Side8:星斬るスワロー
◇
銃弾が飛び交う。
レイドボス:ユラが握る二丁のリボルバーが轟音と共に火を噴き、推進を得た鉄礫が明確な殺意を帯びて相対者二人へと向かう。
「っしゃオラァ!!」
「ふんっ!!」
しかし、最強のプレイヤーに相対する二人もまたサンドバッグとして終わるようなタマではない。
「おおお! 二人とも弾斬りしたぞ!!」
「あそこから対応しちゃうかぁ」
「お前あれできる?」
「ヨーイドン、なら出来ん事もないけどなぁ……ディレイマシマシでぶっ放されたら、まぁ七割?」
「やっぱ新撰組所属だと弾斬りやりやすそうで時々羨ましくなるわ」
「まぁレイドボスさんは維新側でも余裕で弾斬りするけどな」
「レイドボスさんだもん」
真っ二つに裂かれた弾丸二発、計四つの割れ礫が長屋の壁に食い込んだのと同時に祭囃子:サンラクと俺達の勇者:当千が走り出す。
双方共に新撰組所属、故に銃への補正がない為に攻撃手段はその手に握る刀剣に収束する。
「天!」
「誅!」
サンラクによる下段から真上へと二閃、当千による大上段から真下へと叩きつける一閃。互いの一瞥で交わされた「死んでも恨みっこなし」の無言協定による、二人がかりの二択がユラへと提示される。
否、しかして否である。
握る両手に二丁の銃、そしてそれを操るは幕末最強のレイドボス。であれば無理を通して第三の選択肢を作り出す。
「リロード」
「「!?」」
両手が塞がった状態、であれば小指だけでウィンドウを操作し、二丁拳銃を真上へ放り投げるとほぼタイムラグ無しの連続で新たなリボルバー……全弾装填された二丁をその手に握る。
轟音が連鎖する。過剰な負荷を強いる連続の発砲が大気を揺らし、それぞれの顔面に殺意の尖兵が四発ずつ放たれる。
「あっ、死ん……」
「おいコラてめー死ぬ、なんてお下品ですわよ!?」
「あっ、天……」
「それでいい」
「どこがオッケーなのか全くわかんねぇなこれ?」
「ていうかあの連射を避けんのか……」
「だが祭囃子は頭から地面にイったし、俺達の勇者は腰をヤった……人数有利が一瞬で覆されやがった」
成る程、確かに京極の目にも状況は不利にしか見えない。片やサンラクは「自前転倒」なるよく分からない技能で自ら地面に顔面を叩きつける事で銃弾を回避し、片や当千は限界まで身体を逸らす事で銃弾を回避したが如何にフルダイブと言えどその無茶な逆海老反りはノーリスクとはいかないのだと表情からうかがえる。
しかし得てしてターン制バトルにおいてボスモンスターというものは複数回行動をするもので、レイドボスと渾名されたプレイヤーもまた同様に攻撃の手を止めない。
「リ・リロード?」
「チィ……ッ!」
「コラテラルか……!!」
撃ち尽くしたリボルバーを放棄、それと同時に上空に放り投げたリボルバー……そう、まだ弾の残った銃をキャッチし体勢を崩した二人へと突きつけ即発砲。
回避は不可能、弾斬りをするには体勢が不安定。安全圏から眺めている京極よりも素早く結論に辿り着いた二人が僅かに身動ぐ。
「おいおい、レイドボスさん相手に機動力を差し出すのは下策だろう」
「バーカ、二刀流使いのくせに腕一本差し出したお前の方がよっぽど悪手だぜ?」
「バランスよくいっとく?」
「「遠慮しときます」」
右に錆光、左にリボルバーを構えたユラが動く。狙うは左腿からダメージエフェクトを散らす当千。片膝をついた新撰組へと銃口が突きつけられ……しかして次の瞬間、何かを察知したのかユラはその場で跳躍すると身体を捻って背後へと錆光を振り抜く。
「が、にぃ……!?」
「でかした肉盾ェ!!」
「ぐばぁ!?」
単体による上空奇襲式天誅、談合を抜いた即興の連携に割り込んだ「銭鳴」の身体が腰から真っ二つに裂ける。しかしその上半身を食い破るようにイベント限定武器「鯰尾鰭」が飛び出し、左腕から力の抜けたサンラクが銭鳴の上半身を盾代わりにユラへと飛び込む。
「前、見える?」
「今こそ心眼開眼の時……!」
「いや刺さるの俺ェ!?」
「レッツゴー!」
覚悟を決めろと言わんばかりの突撃続行、京極はまたしてもサンラクが掌を返したのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「だぁあ世話の焼ける!!」
「サンキュー!!」
刺突の刃を身体をズラして避けた当千が太刀の峰を肉盾に押し当て、野球のスイングの要領で全力で押し込む。
サンラクはそれに抗う事なく後ろに倒れ込み、間一髪で首切りを回避する。
