ブエナ「年上が好きだなんて、こんなのずるいよ……っ」

  • 1◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:16:22

     その違和感は、トレーナー室に入るや否や襲いかかってきた。

     明かりのついていないトレーナー室に、念のためノックしてから入った時だった。
     お兄ちゃ──トレーナーさんの姿はまだない。
     そのコトに少しだけ気落ちした次の瞬間に、得体のしれない感覚に襲われる。

     それは焦燥感を伴う寒気。
     レース中に仕掛けどころを誤ったと察した時と同じような感覚。

    「ふぅ……ふぅ……」

     導かれるように足が勝手に動き出す。
     まるで夢の中のように自分で自分の行動を決められない。
     そして奇妙な確信があった。
     これから向かう先に、違和感の正体があるのだと。

     向かった先は机の横に置かれているカバンだった。
     見覚えのある、見慣れたカバン。お兄ちゃんのカバンだ。
     カバンに手を伸ばしかけて──そこで我に返る。

    「私は……いったい何を」

  • 2◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:17:35

     違和感の正体がカバンの中にあると思い込んで、断りなく中を見ようとした?
     そんなコトをしたらお兄ちゃんは──怒らないだろうけど、悲しむよ、きっと。
     私だってお兄ちゃんにカバンの中を見られたら、お兄ちゃんの名前を書いた消しゴムがあるから困るのに、私ったら。

     これは、いけないコトだ。
     いくら私とお兄ちゃんの仲でも許されないコトだ。
     それなのに──

    「ふぅ……ふぅ……」

     目の前のカバンを見ていくうちに、焦燥感と寒気が耐えられないほどに強まっていく。

    「……ごめんなさい、お兄ちゃん」

     この場にいないお兄ちゃんに謝りながらカバンを開く。
     そして──焦燥感と寒気の正体を見つけてしまった。

    「これ……これって!」

     それは一冊の本。
     A3サイズの表紙には、一人の女性が大きく写されていた。
     女性は大胆な水着をつけていて、深々とした胸の谷間を強調している。
     女性の年齢は多分25歳ぐらいかな。

    「……ずるいよ」

  • 3◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:18:55

     グラビアアイドルの写真集を持つ手が震えてしまう。
     男の人が、こういうのが好きってコトは知ってるよ?

    「こんなの……ずるいよ」

     勝手にカバンの中身を見て、その中にあった物を非難するなんてよくない。
     そんなコトわかっているのに、私の震えはおさまらない。

     お兄ちゃんの年齢を考えたら少し年上の女性に惹かれるのは、きっと健全なはず。
     少なくとも未成年の学生を、そういう目で見るよりかはきっと健全なんだ。

     それでも、それなのに、私の口からは──

    「年上が好きだなんて、こんなのずるいよ……っ」

     お兄ちゃんへの非難があふれ出していた。

  • 4◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:21:01

     ふと、小学生の頃を思い出す。
     下校途中の私は、お兄ちゃんの後ろ姿を見かけたから急いで駆け出した。
     そして学ランのお兄ちゃんと、セーラー服のお姉さんが仲良く話しながら歩いているのを見てしまった。

     まだ幼かった私は、お兄ちゃんに我がままで──今よりも素直だった。
     だから私は後ろからお兄ちゃんに飛びつき、強引に二人の間に入って邪魔ができた。

     じゃあ今は、どうすればいいんだろう。
     勝手に見たカバンの中にあった写真集を突きつけて、こんなモノじゃなくて私を見てだなんて──

    「言えるわけないよぉ……」

     そんな身勝手な我がままは言えない。
     幼い頃のように好意をそのままぶつけるコトなんて、恥ずかしくって、怖くって、できやしない。

    「……どうしたらいいのかな?」

     手の中にある写真集をこのままカバンに戻し、見なかったコトにしようか?
     そして普段の日常に──お兄ちゃんの好みは年上なんだよねってモヤモヤした想いを抱えながら……戻れる?

