ただ一度きりの友情
不定期だから一日に三話更新しちゃう日だってあるさ
進化とは要するに、内側から発生する変化だ。そこに外部からの影響がないとは言わないが、結局のところ進化とは当事者が内面からの変化で外見ごと変わる事を指す。
メキメキと傷だらけの皮膚がひび割れ、地面へと落ちていく。では一皮剥ければ綺麗な姿になるのかといえばそんなことはなく、捨てられた皮の下から現れたのは………明らかに熱を帯びた陽炎を噴き出し、その上で血が滲むかの様な紅蓮の赤に染まった「傷」だ。
「お、おぉ………」
成る程、成る程………これ俗に言うヤバいやつだな? 金晶独蠍に通じるヤバさを感じるが、あっちは種族的な亜種であるのに対してこっちはオンリーワンな二つ名持ちのさらなる進化だ。広義の意味でのユニークモンスターですよこれ。
「お、おいサンラク……」
「待て、武器は構えるな……ここは俺に任せろトットリ」
「本当に大丈夫か……!?」
大丈夫じゃなさそうなので一応エムルは連れて行かない。
メキメキと音は続く。「傷だらけ」の、いや「傷だらけ」だったものの筋肉が内側から膨張し、その身体をさらに大型化させていく。大きな損傷を受けていた左の頭は痛々しい傷こそ残っているものの、それが却ってアシンメトリー的な恐ろしさで威圧感に華を添えていた。
「「「ゴロロロロロロロロロ………」」」
「ハロー、あー……なんだ、衣替えの季節か?」
ていうかこれ、もしかしなくても「傷だらけ」にも経験値入ったのか? いやまぁ確かに一番レイド戦で貢献したのは誰か、って聞かれたらまず間違いなく「傷だらけ」だろうけどさ、そんなお前進化まで行っちゃうのは……おっと顔を近づけて……あっつ! 待って熱い!
「お、落ち着け兄弟……俺たちはこう、なんだ絆的なものが芽生えているだろ?」
熱い吐息(物理)を漏らしながら元「傷だらけ」が俺へと頭を近づけてくる。ただでさえ暑苦しいというのに頭が三つあるので口は三つで鼻の穴は六つだ、なんというか乾燥機にかけられた服の気分を今俺は味わっている。
現在俺の体力は貫禄の1、ちょっと小突かれただけでも下手をすれば死にかねない。下手に動けば……死ぬ!
「「「グルルルル……」」」
「お、おう……オレタチ、トモダチ、ユウジョウ……ダイジ」
じっと俺を見つめていた六つの瞳が爬虫類特有の瞬膜による瞬きを繰り返す。しばらくすると三つの頭は俺から離れ、大きく息を吸い込む。や、焼かれる!?
「「「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」
咆哮、それは我こそがこの森の覇者であるという宣言か。少なくとも俺の耳はキーーーーンとしか聞こえないのでよくわかんないです。
長く、大きく、そして雄々しき咆哮が空中に溶けて消える。元「傷だらけ」はぎょろりと六つの目で俺を見つめる。それは貪る大赤依とは明確に異なる意思の光が宿ったものであり、言葉こそ通じないがなんとなく奴が何を言いたいのかが分かった様な気がした。
別に仲良しこよしってわけじゃない。情が湧いたわけでも、ましてや懐いて従属するはずもない。次会った時は敵同士の可能性だってある、いやきっとその可能性が高い。だが、だからこそ此度の共闘には何物にも代えがたい価値がある。ついさっきまでだけ、俺と「傷だらけ」は同じ方向を見ていたのだ。
「餞別だ、持って行きな」
であれば態々今から敵対することもあるまい、勝利の余韻に浸りたい時というものは人もモンスターも同じだろう。というか多分、俺も元「傷だらけ」も達成感と同じくらいダルいと思うの。実際何時間くらい戦ってた? まだ夜は明けてないけどさ……
そんなわけで餞別代わりのミスティック・ソーマ、手持ちの中で最後の一本を元「傷だらけ」の口の中へと放り込む。まぁモンスターだしガラスを飲み込んでも頑張って消化するだろう。
「「「…………」」」
のっしのっしと元「傷だらけ」がその巨体を翻す。ふと見上げれば、その体躯から剥がれ落ちた鱗の一枚が俺の方へと落ちてきた。鱗と言っても牡蠣の殻をさらにでかくしたような代物だ、気づかずに頭に直撃していたら多分死んでいた……あ、あの野郎まさか……いや、落ち着け……偶然だよ偶然。
っつーかなんだこの鱗、ドロップアイテムなのか?
