水晶に響く獣の咆哮
コンジャクションしたので更新です
どうやら「超越速」の行使は反動として膨大なリキャストタイムと発動秒数=空腹値減少、という結構深刻なデメリットが生じるらしい。
後者はどうでも良いように見えてNPC的には結構深刻なので、ケーキの他にグラタンやら何やらを幼女先生に貢いでいると。
「畜生……何が悲しくて筋肉ダルマの指導を受けながら筋肉ダルマの群れと戦わなくちゃならねーんだ……」
「ようロリコン、目が気持ち悪いから無理だってさ」
「マジかよ今日からフルフェイスヘルマーになります!」
詳しく聞いてみると、本当にフルフェイス型の頭装備しか装備しない「フルフェイスヘルマー」というクランがあるらしい。クッソどうでもいいわ、ていうか俺に勧めるな。
先程までのげんなりした様子は何処へやら、早速スクショの体勢に入ったサバイバアルを先生共々半目で眺めつつ俺は冷静に弾け飛んだ服を着替える。
「ああそうだサバイバアル、幼女先生は今とても空腹でいらっしゃる」
「マスター、この店で一番高額な料理を彼女に。代金は俺が持つ」
「畏まりました」
ブレない男だ、ガワは女だけど。ていうか男勝りな印象を抱かせる女アバターだが、声が致命的に野太いのがなんとも言えないミスマッチだ。
「まぁあのエセ魔法少女程じゃねーか……」
「しかし、軽く触っただけでも結構な性能してやがるな「仇討人」ジョブ」
「ハッ……二つ名持ちのモンスターと戦えるってのは、φ鯖の野人様的にはお気に召したかい?」
「最高だな……まぁ、よりにもよってトゥール付き添いで筋肉ダルマのトロールの群れと戦わされるのは結構萎えたけどよ」
俺の時はフレッシュミートなゴーレム「アイガイオ」がターゲットであったが、サバイバアルはどうやら一体一体の対処は容易いが群れな上に再生能力に秀でたトロール軍団「アタナトイ」と戦わされたらしい。
「ま、一発殴るだけで怯むなら魔豚よりもヌルいってな」
「ふーん……そういやお前、シャンフロでも素手縛りしてんのか?」
「いや? 素手っつーと修行僧のアレがあるが、面倒くせぇから戦士系列でやってるな。メインは拳だが一応斧系も使ってるぜ」
武器を使っても蛮族臭さが抜けないのかよ。もう少し現代人らしい慎みを持てよ慎みを、そう例えば俺みたいにな。
「あ、そうだサンラクおめー、新大陸でも早速やらかしたらしいじゃねーか」
「ゔ……事故だよ事故、偶然の産物だ」
「いやいや、あんな人前で堂々と決め台詞たぁ恐れ入ったぜ。宿業がなんだかんだと、あれお前が自分で考えたのか? くく、鳥肌もんだな?」
「……それ、仇討の宣誓で唱える言葉」
「───あぁ、まさに感動に打ち震えて鳥肌が止まらなかったぜ。素晴らしい、まさしく仇討人の心意気ってやつを見せてもらったぜ」
お前の手首、地面に付けたら穴掘れそうだな。
「お待たせいたしました、こちら新大陸より仕入れましたタイダルシーサーペントの中落ちで御座います」
そんな風に話していると、ドズンとカウンターテーブルを重厚な音で震撼させながら馬鹿でかい骨と肉の塊が置かれる。
「……分類的には海鮮なのこれ?」
「……美味しそう」
「あー……これおいくら?」
お値段を聞いたサバイバアルがにっこり笑顔で分割払いを希望したのと、赤身のくせに鰻みたいな食感だったのが印象に残った。
後で知ったが、幼女先生は空腹値を100%以上溜め込むことができる特技があるらしい。道理で十人前くらい軽く平らげるわけだ……いや待て、それってつまり空腹値100%以上になるから「超越速」の持続秒数も……
深く考えないようにした。
さて、経験を得たならば次は金だ。悲しいことにルルイアスの秘宝で得た莫大な資産はなんやかんやで枯渇しかけている。
まぁそれでも一億近い残金はあるわけだが……最低でも十億くらいは確保しておきたいわけで。
「いいねいいね、金のインフレはゲームの醍醐味だ」
というわけでやってきました水晶巣崖。相変わらずの過疎っぷりだ、と言っても「人気がない」ではなく「生還率0%」が過疎の原因なのがなんとも言えない乾いた笑いを誘う。
まぁ足の踏み場なく敷き詰められた地雷原みたいなもんだからな、爆発する前に駆け抜けるくらいしか攻略法がないのだから手に負えない。
