Side12:敗色の血溜まり
活動報告でアンケート?を取ってます
遡ること一週間ほど前。
ヴィジランスのなんちゃって天文学ロールがファンブルを出したために広大な樹海の中で遭難したルストとモルドは幾度とない危機をなんとか乗り越え、そして────
「はいモルド、ポーション」
「これ人道的に最悪すぎる絵面じゃない……?」
ここ数日に限れば、無茶無謀を覆面の中にぎっしり詰め込んだ鳥頭以上に生と死の間をシャトルランするモルドが体力を回復させながらしんみりと呟く。
体力が完全に回復したところで肌色の悪い手がモルドの手を握る。すると回復したばかりのHPがゴリゴリと削られ始め、数秒もすれば瀕死の状態へと戻る。
「これ僕だけって二人ともズルくない?」
「ズルいもなにも俺はこっち側だしなぁ」
「……私はHPが低い、のでアイテムの無駄になる」
「くぅ……」
「あの、ご迷惑でした、か?」
「あ、いえお気になさらず」
びくり、と震えた言葉にモルドは慌てて否定の言葉を返す。
視線の先には元は森人族であったのだろう、元来のヘタレ気質以上に幸の薄そうな顔をした女性が申し訳なさそうにモルドの手を握っていた。
ここは新大陸のおよそ五分の一を占める大樹海の北方に位置する竜血鬼族の隠れ里。苔と、土の壁と、生命を謳歌する樹海の木々の中において枯れ果てているかのような漆黒の樹皮と捩じくれた枝を持つ大樹の根元に出来た逃亡者達の拠り所である。
事の発端はヴィジランスのなんちゃって天文学で遭難した後、その元凶の「なんか思考が引っ張られる感覚がする」という奇妙な発言によるものだった。
その時点で遭難中であったため、半目でヴィジランスを見ていた二人であったがどうも勘違いや気のせいなどではなくゲーム的なシステムとして「引っ張られる感覚」があるようで、明らかにやばい三つ首のティラノサウルスや、それを一蹴する赤い傷を持つ個体、その他にも三人で挑むには危険すぎるモンスターやそうでないモンスター……諸々を隠れてやり過ごし、木を登り穴を降り枝葉を掻き分け、そうしてたどり着いた場所がここであった。
あまりにも異質なねじれ黒樹、その根元に広がる粗末な集落……そこに住んでいたのは、「竜血鬼化」という共通点を持つ多種多様な種族達であった。
細身の身体に長い耳を持つ森人族に、ずんぐりむっくりな身体に金属の腕を持つ鉱人族、獣の特徴を持つ獣人族、珍しいところでは三メートルは背丈がある巨大な人……巨人種などすらも皆一様に色の悪い肌と異様に伸びた犬歯を備えていた。
当初は警戒されたルストとモルドであったが、同族たるヴィジランスの存在がその警戒を解いて今に至る。
「我々は、我々自身の……竜に穢れた血では喉を潤すことが出来ませんので……」
「え、じゃあ今まではどうやって……」
「この森は、生命に満ち溢れていますから……竜に穢されていない生き物を狩るか、もしくは……」
竜血鬼の森人族……メルティナーレと名乗った女性が指差した先、そこには牙を折られ、恐らく「輸血」の為に幾度となく腹を切り裂かれたのだろう、腹部周辺の毛が無くなり剥き出しになった皮膚にいくつもの傷が刻まれた猪と思しきなにかのモンスターが何体か、もっしゃもっしゃと山と積まれた苔を貪っていた。
「スロットルボアは食料さえあれば瀕死の怪我も自然治癒で回復しますから……とはいえ、竜に穢されていないものは貴重ですからあまり多くは」
竜血鬼達の想定以上に厳しい生活実情にモルドの頬が引き攣る。プレイヤーと異なり、死ねばそこまでのNPC達にとって血の供給はまさしく死活問題であり、かつての同族からすらも爪弾きにされた異端の者達はそれでも捻れた大樹の根元にしがみついて生きていた。
