NHK公式【べらぼう】脚本を務めた森下佳子さんが、最終回を前に各話のこぼれ話を振り返ります。#大河べらぼう
べらぼう最終回「蔦重栄華乃夢噺」放送は12/14(日)。15分拡大版です。
第42回 招かれざる客
静かに密やかに蔦重と歌麿の関係が壊れていく回です。同時に定信の立ち位置も危うくなっていく。本人たちだけは知らぬところで……。裏の事情を知っていると「こいつらアホ」に見えるかもしれませんが、ま、私を含め、人ってそんなもんじゃないでしょうかね。この回一番驚いたのは、美人画に描かれたおきたちゃんの出すお茶の値段が十倍以上に跳ね上がったことでした。まぁ、今で言えばアイドルがお茶を出してくれるようなものですから、さもあらんですが……付加価値の威力ってホントにすごいなと思いました。この現象があったことを知ったおかげで、幕府が急に「名前入れるのダメ!」としたのはちょっと納得。そこここでこんなこと起こったら物価は跳ねあがる、質素倹約はどっかに行っちゃいますもんね。ちなみに、この寛政三美人のキャスティングはかなり難航しました。三美人、目の形や鼻の形それぞれ個性が違うんです。で「ああ、この娘を描いたら、こうなるわ!」って説得力が欲しかったので、私もPも探し回りました。そうそう、この回、私「だけ」にとって、めちゃめちゃ嬉しかったことが一つありました。それは……西村屋の二代目が歌麿にプレする企画、私が「こんな錦絵あったら面白いな」というものをずらずらっと出したんですが、「西村屋×歌麿という組み合わせではないけれど、後年こういうコンセプトで出された錦絵は全て存在しますよ」という考証メモが返ってきたこと。もう、一瞬天狗になっちゃいましたよね。私錦絵のプロデューサーの才能あんじゃない?って!!……どうでもいいですね。失礼いたしました。この回、実は今後の大きな展開を示唆する伏線がしれっと隠されています。ふふふ。
第43回 裏切りの恋歌
どんどんどんどんどん底回です!!もうみんな辛い、蔦重も歌麿もお貞さんも定信も……。この回やりたかったことは大きく2つで、蔦重と定信のどん底のタイミングを合わせること、そして、もう一つは蔦重と歌麿の最高傑作(と、私は思っている)『歌撰恋之部』を一種の恋文とすることでした。この絵は恋する女性の姿を描いたものなのですが、二人のタッグ作を並べてみたときに「異質だなぁ」と感じたんですよね。「狂歌絵本」、「相学」「看板娘」「女郎絵」「俄絵」、蔦重の企画って、絵を売るための保険をかけているというか「こうして売るんだ」と仕掛けがハッキリしている。それに比べるとこの『歌撰』は売るための仕掛けが見えない。保険をかけず、歌麿の絵だけで勝負してる……。版元印と絵師名の上下も版元上が2、絵師上が3とまぁ五分五分。その辺りに着目して、こういう仕立ての本編になりました。結構苦労したのは蔦重が残した走り書きの内容。もっと比喩を使ったりしたドラマチックなバージョンとかもあったんですけどね。「こりゃ蔦重の文章じゃねぇわ」ってクシャクシャポン。ちなみにこの回の台本配った時、みんなお貞さんも死んだと思って、Pは「このチームホントに鬼ですね!」と方々から言われたそうです。蔦重に至っては「まだ俺をドン底に突き落とすんですか……」と。当のお貞さんだけは自分が最終回まで出るのを知っているので、涼しい顔だったそうですけどね。あと一つ、どうでも良いことですが、定信、どうやって目を充血させるのか聞いてみたのですが、「体質」だそうです。
第44回 空飛ぶ源内
源内カムバーック!この回は源内伝説とお菓子を集めた回でした。まずはひょうきん者の一九が源内考案説のある相良凧を背負って登場。凧めちゃくちゃ大きいんですが、あれでも小さい方だそうです。一九の口上はガッツリ先生方に直しを入れていただきました。ありがたや。源内先生の絵は作りでいく手もあったのですが、調べてみると有名な「西洋婦人図」は後年は大阪にあったことが確認されているが、この時期はどこにあったか不明、ということで、ドラマのようにアレンジさせてもらいました。秋田のお菓子「もろこし」をとうもろこしと勘違いした監督が「秋田からたどり着くまで腐んないんですかね」と秀逸なボケをかましてくれたり、蔦重たちも、作っている私たちも元気になっていく、そんな回でした。でも、同時に、もっとも緊張した回でもありました。私、史実を大きく踏み外すことはしないんですよ。というか物を知らないもんで、史実を知るたびに「ええー!そうだったの!」「すごい!面白い!」ってなっちゃう性質、結果、割と従うことになってます。でもね、ここからの仇討ちはもう確信犯で史実を転がすことになる。「もう見てる人全員怒るかもしれない。怒られる覚悟はしておこう」そんな気持ちで送り出した回でした。実はこの「仇討ち」展開は企画当初からのものではなく、書いている最中にふっと「コレありなんじゃない?」と思いついたものなんです。でも、それをやるには「大河はエンタメなんだ!」というスタンスでガッツリ腹を括らなきゃならない。なもんで、私もPも決断を下すまでに結構時間がかかりました。二人して「どうする?やる?やらない?」って。で、「やるならどうしてもこれの伏線として入れなきゃいけないシーン」が入る回まで、つまりギリギリまで悩み続けた末、監督の「え?大河ってエンタメじゃなかったの?」という一言でようやく決心がついたのでした。