「あ、肉盾の首が飛んだわ」
「ちょっと、私の身体有効活用しすぎでは?」
「ハローもったいないお化け」
「勿体無いされる側じゃん私!!」
とはいえ上半身を串刺しにされた挙句首を飛ばされた「銭鳴」に思うところがあったのか、サンラクと当千は白々しく出てもいない涙を拭いながら吠える。
「許さねぇ! よくも銭鳴を!!」
「あぁ、奴の敵討ちだ!!」
サンラク達へとものすごい負の感情を向ける亡霊が追加されたが、奇襲をトチった本人にも非があるだろう。
少なくとも仮に、万に一つ、もしもレイドボスさんをキルできたとしても他二人の対処を怠ってる時点で甘えだ。
とはいえランキング的にはレイドボスさん天誅した時点で上位ランクイン確定だから賭けとしては悪くはない。そんな風に京極が知ったかぶっていると、隣から不穏な会話が聞こえた。
「いやー、逃げた先にレイドボスさんとか進退極まったからさ、ヤケクソで飛び込んだんだけど……まぁ無理だよねぇ」
「逃げた? 誰から?」
「え、そりゃ……」
瞬間、長屋の一つ、その壁が内側から砕け散る。
「一位に二位に祭囃子! 挑むにゃ不足ねぇなオイオイオイ!!」
「見つけましたよサンラクぅ!!」
「ゲェーッ! てめーら生きてたのかよ!!」
「吹雪狩:誠意大将軍」「狂犬:十文字大福」乱入、闇鍋にさらなる劇物が投入され、事態は混沌を極めていく。
筈だった。
「ちょっと本気出すね」
その一言は、誇張表現を抜いてなお死刑宣告であった。そして、その出現を最も近くで見ていた十文字大福が喜びと引き攣りの混じった笑みでその名を口にする。
「斬星竿……!!」
ずるり、と虚空から一振りの刀が抜き放たれる。
否、それを刀と呼んでいいのか。斬馬刀という、馬を切るための大太刀がある。だがそれは、その刀はそれよりもさらに長く、まるでそれは……
「斬星竿……マジかよ正月イベ報酬!?」
「巌流イベの一位報酬じゃん!!」
「え、なにあれ」
「レイドボスさんのガチ武器だ! 現存する百人斬りの物証だ……録画録画ぁ!!」
会話に出てきた単語から十中八九、モチーフは巌流島の決闘に登場する佐々木小次郎の「物干し竿」だろう。だがしかし、刀を振るのと竿を振るのでは何もかもが異なる。
むしろサイズが大きくなった分、隙も大きくなるのでは……そんな楽観的とも言える京極の考えは、一瞬で首を飛ばされた十文字大福の胴体を見た事で一瞬で霧散した。
「まーた狂犬が死んでおられるぞ」
「いや対応しようと動いただけでもすげーよ」
「何分持つかな」
「五分!」
「二分!」
「京極ちゃんは?」
「え、あー……三分?」
「カップ麺タイムか……安パイだな」
「だが王道とも言える」
京極は知る由もないが、ランキング報酬にはそれぞれ特殊な能力が備わっている。と言っても斬撃を飛ばす、などのファンタジックなものではなく、膂力の向上やスタミナの消費軽減などのプレイヤーのアシストが主な効果だ。
そしてユラが扱う「斬星竿」に備わった効果は空気抵抗軽減。シンプルなその効果は、本来その長さ故に大きな隙を晒す筈の立ち回りをユラの技能により極めて危険な災害へと変貌させる。
「やべ……っ」
「天誅」
「こなくそぁ!」
サンラクの左腕が宙を舞う、長いということはそれだけ先端には強い運動エネルギーが乗るということ。
錆光のようなクリティカルによる絶対切断はなくとも、振るった刃はアバターの腕をいとも容易く断ち切る。
「ちぃい……っ!」
「おいショーグン! 回復の時間稼げ!」
「無茶を言ってくれますね……!」
「いいよ、待ったげる」
「その隙が命取りですよ天誅ーッ!」
だらりと切っ先を地面につけた待機宣言、そこに勝機を見出した誠意大将軍が大上段に飛び込む。
だが彼は失念している。
「焦ったね吹雪狩」
「バカだなぁ、物干し竿とレイドボスさんだぜ?」
物干し竿に達人の使い手、であれば返しの刃は燕をも斬り落とす。
「お返し天誅」
「せ、せめて一太刀───!」
一文字に切り裂かれた誠意大将軍は最期の力を込めて大太刀を投擲する。それは使い手の怨念がこもる故か、死に体のアバターが放ったとは思えないほどの鋭さで空を切りながら標的へと批評する。
「っつぁぶねー!?」
「チィイッ!!」
「地布武鬼で弾かなければ即死だった……」
「おのれぇえ!!」
一進一退の緊迫感を返して欲しい、半目でそう呟いた京極の隣に怨霊が二体ほど追加された。
多少力が強くなったりタフネスになったとしても袋叩きにされるのが幕末