肌の色の悪さも、決して種族的な理由だけではないのだろう。
「皆、ノワルリンドにやられて……?」
「いえ、私はブロッケントリードに」
「俺はドゥーレッドハウルだ」
「僕は、ブライレイニェゴに……嗚呼、どうして一人で挑んだりなんか……」
メルティナーレの言葉が起爆剤となったのか、次々に己を竜血鬼へと変貌させた原因を挙げつらう声により、ただでさえ薄暗くジメジメした隠れ里がさらに湿気り始める。
「………辛気臭っ」
「ルスト、しーっ!」
半目でボソリと呟いた身も蓋もないルストの言葉は、幸か不幸か吹き抜けた風が枝葉を揺らしたことで竜血鬼達に届くことはなかった。
ネフィリムホロウを魂の故郷と定め、新天地への移住を控えるルストとモルドではあるが、何も他のゲームを経験していないわけではない。
不幸な境遇のNPCというものは腐るほど見ているし、シャンフロのリアリティから繰り出される迫真のうじうじっぷりはルストとモルドにある種の辟易とした感情をもたらしたわけだが、
「……なぁ二人とも、プレイヤーだったら竜血鬼にも抵抗ないよな?」
ここに一人、モロに共感と同情が直撃したプレイヤーがいた。
「……抵抗はないと思う、なんなら死ぬまで吸い尽くしても怒られない」
「トットリ・ザ・シマーネは森人族を連れて前線拠点に辿り着いた。なら俺達にも出来るんじゃないか?」
「えっ、それは……」
その提案は、プレイヤーとしてはともかく「旅狼」としてはあまりよろしくない提案ではないか、とモルドは内心で冷や汗を流す。
秋津茜を発端とする「天覇のジークヴルム討伐作戦」、それは要するにプレイヤーの大多数と真っ向から敵対することを意味する。
実際のところは大部分が様子見、状況によりどちらを攻めるかを決めかねていると仮定して、そこに竜血鬼……色竜による被害者達を連れて行ったならばどうなるか。
なるほど確かにありきたりな被害者、だがありきたりだからこそ確実に色竜へのヘイトは高まるだろう。
「……無謀は危険、聞いた話ではトットリ・なんちゃーらは入念な調査と万全を期した慎重さで森人族を導いたという。ので、衝動的な行動は私達のみならず竜血鬼達の全滅も招きかねない」
ルストはトットリ何某のことはその名前と功績を触り程度にしか聞いていない。即ち入念な調査云々は当てずっぽうの適当なフカシなのだが、説得力を帯び、確認の手段がないこの場においてヴィジランスを納得させるには十分な力を持っていた。
「成る程……確かにな。地図系アイテムをろくすっぽ持ってこなかったのを後悔する日が来るとはな……」
「こ、後悔先に立たずとも言うからね! うん! 準備に一ヶげ……痛い!」
「……少なくともアイテム系の充実は急務。ここでセーブするにしても、多少時間がかかるとしても準備は万全にすべき」
「一理あるな……だがいいのか? 俺の我儘みたいなもんだ、付き合わせちまって……」
「……構わない、ただ一つ条件がある。竜血鬼の情報はまだ発信しないでほしい……私も人並みにはユニークの独占に憧れている、ので」
「むしろ外部協力は必須な気がするが……気持ちは分からないでもねぇ」
頷いた両者、竜血鬼達に説明するヴィジランスを他所にモルドとルストは無言で肯き合う。
【旅狼】
モルド:と、いうわけでして……
モルド:どうすればいいかな
鉛筆騎士王:謀殺しよっか!
オイカッツォ:やっぱ秘密裏に処理がベターじゃない?
サンラク:大丈夫、"緋色の傷"君なら確実にヤってくれる
ルスト:どう考えても聞く相手を間違えた
いわゆる英雄願望、クール気取っててもNPCからチヤホヤされたいプレイヤーは多いのです