俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ(仮称)
「お荷物です〜」という声が呼び鈴と共に響く。この声は最近仲良くなった狛荷屋の嬢ちゃんだな。こんな朝早くから荷物なんて頼んでいないが、このまま居留守しようもんなら扉の外からカリカリにゃーにゃーと延々鳴かれ続けることになる。近所迷惑だからやめて欲しい。
「おはようございますっ!ルドさんにお荷物ですよ〜」
にこにこと朝から眩しい笑顔だ。どもどもと言いつつ箱を確認。着払いなら受け取り拒否なのだが、どうも差出人が天領奉行と来た。
天領奉行。あの天領奉行である。何処だよと聞かれればあの稲妻である。つい最近鎖国令が解けていい感じになったと聞くがまさかこの国でこの名前を目にするとは
「あの〜……その〜、その箱、道中たくさんの元素生物が狙ってきてて、あっ!もちろん指一本触れさせてませんよ!でも一応中身を確認した方が……」
この猫ちゃん箱の中が気になって仕方がない様子。どうせ鎖国解除したからいつでも戻ってきていいのよ?みたいな文言と誠意のスライムゼリー(雷元素味)とかだろ。俺は確固たる意思を持って稲妻を出たのだ。今や生まれも生活も立派なフォンテーヌ人。部屋のベッドが落ち着かなくて布団を敷いていても、感謝も謝罪もすみませんで圧縮しようとも俺はフォンテーヌ人なのだ。今更心変わりはないと思って頂こう。
丁寧に梱包を剥がし、隣でワクワクしている配達員の
そこには青色に輝く宝石。あの日神像にはめ込まれたはずの我が水元素の神の目がこちらをじっと見つめていた。雷電将軍の無表情ピースサインの写真を添えて
「お、オァーーッ!?」
「にゃーー!?」
理解できない現実によって感情が爆発した時、人は叫ぶしかないのだ
2.フォンテーヌ廷 メゾン・ド・フォンテーヌ(仮称) 隣人部屋前
えらいことじゃとすっ飛んで行った綺良々を尻目に腰を抜かしたままだった俺は朝から騒いだ事で隣人に説教を食らっていた。いつもすみませんね
「全く。こんな平日の、それもこんな朝早くから大声を出すなんて、隣人の僕に対する挑戦なのかい?」
「それについては申し訳ねえ。でもなフリーナさんよ。これ見てみ?神の目よ」
ありがたい説教をよく通る声で話すのはお隣にお住まいのフリーナさん。こう見えてこの国、フォンテーヌの神である。いや、正確にはだった。
俺が毎日あくせく決闘している間に巷で噂の『予言の日』が訪れフォンテーヌを水に沈めた日を境に、フリーナ様は神としての力を使い果たし、人間と同じ時間を生きるようになったらしい。
俺も自分の家が浸水で何もかもぐしゃぐしゃになったショックで凹んでいたところに何故か傷心のフリーナが隣に越してきたのだ。しょぼくれ人間二人の誕生である。
その後稲妻式逆引越しそば(パスタ)をお届けに行ったらなんやかんやで仲良くなった。最近は神の目も貰ったようで毎日楽しそうだ。良かったね
「また君は変な買い物をしたのか、レプリカにしてはよく出来ているけど、僕の神の目に比べれば一目瞭然! 本物だねこれ……どこで盗んできたの?返しておいでよ」
「馬鹿! 俺のだよ! 目狩り令が始まった時に幕府に渡したのが帰ってきたんだ」
「メガリレー……あぁ、確か旅人が言っていた! なるほど、君もそれに巻き込まれていたのか」
旅人……。それはあれか、行く先々の国で問題に巻き込まれてはその尽くを解決していき、その見返りが人探しの情報のみという聖人じみた人間のことか。稲妻の問題を解決したのも、今回フォンテーヌの滅びを回避したのもその人の協力があってこそらしい。足を向けて寝られないぜ
「ふむ。そうだ! 君、神の目があるなら使い方を教えてよ。まだ神の目を貰ったばかりでどう使えば良いのか分からないんだ」
「ほう……この俺に神の目の使い方を聞くのか。その覚悟があるんだな?」
「っ! な、なんだよ。もちろん、教えてもらう以上真剣にやるし、お礼だって弾む……だめかな」
「ふっ、冗談だ。今日はちょうど決闘がある。元素力を用いた戦闘の真髄、お見せしようじゃないか」
「本当かい! ふふん、この僕が見に行くんだ。見応えのある決闘を頼むよ?」
任せろ任せろ。そうと決まれば朝飯だな。俺は部屋に戻って朝飯の用意をするついでに
鍵付きの小箱に神の目を放り込んだ。
3.フォンテーヌ 決闘闘技場 コロシアム中央
『続いての決闘はァ!我らが常勝不敗の決闘者! クロリンデとォ!』
『フォンテーヌ生まれ稲妻育ち、異国かぶれの決闘者! ルド=ウィークだァァァ!』
相も変わらずうるせー実況だな。あと異国かぶれ言うな。俺は今や身も心もフォンテーヌ人だっての
国が滅びかけようと神が消えようとフォンテーヌの娯楽は変わらず審判決闘審判だ。それはこの観客の多さに伺える。
だが今回彼らのお目当ては俺の前で静かに開始を待つクロリンデさんだろう。この人ただでさえ強いことで有名なのに最近神にさえ決闘を挑んだとして人気が天元突破しているのだ。
俺もここに来てから幾度となく彼女と決闘をしたが、戦績はお察しの通りである。
「へっへっへ、クロリンデさんよぉ……今日はいつまでそのすまし顔が続くか楽しみだな?」
俺は挑発した。今日のテイストはズバリ絵に描いたような小悪党だ。今日の決闘は誰がどう見ても俺の依頼人の方が悪いので心置き無く悪役になれる。
しかし俺の挑発を受けて初めてこちらを見たクロリンデさんは何やら意外そうな顔をした。何か顔についてる?
