二律背反の秘匿主義者
格下が格上に勝つ、古くより物語の定番として愛されて来たジャイアントキリングも、格下側が力量差を理解していないならば奇跡の実現はどだい無理と言うものだ。
速さと正確さが売りのようだが、生憎機動力とクリティカル命中率には自身があるんだ。
であるならば、あの時とは異なり背後も他の騎士も気にすることなくユリアン一人を殴ることができるのであるなら、チクチク急所を狙うだけの攻撃を避け、逆に斬り刻むのは容易い。
「おほほ、DPSが足りなくてよ」
「ぐ、ぉお……!!」
全身を刻まれ、地に倒れ臥すユリアン。レベルキャップを解放し、三桁スキルを獲得し、さらには補正まで受けた俺に勝つにはスペックが足りなかったな。
「さて、ここで息の根を止めるのは容易いが……」
それにしても仇討人のスキルで倒せばカルマ値は溜まらないのだろうか、いやしかしもし試して名前が赤く染まってしまったら色々面倒が起きそうだし……
「死ねぇ!」
「足癖が悪くてごめんあそばせ」
「ふげぁ!?」
ハイヒールの踵部分が地に臥せた状態から奇襲を仕掛けんとしたユリアンの額を打ち抜く。生憎だがハイヒール戦闘には慣れている、女キャラの装備って見た目重視するせいでハイヒールだったりスカートだったりと割と不便なこと多いからな……
「お、おのれぇえ……!」
俺の奢りだ、存分に土を味わうといい……はーっ! 人に土ペロを奢ってやるのは最高だぜ!!
とはいえどうしよう……人前に出てしまった手前、この状況からスタコラ逃げるのも締まらない。だが殺しはあまり選びたくない手段であるし、うーむ……
「話は聞かせてもらったよ、お嬢さん?」
「うわっ」
なんだこの気取ったイケメン、眼鏡かけろ眼鏡。そしたら岩巻さんが主食にしてくれるぞ……攻略的な意味で。
いきなり現れてやけに馴れ馴れしいが……直結厨か? 馬鹿め、こちらのリアルが男とも切らずに……くくく、愚か者の名前を拝んでやろうじゃないか。
PN:アーサー・ペンシルゴン
「ここは私に任せてもらおうか……サ・ン・ラ・ク・君?」
「ふぇえ……」
お前何耽美系のイケメンになってんだよぅ……秋津茜とかガチムチのおっさんだぞ……ぼくクターニッドくんのしゅみがわかんない……性的嗜好が深淵なのかぁ……
「な、何故ここに……フィフティシアに戻ったはずじゃ」
「んふふふふ……知ってるかいお嬢さん、船ってのは海を進むことが出来るのだよ」
何を言って……………まさか。
「ルルイアスからここまで船で来た、ってか?」
「ご明察、そりゃあもう大変な旅だったよ……? 食料が尽きたから飢えて死んで、蘇生してまた飢えて……」
なんだそのデスマーチ、素直に旧大陸側に帰れよ……なんで新大陸側に来たんだよ……
「って事はオイカッツォとかもいるのか?」
「勿論、そしてそれを踏まえて君に選択肢を提示しよう……第三騎士団々長ユリアン殿?」
明かされる第一王子がクーデター、という意味の分からない行動の真意。新大陸の亜人種を奴隷として扱う、というコンキスタドールじみた第一王子の企みに、プレイヤー達の意見はおおよそ前王……いや、本来の王トルヴァンテ側へと傾いていると言っていいだろう。
まぁどんな場所でも全ての意見が一つに統一されることなど滅多にないので、情報が広まれば新王側に付くプレイヤーも出てくるだろうが……それを差し引いても今この場をNPCだけで潜り抜けることは困難、つまりは王手だ。
何よりトットリ……ではなく奴が連れて来た森人族の存在、そしてルルイアスから新大陸までリスポンデスマーチでやって来たペンシルゴン達クターニッド攻略班、つまりクラン「黒剣」及び「ライブラリ」がトルヴァンテの肩を持つともなれば万に一つもユリアン達NPCに勝ち目はない。
「なんせどれだけ斬り伏せても復活するからな……」
無限湧きする廃人とかクソゲー極まりすぎだろ、"緋色の傷"君トレインするね……
まぁそれはそれとして、ユリアンも俺にボコられた事で実質的な捕虜状態となった第三騎士団。
彼らにとっては幸いというか、カルマ値を上げてまで第三騎士団を皆殺しにしようとするプレイヤーはいなかった。だからこそ、扱いに困る第三騎士団を悪魔がゲス顔で弄ぶのだが。
「───さぁ、最後の一人が死ぬまでこの樹海の主に突っ込んでもらうか、あの船でおうちにお帰りいただくか……聡明なる騎士団長殿はどちらを選ぶのかな?」
「げ、外道め……!」
知ってる。
その呟きは俺だけが呟いたわけではなかったらしい、見れば衛星系ネカマプロゲーマーが人混みの中で同様に遠い目をしていたのを発見した。
自分を見ている視線に気づいたのか、こちらへと顔を向け……そっと顔を逸らした。なんだよ、何他人のふりしてんだこの野郎。
「オイカッツォくぅーん?」
「摺り足で近づいてくんな怖いよ!」
「つれない事言うなよぉ……何他人のふりしてんだコラ、ん?」
「自分の格好を省みるといいよ……」
ん?
