Side11:笑うフィクサー
◇
「……では、わざわざ我々を集めた理由を聞かせてもらえるかね?」
カフェ「蛇と林檎」新大陸支店。知る人ぞ知る味覚制限解除が適用される唯一のNPCカフェの支店に集まった六人の錚々たるプレイヤー。
クラン「ライブラリ」教授、キョージュ。
クラン「黒剣」団長、サイガ-100。
クラン「午後十時軍」代表カローシスUQ……は残業で欠席の為、代理として副代表寂斬。
クラン「SF-Zoo」園長、Animalia。
クラン「聖女ちゃん親衛隊」隊長、ジョゼット。
そしてクラン「旅狼」の頭にして大規模連盟の盟主アーサー・ペンシルゴン。その後ろには奇妙なデザインの兜を被り、全身鎧に身を包んだ巨漢が静かに立っている。
「そだね、本当は天ぷら騎士団辺りにも声をかけようと思ってたんだけどねぇ……あそこはちょっと敵対ルートだから」
「敵対される、ではなく敵対する、だろうに」
「あら分かっちゃう? 流石モモちゃん」
「……で? 何を企んでいる」
「まぁ待ちなよ、その前にちょっとばかし賄賂を、ね?」
付き合いが長いサイガ-100だからこそ分かる、にへらと浮かべた笑みはその殆どがロクでもないことを考えている時の顔であると。
その推測に答えを示すが如く、来たる祭りを待望する笑みを浮かべるペンシルゴンは堂々とこの場で買収作業を開始する。
「まずはアニマリアちゃんには……こんなスクショを」
「……ほう、ケットシー」
「あれ? もうちょっと面白反応を期待してたんだけどなぁ……というかアニマリアちゃんなんか雰囲気変わった?」
「ふふふ……リュカオーンに砕かれて以来、私はこの身を鍛え直したのよ。今の私はよりダイレクトに動物達と分かり合える……!」
なにやらおかしな方向に目覚めたらしいAnimaliaが拳をグッと握りしめるが、それはそれとして視線は一枚の画像……ドヤ顔で胸を張る長靴をはいた猫に釘付けられている。
「うちの鉄砲玉の情報なんだけど、ケットシーも国を作ってるらしいよ? 生憎私はこれ以上は知らないからサンラク君から吐かせる案件の一つなんだけど」
「良き情報ね……内容次第だけど、ウチは対価を惜しまないわ」
「それはなにより、では次に午後十時軍にはこんな情報は如何でしょう?」
にまり、と笑みを浮かべるペンシルゴンの視線を受け止めたのはスカルペイントが施されたフルフェイスの兜を被った騎士。
何か精神的ドロドロが身体から滲み出ているようにも錯覚するが、それは騎士系統暗黒騎士派生の最上位職業「黒忌士」のエフェクトによるものである。多分。
「ウチのカロさんが名誉の二徹に挑んでるから俺が代わりに来たが、ぶっちゃけ俺一人に決定権はねぇ、だから単なるメッセンジャーだぜ?」
「構わないよー……ふふ、ウチは「イムロン」ちゃんと協力関係を結んだ、とだけ伝えてくれればいいのサ」
「聖槌の? マジか……こりゃ会議が荒れそうだ」
プレイヤー鍛冶師とNPC鍛冶師最大の違いはやはりリアルという本来の世界が存在するか否かだ。
それはログイン周期に影響を及ぼすこともあれば、また別の方面からアプローチをかける事も出来る。
特に聖槌の所有者イムロンはソロ志向かつある種の職人気質である為、実質UMAなサンラク程ではないにせよ、捕捉の難しいプレイヤーだ。
だがその腕はムジョルニアを所有しているという一点で保障されており、トップクランとしてはどうにかして関係を持ちたい人材の最たるものである。
特にイムロン自身が「現役のOL」ということもあってか午後十時軍はイムロンへと度々勧誘を試みており、その架け橋を匂わせれば寂斬としてもペンシルゴンの話を聞かざるを得ない。
「次、ライブラリ。君達には私の秘蔵情報を提供したげる」
「ほう? まだ何か未知の情報を抱えている、と?」
キラリと目を好奇心で光らせたキョージュに対し、ペンシルゴンは頭に挿した花飾りに触れながら告げる。
「秘匿情報の玩具箱は私じゃなくてサンラク君の方だから………墓守のウェザエモン関連に続きがある、と言ったらどうする?」
「ライブラリは全面協力を約束しよう」
「話が早くて結構。あ、多分情報系だからユニークな武器とかは期待しないでね?」
「ただ一文だとしても、それは億万の財宝に匹敵するとも。それが考古学というものだ」
