君の名前は複数形
ベアトリクス……それ実質ヒヒイロカネだからな……分かってんのか……闇剣パで活躍しなかったらお前分かってんのか……
スキン再販まだかな
こういう時ウツロウミカガミは便利だ、囮としてだけではなく、もし敗北したらどうなるのか、のバッドエンドパターンを第三者視点で確認できるからな。
まるで巨峰の房のように大量の子蜘蛛がデコイへと覆い被さり、果てはその全てが爆発四散したのを安全圏から確認した俺は、未だ湧き続けるアーミレット・ガルガンチュラが俺に気付く前に謎の人影……なんというか久し振りのヘタレ要素をビンビンに感じさせる少女の導きに従い、突如現れた洞窟の中へと飛び込む。
へへへ、アーミレット・ガルガンチュラの成分結晶、合計120個……ごっつぁんです。斬れば斬るほど生産できるんだ、ボロ儲けだぜ。
「あほっ! あほーっ! はやくこいっていったのに! いしころひろいやめないし!」
「石ころの価値を決めるのは俺だからなぁ」
捨てる神あれば拾う神あり、って言うだろ? 無限インベントリがあるならそりゃ拾い尽くすよねっていう。
とはいえ同胞とはいえ自爆の衝撃を直撃で食らっても転がる程度の装甲だ。あのまま続けていればそのうち勇魚兎月は折れていただろう。
「ふ、ふんっ! ともかく、たすけたわたしにかんしゃなさい!」
口調とは裏腹に、一切の余裕を感じさせない切迫さと慣れによる熟練の動きで横にはけた岩を組み上げ、入り口を塞いで行く謎の少女。
ヘタレと言えば森人族を思い出すが、彼らに共通する特徴を目の前の謎NPCから見出すことはできない。となると、ヘタレ属性はキャラクター由来であって、別の種族なのか……?
いやそもそも……
「うぅ、いわつみのわざだけどんどんじょうずになっていく……ま、まぁいいわ! ついてきなさい!!」
こいつ、本当に人系種族か?
気を取り直した少女が妙に形の悪い通路の奥へと進んで行くのに空返事を返しつつ、彼女が積み上げていた岩の一つを何の気なしに掴んで……動かない。
やっぱり見た目だけ岩で中身スッカスカ、と言うわけでもないらしい。STR……いいや、今はまだ何も言うまい。
洞窟……と言うには少々整地されすぎな気がするし、トンネル、と言うには少々仕事が雑すぎる。
強いて言うなら天然洞窟の内側を紙やすりで削ったみたいな……中途半端に人の手が入った、みたいな違和感がある。
「だが少なくとも安全か」
上はビーム地獄、下は大戦争。外周以外に安全地帯は存在しないものと思っていたが……成る程、灯台下暗しって奴だな。ポーションを飲んで体力を回復、とりあえず即死はないと信じたい。
それはそれとして、だ。十中八九ユニークシナリオだよなこれ? 最近は素材集めやらなんやらで久し振りにユニーク引いた気がするなー。カッツォの奴に自慢してやろ、派手に。
とはいえこの洞窟自体が一つの隠しエリアであり、その奥にいる固定NPCと言う可能性も捨てきれない。それに仮にユニークシナリオだからと言って必ずしもNPCが味方とも限らない。
兎にも角にも進展が必要だ、フラグを立ててイベントを進めないことには何のクエスト、ユニークなのかも分からない。
表面上は安全圏に到達した安堵で脱力しているように見せつつ、心の内ではいつ奇襲が来ても対応できるように意識を研ぎ澄ます。
洞窟は思ったよりも深く続いているようで、薄暗い……つまり灯のない道をただまっすぐに進んで行く。
「やぁ、なんだ。助けてくれて感謝する……随分とけったいな立地の住まいだが、ここに住んで長いのか?」
「……まぁ、のうみつなじかんをここですごしてはいるわね」
戦場の騒音酷そうだもんね……
流石に大陸突っ切るほどの長さがあるわけでもなく、いつの間にか謎少女の先導の元、俺は広々とした空間へと辿り着いていた。
いいね、戦闘するには丁度いい広さだ。だが臨界速は使えないな、壁のシミになる。となると過剰伝達に機動力を任せて……おっといけない、イベントを進めよう。
「……で? わざわざ俺を助けたのは善意かい?」
「……も、もちろんたすけたおんはかえしてもらうわっ! わたしたちがここからだっしゅつするためのね!」
達? ……いや、今は問うまい。それよりも向こうさんがこっちに近づいてきた。脱出系シナリオ? まぁベターっちゃベターだが……うーん、様子見か。
「わたしはあなたをたすけた! つまりあなたもわたしをたすける! でしょ?」
「そだね」
薄暗い、あまりに薄暗い場所だ。朝陽がほんの少しだけ昇った早朝くらい薄暗い。だからこそ少女の姿も少々ぼんやりしている、妙な服装だ、一段ごとにカラーが違うダルマ落としみてーだな。
うーん? なんか既視感を感じるっつーか……ダメだ、喉の奥に詰まってる。
「……でもね、わたしはだれともしらないやつにせなかをあずけるきにはならないわ」
「ほう? この俺が信頼できないと?」
「みためがしんようできない」
クソがっ!! ど正論やめろ!!