     自問自答をしていると、トレーナー室に近づいてくる革靴の音が聞こえてきた。
     きっとお兄ちゃんだ。
     コツコツと近づいてくる音が、私に決断を迫ってくる。

    「…………………………よし」

  • 5◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:23:15

     覚悟は決めた。
     私はもう、幼くはない。
     でも大人でもないから、我慢できない。
     私はそっと写真集を置いて、ソファの定位置に座った。

    「ごめんブエナ、待たせたかな?」

    「ううん、ついさっき来たばかり」

     お兄ちゃんにどんな顔を見せればいいのか、どんな顔をしてしまうのかわからなかった。
     それなのにいざお兄ちゃんと顔を合わせると、自分でも驚くほど普段通りの笑顔が出てくる。

    「確か資料はこっちに──え?」

     机に向かったお兄ちゃんの動きが止まる。
     何故なら机の中央には、私が置いたばかりの写真集が置いてあるのだから。

    「どうしたの、トレーナーさん?」

     おくびにも出さずに、でも心臓を高鳴らせながら聞いてみる。
     エッチな写真集を学校に持ち込んでしまって、それをよりにもよって担当ウマ娘に知られたかもしれないんだ。
     お兄ちゃんはどんな反応をするのかな?
     恥ずかしそうに言い訳をするのだろうか、それとも──これは気の迷いで、こんな物は二度と持たないって……反省してくれるかな?

  • 6◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:24:48

     ソファに座りながら、こっそりと横目で見ていたお兄ちゃんの反応はというと──

    「これは確かあの時の……他のと一緒に机に出したかな?」

     心底不思議そうな、そういえばこんなのもあったなという反応だった。

    「その写真集、トレーナーさんの物なの?」

     あまりにも予想外な反応に、様子を見るのをつい忘れて聞いてしまう。

    「う~ん、借りたというか、押し付けられたというか」

     そう言いながらお兄ちゃんは、ブエナにはちょっと早いから見ちゃダメだよと写真集をカバンに戻した。
     その口ぶりも、戻す動作も自然体で、やましさは少しも見られない。
     ……正直、もっと慌てた反応を見たかった。
     身近な女性にエッチな物を持っていると知られたのだから、慌てながら取りつくろってほしい。
     これじゃあまるで、年の離れた妹を相手にしているみたいだ。

    「押し付けられた?」

     不満はあったけど、話の内容が気になったので続きを促してみる。

  • 7◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:27:22

    「名前は伏せるけど、ちょっと普段とは違った様子で『これを君に託す。お守りだと思って持ち歩くんだ。ちょっと年上の、ヒトミミの女性が好みだと思われなさい』って」

    「え、何それ?」

    「何なんだろうね。でも静かなのに妙な気迫をもって言われたから、とりあえずカバンに入れておいたんだ」

    「な、何だか変わった人だね」

    「普段は良い人なんだけどなあ」

     いったい何が目的か知らないけど、どうしてお兄ちゃんを年上好きだと勘違いさせようと──

    「──────────あ」

     私がお兄ちゃんを好きだってコトを、知られちゃってるんだ。
     だから私にお兄ちゃんとの距離を置かせようと、あんな物を持たせたんだ。

    「と、トレーナーさん」

    「うん?」

    「その人は……男の人?」

  • 8二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 12:28:32

    この卑しか女いつもお兄ちゃんのエロ本漁ってんな

  • 9◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:29:04

     男の人なら、指導者と未成年の学生にしては、距離が近すぎるって心配したのかもしれない。
     でも女の人なら、お兄ちゃんを狙って私たちの仲を壊そうとした可能性だってある。
     お兄ちゃんは自覚が無いだけで、けっこう女の人に狙われている。
     もしかしたら、写真集を持たせた人はそういった意図を持つ女性の可能性が──

    「いや、男だよ。
     女の人に水着の写真集なんて渡されたらビックリだよ。
     男でもビックリしたけど、女の人からだったらビックリどころじゃないよ」

    「そっかあ! 良かった!」

     本当に良かった!
     こんな悲しいマネをするぐらい本気でお兄ちゃんを狙っている人がいなくて!

    「ブエナ……?」

     お兄ちゃんは私の喜びように、不思議そうな顔をする。
     ……なんだか安心したら、お兄ちゃんの態度に少し腹が立ってきた。

     他の人が察してしまうほど、私からお兄ちゃんへの好意は明らかなのに。
     お兄ちゃんが年上好きだと勘違いして、私がたくさん思い悩んだのに。

     だから、ちょっとだけイタズラをしても……いいよね?

    「それにしてもさっきの写真の女性、すっごく大胆な水着だったよね。
     ……トレーナーさんは、ああいうの好きなの?」

    「……っ!?」

  • 10◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:31:10

     お兄ちゃんの平静な態度が一気に崩れた。
     私から──妹同然の相手から、こんなコトを聞かれるなんて夢にも思わなかったの?

