叡智は回顧し語る
みずぎいるざばくししました
ミュルグレス当たったけどイクサバ二本目凸りたい……ドヤ顔イクサバ二天一流剣豪したい……
色々と突っ込みどころ満載だが、なんかもう疲れ果てたのでログアウトしよう。
アリュールに「お願い」してこっそり作ってもらった簡易拠点からのそのそと這い出した俺は、身体が男に戻っているのを確認するといつも通り鳥頭に戻って軽く伸びをする。
「おっすエムル、いい朝だな」
「爽やかな声出してても何か色々間違ってる気がするですわ」
「何を今更」
しかしこのタイミングでアラバが地上に出てくるとは……やっぱり釣り上げたあれがフラグだったのか?
絶対外道共や変態は爆笑してるだろうな……だが結果オーライと言うべきか、あの場所からの離脱には成功した。したが……やはり女モードを公にしたのはマズったかもしれない、これはどちらにせよ世捨て人プレイを続行か……いや、待てよ?
「それどころじゃなくすれば割と何とかなるんじゃないか……?」
ウェザエモン関連で得た情報は一応奴に遠慮したりもしてたが、レイドモンスターは大前提として広く知られるべき情報だ。であればトットリとディープスローターを巻き込めば「貪る大赤依」という特ダネ爆弾である程度の注意逸らしも…………ダメだ、モチベーションがスリップダメージ的に削られていく、これはもう寝よう。
「エムル、ラビッツに戻ろう」
「はいなっ!」
さて、ラビッツに戻ったわけだが……
「なぁエムル」
「なんですわ?」
「我々はとても疲れているので貪る大赤依と戦ったこととかは後で報告でも良くね?」
「サンラクサン? 我儘は良くないですわ」
リアルタイム進行を今だけは恨むぜベイベー、仕方ない……行くか。
もはや居候と言ってもいいくらい馴染んだ兎御殿を進み、ヴァッシュがいるであろう場所へと向かう。最近気づいたが、どうもヴァッシュはこちらのヴォーパル魂の数値で出現するのでは疑惑がある。
素材集めやら何やらで効率重視だとほとんど出会うことがないが、逆に激戦を繰り広げた後だったり球技大会した後だったりすると割と見かける。
まぁそんなわけで予想通り煙管を……いや違うわ細長い人参をコリコリ食べていたヴァッシュを見つけた俺は、エムル共々立ち向かった「貪る大赤依」についての報告をするのだった。
「………と、まぁ俺もエムルも無事生き残りやしたんで、えぇ」
「サンラクサン、ヴォーパル魂がギュンギュン来てたですわ!」
「おぉ……そうかい、そうかい」
相変わらずファンタジーものの登場NPCとは思えない極道兎であるが、当のヴァッシュはといえば何かを思い出すかのように遠い目をして天井を見上げる。
「貪る大赤依……あぁ知っとるさぁ……懐かしい、そして忌々しい名だぁよう……」
いつ如何なる時も強キャラムーヴを切らさないヴァッシュであるが、一瞬ではあったが何かを悔いるような表情を浮かべる。だがそれを問うよりも早く、元の鷹揚な笑みを浮かべたヴァッシュは俺とエムルへと視線を戻す。
「ようやったなぁおめえら……ありゃあ始源の怪物……神代よりも更に前、この地に斃れた神の「血」ってやつよぅ……」
神の血……やはりあの地下で見た謎の棘は……
「大凡予想はついてるようだぁなぁ……そうよ、俺等ぁ達はよう、みぃんな大っきな死体の上で暮らしてるってわけよう」
「うええぇぇええ!?」
「はははエムル、問題なのは上じゃなくて下だぞ?」
「そういう意図は含んでないですわーっ!!」
ジョークだよジョーク。しかしヴァッシュの話を、これまで得た情報を、そして何よりユニークシナリオとは別口でこのゲームの根幹に食い込んでそうなレイ氏を思い返せば見えてくるものがある。
「旧大陸と新大陸……兄貴、つまりそういうことなんですかね」
「……そうだともよう。ここは黒き神、左方始源獣「エレボス」……その翼の先端ってぇわけだぁ」
翼……鳥類? あの下手な剣より硬そうな棘が生えた鳥? え、てかあれ棘じゃなくて……羽毛なの?
