Side5:溶原性ドラゴン細胞
◇
「ていうかモルドするって何さ!?」
「正直分かる」
「ルストぉ!?」
どちらかと言えばやはりネフィリムホロウに注力しているルストとモルドの二人組ではあるが、やはりシャングリラ・フロンティアというゲームを完全に無視することはできなかった。
そして同じクランに所属するとあるプレイヤーがもたらした情報、それが実現する日に備えて二人はレベルキャップを解放する施設が存在する森人族の里に向かう……前にモルドのレベリングと単純な興味を解決するために森の中を進んでいた。
「……なにこれ」
「プレイヤー……なのかな?」
「お、ぉお……」
そこで中途半端に潰された蚊を思わせる死に体のプレイヤーを発見した。
「プレイヤー以外だと時間短いとか聞いてねぇよ……クソっ」
「……で、談合の末とは言えモルドの体力八割削った理由を聞きたい」
「ゲームだからいいけどナチュラルに僕を生贄にするのやめようねルスト」
その男、名をヴィジランスと言うらしい。放置するのも忍びないので助けたところ、その男からある程度のアイテムを融通することを条件に「モルドの体力を削る」という奇妙な申し出をされたのだ。
「あれは……まぁいいや、多分俺だけじゃないだろうしな。あれは種族「竜血鬼族」のパッシブ効果だ」
「種族……」
「竜血鬼族?」
「竜血鬼族は固有スキル「血分充填」で血液を持つモンスターから血……まぁダメージ換算なんだが、HPをゲインして「吸血ゲージ」を蓄積する種族だ」
吸血ゲージが多いほど自身のステータスが強化され続けるが、ゲージが五割を切った時点でステータスダウンが発生し、三割を切った時点でスリップダメージが発生する。
種族単位でハイリスクとハイリターンを突き詰めた種族ということだろうか、ととある世界で「緋翼連理」というピーキーの権化が如きネフィリムを操っていたルストは思う。
「まぁ俺、ソロだし……道中でモンスターを狩っていけば大丈夫だろと思ってたんだが……」
曰く、格上のモンスター相手ではスキル自体が高確率で失敗し、格下のモンスターではゲージの回復量がかろうじて一割という少なさ。
NPCはどうやら一般的なホラーのモラルを持っているらしく種族「竜血鬼」を怪物か何かと認識しているらしくロクにコミュニケーションが取れず、かろうじてプレイヤー相手に交渉してゲージを貯めなければ野垂れ死にの可能性が常時つきまとう……
「幸い、リスポンすればゲージは八割まで戻るが……」
「……非効率」
「割とソロ殺しの性能なんだよな……」
額に手を当ててため息をつくヴィジランスに、モルドがふと思いついた疑問を投げかける。
「というか、どうして種族が変わったんですか? 改宗って奴ですか?」
未だ実例の少ない……具体的に言えば獣人族の里にまで到達した僅かなプレイヤーのみがその存在を実体験したのみである「改宗」システムであるが、なんの偶然かルストとモルドはその実例と同じクランに所属している。
故にこその質問であったが、ヴィジランスは相変わらず色の悪い顔で首を横に振る。
「いいや……原因は割れてる、ノワルリンドだ」
「……む」
「んぇ」
ある意味ではその名に関する大きな渦の中に飛び込みかけている二人の奇妙な反応に首をかしげるヴィジランスであったが、黒竜の悪名が持つ知名度に反応したのかと納得すると話を続ける。
「あいつにキルされた後から、リスポンする度に変な状態異常が付与されてな……その都度回復してたが、最終的に種族が変わっちまった」
「それは……」
「状態異常名は「感染:フェーズ○」……フェーズ10で種族変更、まず間違いなく色竜はウィルス的な強制種族変更能力を持ってやがる」
モルドも、ルストも全く同じことを思っていた。