    「いやっ……アレは、俺の好みじゃなくって……ただお守りにしただけで」

    「じゃあ嫌いなんだ、ああいう水着」

    「べ、別に嫌いってわけじゃ……」

     へぇ、ふ~ん。
     むしろ好きなんだね、ビキニ。

    「私も今度の夏、ああいう水着にしちゃおうかな?」

    「ブ、ブエナには早すぎる!」

     その瞬間、お兄ちゃんの背後には何故かお父さんの姿も一緒に見えた。
     あくまでお兄ちゃんとしての反応に、私のイタズラも加速する。

  • 11二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 12:32:19

    お兄ちゃんを狙ってる男がいてもいいダルルォ!?
    ノンケかどうか探りを入れるために写真集を渡したんだ…

  • 12◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:33:11

    「じゃあスぺさんみたいな水着なら良いよね?」

    「す、スぺの水着もけっこう大胆じゃなかったっけ?」

     お兄ちゃんの顔は、まるでこの世の終わりみたいだった。

    「あは、あははははははっ」

    「ぶ、ブエナ~」

     うん、私の水着姿を想像してドキドキしてくれなかったけど、こんなにも右往左往してくれたのならいいや。
     笑いすぎて涙が出てきたから、今日はこのぐらいで許してあげる。
     でもね──

    「じゃあトレーナーさんが選んでね」

    「え?」

     冬が終わって、夏を考える時期になったら──

    「私に着せたい水着を、トレーナーさんが選んでね」

     その時は容赦しないから!



    ~おしまい~

  • 13◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:34:11
  • 14◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:56:15

     お兄ちゃんは絶望した。
     自分は人面獣心の畜生であると。

     お兄ちゃんは童貞である。
     以前は童貞を早く捨てたいと毎日のように思っていた。
     思っていたクセにうまぴょい店に行きはしなかった。
     そういったお店に行くのが怖かったのと、初めてはちゃんと運命的な出会いをした相手としたいと願っていたからである。
     そういうところだぞ。

     そんなお兄ちゃんであったが、今は童貞を捨てるわけにはいかないと日々戦っていた。
     今、童貞を捨てたいと願ってしまえば、穴の開いた堤防のようにため込んだ煩悩があふれ出すからだ。

     お兄ちゃんは童貞であると同時にトレーナーであった。
     トレーナーなので担当しているウマ娘がいる。
     その名はカレンチャンといった。

     新人とはいえお兄ちゃんは正式な教育を受けたトレーナーなので、年頃のウマ娘との距離感には注意している。
     加えて童貞なので、もちろん若い女の子との距離感はおっかなびっくりだ。
     二重の意味で安全といえよう。
     その安全な距離感を、やすやすと破壊したのがカレンチャンのカワイイである。

     お兄ちゃんは童貞である。
     童貞なので、ちょっとでもカワイイなと思う相手に優しくされたら簡単に好きになる。
     ではそんな童貞が、ちょっとどころじゃないカワイイウマ娘に、あからさまな好意をもって接せられたらどうなるか。

     死である。

  • 15二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 12:57:32

    童貞な方のお兄ちゃんが何したってんだ、おもろいからええか

  • 16◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 12:58:04

     お兄ちゃんが受けたカワイイは、既に童貞の致死量を超えていた。
     トレーナー養成機関で授かった鋼の意志を、バグじみた回数発動させるコトでかろうじて耐えている状態である。

     担当契約一年目は、まだ耐えられた。
     童貞という生き物は女の子にちょっと優しくされただけで「あ、この子俺に気があるんじゃないか?」という勘違いをしてしまい、そのまま早とちりをして生まれたトラウマを一つや二つ抱えている。
     そのトラウマが女の子との接し方を臆病にさせ、鋼の意志の発動回数を強化した。

     担当契約二年目は、もうだいぶヤバかった。
     カレンからの好意が勘違いなら、この世に信じられるモノがはたしてあるのだろうかと思うほどの、圧倒的なカワイイの物量攻撃。
     カレンと過ごす日常は、毎日ドキドキして、ワクワクして、振り回されて、拗ねられて、感謝したりされたりで──一生続いて欲しいと思うほど幸せな日々だった。
     そして一生続ける方法を選んでしまいたいと、悶々《もんもん》とした日々も続いていく。
     
     担当契約三年目となる現在は、臨界点スレスレであった。
     毎日のように顔を合わせているのに、カレンの姿を見るだけで胸がときめく。カレンの一挙一動に目が奪われる。
     一緒に過ごした日々に比例するように、カレンへの想いが強まっている。

