仏紙が見たニッポンの謎文化「推し活」─それは「自らを生け贄に捧げた一種の『焦土作戦』だ」
長年にわたって「セクシュアリティと日本文化」を研究してきた、文化人類学者でジャーナリストのアニエス・ジアールが、新著『日本における人工の恋:バーチャル交際と架空のフィアンセ』(未邦訳)を刊行。 【画像】『Les Amours articielles au Japon / 日本における人工の恋』 この本は「手が届かない恋愛の対象」、すなわち、ここ数十年の間に日本で「カウンターカルチャー」のいちジャンルとして定着した、バーチャルな恋愛関係に関する広範な調査結果をまとめたものである。仏紙「ル・モンド」が、日本の架空恋愛に関する疑問をジアールにぶつける。
それは「生きづらさ」を反映したもの
──日本では人形と結婚したり、人間の恋人と架空の恋人、交互に付き合う人がいたりするようです。それはつまり、恋愛関係において「想像」と「現実」の区別がなくなってしまったということなのでしょうか。 日本では「二次元恋愛」と呼ばれています。最新の調査では、日本人の3人に1人以上が「推し」、つまり「手が届かない恋の対象」がいると答えています。 その対象は歌手、テレビのキャスター、スポーツ選手、俳優、声優、ゲームや漫画の登場人物などです。「推し」という言葉は、現実と虚構の区別を飛び越え、その区別を無効にするものなのです。 「不可能」な恋愛ですが、この愛がもたらしてくれる心の高まりは、まごうことのない本物です。 たとえば、「ラブプラス」というニンテンドーDS向けの恋愛シミュレーションゲームでは、プレイヤーは性格の異なる3人のキャラクターから恋人を選ぶことができます。タッチスクリーンを使って彼女にキスもできるのですが、プレイヤーのタッチするペンの圧などによって彼女の反応が変わります。 もう一つの例を挙げるとすれば、2016年に発売されたキャラクター召喚装置「ゲートボックス」のなかには、約15センチのホログラムが映し出されています。フリル付きのエプロンを身に着けた女性などが、家でのパートナーになるようにプログラムされているのです。 ──日本人はこうしたバーチャル交際に何を求めているのでしょうか? コガミ・ユウコ(39)という女性は、「二次元の彼氏と三次元の彼氏が2人ずついる」と教えてくれました。日本の標準的な夫婦生活の制約とは両立し得ませんが、彼女は夜に一人の男と家にいるよりも、女友達と外で遊んだほうが良いと考えているといいます。 それから、近藤顕彦は自分の顔を出して二次元のキャラクターと公に「結婚」した初めての日本人です。2018年の結婚式には政治家も立ち会いました。相手はボーカロイドの「初音ミク」で、等身大のフィギュアにもなっています。 結婚を宣言してから、近藤は殺害予告も受け、「日本のイメージを損ねる」と非難の的にもなりました。 ──それは、人工的な二次元恋愛が日本でも主流から外れた反体制的な「カウンターカルチャー」の文脈にあるからなのでしょうか。 そこには「挑戦」「挑発」の部分があります。二次元恋愛のイメージは良いものではなく、当事者は「役立たずで社会のはみ出し者」とみなされているのです。 1980年代の末から──すでに3世代が問題になるわけですが──この国の景気後退は、若者を犠牲にしてきました。日本の典型的な結婚生活においては、女性は経済的な自立を諦め、子供を育てなければならず、男性はがむしゃらに働いて全力で家族を支えなくてはなりません。 結婚はまず第一に子作りの場だと考えられています。婚外子は出生数の2%に過ぎません。 二次元恋愛は、国民が感じている「生きづらさ」を反映したものなのです。いまから2040年までに、日本の大都市では2世帯に1世帯が単独世帯になると言われています。