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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜  作者: 硬梨菜
龍よ、竜よ! われらが拓くは未知と真実
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アポイントメントの重要性

多勢に無勢だ、口を滑らせるにしても場所が悪すぎた。いよいよここまでかと腹を括っていたが……救いの手は予想外の場所から差し伸べられた。


「皆様、どうか私の話を聞いてはいただけませんか?」


この場のいる全員の耳に、するりと流れ込んでくるかのような声。それはいよいよ自殺リスポンによる逃亡という最終手段を行使するかどうかの瀬戸際にいた俺すらも動きを止めてしまうほどの不思議な力があった。

そしてその声を発した人物の歩みを何人たりとも塞ぐこと許さぬ、と言わんばかりに現れる統一装備の騎士達。


その中の一人が俺の事を一瞬ガン見してきたり、もう一人が俺の格好に一瞬肩を震わせたりもしていたが……まぁ、そういう事だ。


「私の名前はイリステラ……そこな方は、私の依頼を受けてくださった方なのです。ですのでどうか離しては頂けないでしょうか……」


「うむ、開拓者の諸君らに於いて如何なる因縁があるかを余は関知せぬが……その者は余の恩人であるが故、な」


「く、国家権力……」


「日頃の行い、かな?」


「でもサンラク君まだ天罰受けてないじゃん」


この品行方正の権化たる俺に向かってなんて事を、月の出ていない日は覚悟しておけよ。

とはいえ聖女と国王という権力的に言えば最高峰の二人が俺の肩を持った事で自然と俺の拘束も緩むというもの。羽交い締めから抜け出した俺は外道共にドヤ顔をかましながら聖女ちゃんに続きをどうぞと促す……あ、ヴェール被ってるから表情読み取ってもらえねーや。


それはそれとして展開は進む。貫禄のロールプレイ特化というべきか、一糸乱れぬ動きで整列した聖女ちゃん親衛隊……もとい聖盾輝士団に守られながら、大凡「外」というものが似つかわしくない儚さを湛えた聖女イリステラがすぅ、と息を吸い込む。


「……竜災が、近づいています」


りゅうさい? 竜の災害か?

ざわめくプレイヤー達を他所に、聖女ちゃんの言葉はなお続く。


赤い叫び(ドゥーレッドハウル)……白い狂愛(ブライレイニェゴ)……緑の老獪(ブロッケントリード)……そして黒い暴虐(ノワルリンド)が……来ます」


その六文字が聖女ちゃんの口から紡がれた瞬間、少し離れた場所で絶対零度の冷気……いや、怒気が撒き散らされた気がするが気にしないでおく。俺はにっこり笑顔のまま明らかに殺傷力に全振りしてそうなメイスに手を掛ける大工さんとか見てないです、はい。


「それに呼応する黄金……未曾有の災禍が、この新大陸に吹き荒れます……」


まぁ要するにユニークシナリオのおさらいか。所詮はNPCのイベントか……という雰囲気が漂い始めるが、俺は知っている。慈愛の聖女イリステラというNPCがそんななまっちょろいお知らせNPCなどではないという事を。


「団結しなければなりません」


あのNPCはどういう原理か、未来予知……いや、未来予報とでも言うべき言葉を持つ。であればこれは実質「宣託」「予言」と言ってもいい。


「三つ巴に争いし獣の人……青空に焦がれる鳥の人……赤竜に弾圧されし鉱の人……自由を愛する蜥蜴の人……黒竜に従属せし竜の人……竜に抗いし(おお)きな人……力を持てど争いを嫌う蟲の人……そして、その全てより拒まれし穢れし人も」


「あれ、魚人族(マーマーン)は?」


思わずポツリと呟いた言葉に、周囲の視線がこちらへと一気に集まる。しまった、またしても拘束されそうなお漏らしを……いや待てこれ確かライブラリに言ったぞ、つまり奴らにひっ被せれば逃げられる!


「まだ見ぬ人と、遠からず、されど近からぬ同胞とも、私達は結束しなければならない……竜災の後、この世界に吹き荒れる滅びに抗うためにも」


成る程、つまり聖女様は「こんなところでちんたら遊んでないでさっさと大陸攻略してユニークシナリオEXに備えろグズ共」と仰りたいわけだ。でもこれを直接指摘するとジョゼットに何されるか分からないのでやめておく。なんか単純にキルされる以上の怖さがあるんだよ……


「……おっと?」


周囲のプレイヤーの視線が聖女ちゃんへと集まっているな? そしてログアウトするには遅く、ログインするには早い早朝と言う絶妙な時間のためか、そこまで多くないこのプレイヤー数なら……行ける、逃げる!


