竜よ、竜よ! 其の二十四
死蔵された設定とか見てると新作書きたくなるから困る
激突三連、盾に叩きつけられた衝撃が俺の身体を大きく押し込む。
だが倒れない、屈しない、折れない。(非常に不本意だが)背後に護るべき者がいる限り、守護者の心は決して砕けはしない!!
スキル「ガーディアンハート」は盾系スキルだ。背後にパーティメンバーがいる場合、防御時にSTR、VITなどへステータス補正が入る。さらに消費スタミナ、及び防御時に発生するカスダメの軽減も付与される事で、驚異的な防御性能を誇る。
ただし盾が砕けてしまえば効果は切れてしまう、既に度重なる酷使で耐久が減っている冥王の鏡盾からピキピキと嫌な音が響く。だがそれでもやるのだ、この盾こそが死を帯びた三つの光条を塞き止める防波堤なのだから。
「く、のおおおおぉぉぉお!!」
見なくても手から伝わる感触で分かる、冥王の鏡盾はもう限界だ。致命的な破損こそしていないが、これ以上防御として用いたならば鏡は砕けることになるだろう。
「………反撃だ」
だが逆に言えばそんなギリギリのラインで踏み止まって、確かにこの盾は攻撃を受け止め切ったのだ。
であれば、そのヒビだらけの今が誇り高き結果であるのだと証明するのは俺の役目だろう。
別離れなく死を憶ふを地面に突き立て、代わりに結晶が埋め込まれた刃なきナイフを胴体と大腿部へと突き立てながら、冥王の鏡盾が持つ真なる力を起動する言葉を叫ぶ。
「【吸転換】!!」
鏡が喰らった赤い魔力が炎に変わる。いいや違う、その形状を保ち切れないほどの力が炎の形に変わると言うべきか。
喪に服す側である筈の喪服の女性が、火葬が如く炎に巻かれる姿はなんとも言えないものがあるがそもそも身体は前段階の時点で傷物どころか割れ物だし、帯電もしてるので今更燃えたところで大差はないだろう。
俺も鏡盾もヒビだらけ、だが脆いと思ったら大間違いだ。いや実際脆いが、お前が1ダメージを与える前にこちらが1億ダメージ叩き出してお前を倒せばいいだけのことよ。
「ねぇ、それって長時間放置すると服が焼け落ちたりするのぉ?」
「お前の体力を消し炭にする事なら簡単かな」
「おいおい情熱的なベーゼとハグで頼むぜぇ……」
「ビンタ百回で」
「ご褒美ィ……」
グーパン一発で黙らせるのが正解であったか。
アホに構っていたのがいけなかったのか、渾身の三連射を受け止めあまつさえ利用されたことにおかんむりなのか、今度はトットリ達の攻撃を受けながらも無理やりこちらを向いた尻尾頭も含めてほぼ全ての首が俺を睨みつける。
「Qiiiiiiiiiiiaaaaaaaaa!!」
奴の全身が撓む。大質量がその全身に搭載された筋肉を余すところなくフル稼働させる事で実現する、実に生物的な衝突事故。故意だから事件か?
赤色の塊がこちらへと突撃を敢行する。初速で劣っているのか総合的に速度がゴミなのか、追う「傷だらけ」が貪る大赤依に追いつける様子はない。
避けてもいいが……ここは一つ、その突撃力も貰い受けようじゃないか。
別離れなく死を憶ふを背負うように、地面へ先端を刺した特大剣を斜めに傾け、背中を柱代わりに俺の肩を頂点とした道を特大の刃で形成する。
そしてその道を駆け上り、俺の頭に着地する兎が一匹。
「エムル!」
「はいなっ! 【完全反射陣鏡】!!」
張り巡らされる条件付き絶対防御の障壁。それを目撃しているはずの貪る大赤依の突撃は止まらない、それを理解できていないのか、理解した上で諸共にぶち破るつもりか…………甘い。
単なる大質量の突撃程度で割れるほど、ヤワな壁じゃあねーんだぜ。だよな?
