1. はじめに このドキュメントは、「ナウル共和国政府観光局(公式)」を名乗るXアカウント(以下、@nauru_japan)の運営形態と、そのポストの問題点について概略をまとめることを目的としたものです。著者は私的なものを除いてXアカウントを保有していませんが、紛争当事者のうち数名と友人関係にあります。 2. ナウル政府観光局日本事務所および@nauru_japanの運営者について 2.1. 公開情報から読み取れること @nauru_japanは、ナウル政府観光局日本事務所(以下、日本事務所)により運営されるアカウントです。ポストは基本的に日本語でおこなわれ、主に日本人ユーザーを対象として、オセアニアに位置する国家のひとつである、ナウルの広報をしています。2025年12月現在、同アカウントは58.8万人のフォロワーを抱えています。日本事務所は、2023年の時事通信の取材によれば「5人くらいのスタッフで運営して」いるものです[7]。また、2025年12月のポストでは「ナウル国民と日本国民の両者によって運営」されていることが明かされています[23]。一方で、時事通信のインタビューによれば、@nauru_japan自体は1人での運営です[7]。同アカウントが組織内部の1人によって運営されていることは、2025年以降にも@nauru_japanによって繰り返しポストされています[17][18]。 日本事務所は2020年10月1日、「ナウル共和国外務貿易省と国際交流機構の連携協定に基づき、ナウル観光公社の協力の下」設立されました[1][2]。国際交流機構(JIRO)は「小規模な駐日大使館の式典に、英語ができる大学職員や大学生を無償派遣したり、大使館活動を支援したり、大使館立ち上げに協力する団体」であり[3]、2021年時点で、日本事務所の代表者はJIROの副理事長(Deputy Director)であり、「日本でのナウル観光プロモーションの共同パートナー(co-partners the tourism promotion of Nauru in Japan)」と説明される芳賀達也氏でした。2021年のナウル政府広報によれば、その法的地位は「観光に関する了解覚書(tourism MoU)」により規定されていたようです[4]。当初、日本事務所の設置期限は(2020年10月から)3年と定められており、「2023年9月末日に閉鎖」されることが予定されていました[5]。しかし、「日本での反響を受け止めて」[8]、日本事務所の設置期限は(期限の設定は不明であるものの)延長されることとなりました[9]。芳賀氏は2025年現在も同事務所の所長を勤めています[19]。芳賀氏は、2025年7月に@nauru_japan名義で(当時は名義を明かさず)スペースに参加しています[20]。 @nauru_japanは2025年8月のポストで、日本事務所について「外務貿易省、観光局傘下の、日本でいう独立行政法人みたいなもの」、自らについて「ナウル共和国外務・貿易省の国家公務員」と説明しています[10][11]。一方で、同12月のポストでは@nauru_japanの法的地位について「数年前にナウル観光公社が組織改変されて、ナウル共和国国家遺産省に吸収されましたので、現在は国家遺産省がアカウントを管理しています」と述べています[12]。ナウル観光公社(Nauru Tourism Corporation)は2019年に設立された組織であり、当初大統領の所管となっていたものが[13]、2024年の国家遺産省(Minister for NationalHeritage, Culture,Tourism and Naoero Museum)新設を経て[16]、2025年より同省に移管されました[14][15]。なお、@nauru_japanは12月のポストで「ナウル観光公社は既に吸収合併されております」と述べていますが、公社自体は2025年のAdministrative Arrangement Orderを確認する限り今も国家遺産省の下部組織として存続しているはずであり、当該ポストのニュアンスについては判断しかねています。 @nauru_japanの経緯の詳細については、「(@nauru_japanの)中の人」がいくつかのインタビューで公言しています。2025年の東海テレビの取材によれば、「中の人」は「もともと太平洋全般の外交関係の仕事をしていまして、それでナウルの大統領の方とか、要人の方と仲良くさせてもらって」おり、「2020年に日本でナウル共和国政府観光局の立ち上げに参加し、費用の掛からないSNSを使って、国をPRしている」そうです[6]。また、2023年の時事通信の取材によれば、「『まずはお金を掛けないでできることからやろう』と始めたのがツイッター」であるそうです。 2.2. 解釈 以上が公開情報から読み取れる、本事務所および@nauru_japanの運営母体に関する情報です。時事通信のインタビューで述べられている通り、日本事務所が複数人からなる組織であることは事実と考えるべきですし、そのなかにナウル人がいることも12月のポストで述べられるとおりです。一方で、@nauru_japanのポストを投稿している人物は、先に触れた同アカウントのポスト、さらには「中の人」へのインタビューを考慮するに、ほとんど1人の担当者に集中していると考えられます。筆者は、この「担当者」が、ナウル政府観光局日本事務所の所長を務める芳賀達也氏その人であると考えます。このことは、@nauru_japan、あるいは芳賀氏がはっきりと認める事実ではありませんが、筆者はこれを「最良の説明への推論」であると考えています。 