「………」


注意深く周囲を確認する。外道二人は……聖女ちゃんに釘付けだ、ライブラリのエセ魔法少女は何やら考え込んでいる。黒剣の面々は……よし、行ける。


「………っ」


ここで力みを入れんとした身体が硬直する、それはこちらをじぃぃぃ……と見つめている視線に気づいたからであり、そしてそれがディープスローターであったからに他ならない。

こ、こいつ……聖女ちゃんには視線一つ送らずに俺をピンポイントで見て───!?


「………ふへへ」


「………!?」


あの野郎、自分の手で自分の目を隠すゼスチャーを……「見逃してあげるよぉ」とでも言いたいつもりか!? 何が狙いだ……分からない、フレンド登録した程度じゃ座標は割れない、そして俺は普段ラビッツを本拠地としている以上、向こうからすればここで俺を逃せば次にいつ確保できるかも分からない。


だからこそ外道共はせめて情報を置いていけ、と俺を捕獲するわけだ。じゃあせめて何らかのリターンを寄越せと言いたいところだが、つい最近まで特に何か入り用だった事がないからな……まぁいいや、逃げよ。


右手で目を隠して笑みに歪めた口から舌をんべぇ、と出し、小さく左手で手を振る変態に若干の警戒を残しつつ、腕を組む自然な動きで琥珀の手袋を心臓付近へと近づける。


「聖女ちゃ……様! その同胞とやらは一体どこにいるのでしょうか!」


三、二、一……


「いくつかの種は……この樹海の、何処かに───」


自由(フレ)に呼ばれたので部屋抜けますね^^」


「あっ逃げた!!」


くっ、やはり完全にはこちらへの警戒を解いていなかったか! だがもう遅い、既に黒雷を纏った俺は最速で樹海へと逃げさせてもらう!!


とはいえ樹海方面は先ほど俺を包囲した時にプレイヤーが結構な数集まっている、あと森人族が邪魔。であればここは多少距離が伸びるとはいえ、一度港側へ走ってから大きくUターンして森の中へと突っ込む!


「なにあれ(はや)……!?」


「くっ、サンラクのやつ相変わらず頭おかしい挙動を……!」


「黒くてカサカサ高速で動くとかまんまゴキブリだよねぇ」


ディープスローターあの野郎いつか絶対張り倒す! だがここは戦略的撤退一択、如何な妨害が立ちふさがろうともはやこの足が止まることは……!!









「おお友よ! 我が友サンラクよ! 思えばさほど過去のことでもないはずだが、随分と久しい心持ちだぞ!」


「おヒサしぶり」








アァ!?(想定外すぎる登場に身体が硬直)


ラァ!?(急に止まった反動で足首を挫き体勢を崩す)


「バババババババッッ!!?」


ローエンアンヴァ琥珀晶を用いることで作られるアクセサリーはいくつかの階級を持つ。

その中でも「(ハザード)」の階級は条件次第では最上級品質にすら匹敵、いやもはや凌駕する程の力を秘める反面、決して無視できないデメリットを抱えているのが特徴だ。


俺自身もよく勘違いしかけるが、「過剰伝達(オーバーフロー)」はデメリット側の効果だ。上手いこと扱えているからそう見えないだけで、アクセルを踏んだ瞬間に初速=最高速に達する車など欠陥品も甚だしい。公道はサーキットじゃねーんだぞ。


「ぐべぇ」


「サ、サンラクゥーッ!?」


要するに、だ。過剰伝達状態ですっ転んだことにより、吹っ飛びモーションを三倍速にしたかのような超高速で港から海にダイブした俺は、そのまま浮上することなく死亡したのだった…………お前マジで許さんからなアラバァ……

なお口が回る方の外道と口でするのもやぶさかではない変態の腹筋も破壊された模様

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― 新着の感想 ―
月のでてる日の方が君強いやんという突っ込みは野暮か
[良い点] からのご挨拶: メキシコ 「黒くてカサカサ高速で動くとかまんまゴキブリだよねぇ」 ははは, 彼は私を笑わせてくれました。 [一言] 良い章
[良い点] 安定の驚愕お笑いエンディングに、唯々、感謝します(笑)
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