(Vadym/stock.adobe.com)※画像はAIで生成されたイメージです

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先日、「さいたまスーパーアリーナ」で開催されたライブイベントの参加客が、同施設の最寄駅「さいたま新都心駅」に近接する「埼玉県小児医療センター」や「さいたま赤十字病院」に入り、院内のトイレやコンビニを利用。

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その様子を目撃した入院中の小児患者を持つ保護者が、ショッピングモールのような感覚で「病院」に侵入することは、入院患者の命に関わる行為だとX(旧Twitter)に投稿。大きな問題となった。

「さいたま赤十字病院」は救急医療、周産期医療、がん診療等の各分野で高度な医療を提供する地域の中核病院。

「埼玉県小児医療センター」は命に関わる重症患者らを対象とする病院であり、最も高度で専門的な救急医療が求められる患者にとって「最後のとりで」となる三次救急の急性期病院だ。

いずれの病院も、治療やお見舞い、業務などの正当な理由がなく、<感染症対策をせず院内に侵入した外部の人間>が持ち込んだウイルスや細菌に感染してしまうと、生死に関わる重大なリスクのある患者が多く入院している場所だ。

この件に関して、10代の多くを「埼玉県小児医療センター」の院内で過ごしたという蒼衣海子さんが、元小児病棟患者としての悲痛な訴えをX(旧Twitter)に投稿した。

「同時期に入院していた友だちと同室だった女の子は地下階から車で出て行った…そういう場所なんです」

<以下、蒼衣海子さんのXの投稿より抜粋>

「埼玉県立小児医療センターで育った者です(10代のほとんど)。あの病院には完全看護と最先端の治療が必要な子どもたちしかいません」

「軽い感染症ひとつが命取りになる子どもたちです。軽い気持ちで入らないで。一般人が入っていい場所じゃない」

「わたしがいたのは30年くらい前だけど、それでも一般人が入っていい場所じゃないのは確か。本当にやめて。移転前の岩槻(田んぼがある田舎)の頃ならともかく、今は(大勢の人が行き交う)都心部だから感染源が入る危険性が高い。面会や検査等で一般人とすれ違うエリアがある。リスクが高過ぎる」

「病棟では限られた面会時間内で遠方から親が来てくれた時にしか大人に甘えられない。夜になると寂しくなり、看護師のいるナースステーションに行く。普段口が達者でクソ生意気なわたしでも、看護師さんたちは決して追い払わない。そこで、一生話せない、歩けない車椅子の子を一緒に見ていた。そういう場所なんですよ」

「あの頃同じ病院に入院してた方からリプを頂いて嬉しかった。あの病院から生きて退院できた人が今も生きてくれていて、本当に本当に嬉しかった。そういう奇跡みたいな繋がりを見逃したくはないんだ。同級生だった友だちと、同室だった女の子は病院の地下階から車で出て行きました。そういう場所でした」

<蒼衣海子さんのXの投稿より抜粋>

入院患者の多くは、投薬等で「免疫が極端に低下した子どもたち」

蒼衣さんが小児患者として「埼玉県小児医療センター」に入院していたのは、同院がさいたま市岩槻区にあった頃のこと。

長年封印してきた当時の辛い記憶が蘇ると共に、今回の件をXに投稿した入院患者の保護者の方の心境が、元当事者として痛いほど理解できたという。

「あの親御さんは今回の件を目撃した際、私が長々とXに投稿したことが一瞬で頭の中を駆け巡ったと思います。あくまでも30年前の記憶ですが、個人差が極めて大きいものの、とくに内科病棟にいる子どもの多くは投薬で免疫機能が低下し、感染症のリスクが飛躍的に高くなっています。

私の場合、病態が最重度の時はナースステーション横の個室に入り、何かあればすぐスタッフが駆けつけてくれる環境でした。感染症対策のため、親とスタッフ以外は部屋に入れず、基本的に窓も開けられず、トイレもお風呂ももちろん禁止。排泄はベッド横の移動式トイレ、部屋の洗面台での歯磨きも出来ず、点滴は24時間つなぎっ放し、そもそも足で立つことを許されず、上体を起こしていることすら基本的に禁止で、起きていると看護師に叱られるような状態でした」(蒼衣海子さん)

感染症対策なしの部外者の侵入はNG!なぜ?