これどうあがいてもノワルリンドに味方するのは悪ルートだな、と。
それはそれとしてクラン「旅狼」の方針を馬鹿正直に告げる必要もなし、最近進化して極悪度が二倍以上に跳ね上がったらしい徘徊型エリアボスを回避して新たなエリアに夢を見るという点で目的が一致したルスト、モルドとヴィジランスは即興のパーティを結成して森を進んでいた。
「俺、チラッと例の三つ首ティラノサウルスを見てきたんだがよ、あれは頭おかしーわ、どう見ても序盤ボスとラスダンの番人くらいバランス変わってやがる」
「意外と知能が高くてハイリスクハイリターンを理解してるから厄介、って聞いたよ」
「……詳しいんだな?」
「え!? いや、その……」
「……知り合いが単独で突撃した」
「あぁ、どう見ても単独で倒せる性能してないがソロでも検証くらいはできるか……」
咄嗟に言い訳を繰り出しヴィジランスの追及から逃れるルスト、一人で突撃するような知り合いから齎された情報なので完全に間違いではないだろう。
とはいえまさか件のエリアボスのオプションパーツとして友情 (自称)を築いたアホが身内にいるとは口が裂けても言えない。ついでに言えばその犯人は「傷だらけ」を"緋色の傷"に進化させた原因の一人でもある。
なお根本的な元凶は今現在勇者としてかつき上げられているトットリ・ザ・シマーネであるがそれはまだ公にはなっていない。
「にしても、さっきからモンスターとエンカウントしないね」
「そりゃあ……事前に避けながら進んでるからな」
「え?」
「……モルド、隠密系の職業はモンスターの反応を察知できる」
「え、でも秋津茜とか……」
「あれは別枠」
このゲームにおける職業「忍者」は忍者に見せかけたNINJAの類である。一応習得スキルの傾向として本来の忍び、草としての役割を果たすことはできるが、メインで習得する忍術はファンタジックな忍術が多い。
そして秋津茜も例に漏れず、口からレーザーを吐き出すドラゴンブレスNINJAである。
「実のところを言えば、俺はこのバカ広い樹海の終点にたどり着いたことがある」
「………そうなの?」
「あぁ、つっても旧大陸のエリアと違って街とかがあるわけじゃない。恐らくエリアの中に街……いや、NPCの住む里とかが内包されている。旧大陸は点と線のあみだくじだったが、新大陸は円の中の点だ」
ヴィジランスのもったいぶった言い方……身も蓋もなく言うなら格好つけた言い回しに顔を見合わせた二人であったが、なんとなく言いたいことは理解したので指摘はしない。
「どんな場所だったの?」
「あー、砂漠だ」
「砂漠……」
ちら、とモルドとルストの視線が交わされる。未だ秘されている情報として何か大きな力が働いたとしか思えない幸運で樹海を突破した秋津茜が辿り着いた場所は「湿地帯」であったはずだ。少なくとも湿度的に砂漠と湿地を間違える事はないだろう。
「……分岐? 違う、多分違う景色の写真をくっつけたみたいな」
「何の話だ?」
「あっ、えーと、以前風の噂で次のエリアは火山だと聞いていたので!!」
「火山? 新大陸が樹海と砂漠の二色だけとは思っちゃねーが……まぁ、十中八九デマだろうな。情報のソースはちゃんと調べたほうがいいぜ?」
「あはは……ソデスネ」
少なくとも、今の段階で湿地帯に他のプレイヤーが到達するのは望ましくないだろう。
なんとか誤魔化し切ったモルドは乾いた笑みを浮かべつつ口を滑らせかけたルストに非難の視線を向ける。
「……で、方向は覚えてるの?」
「太陽と月は時間通りに決まった道を進むから偉い、そう思わないか?」
「まさかの天文学」
本日のシャンフロは曇天だったので迷った。
確率発症なので必ずしも竜血鬼化するわけではなく、短期間に死にまくったりすると発症確率は上がる