いや、それよりもやばいのはヴァッシュ曰く「死体」であるはずのエレボス君だが、俺の知る限りでは赤血球と……青いけど白血球? マクロファージ? 的なものが大絶賛活動中であるという事実だろう。
赤血球は物理的に黙らせたが、レイドモンスターなのでそれこそ復活は時間の問題であるし、奴らを放置するのが最善とも思えない。
「なんとなく、最悪の結末が見えたな……」
よりにもよってフルダイブの、それも不特定多数が共有する世界をぶっ壊すような真似をするのか……という楽観的な考えがないわけでもないが。だがそれでも断言できる、ユニークモンスターなんてものを実装するここの運営なら多分やる。
「天地 律、やはり狂人であったか……」
フェアクソとスペクリに関わってる時点でカタギの人間じゃねぇ、あれはクソゲーの神に選ばれたクソゲー宣教師とかそういう手合いなんだろう。
MMOでワールド崩壊はあかんでしょ……いや、だが実際のところ俺達の手で貪る大赤依が倒された以上、これも奴の狙い通りなのか?
「なんて奴だ……」
「あぁ、そうだサンラクよう」
「へい、なんでしょうか」
「おめえさん、貪る大赤依に所縁あるもの……得たんじゃあねぇかい?」
「……へえ、色々と不吉なんで使うかどうかは迷いどころですが」
少なくともエムルがいるところではデメリットの手綱が握れない以上使えないし、同様にプレイヤーが多い場所でも使えない。正気に戻ったらPNが真っ赤になってましたとか笑うに笑えない。
「それはよう……切り離された自意識のねぇ「空の器」ってやつよ。おめえさんが意思となる事でそいつぁその本質を行使する……そして、使う程にその力はおめぇさんに馴染んでいくって寸法だぁ」
「……つまり、積極的に使っていけと?」
「かっかっか! それこそおめぇさんの意思だろうがよう、あの犬っころが刻んだ「傷」がある限りおめえさんは最後の一線を踏み越えることがねぇ……」
成る程? つまりヴァッシュはこう言いたいわけだ。今の俺は刻傷の効果によって「改宗」が出来ない、「擬似改宗」も含まれるのかは検証の必要があるものの、今回ばかりはその制約がそのままデメリットを打ち消しているわけだ。
即ち「暴走判定を無視してメリットのみを受け取ることができる」今のうちに暴血赤依骸冠を使い熟していけ、と。
「となるとやはり水晶巣崖……」
いつもは球技大会の球扱いだが、今回はこちらが奴らをサンドバッグにしてやるってわけか……いいねいいね、やっぱり俺たちはマブダチだ!
「んで最後だが……おめえさん、一つ殻を破ったようだぁな?」
「殻……ええまぁ、はい」
レベルキャップの事だよな?
「だったらよう……エルクのとこに行ってきなぁ」
「エルクの?」
「エルクおねーちゃんの?」
「おうよ……今のおめえさんなら、エルクの「秘法」を見ることができるだろうよぅ」
秘法、秘法と来ましたか……相変わらず意味深 (正しい意味で)なことしか言わない兎だ。
とはいえフラグを建てられたなら成立させたくなるのが人のサガ、俺はエムルを伴って兎御殿内の剪定所へと向かうのだった……その後にはビィラックにも会いにいかないとならんしピンボールみたいだな。
「律」は外から内側へ干渉するパッシブな世界の概念、「法」は内側から外側へ主張するアクティブな生物の概念。別にりっちゃんは関係ないですが、シャングリラ・フロンティアというゲームでの世界観的には極めて重要な設定。
・左方始源獣エレボス
天を目指した魔王であり超銀河ペンギン、特技は自身のオンリーワンを証明するために他者を滅殺すること。赤血球やら白血球が勝手に動くので実質はたらく細胞といっても過言ではない……なお血小板ちゃんは柔らかくて可愛い、というか柔らかすぎ。
ちなみに例の棘の正体は超銀河級の枝毛、超銀河サイズのキューティクルがなかったので……
レベル上限がない、という単純ながらヤバすぎる特性ゆえに始源時代では最強の「個」であったが、総合値をレベルとする最強の「群」であった超銀河二足歩行亀と相討ちになり斃れた。
亀の名前? 聡明な決闘者ならもう分かっているでしょう