とはいえ謎少女は俺の前まで歩いてくると、俺の右手を両手で包むように掴む。なんだなんだ、握手か? それにしちゃ妙な持ち方と言うか……
「だから……」
ほう? 成る程妙な持ち方の正体が分かったな。こやつめ、人の手をホットドッグかおにぎりでも持つように握ってたのか。それで? 口を大きく開けて……おや、狼とかライオンとは違う妙に発達した二つの犬歯。いや……牙。
「しんようできるようにするのよっ!!」
そこで違和感の全てが繋がる。導き出された答え、俺はそれを鑑みた上で……あえて噛みつかれる。
「………」
「………」
体力がわずかに減少。じわじわ、ピキリピキリと噛まれた右の手の甲からヒビが身体を這っていく。噛み付いたままの状態で謎少女の口の端が吊り上り、手の届く距離に近づいた事で謎少女の目がはっきりと見える。
爬虫類系の蛇眼がな……!!
「ふ、ふふふ……これであなたはわたしのいうことを……!」
「悪いな、抵抗だ」
パシィン! と右腕で爆ぜるようなエフェクト。見れば先程まで腕をひび割れさせながら侵蝕を進めていた「呪い」は、いつのまにか胴体の方から伸びていた傷跡のような模様によってその侵略領土を塗り替えられ、放逐されていた。
リュカオーンの刻傷は上位の呪い、刻まれた場所こそ胴体だがその範囲は首から下と腰から上。このゲームじゃ腕も胴体装備扱いだ、多分ナックル系武器との兼ね合いなんだろう……だがそんなことは瑣末なことだ。
「自己紹介がまだだったな、俺はサンラク……そして俺はお前の名前を知っている」
久し振り……いいや、お前達の生態的には違うのか。
二振りの傑剣への憧刃を構え、その名を看破する。
「初めましてだゴルドゥニーネ、お前の姉妹にゃ世話になったよ」
「サミーちゃん!!」
殺気。何もないはずの場所に揺らぎが生じ、正眼の鳥面が何かを捉えてその効果を発揮する。
そしてシステム的な反応を信じてバックステップをした直後、俺が立っていた場所に何か巨大な質量が叩きつけられた。
「爬虫類つながりってか……? カメレオンみたいな擬態しやがって」
シュロロロ……と特有の音を立てながら、虚空から現れた大蛇が俺を睨みつけながら二股に割れた舌を出す。
成る程、薄暗いバトルフィールドで擬態持ちのモンスター……厄介だ。それによりにもよってユニークモンスターだと……? まだEXシナリオを出してないんだぞ、負けイベ?
いや、真理書がないから確実なことは言えないが多分「無尽のゴルドゥニーネ」はあのゴルドゥニーネの事だ。となるとこっちは防衛戦で戦った黒ツチノコ……レプティカ? とかいうやつか? ワンチャンある?
「く……わたしのちからがはじかれるなんて……!」
「ずいぶんとまわりくどいことをしやがるじゃねーか……」
まさか呪いを付与するトラップイベント? だとしても意味がわからねぇ、こんな辺境っつーか魔境みたいなところに罠を張る意味が、だ。
成る程確かに、ティアプレーテンみたいなところにでかい罠を仕掛けたとしてもプレイヤーが殺到しかねない。だがこんな、辿り着く前に死にかねない場所で待ち構えたって実入りは少なかろうに。
「だが、覚悟はできてるんだろうな。 言っておくが……こちとら馬鹿でかい龍蛇相手だって撤退コマンドは選ばねぇ死に狂いだぜ?」
いいぜ、可能な限りユニークモンスターの情報を引きずり出し、あわよくば仕留めてやるよこの野郎。
だが行けるか? 流石にユニークモンスター相手にスキル縛るってのは無茶が過ぎるか? 外に誘導? バカ言え、大混戦にしたって程度がある。
シュルシュルととぐろを巻いて謎少女……否、ゴルドゥニーネを守るかのような大蛇。だがおそらく危険度は守られている奴の方が高い。となるとあの蛇はオプションパーツとして見るべきか。
本体よりも巨大なオプションパーツ敵はそう珍しいものじゃない。蛇故のアドバンテージ、蛇故のディスアドバンテージ……そこを見切ればあまり広いとは言えないこのエリアでも立ち回れるだろう。
「て………」
「………て?」
なんだ? ゴルドゥニーネが何かを言おうとしている。魔法の詠唱か? 大蛇の巨体はシンプルな物理障壁だ、阻止できるか?
だが、ゴルドゥニーネの口から紡がれた言葉は、流石の俺をしても予想だにしないものだった。
「て……てうち、ということにしない……?」
「は」
まさかのドヘタレ宣言に一瞬脱力しかけた次の瞬間。
「───旧世代遺物反応確認。征服人形[エルマ=317]、睡眠状態解除、当機は再起動プロセス実行……異常確認、迅速な救助を要請する」
ものすごい勢いでこの洞窟の端から端までをカッ飛んでいった何かが壁に激突し……壁から生えた腿の半ばから両脚が欠損した尻がそんなことをほざいていた。
えぇ……?
言い忘れていましたがヘタレニーネちゃんはツインテールです。
ツインテールです。