     お兄ちゃんの理性は、きっと、とうの昔に死んでしまったのだろう。
     何故なら、もう耐えられるラインをとうの昔に踏み越えているのだから。
     それでも理性があるように振る舞えているのは、それだけカレンが大切だから。

  • 17◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:00:10

     大切なカワイイカレンを、自分なんかが汚すわけにはいかないと。
     カレンの自分への想いは確かに本当なのかもしれないけど、それはまだ少女であるカレンにとっては本当というだけに過ぎない。
     学園を卒業して、今よりも広い視野に立てば、カレンが本当に愛すべき相手と出会え──────────いやだ。

    「そんなの嫌だ!!
     カレンに男ができるなんて……!!
     一生俺だけを想っててほしい!!
     学園を卒業した後もしばらく……10年以上は引きずっててほしい!!」

     ……このようにお兄ちゃんの理性は、とうの昔に死んだり生き返ったり、そして死ぬを繰り返している。
     死と再生の輪廻は、確実にお兄ちゃんの理性を削り取っていき、ついに“それ”は起きた。

     お兄ちゃんはカレンに間違いを起こさないように、定期的にそろぴょいをしていた。
     そろぴょいに使わせていただく相手は必ず年上と決めている。
     妹モノはどれだけお気に入りでも、血の涙を流しながら廃棄済みだ。

     その日も年上のお姉さんにお世話してもらおうとした。
     しかし不思議なコトに、画面に写っているのはお姉さんなのに──カレンの姿が重なって見えたのだ。
     慌てて目を閉じると、今度はカレンが艶やかな声をあげる幻聴が聞こえてくる。
     お兄ちゃんは悲鳴をあげながら動画を閉じた。

  • 18二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 13:01:25

    唐突なホラーやめろ

  • 19◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:02:38

     お兄ちゃんはその夜、カレンを妄想で穢してしまったと泣きじゃくり、泣き疲れて眠りについたのは夜明け頃であった。
     その日を境にお兄ちゃんは、そろぴょいでぴょい欲を発散できなくなってしまった。

     お兄ちゃんは若い童貞である。
     そんな日々が続けば、当然あるコトが起きてしまう。
     夢ぴょいである。

     夢の中でお兄ちゃんは、カレンと出会った。
     夢の中でお兄ちゃんがカレンとナニをしたかは語るまい。
     まあ夢というモノは、往々にして欲望に素直なモノであるとだけ言っておこうか。

     明くる朝、お兄ちゃんは絶望した。
     まず最初に、夢の中とはいえ耐えきれずに大切なカレンへ、カワイくないコトをしてしまった罪悪感に襲われた。
     次いで、下半身に妙な感触があるコトに気がつき青ざめた。
     そこには因子周回であったならば狂喜乱舞できるほど大量の白因子が飛び出ていた。
     長い童貞歴でも経験がないほどの量に、お兄ちゃんはカレンに謝りながらパンツを洗った。

     今日は休もうかとも思ったけど、自分のせいでカレンのトレーニングに支障をきたすわけにはいかない。
     さんさんと輝く朝日に糾弾されているような気分になりながら、お兄ちゃんはふらふらと出勤するのであった。

  • 20◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:04:52

    「お、お兄ちゃん!?
     どうしたの、顔が真っ青だよ!」

     やめてくれ、俺を心配なんかしないでくれ。
     こんな下衆が、君みたいなウマ娘に心配されていいわけないんだ。

     などと口にできるわけがなく──口にすればさらなる説明が必要となり、カレンの耳を穢してしまう。
     童貞ができるコトなど、俺も鏡を見た時は驚いたけど、別に体調自体は問題ないよと誤魔化すのみ。
     その誤魔化しも、心配そうなカレンの目を見ながら言えるはずがない。
     それどころかその日は、夕日が沈む時間になってもカレンと目を合わせるコトはできなかった。

