その勇者、傀儡なれど花形につき
「さて……もはや前線拠点は目の前ではあるが、ここで本来の目的について作戦を練ろうか」
「本来の……? あ、あー、うん、覚えてる、覚えてるぞ。王様とお姫様の護衛な? うん」
忘れてたなこいつ……
「トットリだけに鳥頭ってか? いやむしろ普段の俺が鳥頭か、どうした笑えよディープスローター」
「………ははは」
こいつの化けの皮を剥がすのにはなかなか苦心するとばかり思っていたが、見ろよ奴の顔を。演技や振りであんな苦虫を噛み潰しながら暴行を受けた、DV夫に依存した妻みたいな笑みを浮かべられるかよ。
「と言っても最近のサンラクサンは結構いろんな頭になってるですわ?」
どうにかして初期装備で手に入る馬頭を入手できないかと最近は企んでいる、ファステイアなら売却されたのが流れてそうなんだが……またあそこに行くのはなぁ……
なんかもう嫌な思い出しかないというか、身体が拒否反応を起こすというか。大きい方が流されずに放置されていた個室を後日再び利用するのを躊躇う感情に似ている。
「まぁいいさ、お前が思い出した通り二人は……ごほん、御二方は僭王の手駒たる第三騎士団によってお命を狙われている状況だ」
そして最大の暗殺チャンスを俺と"緋色の傷"……もとい元「傷だらけ」によって不意にされた以上、奴らは王様達が樹海の中で野垂れ死ぬのを待つか、生還したところを狙うしかないわけだ。
「初期案では森人族の中に紛れ込ませてゴール地点たる三神教の新大陸教会に連れて行く予定だったが……どうせならもっとダイレクトかつ徹底的にやろうと思う」
「……いいねぇ、ゾクゾクしてきたよぉ……で、なにをするんだぁい?」
「鍵はお前だトットリ」
「俺!?」
「これはある意味お前じゃないとできないんだからな」
そうだな、強いて名付けるとすれば……「勇者様大作戦」かな。
………
……
…
「あー、あー……ごほん。やぁやぁ皆の者! 国王トルヴァンテ陛下及び第一王女アーフィリア殿下のご帰還である! 道をあけーい!!」
空を切り裂くかのような朗々たる言葉が前線拠点へと響く。
なんだなんだと前線拠点で活動する開拓者たち……言い換えれば朝っぱらからシャンフロをプレイするゲーマー達が振り向けば、そこには声の発信源であると思われる一人のプレイヤーと、その後ろに立つ二人のNPCの姿を視界に収めることとなる。
普段であれば多少目を引くことはあっても直ぐに興味を失うであろう一幕、だがしかしつい先程アナウンスされたレイドモンスターの討伐報告に、ある種張り詰めた……言ってしまえばイベントというものに敏感になっていたプレイヤー達は突然の寸劇に身体ごと振り返って事の推移を見守る。
「───おお陛下、それに殿下もご無事で何よりに御座います」
と、その時。どこから現れたのかと何人かのプレイヤーが辺りを見回す程のタイミングで、何十人もの騎士……その誰一人とてプレイヤーではないNPCの騎士団が国王を、王女を、そしてその二人を連れた魔術師装の女を囲む。
「おやこれは名高き絶倫剣の……」
「絶命剣だ」
「絶倫剣のユリアン様ではありませんか」
ひくり、と騎士の長……その代名詞たる名剣ではない剣を佩いたユリアンのこめかみが痙攣したものの、笑みを崩す事なく国王親子、そしてそれを連れてきた魔術師の女へと近づく。
「名を名乗るといい、陛下をお連れした功績は後々に褒美が与えられるであろうさ」
さぁこちらへ引き渡せ、と言わんばかりに手を差し伸べるユリアン。騎士団からも無言の圧力が魔術師装の女へと向けられる。
王を騎士が保護する、それは至って普通の事でありそこに違和感が生じるはずもない。だがしかし、この状況に対する違和感は第三騎士団の真の企みを知る者からすれば容易に気づくことができたであろう。
例えばそれは既に一度命を狙われたと言うにも関わらず、この状況下において一切の不安を見せていない王達であったり。
