリーナと一緒に元素スキルのイメージを固めていく。神の目を封印した男が神だった人間にその使い方を教える……。なんか改めて考えると変な感じだ。

 

「おすすめは傷を癒したりできる回復系だな。水元素はそういうのにも適してるし、何よりお前が戦う必要が無くなる」

「癒しの力か……神だった時にどれほどその手の力を望んだかわからないくらいだ。でも、戦いを他の人に任せてたらいつまで経っても守られるだけじゃないか」

「でもお前、武器とか振ったことないだろ。今から素振りとか強くなるまで何年かかるやらだぞ」

「むむ……。なら、いっそ仲間を作っちゃうのは?」

「おぉ、それもありだな。純水精霊は動物の形の眷属を作ると聞くし、似たような事は俺もしたことがある。だが……」

 

 ずきり、と少しだけ心が傷んだ。過去の記憶が! 消え去れィ!

 フリーナは俺のような馬鹿では無い。きっと上手い使い方を考えるだろう

 俺はニヤリと笑って彼女を肯定する。次は作りたい生物を強くイメージしないとな

 そこまで話したところで料理が配られる。今日のモーニングはふわふわのパンケーキとコーヒーのセットだ。フリーナは甘いものが好きなようだし今日の朝飯は刺さることだろう。勿論彼女のコーヒーは砂糖とミルクたっぷりのカフェオレになっている。客の好みを完璧に把握している……やるな

 美味しい食事に落ち着く空間。そして他愛のない話を出来る友人。幸福度がガンガン上がっていく。稲妻を出てこれまでフォンテーヌで生活してきたが、最近の俺はどうだ。こんなに幸せで良いのだろうか

 

 どうやらダメらしい。店の扉が勢いよく開かれ、クロックワーク・マシナリーがなだれ込む。何事!?

 

「レストラン『湖の光』オーナーシェフに逮捕状が出ている! 抵抗はやめて投降しろ!」

 

 ……は?

 フリーナを守るように前に出たものの、予想外のご指名に俺の身体が固まる。

 直ぐに何が何だかわからないといった表情の店主。おやっさんが拘束されて警備隊長らしき男に罪状を宣言された。

 

「三日前から行方不明になっていた食品開発メーカーで働く従業員が遺体で発見された。その時社内で開発中だった社外秘のトマトソースのレシピを、お前の店で全く同じ味で提供されているとの情報が入った。つまり、お前には殺人容疑と、レシピの盗難容疑がかかっている」

「な、何を証拠に!? あれは私達家族で開発したレシピだ! 似ているにしたって……」

「隊長! こちらを……」

 

 あれよあれよという間に店のキッチンから紙の束を持って部下らしき男がやってくる。それは確かにトマトソースのレシピのようだった。ご丁寧に血痕らしきものまで着いている。

 おやっさんの顔が青ざめる……あれは何も知らない顔だな

 緊張の走る店内、おやっさんがそんなことをする訳がないとは他の客も思っただろう。しかし、こうして証拠が出た以上見ていることしかできない。客の目線が、店の雰囲気がおやっさんを犯罪者にする空気に変わっていく

 

「どうやら、動かぬ証拠が見つかったようですな」

「社長!」

 

 誰だ。社長と言うなら食品開発メーカーの社長か

 下卑た笑みを浮かべ、いかにも私腹を肥やしてきましたと言わんばかりの男が店内に入る。

 男は周りを見渡し、俺の真後ろ。フリーナを見つけるとその笑みを一層深め、恭しく礼をする。

 

「フリーナ様。貴女様の前でこのように残酷な殺人事件の逮捕劇をお見せしてしまい申し訳ない。見ての通り犯人は捕まえました故、今後は私共のグループが経営するレストランで、()()の料理をお召し上がり下さい」

「まだ彼は犯人ではないよ。それを決めるのは審判……そしてヌヴィレットだ。それまでは彼の事を犯人呼ばわりするものじゃない」

 

 少し社長の勢いが削がれる。フリーナがここまで堂々としているものとは思っていなかったのか?

