竜よ、竜よ! 其の二十三
「はぁーっはっはっはぁ! 雑魚で足止めは最悪手だろうがよぉ!!」
巨大な蚊を一撃で両断、体力が回復する。
一歩前へ進む、封雷の撃鉄・災の効果で体力が減って「死線上足踏」の効果発動。
俺の前進を止めるべくさらに雑魚分体が生み出され、そして斬り伏せられていくことで体力が回復する。
時間が経過するごとに体力が減少し、その度に「死線上足踏」の効果条件を満たす。
そして死を齎す度に喪服はより強くなり、墓標はより軽くなる!!
「っしゃキタキタキタぁーっ!!」
別離れなく死を憶ふ。愛故にバーサーク嫁と首を借りパクされた将軍、二つの力を一つの剣としたこの特大剣はある意味当然と言うべきか、プレイヤーが倒したモンスターの数を参照してその能力を発揮する。
まず一つ目は自身よりレベルの低い相手に対する即死効果。
使用者のレベルから対象のレベルを引いた数値が即死率になるらしく、R.I.P.の効果も併さって低レベルモンスターが相手なら理不尽な即死を強いることができる。
尤も、レベル差がそこまであれば普通に殴っても即死みたいなものだとは思うが、それなりの高レベルモンスター相手でもクソゲーを強いることが出来るのはあまりに凶悪、そして残虐だ。やはり乱数は悪……!!
次にこの武器でモンスターを倒す度にこの武器は耐久を回復する。ぶっちゃけ傑剣への憧刃の下位互換と言えなくもない、とはいえこの剣がR.I.P.とのセット運用を前提としたデザインであると考えれば納得の効果ではある。
別に耐久力に影響を及ぼす効果はオンリーワンってわけでもないしな。
そして最後に……この剣はキルスコアを積み上げる程「軽量化」される。厳密には使い手への負担がどんどん軽減される、はたから見れば持ち上げるのも難しそうな剣を軽々と扱っているように見えるわけだ……実際の重さは特大剣のままだと言うのに。
そして変わるのは重さだけじゃない、この剣は一定以上の軽さになると武器としての性質そのものが変わる。例えば本来は使えないはずの直剣スキルを使えるようになったり、当たり前というか両手枠を埋める筈の特大剣でありながら……
「振り抜いたからって無防備だと思ったかぁ!? あめーんだよ!!」
片手枠で扱えたりな。
振り抜かれた特大剣に隙を見出したつもりか、不用意に噛みつきを仕掛けてきた頭の一つが竜を断つ灼熱に斬り刻まれ悲鳴を上げる。
とはいえ発泡スチロールのように軽くなったとしてもデカいものはデカい、そして取り回しづらい。だってこれ実質取っ手のついたスノーボードだぞ? スノーボードを片手で振り回すだけならともかくそれを自在に操るのは難易度が高すぎる。
だが逆に言えば単調な動きであれば片手でも制御できる、例えばアラドヴァル・リビルドで作った隙を全力で叩き斬る時とかな……!
「リソースの1%まで削り切ってやるよ……!!」
ほうら雑魚を出せよどんどん出せよ、キルして強くなるのはお前だけじゃあないんだぜ。
もはや剣というよりもバカでかい団扇を振っている気分になってきたが、デカいということはそれだけ目立つという事でもある。
バスタードソードと特大剣を使い分けながら貪る大赤依の真正面に陣取り、体力の増減を繰り返しながら奴の注目をほとんど独占する「傷だらけ」からヘイトを奪い合う。
「だぁあ使いづれえ!」
アラドヴァル・リビルドを投げ捨て、両手で握りしめた別離れなく死を憶ふをフルスイングで振り抜く。
こちらへとブレスを吐かんとした頭の一つが下顎をかち上げられ、口の中で暴発したブレスが篭った音で爆ぜたのを見上げながらさらなる攻勢を仕掛ける。もはや後退の文字はない、誰でもいいから奴の弱点を貫いてこの圧倒的不利な筈の戦いを勝利で締めるんだ。
俺へと注意を向ければ「傷だらけ」がフリーとなり、またその逆も起こりうる。頭が多くて全部別のヘイトを持つ? 知ったことか、頭数ならこっちが上だ。
「攻めて攻めて攻めろーっ!!」
貪る大赤依本体を「傷だらけ」が、産み出される分体を俺が抑える事でヘイトを完全にその場へと釘付ける。
まぁそれっぽく言ってるが八割「傷だらけ」が踏ん張ってるのを隅っこで雑魚掃除しているのが俺だ、だって格下即死効果めっちゃ便利……そもそも装備するのに雑魚を倒さなきゃいけないから使い道が限られてるけど、条件が合致すると完全に無双ゲーと化す……
申し訳程度に飛んでくる矢も、回数が重なればそれなりのダメージになる。
悲しい事に矢十発 ≒ エムルの魔法一発なのでDPSの的観点から言えばゴミだ、だがそれを指摘すると心を殺して火力を高めるだけの悲しいマラソンになるので言わない。まぁ尻尾頭を抑えてくれているだけでも大分戦いやすいし貢献はしているか。