今回の投稿に対して、「たくさんの方が、『病院に入るな、そこは子どもたちの命がかかっている場所だ』と注意喚起して下さっていることに救われています。本当にありがとうございます」と、Xにポストしていた蒼衣さん。

「当時の私は、強力な薬を点滴と内服で大量に投与されて免疫機能が極端に下がっており、インフルエンザ等の感染症にかかれば命の危険がかなり高い状態でした。長期間の治療に耐え、少しずつ回復してくれば大部屋に移され、病棟内であれば行動も基本的に自由になります。でも、いつまた悪化するかわからない以上、油断は出来ません。

命の危険がある子どもたちが病棟内にたくさんいる限り、院内の感染症対策はもっとも病状の重い子に合わせて万全にしなければならないのです。これこそが外部から、しかも感染対策なしの一般の方に絶対に病院内に入って来てほしくない最大の理由なんです」(蒼衣海子さん)

「そこまでして生きたいの?」「バイキン扱いですかぁ?」

一方で、「そこまで治療して生きたいの?」「30年前からマスクマスク騒いでたんですか~?」「来る人みんなバイキン扱いですかぁ?」といった、投稿の意図を理解しようともせず、入院患者やその家族を冒涜するような声も寄せられたという。

「いろんな意見があることは理解しています。ただ、病院と無関係な人物が外部から入って来たらどうなるか?を考えてみてほしいんです。私の場合、病態が悪い時は車椅子に乗せられ、1階のレントゲン室に向かいました。レントゲン室といっても、CTスキャン、MRI、デキサーなど色々な機材があり、検査毎にそれぞれの部屋に行くため、いったん1階の病棟外に出て、外来やお見舞いなどで訪れる一般の人もいる廊下を通ります。

私が入院していた旧医療センターだと、この時に免疫機能が極端に落ちた私たち患者が一般の方とすれ違い、その人たちの呼気などを通して、外部からのウイルスや細菌に感染するリスクがありました。

現在の『埼玉県小児医療センター』は構造上、そういったことはないと思いますが、病院の入り口が2階にあり、一般の方がトイレ等の利用で2階にいる間に、外部から来たお見舞いの保護者の方や医療スタッフを介して、入院中の子どもたちに感染症を移してしまう、という可能性はあります。こういったことから、なぜ病院と無関係の人間が不用意に院内に侵入することがダメなのか?を理解してもらえるかと思います」(蒼衣海子さん)

伝えたかったのは…「病院内には不用意に立ち入らないで」ということ

今回の「埼玉県小児医療センター」や「さいたま赤十字病院」内に侵入した人物については、当該人物が特定のコンテンツのグッズを所持していたため、そのコンテンツやファンを批判したり、当該人物を特定しようとする動きもあった。

だが、「投稿の意図はそこではないんです」と、蒼衣さんは訴える。

「私自身も好きな作品があるオタクの1人です。自分の好きなコンテンツが非難されるのは不快だと思います。そもそも今回のケースはあくまでも、病院がどんな場所であるかを知らないという、『知識や情報の欠如』が問題だと思っています。

どの作品のファンであれ、どんなイベントの参加者であれ、小児病院や救急病院がどんな場所なのか?を知ることで、治療やお見舞いなどの本来の目的以外で病院には立ち入らない!ということを理解していただくことが、今回私が注意喚起の投稿をしたいちばんの目的です。どうかそこは誤解のないようにしていただきたいです」(蒼衣海子さん)

会場側と主催側は、「警備と注意喚起の強化」を

また、ネット上では病院側に「警備の強化」を求める声も多く見受けられた。

「警備の強化には当然お金がかかります。『埼玉県小児医療センター』は県立の病院です。研究費などには公費(税金)が、病院の経営には当然ながら患者の家族が支払う多額の治療費が使われています。イベントがある度にそんなことをしていたら、病院側の予算に膨大な負担がかかります。

イベント参加者による迷惑行為などについては、すでに会場側や主催側から注意喚起等がされているようですが、警備や注意喚起の強化などについては、集客で収益を得ている会場側や主催者側に責任があると思います。病院や患者家族の負担を増やすようなことは求めないでほしいです」と、蒼衣さん。