ライブラリ、午後十時軍、SF-Zoo、三つのクランの協力を確約した上でペンシルゴンは残る二人、ジョゼットとサイガ-100へと顔を向ける。
「モモちゃんにはこの私との友情に免じてボラン……あー待って待ってジョーク! ペンシルゴンジョークだから! 消しゴムで消すように忘れて! 退出ノー! 時代の波に乗り遅れていいのかー!」
「都合のいいことばかり言って……で? もう先に本題から話せ、それから決める」
「あー、その前に親衛隊! ぶっちゃけ常時レゾンデートルが満たされてる君らに何提示すればいいかさっぱりなのであとで相談でいい?」
「構わないわよー」
それでは、と改めて机にどかりと踏ん反り返ったペンシルゴンは五人のプレイヤー達へ、ひいてはその背後に控える数多の上位層のプレイヤー達へと己が悪巧みを明かす。
「天覇のジークヴルムを倒したい」
即ち、現在の主流派である笑みリア派への真っ向からの反逆。その誘いにそれぞれのクランの代表者達はリアクションに差はあれど皆一様に反応を示す。
「成る程、確かに天ぷら騎士団は呼べないわけだ。あそこはノワルリンド討伐派だからね」
「そうそう、戦力的には悪かないけどノワルリンドに直接蹂躙されたのがねぇ……仮にこっちに引き入れるとしても費用対効果が釣り合うかって言うと、ね」
キョージュの言葉にペンシルゴンは苦笑いで返す。そして午後十時軍の代表代理たる寂斬の方へと向くと、悪どい笑みを浮かべて語りかける。
「私、知ってるよぉ……午後十時軍内部でもユニークモンスターに挑みたいってプレイヤーは結構いるってさぁ……」
「ぐ、まぁ……確かにな」
「確かに色竜もユニークシナリオの一部ではあるけどさぁ……サブタゲだけで満足なのかなぁ……? 私だったらせっかくのゲームなんだし、ジークヴルムに挑んで派手散るも価値をもぎ取るもどっちも楽しいし挑まない理由はないと思うけどなぁ……?」
「く……上手いこと言いくるめやがる、噂に違わぬ詐欺師だ……」
「え、それどこ情報? 私ほど清楚で真摯な存在はいないと自負してるんだけど?」
「えぇ……」
笑みの深まったペンシルゴンに気圧されたのか寂斬はそれ以上なにか言うでもなく、種は撒いたとほくそ笑みながらペンシルゴンは次にサイガ-100とキョージュの方へと向き直る。
「共にクターニッドと戦った戦友諸君なら、ユニークモンスターを倒すことによる恩恵がどれ程のものかは分かってるんじゃあないかなー? クターニッドの妄想態を見るに、サブタゲ達成じゃ真理書が出ない可能性だってある。そこんとこ、どうかな?」
「我々としてはどちらでも構わない、と言いたいところだが……実際のところ、ライブラリとしてはジークヴルムの撃破、もしくは色竜の討伐どちらを達成したとしても真理書は出る、と考えている」
「ほ、ほーん?」
おもむろに立ち上がったキョージュはかつかつと靴を鳴らしながら店内を歩き始める。
「ワールドクエストだ、これまでの情報からユニークモンスターの討伐がワールドクエストの進行に関わっていた。だが今回はワールドクエストの条件そのものがユニークシナリオと融合している。であるならば推測できる仮説として、本来クターニッドは新大陸行きの際に必ずエンカウントするユニークモンスター、つまり奴こそが本来一番最初に倒されるはずのユニークモンスターであり……」
「あー、キョージュさん? 申し訳無いけど要点だけお願いできる?」
眉を浅く曲げたジョゼットの要請に目を丸くした見た目だけは可憐な少女であるキョージュは「いけないな、つい普段の癖が……」と頭を掻きながら要約を述べる。
「恐らくだが色竜を倒す、ジークヴルムを倒す、に関わらずワールドクエストは進行するし、恐らく真理書も配布されると考えている。ただ強いて言うなら……ワールドクエストの次段階がどちらを選んだかにより難易度もしくはストーリーが分岐する、と我々ライブラリは考えている」
とはいえ提示された褒賞を断る理由にはならないがね、と言葉を締めるとキョージュは着席する。
厄介な狸を処理できたことへの安堵を一切表面に漏らさず、ペンシルゴンはあくまでも不敵な笑みを浮かべ続ける。
「さ、お話を続けようか。祭りの準備は大切だからね」
別に身内に情報を隠してるのは主人公だけじゃない