大河ドラマ「べらぼう」で、伝説の名跡を継ぎ“五代目瀬川”となった花魁(おいらん)・花の井。吉原再興を願う蔦重に寄り添い、同じ夢に向かって歩んできた幼なじみ。演じる小芝風花さんに初の花魁役に挑む日々、「べらぼう」での出会いなどについて伺いました。
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複雑な思いで演じた花嫁衣装で歩む花魁道中
瀬川の身請けを蔦重に引き留められたシーンは、とても心に残っています。2人でいるときはいつも少しくだけた話し方をしていた瀬川が、検校をほめるところは「鳥山様はすてきな方でござんすよ」とあえて廓(くるわ)言葉。本心を隠しながらの会話だからなんですよね。そんな自分の苦しさやつらさを見せてこなかった瀬川が初めて蔦重に言い返すところは大事に演じたいと思いました。
そして、まさかの「俺がおまえを幸せにしてぇの」。この人の口からそんな言葉が出るとはという驚きと変化。でも幼なじみで男同士がけんかするようにぶつかり合ってきた2人なので、思いが通じ合ったからといってすぐに甘いモードにはならない(笑)。そんな関係性を出せたらと監督に相談して「心変わりなんかしないだろうね!」と言いながら蔦重の胸ぐらをつかんだんです。みんなでアイデアを出し合いながらていねいに作り上げたシーンでした。
いよいよ吉原を去る日の花嫁姿で歩む花魁道中。大門を堂々と出て行くというのは女郎たちにとっては数少ない希望ですが、瀬川にとってはここを出たら二度と蔦重に会えない。本来うれしいはずのものがお別れの道中になるというのは、やはり演じていても苦しかったです。
町に向かって「おさらばえ」と頭を下げるところでも最初は蔦重と目を合わせるはずでしたが、出て行けなくなりそうで見られなかったですね。大門を出て見上げたとき、蔦重への思いに蓋(ふた)をしてこれからは検校の妻として生きていく。瀬川にとって本当の意味での区切りの門になりました。
結ばれないと知りながら支える
女郎といえば華やかで色っぽいというイメージだったのですが、花の井は男まさりとまでは言わないけれどカラッとした勝ち気な女性でした。第一回で描かれた朝顔姐(ねえ)さんの悲惨な最期はとてもショッキングでしたが、病気などで稼げなくなった女郎は捨てられてしまうというのが現実です。苦しいけれど悲観してばかりいるのではなく、それらすべてを飲み込んだうえで、それでも吉原で生きていく。強い覚悟を持った女性だと思います。
花の井がひそかに思いを寄せているのが幼なじみの蔦重です。蔦重は自分がこれだ!と思ったことには本当にまっすぐ。よこしまなものは一切なく、ただ単純に「いいもの、面白いものを作りたい」「吉原をよくしたい」という思いだけ。そのストレートなところが花の井としては放っておけない。彼が何か困っていたら力を貸してあげたいと思ってしまうんでしょうね。
吉原を女郎にとって少しでも良い環境にしたいというのは、花の井も同じです。だからこそ決して結ばれないと知りながら支えることができる。自分の気持ちを押し殺してでも助けたいという芯の強さを感じます。
あとに続く女郎たちのために
いちずでまっすぐな蔦重がいたからこそ、日々のつらいことも忘れてその光を頼りに生きてきた花の井ですが、蔦重は本当に鈍感。演じる横浜流星さんが、思わず「オレ(蔦重)、ダメだよね」と監督に言っていたほど(笑)。でも、鈍感なほどバカでまっすぐな男の人って憎らしくもあり愛(いと)おしいんだろうなって。一人の女性として男性に抱いている恋心や、それがかなわない苦しみなどを、台本ではとてもていねいに書いてくださっていて、花の井のことがすごく好きになりました。
五代目瀬川を襲名するという覚悟を決めたのも蔦重のため。できることなら一緒になりたい、身請けを蹴って2人で逃れることもできたかもしれない。それでも、やはり瀬川を継いだからにはあとに続く女郎たちのあこがれでありたい。身請けされ華やかに大門を出て行くのが女郎たちにとって数少ない幸せになれる道であり、目指せる場所です。それをきちんと守らなければいけないという責任感。好きな人と一緒になりたいという気持ちを抑えてでも貫き通せる強さが彼女の魅力で、カッコいいなと思います。
花魁のオンとオフを研究
花の井から瀬川に変わるときは、着物やかんざし、髪の形、メークまで、スタッフさんがすごく工夫して変化をつけてくださいました。花魁道中の八の字歩きも少し印象が変わるような歩き方を意識しました。掛けなど重い着物を身につけて高下駄をコントロールしながら歩くのは、自主練を重ねたとはいえやはり体力的にはかなりきつく、ふくらはぎが筋肉痛になったほど。でもカットがかかるたびに下駄を引きずった跡が均一な八の字になっているのを確認できてうれしかったです。
今回、花魁の役をいただいて、私に大人っぽさや色っぽい雰囲気を出せるのかと不安だったのですが、花魁としてお見世に出ている姿だけでなく、むしろ日常が描かれていたことでほっとしました。
女郎は昼見世、夜見世もあり万年寝不足なのでオフのときまできれいにしてはいられない。少し重心を崩したような座り方などいろいろ研究しました。
口調もオンとオフではがらりと変えています。とくに蔦重といるときは幼なじみならではの何も飾らない感じが出たらいいなと工夫しました。すっぴんを見られている感覚でちょっと気恥ずかしさもありましたけどね。
蔦重の夢にワクワク
オフを演じたことで気づいたこともありました。花の井が本を好きなのは、決して出ることのできない外の世界を知ることができるから。本を読んでいる時間だけはたとえ作り話でも唯一その世界に浸れる。だからあんなに本が好きなんだなって。
今よりはるかに娯楽が少ない時代に面白い本を作りたい、もっと良くしたいと一人では成し遂げられないような大きな夢を抱く蔦重の存在は、花の井だけでなく、多くの人を巻き込んでいきますよね。敵も出てくるけれど苦戦しながらも諦めずに突き進んでいく蔦重の姿に感情移入したり、応援したくなったり。
自らの欲ではなく、みんなを豊かにしたいと思う蔦重だからこそ魅力的で、これからがいっそう楽しみ。ワクワクしながら撮影していました。
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