悪徳は蜜の如く甘い毒
くっ、たまには運に任せてジャンケンをしようとか考えるんじゃなかった。やはり対外道同様にギリギリで手を変えるべきだったか。
オススメはチョキ始動だ。パーに移行するなら指三本、グーなら指二本動かすだけで手を変えられるからな。
「見て見てサンラクくぅん! 長杖二つ持てるってやばくなぁい?」
ジャンケンの勝者として一番に血溜まりに手を突っ込んだディープスローターが獲得したのは赤い宝石型のアクセサリー「渇望の手」だ。
なんとこのアクセサリー、アクセサリー欄を二つ潰す代わりに装備欄が一つ増える。
左肩の後ろあたりから真っ赤な腕が生えている姿は形容しがたい不気味さを漂わせているが、本人のにやけヅラに連動するかのような気味の悪い動きをしている辺り、多分装備者の意思で動かせる。
「変態の手を増やすとかヤバくない?」
「同時に三ヶ所いじれるねぇ……」
ノーコメントで。
そして次、二番手のトットリが引き当てたのは猛禽類の鉤爪を思わせるメタルパーツがくっついたブーツだ。なんだろう、何か物凄く本命を取られた感が……
「屍肉喰らいの鉤爪……消える直前のモンスターに蹴り攻撃をするとアイテムドロップとは別枠でアイテムが獲得できるっぽい」
「(いいなー、の眼差し)」
「あとは……へー、木の上とかの不安定な場所で身体を固定してくれるのか」
「(いいなぁぁぁ! の眼差し)」
「わ、すげー軽い!」
「……暗殺」
「え? なんて?」
「ナンデモナイヨー、ヨカッタネー」
頭の上のエムルがぴくっ、と震えている辺り冗談を間に受けたか? 冗談だよ冗談…………ま、まぁ俺が鉤爪ブーツよりも凄い報酬を引き当てればいいだけだしィ!?
「まぁ見てろって、俺のLUCは新たな地平へと至ったんだ……いざ南無三!!」
ズボッ!!
うわぁ生温い……っていうか冷静に考えるとこれ、明らかに地面より下に手がめり込んでるんじゃ……む、何か手触り! なんだ? ゴツゴツしてる? いや、穴が空いて……とりあえず引っこ抜いてみるか。
「よいしょーっ!!」
引っこ抜けた俺の手が掴んでいたものは、人の頭くらいならすっぽり覆ってしまえそうな何かの獣? 竜? よくわからない肉食系モンスターの……頭蓋。
「死体を掘り当てたですわぁ!!?」
「いだだだだ! おちっ、落ち着けエムル! 髪を引っ張るな!!」
ついさっきまでこれの数千倍はやばい相手と戦ってたのにこの程度でビビるなっての。あででででで
「見た感じ頭装備なのか?」
「……いや違うな、これアイテムだ」
聖杯とかと同じタイプのアイテムだな、えーと何々名前は「暴血赤依骸冠……なんつー仰々しい名前だ」
まぁいい、大切なのは中身さ。
・暴血赤依骸冠
貪る大赤依を撃破した報酬、獣の上顎のようにも見える奇妙な赤い髑髏の冠。
「血解」の詠唱をトリガーとして全身を覆い、「擬似改宗」効果第一段階を発動する。
使用者は三百秒間赤い怪物の姿へと変身し、条件を達成することでステータスを上昇し続ける。
プレイヤー・NPC・エネミーを問わずHPを持つMobをキルした数に応じて最大HP・MPを増大し、自身の全ステータスを向上させる。ただし三十秒ごとに暴走判定が発動し、合計十回行われる暴走判定間に最低三体以上のキル判定を達成していない場合「飢餓暴走」状態となる。これにより種族が「左方始源血属」となり、アバターはAIによって操作される。
さらに五分経過した時点で強制的に「飢餓暴走」状態となり、一分間暴れ続けた後体力が0になる。
お前は誰だ!? 俺はお前だ! 違う! 俺は負けた! 俺がお前だ! 俺は血だ! 血だ! 肉だ! 俺は「赤」だ!! 魂はお前だ! 俺は飢えている! お前は俺だ! それは最後! 俺は飢えている! お前も飢える! だから………だから全てを喰らい尽くす!!
