第54回【詳報】無期懲役を求刑 山上被告「ありません」証言台に立たず結審
安倍晋三元首相銃撃事件の第15回公判が18日午後、奈良地裁で行われました。山上徹也被告(45)にどのような刑罰を科すべきか。検察側が求刑し、弁護側も意見を述べて、結審しました。タイムラインで詳報します。
18:30
山上被告「何を言っていいのかわからなく…」
閉廷後、山上被告の弁護人が取材に応じた。数日前に接見した時には、審理の最後に何を話すか悩んでいる様子だったという。証言台に立たなかったことについて、検察側の論告求刑などを聞いているうちに「何を言っていいのかわからなくなってしまった」と話したという。
16:45
山上被告、最終の意見陳述に立たず
裁判長から「何かあれば話してください」と促された山上被告は、弁護側の自席で「ありません」と答え、証言台に立たなかった。
そして、第15回公判が閉廷した。
10月28日に始まった山上被告の裁判員裁判はこの日で結審した。判決は来年1月21日の予定。
16:40
弁護側「懲役20年までにとどめるべきだ」
弁護側は、判決を「懲役20年までにとどめるべきだ」と主張し、最終弁論を締めくくった。
その理由として、「違法献金によって生じた悲惨な生い立ちが犯行動機に直結しており、被告は宗教虐待の被害者である」として情状面を主張。「偶然的な事情で重い結果が引き起こされてしまった」などとして、計画性が乏しかったと強調した。
また、「(事件)当時は宗教2世問題は社会問題になっておらず、被告が置き去りになっていた」と主張し、こう訴えた。「被告は(自らの境遇について)声をあげることができず、話しても信じてもらうことはできなかっただろう。被告自身も果たしてどのような状況に置かれていたのか、正確に理解することは難しかった」
16:00
弁護側「宗教虐待の被害者である視点、不可欠」
弁護側は最終弁論で、母親の旧統一教会への信仰が山上被告に及ぼした影響を強調した。
弁護側は「(被告は)宗教が関わった虐待の被害者であるという視点が必要不可欠。通常の殺人では、過去の生い立ちが量刑判断において限定的にならざるを得ない。今回は、被告の未成年の時代までさかのぼり、適正な量刑判断ができる」と主張した。
また「山上家の子どもたちに耐えがたい不幸をもたらした加害者は被告にとっては明らかだった」などと述べた。
15:20
弁護側は「無期懲役はあまりにも重すぎる」
弁護側の最終弁論が始まり、弁護側は「無期懲役はあまりにも重すぎる」として有期刑の判決を求めた。
弁護側は「一定期間、刑務所に服役するのはやむを得ない。本人もそれを十分理解し、受け入れている。服役はやむを得ないが、刑期を終えたうえで、社会復帰する機会を与えるべきだ」と述べた。
15:00
無期懲役を求刑「論理的に飛躍がある」
検察側が山上被告に、無期懲役を求刑した。
理由については、「白昼に民衆の前で、元総理大臣を殺すという戦後史に前例を見ない重大な事例で、社会に甚大な影響をもたらした」と述べた。
さらに、「被告の犯行の模倣犯を許してはいけない。被告が経済的に困窮したことで、旧統一教会の幹部襲撃が困難になり、代替で突発的に被害者を対象にしたことは、論理的に飛躍があると言わざるを得ない」と指摘した。
検察側は、求刑の際、山上被告が起訴内容を認めていることや、前科がないことにも言及した。また、刑罰の比較のために、過去に現職の政治家が殺害された事件の判決内容などを説明した。
その上で、「特定の団体(旧統一教会)にダメージを与えるために、(安倍氏を)殺害することは法治国家では絶対に許されることではない。量刑を軽くすることは絶対にあってはならない。社会変革のために暴力に訴えることを認めることになり、安心、安全がなくなる。法治国家では絶対に許されない」と主張した。
14:30
検察側「生い立ちの影響は限定的」
検察側が論告で、被告の情状面についての主張を続けた。
検察側は、安倍氏について「殺害される落ち度はなく、単に著名政治家であり、被告の言葉を借りれば『本筋ではない』」などとし、「短絡的、自己中心的な犯行で人命軽視も甚だしい」と指摘した。
また、旧統一教会への高額献金についても、教団側から5千万円の返金があり、被告自身も毎月返金を受け取っていたことを挙げ、「経済的に困窮することなく生活はできたはず。犯罪を思いとどまるタイミングはあった」などと述べた。
そして、被告の家庭内の不和が事件に影響したことは否定しないとしつつ、「被告以上に不遇な境遇でも、自らはね返して犯罪に及ばずに生きている人も数多くいる。母親が高額献金をしたことは、大きく考慮すべきではない」とした。
加えて、最終的に被告の経済的逼迫(ひっぱく)により焦りが出たことで、旧統一教会幹部の代わりに安倍氏をねらったとして、「青年期の生い立ちが与えた影響は極めて限定的」だと主張した。
その上で、公判までに遺族への謝罪がなかったことなどを挙げ、「被告の内省が深まっているとは認められない」などとした。
13:55
検察側「被告は善悪の判断ができる40代男性」
検察側が論告で、山上被告の情状に関する意見を述べた。
検察側は、被告の母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金をしていたことに関して、「被告人の生い立ちが不遇であることは、検察も否定しない。しかし、善悪の判断ができる40代男性であり、情状に大きく影響を与えない」などとした。
