Side7:ものすごくうるさくて、ありえないほど平和(平時比較)
どうせなので幕末続行、こうなりゃとことんクソゲー書いていこうぜ!!
◇
ひゅー……どろどろどろ……
「おっ、君は京極ちゃん! 「唯一剣」と「針千本」にノリノリで喧嘩売った癖にもろとも爆殺された京極ちゃんじゃないか!」
「ウェーイ! ちとクサかったけどかっこよかったぜー!」
「一緒にブレイクダンスしましょうよ! 霊体だからめっちゃ回るわよ!」
「しかし食い物を食えないのがちと不便だな」
「あれ、知らねぇの? 無縁墓地エリアのお供えは霊体でも拾えるぞ、饅頭の幽霊とかいうよくわからんアイテムだけど普通に食える」
「いや、流石に墓地のお供え物は……あ、俺たち供えられる側か!」
「「「あっはっは……この饅頭カビてる!!」」」
うるさい、あまりにもうるさい。
怨霊として付きまとうのも飽きたためになんとなく亡霊達の集まりへと混ざってみた京極であったが、想像以上の騒がしさに思わず眉間にしわを寄せる。
亡霊という、お祓い以外では死なない……つまり天誅出来ない存在になったプレイヤー達は普段の笑みと暴力で形成された日常を一休みし、和気藹々と生存者達の駆け回りを眺めては盛り上がっていた。
「てかさ京極ちゃん、君「祭囃子」と知り合いなの?」
「祭……あぁ、サンラクか。知り合いと言えば、そうなのかな……一応別ゲーで知り合った縁でこのゲームを勧められて」
「このゲームを勧めるとは鬼か何かか……?」
「いや、適性を見抜いた結果だろう。京極ちゃんは幕末適性高めだし」
「キルされる瞬間の「絶対復讐してやる……!」って眼差しいいよね、ゾクゾクしちゃう」
「まぁ次来たら来たで袋叩きにするんだけどね!」
「尖ったプレイヤーは大抵ランカー狙いに成長するから……狂犬とか」
「あいつは今回一味違うぞ、毎回レイドボスさんの経験値タンクになってたところを今回隠れてやり過ごすことを覚えたからな」
「火を使うことを覚えた類人猿のごとき進歩ね……」
「おいおいパラダイムシフトかよ」
ワイワイガヤガヤ、と騒ぐプレイヤー達は普段出会い頭に脳天を叩き割り合うような関係とは思えないほどに朗らかだ。
その光景に京極は過疎ゲーゆえの身内感を感じつつも……何人か自身を手酷くキルしたプレイヤーを見つけ、胸の内に生じた暖かな感情を業火の如き憎悪にまで温度を上げる。
「よっす」
「あ、唯一剣さんちーっす」
「火薬庫利用は読んでたけどまさか既に制圧済みだったとは読めんかったわー、やっぱ火薬って人類の偉大な発明やね」
「団子の補給が足りなかったのが敗因だな、そもそもてめぇ一々団子屋で張ってんじゃねーよ!」
「そりゃ「針千本」の弾薬庫とか押さえるやろフツー」
そこにランカーが二人混ざれば騒々しさは更に増す、それが本来こんな段階で脱落するはずのない上位ランカーであれば尚更に、だ。
「あれなー、俺達「黄金鬼」のオークションに釣られて黙ってたけど結構前から樽動かして包囲網作られてたよ」
「せやよね! 明らかに無関係な長屋まで連鎖爆発してたし誘い込まれてたかぁ」
「ていうか黄金鬼イチト質屋流しってマジ? あれ見た目良いから欲しいんだよね」
イチト質屋、とはこのゲームにおける特殊な売却形態を指す。
辻斬・狂想曲:オンラインでは「質屋」はいわゆるアイテム倉庫に相当する。アイテムを預け、金を受け取ることで擬似的な倉庫として利用するシステムだが例外として一日十割、「一日中に十割返済しなければ金の所有権がプレイヤーに移る代わりにアイテムが没収される」という売却システムが存在する。
そしてイチト質屋で差し押さえられたアイテムは質屋に商品として並べられる。これを利用して「レア武器をイチト質屋で流すので言うこと聞いて」と交渉するテクニックがある。
プレイヤーが質屋にしまってある、即ちキルしたところで奪えないレア武器などが市場に流れる可能性を持つ。単純な実力で言えばランカーが参戦した時点でほぼ決着がつくのでマネーパワーを参照するオークションはランキング外のプレイヤーとしては都合がいい。
何より、質屋主催のオークションなので落札後即質に入れる事ができる。つまり金だけ支払って奪われるという事もない。
質屋を爆破することで預けられたアイテムを全開放することもできるが……それはそれで強いNPCが湧いて来たりするので色々制約がある。
「あれなんだよなー、いつだったか目立ちたがりのバカが「黄金鬼」使ってランカーに挑んだから四本中一本ロストしてんだよな」