「けっこーキツいかもですわこれーっ!?」
「おまっ、踏ん張れよ!?」
轟音。物質的に存在しないはずの壁に激突した貪る大赤依の身体が不自然に歪む。何せ鏡写しで全く自分と同じ体勢の鏡像と互いに同じ速度でぶつかったようなものだ、全身余すところなく悶絶してくれ……大丈夫だよね?余裕ブッこいてるけど轢かれるとかないよね?
だがどうならここに来てギャグみたいな死に方は回避できたようだ、だが貪る大赤依とてただ痛みに悶えるだけではない。
その巨体が転がるだけでも質量兵器であるし、なによりここまで虚仮にされれば怒りの感情があろうがなかろうが確実にこちらを仕留めに来る。だがいいのかい? 最後の首までこっちに向けてしまって……
「遅いぞ兄弟」
「穴?」
「せめて絆と言え」
貪る大赤依の背後へと追いついた「傷だらけ」が無防備な尻尾へと食らいつく。胴体は一つなので最終的な出力は変わりないはずなのだが、頭が三つあるので力も高いのか踏ん張っている様子の貪る大赤依がズルズルと引き摺られていく。
「っし」
投げ捨てたアラドヴァルを右手で拾い上げ、歪な形の二刀流スタイルに再び転ずる。
「ここで決めよう」
特大剣を掲げて二、三度振り、「傷だらけ」に物理的に振り回されている貪る大赤依へとその切っ先を突きつける。
トットリにも届いたかな? 出さずに惜しむよりも出し切ってから後悔しようぜ、どんなゲームでも……それがたとえクソゲーであってもリソースを底の底まで出し切る快感は最高だ、浪費無くして達成のカタルシスは有り得ないんだからなァ!
「エムル、あとついでにディープスローターも火力用意だ……ちょっと奴を怯み(大)にしてくる」
「はいなっ!」
「吐いた唾は飲み込めないよぉ……?」
スキルを積み上げ、ただ一回のアタックを高めていく。数多の加速スキルが肉体を強化し、機動力スキルが不可能を可能にし、握る武器に複数の色が炎の如く煌めくエフェクトを宿す。
「あぁそうだサンラクくぅん……」
「んだよ」
振り向けば、そこにはへらりと笑みを浮かべるディープスローター。奴はなんでもない風な気軽さで、簡潔に俺へと問いかける。
「───今、楽しい?」
「見りゃわかるだろ?」
もう後ろは振り返らない。黒雷を帯びて駆け出した足は気を抜けば己の速さで転んでしまいそうだ。だがそれは今なお二体のモンスターを中心に爆発の如く撒き散らされる「攻撃の波」を見る目で補える。
引きずっているためにざりざりと地面にラインを引く別離れなく死を憶ふと、これより竜狩りのクライマックス故か心なしかその火勢を増したように見えるアラドヴァル・リビルドを携えて大質量同士の激突地帯へと人間一匹が飛び込む。
「双剣スキルじゃない、二刀流スキルなんだよ」
双剣や対刃剣を切り札として温存してばかりだったからか、俺が覚えている剣二本を用いるただ二つのスキルはその両方が二刀流時に使用可能なスキルだ。
それがどうしたって? つまり今使えるってことさ。
「バトンタッチだ兄弟!!」
四つの頭を束ねた極太の合体ブレスが左の頭部に直撃した「傷だらけ」が大きく後ろへとのけぞり転がっていく。だがタッパのあるモノを吹き飛ばした以上は相応の隙を晒すことになるわけで、硬直を晒した貪る大赤依は既に俺の射程圏内だ。
「よぉぉっっ……しゃあ!!」
百閃の剣起動、先駆け迸れアラドヴァル!
