コメ増産巡り秋田県へ「圧力」 農水省、交付金削減示唆 佐竹前知事ら証言【独自】

連載:コメ政策 秋田から問う
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取材に応じる佐竹前知事
取材に応じる佐竹前知事

 農林水産省が2023年、国内有数のコメ産地である秋田県に対し、交付金の削減を示唆し、コメを増産しないよう要求していたことが分かった。佐竹敬久前知事や県関係者が秋田魁新報の取材に証言した。政府はコメ生産を抑制する「減反」を18年に廃止し、産地が生産量を判断する仕組みに移行したとしてきたが、減反廃止は名ばかりだったことが浮き彫りとなった。

 農水省が米価下落を防ごうとコメ生産を抑制する姿勢を続ける中、24年夏にはコメが店頭から消え、高騰する「令和の米騒動」が起きた。県にコメを増産しないよう要求したことからはコメ政策の失政ぶりも浮かび上がる。

 県関係者によると、農水省がコメを増産しないよう要求したのは、23年産米についてだった。県側は圧力と感じ、24年産米の「生産の目安」にも影響を及ぼした。

 県や農業団体などでつくる県農業再生協議会は22年11月、農家らがコメ作りの参考にする県全体の生産の目安を39万8700トンに設定。22年産の目安と比べると2・5%多かった。不作に見舞われた22年産の実際の生産量と比べると4・2%増だった。

 これに対し、農水省農産局の幹部は23年1月から3月ごろにかけて、少なくとも2度にわたり県幹部に電話。目安の量を増やしたことを問題視する内容で、県農業再生協議会の会議を再び開き、目安を決め直すよう求めた。コメの生産が拡大した場合には、転作に関する交付金を減らすとも告げたという。ただ、県は当初決めた目安を変更しなかった。

 24年産米についても、農水省は県に対し、生産を抑えるよう求めていた。

 県産米の在庫に不足感が生じたことから、県は23年夏、24年産米を増産してもいいか農水省農産局に尋ねた。以前電話してきた幹部とは別の農水省の担当者が応じ、コメが余って米価が下がることに懸念を示したという。県は農水省の意向に沿う形で関係機関と協議し、23年産と同水準の目安を決めた。

 25年4月まで知事を4期16年務めた佐竹敬久前知事のもとには減反が廃止された18年以降も、農水省東北農政局長が訪れ、生産抑制に協力を依頼していくことがあったという。

 佐竹前知事は「農水省から年間数百億円の補助金をもらっている県とすれば、農水省の言うことには従わざるを得ない。暗黙の圧力がある」と話している。

 コメの需給調整を担当する農水省農産局水田農業対策室は「当時の経緯については、分からない」としている。

 当時の農水省農産局の幹部は秋田県に電話したことは認めつつ、「秋田に限らず『需要に応じた生産』をやっていこうという話を各県の担当者としている。秋田に特別、圧力をかけたということはない」と話した。

減反 主食用米の生産を政府主導で抑制する政策。食糧管理(食管)制度の下でコメ余りによる政府の財政負担が問題となり、1970年以降に本格化した。都道府県ごとに生産目標を割り当て、転作奨励金を用意。自治体による指導などを通じ、農家の生産を抑えた。95年の食管制度廃止以降、米価維持が目的として強調されるようになった。2018年の「減反廃止」で目標配分はなくなった。ただ、その後も政府が示す国全体の需給見通しを基に、各県は「生産の目安」を策定。個々の農家まで目安が割り当てられるケースもある。政府が減反廃止を見据え、飼料用米などへの多額の交付金制度を設けたこともあり、事実上の減反が続いていると指摘されてきた。

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