「今回の件に関して、不法侵入に当たるとか、場合によっては捜査や立件の対象になるといった論調も見受けられましたが、何の罪になるかと脅すのでなく、なぜ不用意に病院に侵入することがダメなのか?を広く知ってもらうことが重要なんです。

大事なのは、今現在、治療をがんばっている子どもたちや患者さんたちの命と安全を守るために必要なことは何なのか?をいちばんに考えていただくことです。そして、治療やお見舞い、業務上で必要な場合など以外の<病院に入る正当な理由がない>一般の方には、医療センターや近隣の病院に足を踏み入れないでくださるよう、切にお願いしたいです」(蒼衣海子さん)

実は全国の「大型施設」近隣でも起きている問題

大型施設に隣接する「病院」への不適切な侵入などについては、今回問題視されたライブイベントに限らず、スポーツイベント、飲食系イベントなどの開催時にも発生している。

また、こういった問題は「さいたまスーパーアリーナ」だけでなく、「東京ビッグサイト」や「京セラドーム大阪」などの近隣でも起きているという。

実際、「スタジアムが近くにある病院、試合のたびに観客が駐車場を占拠したり病院に立ち入るようになったせいで、試合日は警備員さんが全員に病院に用がある人かどうか入り口で確認しないといけなくなったんですよ」といった声も寄せられた。

なお、「さいたまスーパーアリーナ」ではイベント当日の女性トイレの混雑について、「時間に余裕をもって行動するように」という注意喚起のメッセージを公式サイトに掲載。

また、イベント参加の際の食事、休憩などについては、隣接する商業エリア「けやきひろば」の利用を推奨している。

患者家族がどんな心境で病院に向かうかを察して…

<以下、元小児患者やその保護者からの共感のコメントの数々>

「ワイもここ入院したことあるけど、面会は親しか入れなくて兄弟と会えなかったの辛かったなぁ」

「今、息子が定期通院しています。自分も子どもも体調に異変を感じたら予約を振り替えたりしてなんとか病院に(感染源を)持ち込まないようにしてます。岩槻の頃も、新都心になってからも、埼玉の子どもたちの砦、ですね」

「孫も新生児で発熱し数ヶ月お世話になった。見舞いに行く親がどんな心境で病院の入口へ向かうのか察してほしい。ライブ前の浮かれポンチが近寄っていい場所じゃねえ」

「子が3ヶ月くらい入院してたけど、病棟でインフル出たらどうなったかって?蜂の巣つついたみたいになって、入院中の子は全面的に病棟内ベッド移動を余儀なくされてた。命取りなんですよほんとに」

「うちの娘が一度入院したのここなんですよ。2日ほどの入院だったけど、あそこに通院してたりする子ってほんと、病症が重い子が多い。あそこのコンビニも利用したけど気軽に入ろうとは思わん場所やで…」

院内のコンビニやトイレ利用者の多くは疲弊した患者家族

「岩槻にあった時に通院したけど、入院病棟に関しては基本的には親だけしか入れないってレベルで当時から対策していたし、面会制限もかなり厳しかった。県内でも特に重度の子どもが入院しているんだよね…」

「ここのNICUは、新生児仮死で生まれた赤ちゃんが母親に抱っこされることなく救急車で行くような病院。コロナ禍では面会15分(親1名のみ)とかだったかな。買った服は着せられない、渡せるのは搾乳した母乳とお尻拭きとお守りのみ。そんな病院です」

「娘が現在進行形で行ってるが、病院内はそもそも健康チェック表(面会か通院か)を記入して入らないといけない。手前のセブンとトイレは必要ないが、病院に関わる人しか使ってるのを見たことがない。長時間診察で疲れてる親子がいっぱいいます。そもそもあの距離を病院まで移動してくるのはなぜ?コクーン(シティ)に行ってくれ!」

「なんでよりによって<救急車が出入りする規模の病院>にズカズカ入ってくの?病院の施設は<病院を利用する人間>のためのモンだ。新都心駅周りはトイレでも何でも借りたきゃ他にいくらでもあるだろ。どうしてもと言うならついでに脳ミソ診てもらえ。十割負担でな」

「小児医療センター系は!本当に!ウィルスを持ち込んではいけないところなので!マスクうんぬん関係なく一般人は入るなかれ(別の小児医療センターに通院している身分より)」

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)