 クロックワーク・マシナリーがおやっさんを連行していく。このまま直ぐに審判にかける気だろう。後を追いかけるおばちゃんとアンナに何やら社長が囁いているが、何だか出来すぎている流れだ……。俺は探偵じゃないが分かる。しかし、証拠がないからどうしたもんか。

 簡単だ。俺のやることは決まっている

 

「不当だな」

「……何?」

「その審判に異議を申し立てる。レストラン『湖の光』店主は何もしていない。彼の汚名、このルド=ウィークが決闘をもって晴らそう」

 

 剣を抜き放ち床に突き立てる。ここに決闘を宣言したことで今すぐの審判は無くなるはずだ。

 これでいいだろ? フリーナ

 振り向くとフリーナは何で!? という顔をしていた。あれー?

 

「宜しい、その決闘受けようじゃあないか」

「あの? 社長さん?」

「こちらの用意する決闘代理人は、クロリンデを指名させてもらう」

 

 …………。あぁ、フリーナが先にクロリンデさんを決闘代理人に雇う予定だったのね

 これは……詰みじゃな?

 

 

 4.フォンテーヌ廷 リヨンエリア 冒険者協会前

 

 

「ばかばかっ!ルドの馬鹿ー! どうして僕がかっこよく事件を解決するのを待たなかったんだ!」

「はー!? 俺があの時決闘申し込まなきゃおやっさんがすぐ審判にかけられちゃってただろうがッ!」

「だからってなんで立候補しちゃうんだ! 立候補した決闘代理人の相手は指名できるルールを君が知らないわけないだろ!」

「あのー、お二人共、喧嘩なら少し脇に逸れてやって頂けると……」

 

 おっといけない、こんなことをしている場合ではないのだ。決闘は二日後、審判はその後ということに決まった。俺達はそれまでに、おやっさんが犯人ではない証拠を見つけなくてはならないのだ。

 おばちゃん達の話を思い出すと、従業員が失踪した日はおやっさんが仕入れのために農園を訪問する日だったようだ。遺体が発見された場所と被る上、時間的にアリバイもない道中は確かに怪しく見えることだろう。

 社長は店主が居なくなったあとの店を買収し、アンナを自分の屋敷のメイドとして雇うつもりらしい。下心100%かよ馬鹿がよ。

 俺は飯の恩に報いる男。これは稲妻育ちとか関係なく人として報いるべき恩だ。おやっさんがやってないのは顔を見ればわかる。俺は人を見る目はあるからな。それはフリーナも分かってる。

 しっかし証拠がない! ということでやってきたのが冒険者協会である。これから名うての冒険者を雇っておやっさんの汚名を晴らすために協力してもらうのだ。

 

「ということでいい感じの冒険者居ませんか」

「うーんそうですね……情報がほとんど無い証拠を見つけられる冒険者となるとさすがに……」

「そこを何とか頼むよ〜! 僕の名前を大々的に使っていいから〜!」

「……おまえら、何やってるんだ?」

 

 何だこの甘ったるいマシュマロを焚き火でとろかしたようなプリティボイスは!?

 振り返ると、どうやって飛んでるのかわからんふわふわの妖精と

金髪の異邦人が呆れたような顔で立っていた。

 

 

 5.フォンテーヌ廷 リヨンエリア 冒険者協会前

 

 

「なるほどなー。つまりお前らは、行きつけのレストランの店主があらぬ疑いで審判にかけられるのを何とかして止めなきゃいけないんだな?」

「そうなんだ。でも、証拠がなくて、手かがりもないから冒険者を雇って探してもらおうと……」

「よし! そういうことなら協力してやるぜ! 美味しいご飯を作るやつに、悪いやつなんて居ないからな!」

 

 ふわふわ妖精さん(パイモンさんと言うらしい)はとても理解力が高く。俺達のかくかくしかじかで完璧に状況を把握してくれた。ありがてぇ

 とりあえず旅人さん達は従業員が消えたあたりを探索してくれるらしい。近くに中々入り組んだ秘境もあるようなので往復で三日はかかりそうとの事。俺達も手分けして情報を探そうと言うことになった。フリーナとのんびり神の目の使い方を考えるはずが、とんでもない事に巻き込まれてしまった。おのれ社長め、俺の幸せな時間の邪魔しやがって。絶対に罪を暴いて土下座させてやる……!

 仄暗い炎を腹に燃やして、俺も証拠集めに走るのだった。

 

 

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