     お疲れさまでしたとカレンが別れの挨拶をして、ドアを閉じる音がする。
     カレンを直視できなかった童貞は、ようやく顔を上げて、深々とため息をついた。

     こんなんじゃダメだ。
     気持ちをしっかり切り替え、明日からはちゃんとカレンの練習を見てあげないと。
     そう決意した瞬間だった。

    「ねえ、お兄ちゃん」

     部屋を出たと思っていたカレンが、後ろから肩に手を置く。
     椅子に座ったままのお兄ちゃんの耳元に、そっと囁いた。

    「夢の中だけでいいの?」

    「~~~~~っっっ」

  • 21◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:07:17

     部屋を出たと思っていたところへの不意打ち。
     お兄ちゃんの動揺は手に取るようにわかったのだろう。
     あ、やっぱりそうだったんだと、カレンは嬉しそうに鈴を転がすような声で笑った。

     一方のお兄ちゃんにとっては笑うどころの事態ではない。
     一瞬で生汗が吹き出て、カレンに嫌われてしまったと体が震えだす。

    「大丈夫だよ、お兄ちゃん。
     カレンはこんなコトで、お兄ちゃんを嫌ったりしないから」

    「あ、ああ……」

     震えるお兄ちゃんを暖めるように、カレンはお兄ちゃんの首元にしなだれかかる。
     柔らかい感触と、甘い匂いがお兄ちゃんの脳髄を溶かしにかかる。

    「ね、お兄ちゃん。
     ──────────しようよ」

     お兄ちゃんは童貞である。
     これに耐えられる童貞はいない。
     ああ、お兄ちゃんの童貞はここでいただかれてしまうのだろうか!?

    「あ、ああ……っ」

    「……お兄ちゃん?」

  • 22◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:09:49

     しかしよく考えていただきたい。
     お兄ちゃんは既に、童貞ならば耐えられないカレンの誘惑に耐え続けている。
     この「もう折れてしまっても仕方ないよ。お前はよくやったよ」と言われる状況であっても、それは変わりはしないのだ!

    「アアアアアアアァァァッッん!!」

     お兄ちゃんは血の涙を流すと、奇声をあげながら部屋を飛び出た。
     それは人間とは思えないほどの速さであった。
     前かがみとは思えない速さでもあった。

    「…………………………ご、ごめんなさいお兄ちゃん」

     一人だけになった部屋で、カレンがうつむいて童貞に謝った。
     お兄ちゃんが自分で夢ぴょいした可能性に気がつき、それが確信となった瞬間にカレンも掛かってしまったのだ。
     お兄ちゃんの強い責任感と、童貞の繊細な心への配慮が足りていなかった。

     一方のお兄ちゃんはというと、泣きながら夜の府中を走っていた。
     尋常ではない様子に女子供は怯え、身に覚えがある男たちは見て見ぬふりをしてあげた。
     今はそうではなくても、誰もが童貞だった時期は確かにあるのだから。

  • 23二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 13:11:10

    見に覚えのある男たち(同僚)やめろ、絶対何人かネームドの奴ら紛れてるだろそれ

  • 24◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:11:58

    「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

     心臓が破れる寸前まで走ったお兄ちゃんは、足をもつれさせながら芝生に倒れ込む。
     仰向けで息を荒げるお兄ちゃんは、夜空に輝く星々をしばらく呆然と見上げた。

    「綺麗だな……俺と違って」

     お兄ちゃんは絶望していた。
     自分は人面獣心の畜生であると。

     もはや長くないコトを、深い悲しみと共に悟っていた。
     深く悲しむ一方で、これだけ我慢したからいいじゃん、うまぴょいしようぜという喜びが確かにあった。
     まさに畜生の心だと自嘲する。

    「ああ、でも……」

     こんな自分だけど、トレーナーとしての良心は確かにあったはずなんだ。
     今もほんの少しだけど残っている。
     この良心まで穢れてしまう前に、誰かに託しておきたい。

    「じゃあね、お兄ちゃ──じゃなくてトレーナーさん!」

     お兄ちゃんという響きに、一瞬体が震えた。
     しかしカレンの声ではない。
     声の方を向けば、寮の前で別れる二人がいた。
     どうやらガムシャラに走った結果、知らず知らずのうちにウマ娘寮の前で倒れてしまったようだ。
     倒れた場所が暗がりでなければ通報されていたかもしれない。

  • 25◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:13:29

    「彼は……そうか、ブエトレ君は、ブエナちゃんと幼馴染なんだっけ」

     普段はトレーナーさんと呼ばれているけれど、つい昔のようにお兄ちゃんと呼んでしまうコトもあるのだろう。
     そんなコトを考えながら、立ち去ろうとするブエトレを眺める。
     まだ若く情熱にあふれ、担当するウマ娘を第一に考えるその新人トレーナーを見て、2年前の自分もああだっただろうかと、おこがましくも比べてしまう。

