竜よ、竜よ! 其の十三
「無理無理無理無理!」
これは無理だ、「傷だらけ」がいるいないの問題じゃない、単純に頭数がいる。
ハリウッド映画ばりの跳躍をした俺が数秒前までいた場所に叩きつけられる牛の頭。
「傷だらけ」の方を見れば、鷲の嘴に啄ばまれ、獅子の手に引っ掛かれ……まさしく袋叩きに遭って悲鳴を上げている。おかしいよな? 数的有利は俺たちの方が上で、貪る大赤依は一体しかいないってのにな……!
「お、ま、た、せっ」
「なんっ……何だ、アレ……?」
「サ、サンラクサーン!!」
く、ここは撤退しかない。頼むぞ「傷だらけ」、なるべく早く戻るつもりだが死んでくれるなよ……?
ウツロウミカガミで離脱しつつ、こちらへと駆けてきたトットリとディープスローター達へと叫ぶ。
「情報共有!!」
「えっ、あ、えーと」
「特定数の撃破がトリガーだったっぽいねぇ、行為の最中に逃げられたんで合流しつつこっちにきた感じだよぉ……」
やっぱりか、一定体力を切った可能性も考えていたが、あの三つ首の恐竜を全力アシストして尚追い詰めた手応えは感じられなかった。となれば血結晶側がフラグと考えるのが自然、そしてそれは多分当たっていたんだろう。
「えーと……とりあえずあの赤い竜巻から攻撃が生成される、しかも本体は攻撃動作を取ったりはしない」
あの赤い竜巻、近寄る程に聞こえる羽音から虫が何かが大量に集まって形成されているのかは知らないが、あの竜巻の中から様々なモンスターが現れる事だけは身をもって痛感している。
数に制限はなく、一定時間で竜巻に戻っていくので倒すメリットもなく、そのくせ性能は生前と変わらない……多分。
「要するに……モンスターが召喚魔法的なものを連打してくる?」
「そういうことになるな、しかも本体は特に動作を必要としない」
「……ははっ」
トットリの口から乾いた笑いが漏れる。そりゃそうだ、モーションキャンセルなんて対人でやってもぶっ壊れであろうことを、よりにもよってレイドモンスターがやりやがるのだから。
「……で? 何か勝機はあるのかいサンラクくぅん」
「勝機も何も……俺たちプレイヤーと「傷だらけ」で本体を叩くしかないだろ。もしくは……エムル、竜巻だ」
「はいなっ!」
赤い竜巻に激突したマジックエッジがダメージエフェクトの花を咲かせる。しばし沈黙の後、明らかに竜巻がこちら方向へ何かを生成しそうな動きを見せたので慌てて距離を取る。
次の瞬間、俺たちがいた場所に猿の腕だけが射出され、地面を轟音と共に殴りつける。
「……ロケットパンチかよ」
「特定部位だけ作ることも出来るみたいだねぇ……つまり」
ちゃきっとアラドヴァル、変態は黙る。会話スキップは大事だね。
「でも一つ分かったねぇ……」
「何がだよ」
「意味のない攻撃なら反撃の必要はない」
……成る程一理ある。少なくともあの赤い竜巻は無敵のオブジェクトではない可能性は高い。本当に無敵だってんなら攻撃に反応する必要性は薄い、何せただ拡散すれば俺達は終わるわけだし。
無論、そう言う反応をするよう設定されているだけでマジで無敵オブジェクトという可能性も捨てきれないが……流石にレイドモンスターに無敵機構が備わっているとはあまり考えたくない。
「ちなみにトットリ、あの竜巻に効果的な攻撃手段とか持ってる?」
「あるっちゃあるけど……ディプスロさんみたいに高火力じゃないし数も少ないからあんまり期待しないで欲しい」
「俺もだから気にすんな、大火力はあるんだけどよくよく考えると対単体なんだよな……」
本体を狙えばいい話ではあるが、正直あの竜巻の根元まで無傷で走り切ったとしても、ゴール地点に待ち受けているのがクソビームファイブヘッドドラゴンモドキだ。
そろそろ飽きてきたというか、遭遇が不意打ちだっただけにモチベーションがあまり高まらないんだよなぁ……割と高いラインを保持してはいるんだが限界を突破していない、まるで法定速度を守って車を走らせている気分だ。