この推論を支持するもっとも強い証拠として、彼が個人アカウントにおいて、@nauru_japanのポストの一部(少なくとも、2025年7月のスペース開設)が自らによるものであることを認めていることがあります[20]。さらに、@nauru_japanは12月のポストでも同スペースについて当事者の立場から触れています[32]。また、これより弱い証拠として、2022年の日経MJによるインタビューで芳賀氏らしき人が「中の人」として写真に写っていることも挙げられるでしょう[21]。さらに、彼が「太平洋全般の外交関係の仕事」であるところの「太平洋協会事務局長」という肩書で、「ソロモン諸島政府観光局日本事務所」のXアカウントを運営していたことがわかっていることも付言します[22]。 加えて私は、2025年の7月と12月という非常に短い間に、@nauru_japanのポストにおいて、日本事務所のナウル政府における所轄というきわめて基礎的な事項に関する記述がぶれていることも問題にしたいと考えています(政府観光公社の移管は同年3月に公示されました)。これはやや個人の解釈を含みますが、日本事務所の法的地位はかなり曖昧なものです。ナウル共和国外務貿易省およびナウル観光公社が日本事務所の設立に協力していることは2020年のJIROのプレスリリース、あるいは同年の@nauru_japanのポストから事実と思われますが、私は、実際の裁量の相当程度が、「日本でのナウル観光プロモーションの共同パートナー」であり、2025年現在もナウル共和国政府観光局日本事務所長を勤める芳賀達也さんに任せられているのではないかと考えています。 なお、芳賀氏が太平洋協会会報である『パシフィック ウェイ』に掲載したレポートである「ソロモン諸島政府観光局日本事務所 活動報告」には、おそらくナウル政府観光局日本事務所とかなり近い組織形態を有するであろう、ソロモン諸島政府観光局日本事務所の掲載の経緯についても触れられています。ここには事務所が「法的には行政間取り決めによるソロモン諸島の独立行政法人のような体裁で存在し、Tourism Solomon (ソロモン諸島政府観光局)とは連携関係にあるが、その指揮下にはない」「協定締結時に小川チェアマン (太平洋協会 太平洋諸島研究所長)から『本国のどこかの下部組織になると振り回される』という助言を受けて、このような形となった。名称的には、ソロモン諸島政府観光局”日本事務所”だが、ソロモン諸島政府観光局の”日本支部”ではなく、”ソロモン諸島政府観光局日本事務所(Solomon Islands Tourism Office in Japan)”という独立した行政組織である。少し不思議かもしれないが、それで成り立っている」との記述があります。おそらく、ナウルについても同様の立ち位置なのであろうと思料します(同レポートにはソロモン諸島政府観光局日本事務所のSNSでの「バズ」経験などについてもかなりの紙幅が割かれており、面白いのでぜひ読んでみてください)。 3. @nauru_japanのポストの問題について 2023年の時事通信のインタビューでは、ナウルの「中の人」について、「国籍も含め、個人情報は非公表」としています。もちろんインタビュー通り、日本事務所にナウルの方がいると考える蓋然性はかなり高いです。一方で、投稿実務が主として1名に集中している旨の説明もあり、私は先述の通り、@nauru_japanのポストの多くは(日本人である)芳賀氏によって書かれたものであると考えています。このような状況下では、個人情報を公開しないこと自体よりも、投稿がどの立場(ナウル国民としての当事者性/日本国内の第三者としての立場)から発せられているのかが外部から判別できず、受け手に誤認を生じさせ得る点が問題となります。仮に、投稿が日本人スタッフによって作成されているにもかかわらず、読者が「ナウル人当事者の発言」と受け取りやすい表現が用いられる場合、対外広報としての透明性・説明責任の観点から批判を免れません。実際に、@nauru_japan自身も12月17日にこのような問題があることに同意し、同アカウントの文責はあくまで「ナウル共和国政府観光局日本事務所(芳賀達也所長)」にあることを認めています[19]。 たとえば、2025年12月13日に@nauru_japanは「同じ駐日仲間のよしみとしてあえて申しますけど、日頃から人権大国として努力されているわけですから、御節介ですが駐日フィンランド大使館は今回の件について何らかの公式声明を、日本国民の方々に出されたほうが良いかと思います」とのポストをしています[26]。事務所内部のナウルの方が「駐日仲間」という言葉を使っているのであれば理解できるのですが、日本人が書いているとする場合、これは明らかに問題です。同ポストはフィンランドのミスコンテスト優勝者がアジア人差別的なポーズをしたことがスキャンダルとなり、同国の議員がSNSに同様のポーズをした写真を載せて「連帯」を示したニュースを背景とするものです。もちろん当該の件は強く非難されるべきことだと思いますし、@nauru_japanの投稿文面そのものに対して異議はありませんが、一方で、(東アジア人であり、同問題の当事者であるところの)日本人がポストすることと、「第三者」であるナウル人がポストすることには大きな違いがあります。日本人が「第三者」を装ってこのようなポストをしたのであれば、それもまた非難されるべきことです。 また、@nauru_japanは第二次世界大戦を指す言葉として、きわめてイデオロギー色の強い言葉である「大東亜戦争」という言葉を用いています[27][28][29][30]。