     彼に限ってそんなコトはないだろうけど、トレーナーと別れる際のブエナビスタの顔を思い出す。
     一緒にいられて嬉しかったという気持ちと、ここで別れることの寂しさを誤魔化すような元気で明るい声。

    「……」

     まことに勝手ながら、俺に残された良心を託させてもらおう。

    「やあ、ブエトレ君!」



    ~Happy End~

  • 26二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 13:14:55

    ハッピーエンドじゃないんだわ、お前のせいか童貞バレンタインZEROスケスケ大好きお兄ちゃん

  • 27◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:15:17

    最後まで読んでいただきありがとうございました。


    ブエナシナリオの感想は

    「師範代助けて、俺この娘好きになっちまう」

    「止めてくれサイゲ。妹系幼馴染は俺に効く。止めてくれ」です。


    しばらく試験勉強と、その後に転居を伴う異動がありそうなので次の投稿はしばらく先になりそうです。

    とはいっても、このSSは一日で書いたので気が向いたらポンッと投稿するかもしれません。


    それではさようなら。



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  • 28二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 13:17:46

    カレンのスレで見かけた時から待ってたぜ!!面白かった!!

  • 29◆SbXzuGhlwpak25/12/06(土) 13:22:12
  • 30二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 19:41:45

    童貞の人の新作だ!
    カレトレのムーブがキモい…もとい可哀想すぎて初めのブエトレの方の話が脳内からすっ飛んだレベルだった

    余談だけど、夢ぴょいしたのかカマかけちゃだめだよカレンチャン…場合によってはお兄ちゃん白装束に着替えて腹切っていたかもしれんぞ

  • 31二次元好きの匿名さん25/12/06(土) 20:46:55

    お前たちウマ娘は本当にしつこい
    口を開けば年上好きはずるい、担当ならペチャパイでも愛せ
    お前たちは担当契約を結んでいるだけなのだから、恋愛は契約外だろう





    終身契約だとォ!?

  • 32二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 00:55:45

    すげえおもしろかった

  • 33二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 00:58:04

    余命宣告されている童貞なだけマシなのでは?

  • 34二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 01:13:58

    精神崩壊したお兄ちゃん(童)の策略であったか

  • 35二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 10:02:36

    お兄ちゃんはどのみち食われる

  • 36二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 10:12:00

    ここまで面白いSSは久々にみた
    いい休日になった

  • 37二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 11:11:41

    童のお兄ちゃんに目がいっていたが見返してみたら、違和感を覚えただけで鞄の中の本に一直線でたどり着いたブエナもやべーやつなのでは?

  • 38二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 11:14:55

    本当に年上好きだとしてもたきえもんに頼んでショタなお兄ちゃんにしたらええんでない?(雑解決

  • 39二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 12:30:11

    >>37

    え、標準的なウマ娘の反応じゃないの?

  • 40二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 16:37:12

    お兄ちゃん(童)がちょっと面白すぎる

  • 41二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 17:11:14

    そうつながるのか…

  • 42二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 17:31:08

    お兄ちゃんは観念した方がいいと思うよ

  • 43二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 17:52:06

    >>42

    どっちのことだ?いや両方か…

  • 44二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 20:40:18

    ブエナSSをよそおった童貞SSじゃねえか!!

  • 45二次元好きの匿名さん25/12/07(日) 21:38:57

    >>39

    他人から押し付けられた水着の本でも、自分の恋路の邪魔になる可能性があるなら視認する前に部屋に漂う違和感から場所すら特定できるのが標準的なウマ娘のスキルとか、怖いよ・・・

  • 46二次元好きの匿名さん25/12/08(月) 07:36:02

    うむうむ

  • 47二次元好きの匿名さん25/12/08(月) 10:01:42

    人に渡すから18禁でなくちゃんと水着グラビア写真集レベルなのが、実に童のお兄ちゃんらしい

  • 48二次元好きの匿名さん25/12/08(月) 18:53:05

    >>47

    お兄ちゃん18禁の本買ったことない説

  • 49二次元好きの匿名さん25/12/08(月) 18:53:21

    >>45

    童貞の人の過去作品と比べればまだ穏便なんだ

    スティルだったら同じようにすぐ違和感に気づいて、そしてパッドつける

  • 50二次元好きの匿名さん25/12/08(月) 23:27:00

    >>48

    お兄ちゃんピュアピュアすぎんだろ・・・

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