竜よ、竜よ! 其の十七
修正:血戦主義の進化スキルはブラッドバーン・バーストではなく全霊喚起でしたのでそれに伴って文章の一部変更。
たとえ取るに足らないちっぽけな虫ケラだとしても、その身にスズメバチの顎を毒を針を纏っていたならば、それはスズメバチと同じように警戒しなければならない……そうだろう?
R.I.P. という物騒な虎の威を全力で借りている今の俺を貪る大赤依は敵意を向けるに足る存在であると認定したらしい。
赤い竜巻が内側から膨らむかのように蠢き、過剰なまでに筋肉が搭載された赤い牛を産み落とす。それはどこまでも無機質な存在が有機的な動きを取り繕っているかのような咆哮を上げると俺を目指して突進を繰り出した。
「肉がよく詰まってる事で……サンドバッグとしちゃ丁度いいか」
百閃の剣起動、アラドヴァル・リビルドを筋繊維まで真っ赤であろう赤牛へと叩きつける。
「先ずは一ヒット!」
続く海喰の剣を振り抜けば、赤牛の外皮で二発のヒットエフェクトが弾ける。
「まだまだ増えるんだよなぁ!!」
再びのアラドヴァル・リビルドの斬撃は四ヒット、返しの海喰の剣の突きで八ヒット。さらに続けて十六、三十二、六十四。上限が百なので百二十八とはならないが……次の斬撃は一振りで百ヒットという規格外の一撃が約束されている。
だがまだ使わない、このスキルの真価はもう一つのスキルと組み合わせてこそ真価を発揮する。少なくとも俺はそう確信している。
「ほら来いよ、マタドールがヒラヒラ布を振ってるぜ?」
スカートの端を摘んでふりふりと振ってやる、どうやら挑発としては結構有効であったようだ。赤牛の全身が空気でも詰め込んだかのようなさらなる膨張を始め、内側から爆ぜてしまいそうな程の力みを起爆剤として赤牛が俺へと突っ込んでくる。
その速度たるや、距離を離し警戒していた俺ですら虚を突かれるほどの速さであり……この遅くなった世界でそれだけの速度が出るのかと驚きつつつも、余裕を持って回避し「詰め」に入る。
真界観測眼、瞬刻視界とほぼ同等の性能ではあるが、無論それだけではない。
「未来視、って訳ではない……の、か!」
視界に映る真っ赤な「波」。例えるなら風に色をつけたものが見えているかのような、赤牛の後脚から此方へと吹く敵意の風。それは真界観測眼によって可視化された「攻撃の波」だ。
言うなれば寸前ではあるものの敵から繰り出された攻撃がどれだけの範囲をどれだけ攻撃するのか、それが見えるようになる。
見えたところでどちらにせよ死ぬ攻撃にはあまり意味のない追加効果ではあるが、こういう単純なフィジカル攻撃であればタイミングが若干遅いものの未来予測と言ってもいいだろう。どういう仕組みでこのスキルが発動しているのかは気にしない事にする。
「さぁて……こっちを向けよ、串焼きにしてやる」
スタミナは程よく減っている、そして百閃の剣の効果は未だこの剣に宿っている。そしてこの瞬間にこそ輝く一突きがある!!
振り返る赤牛、その目は赤一色であるが故に感情を持たず……だからこそ死の刹那に恐怖を抱く事もないのだろう。
「鋭結点睛!!」
一念岩穿の進化スキル鋭結点睛、進化前が複数回の刺突でその威力を高めていたのに対し、こちらは行動の終わりに近いほど……即ちスタミナが減っていればいるほどに火力が上昇する。
さて問題です、牛の頭に限界まで威力が高まった百連撃を一度に叩き込んだらどうなるでしょうか?
では実際に見てみましょう。
限界まで研ぎ澄まされた一撃が赤牛の額を貫く。瞬間、刺突点を中心にダメージエフェクトが大輪の花を咲かせる。
振り返ったばかり、という踏ん張りの少ないタイミングだったことが災いしたのだろう。ダメージエフェクトがに埋もれて見えなくなった赤牛の頭を何か大きな力が押し付けているかのように文字通り筋肉質な巨体が後ろへと吹っ飛んでいく。
「回避を軽視するからそうなるんだぜ?」
どうやら途中で体力が尽きたようで、その身体が一瞬赤い霧のように崩壊。だがそこで止まる事なく霧の全てがダメージとは異なるエフェクトと共に消え去った。
そしてこの瞬間、俺の仮説は確信へと変わる。
貪る大赤依とは要するに狂える大群青と同じ群体モンスターだ。
群体モンスターにおける体力の定義はゲームによってまちまちではあるが、大抵は本体を倒せば他の雑魚も一緒に死んだりする訳だ。
だがしかしこのゲームの名はシャングリラ・フロンティア、気色悪いレベルで妥協というものを見せないこのゲームにおいて、一大コンテンツたるレイドモンスターをゲーム的妥協で薄めるようなことはするまい。
つまりは、だ。「貪る大赤依」という巨大な群体モンスターの一部、あの虫の一匹一匹……例えそうでなくとも奴が生み出す分身にも「死亡判定」があるのではないか? 果たしてそれはR.I.P.の効果が発動した事で実証された。
「評価を改めよう、お前はすごい奴だR.I.P. ……!」
シャンフロの性質上、群体モンスターとの戦闘では絶対的優位性を確保できる。そう、例えば今この瞬間とかなぁ!!