・緋色の傷の歴燿古鱗
ドラクルス・ディノサーベラス"緋色の傷"の旧き鱗。
死するその瞬間まで強靭くなり続ける"緋色の傷"の鱗は古いもの程強大な力を秘めている。
「歴燿」の誉れを冠する鱗は緋色の三巨頭が生まれ落ちた瞬間より寄り添い続けた最古参かつ最も稀少な鱗であり、破損と再生を繰り返したその鱗は神秘すらをも宿す。
「…………いや、さっき進化したばっかなのに古いもへったくれもないだろ」
餞別としては最上級だし素直に嬉しいのだが……なんだろう、この絶妙にもやっとする感じは。「新鮮な五十年もののワインです!」って言われたような気分だ、目の前で起きた現象とフレーバーテキストが絶妙に食い違っているというか……いや破綻するほどの矛盾ってわけじゃないんだけど……
「まぁいいや、友情友情……っと」
くれると言うなら貰っておこう、そしてさらばだ「傷だらけ」……いや、"緋色の傷"よ。次会うときは敵同士か、それとも再会叶わぬままお前が死を迎えるのか……だが願わくば、お前が良き戦いの末に散る事を願っているよ。
安定のヘタレ森人族が"緋色の傷"の進行を止められるほどの度胸があるはずもなく、ゆっくりとだが力強い地鳴りを伴う歩みで去っていく三つ首のティラノを見送り……もう一つの案件へといい加減目を向けることにする。広場にいないってことは……居住区辺りか?
「……? そういえばサンラクサン、どうしたんですわ?」
「ああ、それなんだがな…………………うん、いい加減死んだふりやめて出てこい!!」
「うへへへへ……バレてたかぁ」
「ぎゃあああああ!!? い、生きてるですわー!?」
にへら、と倒壊した家屋の陰から現れたのは死んだはずのディープスローター。何故奴が生きていたのか、その答えは今の今まで死んだふりをしていたディープスローターがキャスリングだったかを使う前に俺がとった行動にこそある。
「討伐者数のアナウンスが三人のままだし、何より俺の足掻きを代わりに受けたろお前」
「これはもはや偶然と奇跡を超えて愛だよサンラクくぅん……」
「だまらっしゃい」
「ど、どういうことですわ?!」
どうもこうもない、あの時俺はある手段を用いて死のブレス×7に対処せんとしていた。だというのにこのアホがわざとらしいロールプレイで立ち位置を変えたものだから俺の代わりにこいつがそれを実行することになったのだ。
ずばりセルフ蘇生、上空に投げた蘇生アイテムが時間差で死んだ俺へと当たることで単体で完結した蘇生手段とする……ウェザエモンとの戦いで確立したテクニック。聖女ちゃんから貰った蘇生アイテムで時間差の復活を行い攻撃への対処とする……死を挟むものの原理的にはインベントリアエスケープと同質の即興技、それは俺のいた場所に入れ替わりで転移したディープスローターには当然上へ投げた蘇生アイテムが代わりに当たるわけで。
「当ててやるよ、かっこつけて身代わりになったはいいけど普通に蘇生されたもんだから収まりがつかなくなって雲隠れしてたろ」
「おいおい以心伝心かよぉ……これはもうソウルフレンドと言ってもいいのではぁ……?」
「DPS貢献サボるとか失望しましたフレンドやめます」
「仕方ないじゃあん! だって実は普通に生きてましたとか言いながら出てきづらいじゃあん!!」
ええい黙れ黙れ黙れぇい! しなだれ掛かるな腕に絡みつくな! ハラスメーンッ! ハラスメーントコォールッ!
「うわディプスロさん生きてたのか!」
「やぁトットリ君、ラストアタック良かったねぇ……」
「あ、どうも……」
とはいえこいつのお陰で今の結果へとたどり着いたわけで、最終盤でサボっていたとしてもそれまでの貢献でチャラということにしてもいいだろう。心情的には今すぐ"緋色の傷"君にUターンしてもらってこいつを処理してもらいたいのだが贅沢は言わない。
「んじゃ……いよいよメインディッシュと行こうか」
「やっぱ、あれ気になるよな……」
まぁアレに気づかないってわけにはいかないだろう。何せ、貪る大赤依が斃れた場所に馬鹿でかい血溜まりが出来上がっているのだから。
そして、その血溜まりに光る三つのエフェクト……もう、如何にも「ここにアイテムあるよぉぉぉぉ! 拾ってねぇぇぇぇぇえええ!!」と主張したくて仕方がない、と言わんばかりのアピールっぷりだ。参加プレイヤーと同じ数ということはつまりそういうことなんだろう。
「じゃあ、誰がどれに触るのかジャンケンで決めようか」
俺がドベだった、本当乱数ってクソ。
Q. "緋色の傷"になって何が変わったの?
A. 午後十字軍が仕事終わりの頭を酷使してコツコツ考えてきた攻略法の七割がゴミになりました
Q. "緋色の傷"はサンラクを認めたの?
A. 学校から家に帰るまで蹴り続けた石ころくらいの愛着
鱗はゲーム的ご褒美……というか「モンスターと一定時間共闘すると確率でアイテムを落とす」というシステム的な理由。ちなみに鱗は"緋色の傷"の落とすアイテムの中でも二番目くらいにレアなアイテム、一番は討伐時に泥するので流石に共闘では泥しない。不滅の炉心殻と天鱗みたいなもんですね、でもあれ撃滅拳の方が集めるの怠いっていう