例えば王達を救い出した奇妙な格好の開拓者がこの場にいない事であったり。
そもそも騎士達と相対する魔術師の女……ディープスローターなる意味深な名のプレイヤーが本来王を護衛するにあたってゴール地点になるはずの騎士団を前にしていつでも戦闘を開始できる構えを取っていることであったり。
奇妙な沈黙が長引く程に周囲のプレイヤー達も段々と「何かがおかしい」と気づき始める。しかし、しかしその違和感を確かめるべく騎士団と王達の対峙、その間へと飛び込まんとする者はいない。
なにせこの状況が「正しい」ものであった場合、周囲からの乱入者の評価は「出しゃばりさん」になってしまう……そんな不安を誰もが抱いているからだ。
「あれ……割り込んだ方がいいのか?」
「いや、パーティ組んでるわけでもない他人のクエストに割り込むのはちょっと……」
だからこそ王を包囲する騎士団をさらに包囲する野次馬達という奇妙な二重包囲網が成立する。誰もが皆、この先の状況がどう変わるかを推し量ろうとして動けない。
「ちょっと待ってもらおうか!!」
であれば、この緊張に一矢打ち込むことが出来る者は、間違いなく勇者と呼ばれるであろう。
「何奴!」
ジリジリとディープスローターへ、その後ろにいる王へと近づくユリアンの踏み出した右足のつま先ギリギリの位置に一本の矢が突き刺さる。
剣を抜き放ち、騎士道の風上にも置けぬ不意打ちを放った不届き者せとユリアンが鋭い声を上げれば、それに応える声ひとつ。
「え、えーと……卑劣なる騎士よ! その……悪辣? に穢れた手を撃ち抜かれたくなくば引くがいい!」
「……姿を表せ!」
「え……奇襲アドバンテージが……何? 出ろ? 分かった分かった……あ、ヘーシュ逃げんな、よし………いいだろう!!」
何やらゴニョゴニョと聞こえたものの、矢を放った下手人はユリアンの声に承諾を返し、数多の怪物を内に秘めた樹海より現れる。
「貴様……何者だ? 見たところ開拓者のようだが……第三騎士団に弓引く意味、分かっているのだろうね?」
「…………よし思い出した……し、笑止! 僭王の傀儡となって己が仕えるべき王族に剣を向ける者に……あー……弓を引いて何が悪い!」
突然の乱入者、見慣れぬスリングショットを腕につけている点を除けば前線拠点に到達したプレイヤーともなれば見覚えのある弓使い向けの装備を着た一人の青年がゆっくりと、そして不自然に途切れる口上と共に現れる。
「俺の名はトットリ、トットリ・ザ・シマーネ! エ……くっ、恨むぞ二人とも……森人族の勇者として弓を取る者の名だ!!」
「フッフゥー! 勇者様かぁーっくいーっ!!」
一瞬茶々を投げたディープスローターを射殺さんばかりに睨みつけたものの、すぐさま視線を騎士団へと戻したトットリは腕に装備したスリングショットを構えて不敵に笑う。
そして、この状況をメイキングした黒幕達が傀儡の勇者に仕込んだ通りの、燃料を点火する最後の種火が落とされる。
「悪いが新大陸の亜人を奴隷として扱うつもりの僭王に従うつもりはない、そして……その為に国王と第一王女を暗殺せんとするお前達にもな!!」
ざわり、とこれまで以上にプレイヤー達へと動揺が走る。トットリによって突然齎された情報の数々、そして何より……樹海から次々と現れる明確にプレイヤーや旧大陸のNPCとは異なる特徴を持ったNPC達に。
「き、貴様……それにそいつらは、まさか……!」
「全国のエルフスキー達よ! 俺は約束を果たしたぞ!! そして、森人族を守る為に力を貸してくれ!!」
若干の羞恥に頬を赤らめ、されど今この瞬間自分こそが状況の中心にいるという喜びも混じった不敵な笑みを浮かべて、トットリ・ザ・シマーネは王と第一王女を守るべくさらなる一歩を踏み出した。
なお黒幕Aは裏でゲラゲラ笑っており、黒幕Bは表舞台でニヤニヤ茶化している模様