一撃一閃、大技後の硬直で動けない貪る大赤依の身体に灼熱の直線が刻まれる。
一撃二閃、特大剣が片手だけで振るわれる。挙動とは正反対の重い一撃が二つのエフェクトを赤い表皮に撒き散らす。
一撃四閃、八閃、十六閃、三十二閃……別離れなく死を憶ふであればその重量にふさわしい重いエフェクトが弾け、アラドヴァル・リビルドであれば竜種を燬き滅ぼす炎が吹き荒れる。
「おいおい、頭全部でおもてなしとは嬉しいねぇ……」
だが俺を追うには速さが足りない、一瞬で……振り切るぜ。
スキル「リミットオーバー・アクセル」起動。フォーミュラ・ドリフトから進化したこのスキルは時間にして数秒ではあるが自身のAGIとDEXを二倍にする規格外の加速倍増スキルだ。今の状態でこれを使うことは、下手をすれば盛大な自爆に繋がりかねないが……今の俺のテンションなら制御できる、そんな確信があったし実際に制御しきってやった。
四つの首が俺をついばむよりも速く、その立ち位置を神速でズラした俺はその勢いを乗せた一撃で奴の大口を真横一文字で斬り裂く……六十四ヒット。
もしも、もしも貪る大赤依が狡猾な判断力を備えたAIであったなら。スキルの内容について考察ができるプレイヤーであったなら。
この場における最もベターな解答は「次の一撃を末端部位で受ける」事であると理解できただろう。
だが悲しきかな、貪る大赤依に割り当てられたAIは無機質で単純な思考として設定されたものだ。その感情も、苦痛も、全ては上っ面の再現……そういうデザインだ。
だからこそ、「大口を閉じて弱点を守る」という最悪の一手を選んでしまうのだ。
「わざわざ壊しやすくしてありがとう!」
鋭結点睛起動スタンバイ。
アラドヴァルをまっすぐ縦に地面へと刺し、もう片方の手に握る別離れなく死を憶ふの腹を蹴り上げて台座として立てたアラドヴァルの柄尻に「セット」する。
二刀流スキルは両手に剣を持っている事が条件だ、故に刺突するにも前準備が必要でありその為の発射台と弾頭……いや刃頭だ。
「ぶち抜く!!」
首がこちらを見ている? 構うものか、脱出は微妙なライン? もう止まらない、もうこうなったら例え代償で死ぬとしても俺はこの攻撃をぶちかますぞ。どうせあの変態が動画撮影してんだろ、レイドモンスターにたった一人で立ち向かう動画を見るだけで三日は楽しめるね。
アラドヴァル・リビルドの柄尻、その上を滑らせるように前へと別離れなく死を憶ふを突き出す。
大きな板をそのまま振り抜けば空気抵抗を受ける、だが一点を目指して突き出したならばその刃は空気を裂き敵を穿つ。
ここに至るまでに使ったスタミナと、ここに至るために使ったスキルによる消費……全てを込めた刃が光と共にその切っ先を閉じられた歪な牙の交差に叩きつけられた。
瞬間、あれほど軽いと思っていた特大剣に重圧がかかる。吹き飛ばされそうな衝撃に改めて握る力を強めつつ……俺は二つのものを見た。
一つは木っ端微塵に砕け散った大口の牙と、その骨格となっていた肋骨。剥き出しになった赤い玉が外気に揺れて震える光景を。
そしてもう一つは胴体から生えた頭が、股下からこちらを狙う尻尾頭が、そして今の今まで近接的な物理攻撃に留まっていた翼腕の口すらもが赤い光を溜める光景を。
成る程? どうやら俗に言う「絶対許さねぇ」と言う奴らしい。インベントリア修正前ならなんとかなったんだが……まぁいいさ、一矢は報いた。後は適度に足掻くだけさ。
「レイドモンスターなら次があるんだろ? そん時はノーコンクリアだ」
「いいや、今がノーコンティニューなのさサンラクくぅん……!」
何っ?
「【双座標転移】!!」
切り替わる視界。主観的に見上げていたはずの貪る大赤依を、今俺は客観的に見つめている。
そして、恐らく俺がつい先程までいたはずの場所に立つ長杖を携えし人影。
「ふふん……惚れてもいいよぉ?」
「おまえ……」
いや、そこは今俺が……
だがそれを指摘するよりも先に響く轟音、七つの閃光が炸裂し土煙を巻き上げる。
「く……全員ありったけをぶちかませ!!」
色々言いたいことはあるがとりあえず敵討ちって事で! やったぜ貪る大赤依君、ナイスキル!!
双座標転移はその名の通り発動者と対象の位置を交換する魔法。
色々と悪巧み出来るので通常は双方の合意がないと発動できないが、発動者と指定した対象のMPの差が大きいと成功する。