…………。
「……………」
深呼吸して……と。ようしエムル、早速だがこのしゃれこうべの使い方を一つ教えてやろう。
「R.I.P.と思いっきり効果が被ってるぅぅぅぅう!!」
すこーん! とフルパワーで蹴り上げられた赤い頭蓋が宙を舞う。
「黒ドロワか……」
「ハットトリックだオラァ!」
「あふんっ」
落ちてきた赤い頭蓋をファンタジスタ的シュートでディープスローターに蹴り込んだら少し落ち着いたので改めてそれ……暴血赤依骸冠を拾い上げる。
いや、厳密には効果内容に差異はある。アイテムだから多分装備欄的なブッキングもしない、つまり共生できる。だがそれはそれ、これはこれ……必死こいて倒したレイドモンスターからのドロップがすでに持ってる装備のコンパチだったというのは中々メンタルに刺さるものがある。
「つーかしれっと重要情報が多過ぎる……」
なんだ左方始源血属って、情報だけでライブラリ辺りを殴り倒せそうだなオイ。
「っていうかこれ、所謂「使い過ぎると人間に戻れなくなるぞ」的な……」
「え、そっちもそんな感じの効果あるのぉ? 私のこれもダメージ受け過ぎるとオートで装備者を攻撃してくるとか面白い効果あるんだけどぉ……」
「俺のは防御力と耐久値がだんだん減っていくらしい……最終的に装備VIT1ってヤバくね? 防具としての体をなしていない……」
「おっ、ステータスVIT1の俺に対する宣戦布告か?」
三者三様に沈黙。
あーなんだ、要するに……ぶっ壊れ性能とクソデメリットがどちらも高水準で搭載されたアイテムがレイドモンスターのドロップ品、ということでっしゃろか。
うん、まぁ……とりあえずお疲れ様でした!!
とはいえ帰るまでが遠足というもの、決してその存在が頭からすっぽり抜け落ちていたとかそういうわけではなくあくまでも思考の優先度的に後回しにされていただけでまぁ兎にも角にもそもそもここにいる理由たる国王とアーフェアリ……じゃないアーフィリアを迎えに行かなければなるまい。
「で、王様達と一緒に逃げた森人族達はどこに行ったんだ?」
「え?」
「え?」
なんでそんな、「お前知らないの?」みたいな顔してるんだ知るわけないだろう。むしろ森人族の勇者してるお前が知ってて当たり前だ……え、待って。
「もしかして……逃げた奴ら、遭難してね?」
辺り一帯に沈黙が広がる、いやまさかそんな、いや、まさか…………
「これはもう獣の胃の中に……」
「いや待ってサンラクくん、触手責めなら! 触手責めなら死んではいないかもしれないよぉ!?」
割とマジでその可能性に賭けるしかないのが世紀末過ぎる……
「だがどうする、エルフといえばオークの線もある」
「しまった、それだと男の方が死んでるかもしれないよぉ!?」
「……いや、オークって少なくともこの森じゃ絶滅してるって話だぞ」
トットリからもたらされた衝撃の情報にディープスローターが浮かべた顔は、それはもう筆舌に尽くしがたいものであった。
「そ、そんな……「見目麗しいプレイヤーの群れにオークの大群をけしかけて動画を撮影する計画」が……」
しれっと悪質なMPK目論んでるんじゃねーよ、ていうか新大陸でそれやってもプレイヤーの質が高いから高確率で迎撃されるだけでは?
「し、しかし……いや、せめて遺品だけでも見つかれば……」
「サンラクサン、死んだ前提で動くのは良くないですわ。っていうか生きてるしこっち来てるですわ?」
「幽霊か……」
「か、頑なに生存を信じてないですわ!?」
だってお前ヘタレと非戦闘員だぞ? 何時間も放置して生きているとは……うわっ、本当だ生きてる。
初代の悲劇を全面的にアピールするアローラガラガラ君すこ
極点に至りしただ一つ、始源に幕を引いた片割れ。その激突は必然ながら、漆黒の神は己こそが唯一つとなるためにその嘴で世界を啄ばんだ。