竜よ、竜よ! 其の十四
【急募】精神と時の部屋
【急募】メタグロスに進化する方法
「……その根拠は?」
「見れば分かるよ、君が本当に楽しんでるなら……そんな眠たそうな顔にはならない」
「一応言っておくけど現在夜だからな?」
むしろ眠気を感じる方が真っ当に人間してると思う。まぁ半分寝てるようなものなので実質健康、フルダイブゲーマーは多かれ少なかれそうやって自分を納得させるものだ……
「生物的な疲労の話をしてるんじゃないよ。君の……そうだな、テンションの話だよ」
「……随分と理知的な話し方じゃねーか、それが素か?」
「お望みなら君が望むキャラクターと声で、ベッドの上で喘ぎながら話してもいいけど? 極限状況下で事に及ぶのはパニックホラーじゃそう珍しい事ではないからね」
「それ八割くらい死亡フラグじゃねーか」
中身はピンク色のままだったわ、軽く焼いた方がいいかな?
「おいおい、単なる会話の賑やかしじゃないか。それに私の素がどんな人物かだなんて、いくらでも偽装できる……そうでしょ?」
「………」
コロコロと声色を変えながら笑うディープスローターに、やはり厄介な特技だと溜息を吐きつつ続きを促す。結局のところ、俺のモチベーションが低いことを指摘しただけで結局こいつが何を言いたいのかが分かっていないのだから。
「私はね、君の全力が見たいの。血反吐を吐いて、身を削って……それでも本心から笑って前へ進み続けるような君が見たいんだよサンラクくぅん……」
つ……、とディープスローターが伸ばした手が俺の頬に触れる。まぁ奴の手が感じているのは正眼の鳥面の生地の感触だろうがな。あと触んな、俺がお前に向ける感情的にその内ハラスメント判定出るぞ。
「でもクエストがあって、ろくな準備もなしにレイドモンスターと戦って、挙句介護プレイだものねぇ……やる気が出ないのも分かる、分かるよぉ」
「お前がいるからという単純な理由が抜けてるぞ」
無視ですか、そうですか。
ぺしん、と振り払われた手を名残惜しげに揺らしながらディープスローターは尚も笑う。
拒絶すらもが楽しくて仕方がない、と言わんばかりに口の端を吊り上げた表情で奴は動かす口を止めない。
「と言うわけで、ちょいと君が全力を出したくなるような企画を考えました」
「企画倒れにして歴史の闇に埋めてしまえ」
「やぁんつれない……では説明します」
めげねぇなこいつ。大体どう行動したって死にリスクがある以上は慎重なプレイをするしかないわけだし、どう足掻いたって俺のテンションは上がら
「まずサンラクくんにはレベルキャップ開放をしてもらいます」
「詳しく聞こうか」
……っは!? 馬鹿な、俺がこんな即落ちじみた反応を……!!
「くっ、おのれディープスローター……!」
「二秒くらいでコロコロ態度変えてナチュラルに人のせいにする奴ってどう思う? 私は良いと思う! やだ今の私DV夫に依存する人妻みたい! そもそも「人妻」とは「人の妻」という意味であって大前提として他人の所有物というわけでだからこそ背徳的な……」
アラ(中略)焼く。
「まぁぶっちゃけると体力は減るけどそこまで熱いわけでもないよねっていう」
「やはり刃で斬るしか……」
「Foo、それ単なるPKだねぇ……それはそれでインモラルな魅力があるけど、今回はもっとロマンティックなお誘いさぁ……」
媚びるような、誘うような、ともすれば何処かへと引きずり込むかのような視線を笑みで染めて、アラドヴァルに頬擦りしながらディープスローターは己の企みを暴露した。
「二兎を追い二兎を仕留める……貪る大赤依と「傷だらけ」、その両方共を倒してしまおうぜぇ?」
「サンラクサン、本当に大丈夫ですわ……?」
「癪だが、あいつは有能なんだよ……少なくとも俺が用件を済ませるまで戦線を維持することくらいやってのける」
他人の策に乗っかる、という経験がないわけではない、というかむしろ経験豊富だ。
我らが魔王ペンシルゴンの悪巧みに乗っかって敵対勢力を徹底的にリスキルした事だってあるし、そもそもMMOなら誰かの指示に従うことなんてザラだ。
だが今回の場合、なんというか……爆薬を積み込んだ船に乗せられたような気分だ。しかも爆薬のすぐ隣にはニヤニヤ笑いながらタバコをふかすディープスローターがいるわけで。
しかもやつは一種の破滅願望持ちで、ちょいちょい下ネタと一緒に爆薬へと火のついたタバコを近づけるんだ。