また、人通りの多い駅前で、応援演説に約300人の聴衆が集まる中での犯行について、「被告人の散弾銃は複数の弾が一度に発射され、殺傷能力が極めて高いにもかかわらず、どこに飛んでいくかわからず、極めて危険で悪質だ」などと述べた。
13:30
論告始まる
検察側が論告を始めた。冒頭で、事件の事実関係や争点などを改めて述べた後、求刑をするという流れを説明した。
13:15
昭恵さん「夫、世界平和のために人生を捧げてきた」
昭恵さんの被害者意見を代理人が陳述した。
昭恵さんはその中で、安倍氏の死後、各国首脳からのメッセージが届き、葬儀にも大勢の人が出席したことを挙げ、「(裁判を通して)夫が日本と日本国民のために尽くし、世界平和のために人生を捧げてきたことを実感しました」などとした。
事件については、「夫以外に弾丸が当たらなかったことは幸いでした」とし、「どんな態度、どんな表情、どんな気持ちで夫の命を奪ったのか、私の目、耳で確認したいと思って被害者参加制度を利用しました」などとした。
夫を亡くした心情としては、「みなさんは政治家・安倍晋三が亡くなったことを惜しんでくださいますが、私にとっては、政治家であるとともに、かけがえのないたった一人の家族を失いました。この喪失感を一生受け入れることはありません」とする一方、「夫の死が悲しくても、憎しみや悲しみなどの負の感情を持ちたくないと、感情を俯瞰(ふかん)しながら生きてきました」という。
山上被告に向けては、「自分のしたことを正面から受け止め、罪を償うことに努めるようにしてください」とした。
13:05
黒のシャツとズボン姿で入廷
山上被告が黒い長袖シャツとズボン姿で入廷。この日の公判が始まった。
安倍氏の妻、昭恵さんの代理人による、被害者意見の陳述が始まった。昭恵さんは出廷しなかった。
11:45
「最後に被告の口から語るのを聞きたかった」
東京都の女性(47)は、どのような求刑になるのか、山上被告が何を言うのかに興味があり、夜行バスで奈良を訪れた。
傍聴券の抽選に並ぶのは2回目。山上被告と同世代で、就職氷河期を経験し、共通点もあると感じていた。ただ、「殺人は許されることではない」と話す。
抽選に外れ、「倍率が高いのでしかたないが、犯行にはどんな理由があったのか、あらためて最後に被告の口から語るのを聞きたかった」と話した。
奈良地裁によると、この日は一般傍聴席31に対し、傍聴希望者は498人だった。
これまでのポイント
これまで14回の公判では、計12人の証人尋問があった。
検察側の証人として出廷した警察官は、手製銃の弾道から「他の人に当たる可能性もあった」と危険性を強調した。
弁護側では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信した母親が証人となり、「献金することで家庭がよくなると信じていた」と証言。妹も出廷して「教団に家庭を壊された」と語り、過酷な家庭環境を明かした。
被告は5回にわたる被告人質問で、2015年に兄が自殺してからも母親が信仰を続けたことが、教団幹部の「襲撃」を決めたきっかけだったと説明。コロナ禍で幹部の来日が見通せず、「政治との関わりの中心」と思えた安倍氏に狙いを移した、と話した。
ただ、安倍氏を狙うことは「本筋ではない」とし、殺害は「間違いだった」と話した。遺族には「私も肉親を亡くした経験があり、弁解の余地はない。非常に申し訳ない」と謝罪した。
量刑をめぐっては、被告の生い立ちをどう考慮するか、検察と弁護側で意見が分かれる。検察側は「身勝手な動機」を重く見るべきで、「過度に考慮すべきでない」と主張。一方、弁護側は生い立ちが動機に密接に関わるとして、十分に考慮すべきだと訴えている。
元検事が注目のポイント
元検事の亀井正貴弁護士の話 公選法違反の罪に問われず典型的な政治テロとは言えない事件で、長崎市長の事件も参考にすれば、死刑求刑は難しいのではないか。かつての検察には「控訴審でひっくり返っても」と高い求刑をする発想があり得たが、近年は違ってきている。ただ非常に危険な犯行であることは事実で、教団幹部から標的を安倍氏に変えたという経緯にも「人命軽視」の傾向が見えてしまい、有期刑を求めるとも思えない。
一方の弁護側は安倍氏と教団の親和的な関係をうまく立証している印象だ。事案の重大性に鑑みれば、懲役20年以上の有期刑は求めるだろうが、青年期までの不遇な生い立ちから量刑を軽くするかは評価の分かれるところだ。大きなポイントは、一般の聴衆もいる場で手製銃を撃った危険性をどこまで重くみるかではないか。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
安倍晋三元首相銃撃事件
2022年の安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告の裁判が始まりました。旧統一教会の影響をめぐる検察と弁護団の対立などから公判前整理手続きが長期化し、初公判まで3年余りを要しました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]