とはいえ聞いた話では空を飛ぶ魔法なんかもあるらしいし、テイマー関連の研究が進めば安全な採掘も夢ではないのだろうか。
まぁ実のところ水晶群蠍の素材そのものは入手難易度はそこまで高くはない。生贄をおしくらまんじゅうして落ちたアイテムを次のウェーブが来る前に回収できるだけの足があれば安定した採取が可能だ……尤も、何度も検証した結果、尻尾だけは直接叩き斬らないと落ちないし最終的な結末は圧殺固定なので単純なステータス以上の覚悟が要求される。
とはいえ、今回はそんな逃げの一手は選ばない。今回の検証ではそれなりにタフネスな群れが望ましいからな。
「さて……」
実は水晶巣崖に踏み込むのは今日で二回目だ。前回の使用も含めて再使用するために一回死にかけないといけなかったからな……まぁ普通に採掘した後にラクロスを楽しんだよ。
「親しき仲にもなんとやら、さっきのお礼参りと行こうか……!」
聖杯、黒結晶、アイテム二つで魔法少女の完成だ。そしてさらにもう一つ、今回の検証に用いるアイテム……暴血赤依骸冠を携えて水晶広がる道なき道を進む。
「おっ、来たな?」
さっき踏み入って水晶群蠍の一匹に後ずさりされた時は友情の崩壊かとショックを受けたものだが、どうやらこいつら群れると格上相手でも突っ込んでくるようなのでやっぱり俺たちはマブダチだ。
水晶群蠍という単体でも準リュカオーン級とでも言うべきモンスターに、何故格上相手に結束する機能が積んであるのかは少々疑問だが……まだまだ稼がせてもらうぜ。
「えーと、被って発動キーの単語、と……アクティブだとしても思考発動にしてくれねーかなぁ」
対人を見据えると動きや言葉でバレるのは中々面倒臭いと感じてしまう今日この頃。フルダイブだと自前で身体を動かすわけだから噛む危険性もゼロじゃないし、やっぱ思考入力がナンバーワン!
まぁ誤作動ならぬ誤思考でフレンドリーファイアしてギスるのはご愛嬌だ。そして誤思考を言い訳に背中から刺すのもご愛嬌……でも流石に「誤思考天誅」は許されないと思う。
またけったいなイベントをやらかす幕末に想いを馳せていれば、出るわ出るわの蠍の群れ……ていうか見間違えじゃなければ鶴翼の陣みたいな動きしてない? え? 軍略インストール?
「上等」
言葉が通じなくたって分かり合える、だって俺達にはバベルの塔崩落以前から受け継がれる肉体言語という素晴らしい言語があるんだからなぁ!!
「血解!!」
かぽん、と被った真紅の頭蓋。その眼窩から突撃する蠍達の姿を見据え、そして「赤」の力を喚起するワードを高らかに唱える。
「んぐっ!?」
まるで頭が何かに締め付けられるような僅かな圧迫感。視界に赤色が混じり、水よりも粘ついたドロドロの何かがこめかみを伝い、下顎から滴り、全身へと這いずり回って……
「エロにせよグロにせよこれR-18なのではぁぁぁaaaaaaaa!?」
わぁすごい、なんか声に妙なエフェクトが。
水晶の波濤はもはや眼前。インベントリアがナーフされた以上、最早エスケープの望みは絶たれた……だが
「虐殺だ」
今の俺は……外付けの凶暴性で一味違うんだぜ?
・超越速
ティーアスをティーアスたらしめるシャンフロ内最強の加速スキル。
サーバー干渉することでティーアスが存在するエリア内の全Mobを減速させた上でティーアス自身を加速する。
その加速倍率は五倍、さらに減速倍率五倍なので実質二十五倍速の死神のフルスイングである。制作側の殺意が透けて見えるね!
通常の思考速度ではティーアスの挙動のみならず自身が減速されていることにすら気付くことはできないが、特定の思考加速手段を用いることで自覚すること自体は可能。
とはいえ自覚したところで身体はついていかないのでサンドバッグ以外の末路はないだろう。
代償、と言うよりも申し訳程度の制限として「ティーアス自身の空腹度」十割につき最大一秒間の使用時間という制限があり、さらに一度発動した場合次の発動まで「使用秒数の二乗」分のリキャストタイムが発生する。
なおそれとは別で搭載されているティーアス専用スキル「食い溜め」によってティーアスは本来の100%以上に空腹値を蓄積できる上に、最近ティーアスに貢ぎまくる奴らがいるためさらに手がつけられなくなった模様。