「可愛いだろ」
「朝日と絶望的にミスマッチしてるよバーカ」
海水浴するヴァンパイア的な? つっても大元の黒死の天霊だって時間帯関係なく出動するし。
「なんか君の周囲だけ辛気臭い」
「マイナスイオンを撒き散らす人間とかいたら怖いだろ」
「マイナスのオーラを出す奴なら今目の前に」
「……人生が受動態のくせに」
「ようし喧嘩だ! 今ならなんとタダで売っちゃうよ!」
「クーリングオフ(物理)だオラァ!」
「おーい、文系理系でアホな喧嘩はやめようねー。今一応真面目な場面だから」
我が返品拳の餌食にならなかった幸運に感謝するんだな……とはいえ、不平等な立場からの要求なんざロクなもんじゃない。樹海の主、つまり"緋色の傷"に特攻かますか、ペンシルゴン達が乗って来た帆船で旧大陸まで帰らされるか。あれこれどっちにしろ死……
「なんてひどいやつだ」
「まったくだ」
「本音を言うと?」
「装備全部剥いでから魚の餌で良くね? 大自然が証拠隠滅してくれるから大丈夫大丈夫、みんなで黙ってれば実質事故」
「リスポンするならレベリング用の無限サンドバッグとかにも出来たかもしれないけど……蘇生魔法とかでリサイクルできないかな?」
「貫禄のド畜生かな?」
オイカッツォはともかく俺は自然を思いやることが出来るネイチャーな人間性なんだけどなぁ……まぁ冗談はここまでとして。
「まぁサバイバル大航海を個人的にはオススメするよ、"緋色の傷"君に突撃するとか万に一つも勝ち目ないだろうし」
「あれ? 確かこの森のボスって「傷だらけ」ってやつじゃないの?」
「…………コトバノアヤダヨ」
「確保ォーっ!!」
「ぐえええ」
やめろォ! 体力1しかないから油断するとすぐ死ぬんだぞ俺は!
「例の件も含めてそろそろ一度抱えてる情報全部吐き出そっか? ね?」
「例の件…………どれだ?」
「複数候補がある時点でおかしいんだよなぁ……」
まぁ確かにいい加減一人で抱え込みすぎな面はあった。ラビッツはまだともかく、レイドボスとかに関してはむしろ公開すべきなんだろう。
だが、
「ロハで教えてもらおうって奴らがこの態度はどうなんだ? んんー?」
羽交い締めにされた状態で情報を出せってのは、ちょっとばかし仁義に反するんじゃないか?
なーんて、それっぽく言ってるが単純にマウント取られて情報を吐くのが悔しいだけだ。
「まぁいいや、吐くよ吐く吐く。で、何から知りたいんだ? この美少女サンラ子ちゃんがお答えしよう」
はい、全く面識のない関係なのに真っ先に手を挙げた勇気に敬意を表してそこのお前。
「あー、これまでにどんなレイドモンスターに会って来たんですかぁ?」
む、鋭いな……やはり新大陸に進出するくらいこのゲームをやり込んだプレイヤーは勘もいいのだろうか。いや、リ……リベンジス? だったかはあんまりって感じだったし……まぁいいや。
なんか口の動きに妙な違和感を感じるが……ラグかな?
「レイド……レイドかぁ……貪る大赤依に、狂える大群青……あー、今思えばあのバーニングブロッコリーもレイドモンスターだったのかな。なんか世界観的な性質がそれっぽいし……」
「───へぇ、それは興味深いねぇ……」
俺が指名したプレイヤーは口を閉じている、だがしかし声だけは虚空に響く……一発音ごとにその声質を酷く聞き覚えのあるものに戻しながら。
「き、貴様ディープスローター!?」
「詰めが甘いぜサンラクくぅん……」
まさかこいつ、後ろに隠れながら声音をコピーして……!?
「いや「馬鹿な!?」みたいな態度してるけど、普通に口滑らせただけだよねサンラク君?」
「はっ!?」
さて、ここからどう逃げるべきか。捕まったら半日くらい拘束されそうだな?
絵面だけなら完全に未亡人に迫るイケメンメガネの図
いかに美少女でも内面から滲み出る表情が隠れてるのがデカいですね……
なお鉛筆組のルルイアス攻略記はいつか書きたい(すぐとは言ってない)