「将来的に考えるとやっぱり天誅が最善なんだけどな……」
今現在の状況を考えるとその選択肢は悪手になってしまうわけで。引き続き悪魔との相乗りを続けなきゃいけないってわけだ。
とはいえ、奴の話した「作戦」とやらは偏見100%の色眼鏡を外せば納得に足りうるものではあった。
転移系魔法の中でも最高クラスの魔法「東風より来たれ滅びの大王」、要約すると巨大隕石を転移させる魔法であるらしいそれを以って貪る大赤依及び「傷だらけ」の双方を撃滅する。
それがディープスローターの立案した作戦である。極大の威力を誇る代償として詠唱破棄不可、かつ強力なヘイト獲得というデメリットを持つ「東風より来たれ滅びの大王」の発動を確実に成功させるため、俺のレベルキャップを解放する。
とりあえず作戦内容自体に違和感はあまりない、強いて言うなら「東風より来たれ滅びの大王」なる魔法そのものの信ぴょう性なのだが……
「なぁエムル、実際転移魔法でそんな事が可能なのか?」
「むむむむ……アタシの魔法は我流なんですわっ、だからちょっとよくわかんないですわ……」
「つ……そうか」
「今「使えない」って言おうとした! 「使えない」って言おうとしたですわーっ!!」
「ええい叩くな叩くな!」
今現在、頭をポコポコ叩かれている俺と叩いているエムルは怪獣大決戦を繰り広げている森人の里、建物の少ない広場のようなフィールドから真反対の方向、即ち居住区の中心部へと走っている。
目的地は当然のことながら覚醒の祭壇、近い知り合いで言うなら京ティメットも辿り着いたであろうレベルキャップ解放施設だ。
なんでも、レベル99Extendから上限解放を行うと、Extend時に稼いだ経験値で一気にレベルアップするのだとか。
「奴め、手はずは整えておきましたってか」
成る程、確かにちょっとやる気が出てきた。
周辺状況でやる気が出ないなら、俺そのものを変化させる事で「試し切り」としてのモチベーションを高めようってことか。
レベルキャップ開放という一大イベントとレイド戦という一大イベント、その二つを複合して俺に本気を出せとやつはそう言っているわけだ。
ある程度「幕末」に染まった者特有の動きが板についてきた京ティメットから色々話は聞いている。噂の三桁スキルとやらは特殊な条件で開放されるとかではなく、単純に「レベル100以上で開放されるスキル群」であるらしいので、恐らくレベルアップした時点で俺がこれまでに使い続けてきたスキルはさらなる発展を見せることになる。
「それに楽しみもある」
これまで多くの強敵と戦ってきた、果たしてExtendの六文字に隠された俺の蓄積経験値は如何程か。あのクソッタレの尻尾頭君をフルボッコにできるだけの数値を獲得することは出来るのか……うん、結構やる気出てきたかな。
「……着いた、か」
まぁ、結構前からそれは見えていたが……まぁ、あれしかないよな。
例えば、「ファンタジー世界」に於いて「分かりやすく超科学をアピール」する為にはどうすればいいだろうか。俺はその一つとして「風化対策」を挙げる。
百年経っても大丈夫、とでも言うべきか……周囲の建物が皆、時間の中で風化していく中でそれだけが錆一つ浮かべる事なく鈍い銀色の金属光沢を維持していたならば。
時の流れにただ一つ反逆し、木と土と植物に覆われた森人族の里の中で唯一超高度な金属加工で作られた、若干ズレた感じで地面にめり込んだ爪付きの円盤とでも言うべきその場所こそが間違いなく。
「ここが、覚醒の祭壇……ですわ?」
「だろうな……」
なんだろう、ひっくり返ったクラゲの脚を等間隔で並べたみたいな……若干傾いていることから地面にしっかりと固定されているわけではなく、「円盤と爪」が地面に直接置かれている感じ、だろうか。
まるで、何かが上から巨大円盤を雑に落としたみたいな……いや、だからこそ涙の盤なのか? だとすれば、この円盤を涙と呼んでいいのかは別として、何がこれを……いや、今は詮索はすまい。
「さぁ、いつぶりかのレベルアップの時間だ」
参考ながら最近の主人公の戦績(一部抜粋)
・夜襲のリュカオーン分身体
・アルクトゥス・レガレクス
・スレーギヴン・キャリアングラー
・アトランティクス・レプノルカ
・深淵のクターニッド
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
・水晶群蠍
(以下略)