「次出せオラァ! まだまだ足りないんだよ!!」
R.I.P. はキルスコアに応じてステータスに補正が入る。レベル136としてSTRなども底上げしたとはいえ、あと十体、いや七……六体は倒さなければならないのだから。
「それとも……その頭をぶっ潰せばキルスコアに加算されるのか? んー?」
おうおうおう尻尾頭君よう……まだ君にお礼参りしてなかったなァ……!!
「間引きの時間だぁぁぁあ!!」
トカゲの如く千切り落としてやるよその尻尾をな!!
赤牛との戦闘で離れた距離を詰めるべく動き出す。
リキャストの終わった鞍馬天秘伝、ライオットアクセルから進化したリミットマキシマイズ、月狼の誇りから進化した宿命の狼兆、メロスティックフットの上位スキルアトラス・タフネスの連続発動。
要約すると「超速くなるし超強くなるけど体力を高燃費で削っていく」状態、成る程つまりいつも通りだな!!
「っしゃ!」
もう俺の中では結構なマブダチ度を更新する「傷だらけ」の攻撃に合わせて前へ踏み出す。相変わらず尻尾頭は俺を処理したくてたまらないようだが……いいよ、こっちから出向いてやる。
「遅い遅い遅ぉぉい!!」
所詮レーザーも銃弾も直線運動に過ぎない! 跳弾も反射もしないなら顔を傾けるだけで回避だって出来る、なんせお前の攻撃は散々見てきたからなぁ!
「パターンも、タイミングも……丸っとお見通しだ」
だからこそあえてカスダメを受ける。本体の防御はゴミだが、R.I.P. の防御力でカスダメを調整して全霊喚起を起動する。
血戦主義の上位スキルたる全霊喚起は受けたダメージによって減少した「HPの数値」がそっくりそのままSTR、AGI、VITのいずれかに加算されるという頭のおかしいスキルだ。
つまり今の俺の体力が80なので79相当のダメージを受ければ三つのステータスのいずれかに一時的ではあるが79という数値が加算されるわけで。
とはいえランダムなので常にクソ乱数の影が付きまとう上に加算数値が高いほど効果時間も縮むので……逆に言えばカスダメの積み重ねであれば有効な強化手段たりうる。
「ぐ……っしゃAGIキタァ!!」
左頬を灼く真紅の光。だが弾けた血色のダメージエフェクトがそのまま全霊喚起のエフェクトへと変換されさらなる加速を得る。
リミットマキシマイズのデメリットで目減りするHPをさらに削る全体量の五分の一のダメージ……即ちおよそ16の数値がAGIに加算された事で更なる加速が俺の背中を押し出す。残り十メートル!
ここに来て俺の脅威度が更新されたようだが……馬鹿め、「傷だらけ」を放置してこっちにヘイトを向けるなど愚の骨頂だろう。
「よう」
その距離は既に五メートルを切った。互いに攻撃圏内、そして速さは俺が上。
ここでワンポイントアドバイスだ、よーく聞け貪る大赤依。
「一瞬だ」
トン、と右胸を叩く琥珀。
その圧倒的瞬間火力の代償として長めのリキャストタイムが設定されている攻撃スキルは、神秘の力で再使用までの時間を半減されている。
そして一瞬の中でいくつかのスキルを重ね連ねて起動して……
次の瞬間、俺の姿は既に貪る大赤依の背後に在り、貪る大赤依の全身が爆ぜるようにダメージエフェクトを噴き出した。
「ぶっつけ本番……このスリルたまんねぇな」
風に煽られ翻ったヴェールから露出した顔に笑みを浮かべ、俺はそれへと語りかける。
「こっからがクライマックスだが、先に死んでてくれよな」
そう言って百連撃の刺突によって本体から切り離された尻尾、なおも此方へと殺意を向ける尻尾頭をアラドヴァル・リビルドで串刺した。
さぁ、どいつもこいつも後衛職、仕方ないから俺一人でタンクをやっていこうか。
斬首 (ケツ)
次回、トットリ視点
主人公は何をしたの?
原理的にはルティアさんの参撃陸斬とほぼ同じ理屈、絶対的先攻から繰り出される超立体的227ヒット辻斬り