「スイッチが入ったレイドボスさんが割り込んだのは割と事故だからしゃあないって結論出たやろー、タイマンじゃ無理やろあれ」
「ランキング報酬は実質美術品だと何度言えば……」
「おい! レイドボスさん付きの方から速達来たぞ! 向こうが動いた!!」
何!? とプレイヤー達が騒然となる。このゲームにおいて「レイドボス」と呼ばれるプレイヤーは基本的に何か目的を持って動くことは稀だ。気の向くままに街を歩き回り、朗らかに挨拶した次の瞬間にはその相手は死んでいる。
そんなレイドボスが明確な目的を持って動いた、既に幾人かがレイドボスの方面へと空を浮遊して向かい始めていた。
「やっぱ祭囃子を狙うのか?」
「いやどうだろう、レイドボスさんって好物は最後に残す派じゃん?」
「毎回私達の勇者が半殺し状態で最後まで残されるの、なんかロマンス感じない?」
「ああ、胸がキュンキュンするな……恐怖による萎縮で」
「好物云々って要するに捕食者と被捕食者の関係性だよね?」
「そ、速報! 「被下克上」と「あいつ(くいっ)」が天誅された! 「紅蓮寧土」が動いたぞ!」
何故か何もない空を指差しながら浮遊して来たプレイヤーの言葉に、辺り一帯が騒然となる。
二つ名を持つプレイヤーは手段の差はあれど皆実力者だ。京極は具体的にランカーがどんな称号で呼ばれ、どんなプレイスタイルであるかを把握しきってはいないが、それでも周囲の反応から状況が大きく動いたことを察する。
「今回のイベはやべぇな、リスポン禁止だから状況が一気に動きやがる」
「まぁあいつ(くいっ)は紅蓮寧土が生き残ってる限り王手状態だったからな……」
「やっぱ花火の火力ナーフすべきだって、毎回落下死してるよ俺?」
「本人登場かよ、それよりレイドボスさんが動いたぞ!!」
「優曇華の花が咲いたみたいな騒ぎだな」
「三千年に一度クラスとかレアケースが過ぎるだろそれ!」
死後の方がやかましい、しかも時々非常に高い知性を感じさせる会話が飛び交うのがなんとも言えないイラつきを誘発する。
何故だ、何故だろう。
京極は直感的に衝動を胸に抱いた、こいつら天誅してぇ……と。
(しかし流石に自分より学があるのがイラついたのでPKしました、というのはちょっと………あ)
そこで京極は気づく……否、悟る。
「あぁ、だから……そういうこと、なんだね」
アイテムが欲しいから、経験値効率、リハビリ、単純にムカついたから……誰しもが使命を帯びているわけじゃない、でも心という海から出て来たこの想いを抑えることはできない。
だからこそ、このゲームにおけるプレイヤー達の行動原理を理解したプレイヤー達は次のステージに進む。
即ち衝動を遂行するための精神的な納得、一人を五人で袋叩きにするとしても堂々と誇るために幕末プレイヤーは皆一様に同じ言葉を使う。
「天誅……!!」
その二文字は魔法の言葉、あらゆる行動を天由来であるからと許容する責任転嫁のマジックスペル・キーワードである。
ゲーム的に何か意味があるわけではない、特にステータスが上がるようなこともなければ振り下ろした刃や放たれた弾丸に補正が入るわけでもない。
だが何よりもそれらを操るプレイヤー本人の迷いが払拭される。モラルも、善意も、常識も、自分が定義する神かり超自然存在なり……全てひっくるめて「天」があらゆる所業を保証してくれる。
だからこそ幕末プレイヤーは皆、「天誅」の二文字を愛し、唱えるのだ。
「ほう、いい目をするようになったな……」
「歯車が噛み合いおった、あん子は強うなるで……」
「刀一本で縛るにしても最低限の他スタイルの確立をした方がいい、己を知る事が敵を知ることに繋がるからな」
「え、これランカーは何か言わないとダメなパターンです?」
「いや、俺は「唯一剣」と「あいつ(くいっ)」がいきなり強キャラ漫才始めたからノッただけ」
とりあえずいつかこいつらは仕留める、そう京極は強く決意した。もう迷わない、だって……
天がやれと言ったから。
幕末の法則に適応した怪物が産声をあげる一方で、地上では状況が大きく変動していた。
具体的に言うならば幕末総合ランキング一位、「レイドボス:ユラ」と幕末総合ランキング圏外、「祭囃子:サンラク」が対峙したのだ。
天誅とは即ち味方を後ろから刺そうが爆破しようがログインを狙って首を叩き落とそうが「天にやれって言われたから俺悪くない」としらばっくれる魔法の言葉
つまり幕末プレイヤーは皆、天という名の運命の被害者……!! 今日も元気に天誅天誅!