ナウルは戦時中の1942年から1945年まで日本に占領されていた地域であり、日本人のポストであるとするならばやはり不適切です(なお、芳賀氏はこれらのワーディングについて「全て私の責任です。以前に太平洋戦争と書いたらかなり厳しく言ってきた方がいましたので、第二次世界大戦とか大東亜戦争とか偏らないように気をつけてます」という、よくわからない弁明をしています[31])。筆者は、責任の所在を明らかにするためにも、@nauru_japanのポストには原則として担当者が誰かはっきりさせるための付記が必要であると考えています。 [1] https://x.com/nauru_japan/status/1311660057294041094 [2] https://enter.jiro.or.jp/2020/10/01/%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%AB%E6%94%BF%E5%BA%9C%E8%A6%B3%E5%85%89%E5%B1%80%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%8B%E5%8B%99%E6%89%80%E3%82%92%E8%A8%AD%E7%AB%8B/ [3] https://x.com/nauru_japan/status/2000821471892082887 [4] https://www.nauru.gov.nr/media/145034/nauru_bulletin__01_29mar2021__226_.pdf [5] https://x.com/nauru_japan/status/1316321931558232065 [6] https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20250507_40243 [7] https://www.jiji.com/jc/v8?id=202301nauru-team [8] https://x.com/nauru_japan/status/1708111925761180158 [9] https://x.com/nauru_japan/status/1713016451928666273 [10] https://x.com/nauru_japan/status/1960505184716488886 [11] https://x.com/nauru_japan/status/1960305776175804521 [12] https://x.com/nauru_japan/status/2000736418738622714 [13] https://faolex.fao.org/docs/pdf/nau188240.pdf [14] https://www.paclii.org/nr/legis/sub_leg/aaa2011aao2024s32024651.pdf [15] https://www.nauru.gov.nr/media/203780/gazette-121-25.pdf [16] https://www.paclii.org/nr/other/NRGovGaz/2024/312.pdf [17] https://x.com/nauru_japan/status/1953476726845321691 [18] https://x.com/nauru_japan/status/1930453670854046003 [19] https://x.com/nauru_japan/status/2001255166306402721 [20] https://x.com/haga_tatsuya_jp/status/2001515272705052748 [21] https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00630/00010/ [22] https://pia.or.jp/pacificway/pacificwaypacificwaypw156 [23] https://x.com/nauru_japan/status/2001232444264161345 [24] https://x.com/nauru_japan/status/2000764393517396397 [25] https://x.com/nauru_japan/status/1941729721055838526 [26] https://x.com/nauru_japan/status/1999819196897673724 [27] https://x.com/nauru_japan/status/1938033815500574994 [28] https://x.com/nauru_japan/status/1980049974386913549 [29] https://x.com/nauru_japan/status/1982371202548339092 [30] https://x.com/nauru_japan/status/2000047816463573011 [31] https://x.com/haga_tatsuya_jp/status/2001523250279649606 [32] https://x.com/nauru_japan/status/2001306460647801032