「……君、目付きというか、雰囲気が少し変わったな」
「え、そう? 具体的にどんな感じ?」
「あぁ、目の色の濁りが少し晴れたような気がしてな。メロピデ要塞の生活排水パイプの汚れ程度にはなったと思う」
「てめこら天然で俺の挑発を超えてんじゃねぇぞ」
流石の俺も怒髪天だ。しかもその言い方だと以前の俺は生活排水以下ということになる。いくら美人でも許せん!
俺は腰に差した無鋒の剣の柄を握る。戦闘態勢が整ったと見たのかクロリンデさんも何処からか剣を取り出した。
互いの雰囲気が変わったことを観客も感じ取り静寂が場を支配する。ひりつく空気の中、それを引き裂くように開始の声が響いた。
「しゃああ! お命頂戴ィ!」
開始と同時に前に飛び出し、鞘から引き抜いた剣をチェストォ!
大振りも大振りの攻撃。半身になるだけで避けられる。次いで放たれる脅威たっぷりの突きを躱された勢いそのままに転がり込むことで回避する。
足元というのは死角が多いものだ。特に、でっけぇもんぶら下げてる奴にはなぁ!
体勢を大きく落とした状態でクロリンデさんがいる方向に剣を振り抜くが、空を斬るのみだった。どこ行った?
「───上かッ!」
「せいっ!」
「ゲェー!?」
俺は上から降ってきたクロリンデさんに斬られる訳でもなく、雷元素を乗せた人間離れした速度で思い切り顔面を蹴り飛ばされ、地面を転がり壁にめり込んだ所で気絶した。無念……。
4.フォンテーヌ廷 庶民の味方なレストラン『湖の光』
「き、君! ぜんっぜんダメだったじゃないか!? というか神の目使ってないし!」
「うるせーな使ってただろクロリンデさんが。こんなレアリティ星三のモブ人間に教わるより、高レア強キャラのクロリンデさんの戦い見た方がヒントは得られるだろ」
「彼女は雷元素だし! やったことだって技も何も無い蹴りだっただろう! なにか凄い技が見れると思ったのに!」
お、いい所に気がついたな。俺は頼んだパスタを頬張りながらフリーナを褒めた。
実際適当に戦うだけなら元素を纏ってぶん殴れば解決するのだ。シンプルイズベスト。このパスタのソースのように、つまりトマトソースが最強ってことだよ
「訳わかんないよ……それに、なんで君クロリンデに対してだけはあんなに野蛮になるんだい?他の決闘代理人との試合だともっと鮮やかに戦うじゃないか」
「そりゃお前、美人にやられる小悪党ってのはゲヘヘでムフフが定石だろうが。まともにやり合ったって敵わないのは承知の上だし、俺の人を見る目は確かだからな。今回の依頼人もこんな性格だろうよ」
「ぐぬぬ、僕は君の応援をしてやったんだぞ。君の依頼人の応援じゃない……」
ふむ……なんだか悪いことをしてしまったな。まぁ食おうぜ。労働の後の飯は美味いからな。クロリンデさんも巧く蹴ってくれたおかげで怪我もしてないし……ていうかこのパスタうめーぞ。フリーナも食え食え
「むぐ……本当だ、 美味しい」
「話を戻すが、結論神の目の使い方なんて本人のイメージで変わるんだよ。水元素は特にその辺自由だ。自分でよく考えてそれを形にしたらいい」
「えぇ、さっきまでふざけてたのに急に真面目になるのやめてよ……でもそうか、僕は神の目を貰っても、まだ自分が何者なのか定まりきれてないのか……」
フリーナが深刻そうな顔をして黙々と食べる作業に入ってしまった。俺は彼女の神だった部分は知らんし興味もない。フォンテーヌを長いこと離れていた俺に彼女の苦労を推し量ろうなんておこがましいし、今の隣人としての彼女を見て仲良くなれると感じただけだ。
しかしフリーナにとって、神だった期間の500年は自己のイメージを構築するにあたって大きな壁になっているらしい。
俺は特別な人間じゃない。だが、友人の悩みを無視するほど腐ってもいない。彼女が俺に聞きたいというのなら真面目に協力するのも吝かじゃない
「ま、神の目を使いこなすための相談なら何時でものってやるよ。俺たち友達だからな!」
「友達……!そうだね、遠慮なく相談させてもらうよ」
「よし、それじゃあさっさと食って帰ろうぜ。俺達のアジト『メゾン・ド・フォンテーヌ』に!」
「それ言ってるの君だけだし、僕の名前勝手にもじるのをやめないか!」
嘘もつき続けたら本当になる。俺には見えるぞ。(仮称)の文字が外れるのを! 俺は輝かしい栄光を頭に描いて残りのパスタを頬張るのだった