ただ狙いだけはやたら正確なので貪る大赤依の大口周りには大量の矢がひっきりなしにぶつかり続けている。確実に追い詰めてはいる、だがあと一歩が足りない。
火力はある、速度もある、カスダメ限定だが耐久力も獲得した。では何が足りないのか……その答えはもう見つけている。必要なものはヘイトと、あと一つ。
「ディープスローター!」
「はいよぉ?」
「ヘイトを寄越せ!!」
知ってるぞ、お前が習得してる魔法の中にはヘイトを増幅させる魔法があった筈だ。手っ取り早くヘイトを増やすいい方法を思いついた、要するに頭数を増やせばいいのだ。
「私の想い……受け取ってねっ! 【外付けの求心】!」
外部補強される注目度、何故か背中がぞわぞわして仕方ないがそういうデメリットだと割り切るしかない。
だがその効果は確かにある、「傷だらけ」からヘイトを奪った事で頭の一つが俺へと視線 (熱量有り)を向ける。
「あ、お前ちょっとそこ動くな」
「棒立ちイコール死刑宣告じゃないかなぁ!?」
「ディープスローター、ステイ」
「キャンキャン! クゥーン!」
ヘイトは一つじゃ足りない、俺一人で稼げるヘイトが仮に50だとするなら……二人に増えれば100って事だ。
「ヘイトの分離、稼ぎ直せば二倍ってことだ……!」
致命秘奥【ウツロウミカガミ】改備、要するにLv.MAXの別表記っぽいがまだ何か次の段階を残していそうな名前だ。とはいえ効果自体は各効果量や時間が伸びているだけなので運用そのものは変わりない。
その時点でのヘイトをデコイとして切り離し、本体のプレイヤーから注意を逸らす。逆に言えばヘイトを稼ぎ直せば二倍ってことだ。
「効果時間二十秒! リキャストは!?」
「三十秒、効果量下げていいなら十秒で再使用できるよぉ……!」
「ゴー!」
十秒でヘイトを稼ぎ切る!
デコイへ飛びかかるカエルの分体を一刀両断し、肉薄した貪る大赤依の胴体を斜めに斬り上げる。やはりそこを攻められるのは困るのか、身をよじらせながら巨体が距離を取らんとするが……逃がさん。
特大剣を握り直し、腰に捻りを入れて全力での逆回転。まるで先程の一連を逆再生するかのように刃ごと身体を一回転させながら距離を詰め、二周目と同時に起動した【タチキリワカチ】の袈裟斬りが斜線を描いて貪る大赤依を斬り裂く。
「邪魔だっ!!」
百秀の神腕起動! 幸運を参照する拳撃スキル、三桁スキルとなった事でクリティカル成功時にHP、MP、STM以外のいずれかのステータスが上昇する神秘の拳がバスケットボール程はある蝿を殴り飛ばす。おっと目の前に無防備に開かれた大口が。
であればチャンスを逃す手はない。引いた拳で即座に別離れなく死を憶ふを掴み、ビリヤードのキューを操るかのように奴の口腔、その奥にある赤い玉を狙って刺突を放つ……も、必殺の一撃が赤玉に届くよりも先、奴の口から放たれた絶叫が俺の身体を後ろへと無理やり後退させる。
「QooaaaaaaaAaAAAAAAaaaAAaAaaaAAAA!!!」
「くおっ」
ブレスか!? いや違う単なる咆哮だ、ノーダメとはいえノックバック付きとは小癪な。横着はするなってか? 上等だ、首は……三本が俺へとヘイトを向けている。どうやら残る一本は「傷だらけ」の警戒に割り当て、三本で俺を確殺するつもりらしい。
忌々しい尻尾頭はトットリ&森人族達が抑えてくれている。これで心置きなく対応できるってものだ。
「ねぇサンラクくん、これ私ここで突っ立ってる意味あるぅ?」
「スキルの条件達成に必要なんだよ、それ以上もそれ以下もない」
「わーい都合のいい女宣言あざまぁーっす!」
装備よし、距離よし、行動誘発よし。頼むぞ甦りし神代の武器、深淵を映す冥王の鏡!
こちらへ殺意を向ける三つの首、全部合わせて六つの眼孔が内側からの閃光で灼け落ちる。口から放たれるのに比べて一点集中の貫通力特化たる熱視線が三本、ただ俺一人を殺す為だけに放たれる。
迎え撃つは花開きし冥王の鏡盾。光を跳ね返す鏡ではなく、光をも呑み込み力へと変える神代の叡智が殺意の視線を真正面から受け止める。
「……【超過機構】!!」
激突。
体力一割前後を反復横跳びしながら三倍速深淵歩きみたいな挙動で特大剣を振り回す姿は紛う事なき変態のそれ、バトルスタイルそのものは煙の騎士なのに動きが軽快すぎる
ちなみにディプスロさんはトットリ達へ向かう流れ弾を対処したり即興でサンラクの挙動コピって火力貢献したり強化バフを弾くサンラクに首を傾げたりと結構裏で頑張ってたり