「なんつーかこう、アクセルを踏み抜くような……」
「アクセル……?」
レイ氏とリュカオーンに挑んだ時も不意打ちではあったけど、あれはあれで因縁があったからこそ燃えたわけだし。
「サンラクくん、「傷だらけ」がなんか凄いことになってるんだけど」
「んぇ?」
三つ首の「傷だらけ」はすでに満身創痍と言っていいだろう。全身の肉を啄ばまれ、斬り裂かれ、あるいは食い千切られ……吹き出すダメージエフェクトは既に致命傷に王手を掛けんとしている。
見れば頭の一つ、一番右のティラノ頭の目が潰されたのか、炎の如くダメージエフェクトを噴き出しながらも繊維を漲らせる姿は恐ろしさと同時に痛々しさも見る者に伝えてくる。
だが、それはきっと「傷だらけ」にとっては忌避すべき事ではない。
三つ首が吼える、その身に刻まれた傷の意味を誇示するが如く。
三つ首が吼える、その身に刻んだ傷をより巨大な力とするために。
三つ首が吼える、己が命を脅かす敵に対してそれでもなお己が勝つのだと。
「「「ゴルルオオアァァァァァア!!!!」」」
このゲームにおいてダメージエフェクトは基本的に赤色で表示される。明らかに赤い血が通っていないモンスターを切り裂いても赤いエフェクトが出るのでなんとなくモヤモヤ感を感じたりもするのだが……だからこそ、その変化はより鮮烈に俺達へと理解を強いる。
「ダメージエフェクトが、黒色になった?」
「……聞いたことがある、確か午後十時軍が奴を追い詰めた時も同じ状態になったって……あの状態になった「傷だらけ」には全く歯が立たなかったって」
「えっ、何あいつ体力減少で強化されるの?」
足引っ張ってたの俺じゃんか。
全身の至る所から真っ黒なエフェクトを噴き出す「傷だらけ」が咆哮で、前進で、その一挙一動で周囲を激震させながら突撃する。
愚直なまでの猛進、迎え撃つ貪る大赤依はそれに対して何か感情を発露するでもなく、無機質な反応を以って対処とする。
即ち赤い竜巻からいくつものモンスターを生成し、単独での袋叩きで確実に「傷だらけ」を仕留め……
「「「ひえっ」」」
「「「えぇ……」」」
前者はヘタレ一号、ヘタレ二号、ヘタレ三号のもの。後者は俺、トットリ、ディープスローターのものだ。
なにせ最近ちょっとイキってたエムルがヘタレ兎に戻る程の、プレイヤー組が絶句するほどの光景を奴は見せてくれたのだから。
二つ頭の鷲、その嘴が砕けていた。
頭だけが生成された牛、その角がへし折れていた。
腕だけが生成された猿、その指が捻じ曲がっていた。
そして貪る大赤依本体、その首の一つが「傷だらけ」によって噛みちぎられて……つっよ。
「なんだあの天然装甲、VITがイかれてんだろ」
「黒くて硬い上に多分あれ、STRも跳ね上がってるよねぇ……」
まぁ、ただの身じろぎで赤い竜巻から生成されたモンスターが粉砕されたわけだし、ただ硬いだけってわけではないのだろう。
え、あれ倒せるんです? 本当に? 考えられる可能性はあんまり持続しない、とかなんらかの裏技で削る方法だけど……っていかんいかん。
「さて、「傷だらけ」君がマキシマム肉盾をやってくれてるんだ、こっちも参戦しようじゃねーか」
「分かった! 森人族達は援護に徹してくれ、あの赤い竜巻から出てくるモンスターの気を引くだけでも助かる」
良くも悪くも勇者様なトットリはその場のノリに忠実だ。森人族達を鼓舞し、「傷だらけ」の援護に駆け出した弓手に俺も続かんとアラドヴァルを握り直し……
「なぁサンラクくぅん……ちょっとお話ししようぜぇ……?」
「……なんだよ、出鼻を挫くなよ」
「いやいや、とぉっても大事な話だし、そんなに時間はとらないからさぁ……」
正直無視しても良かったが、仮にもここまで同じパーティとして行動してきたよしみだ、話くらいなら聞いてやろうじゃないか。
「………で?」
続きを促す俺に対し、ディープスローターは笑いかける。それは下ネタを浴びせかけることに喜びを感じる笑みでもなく、コロコロと変わるキャラクターに準じた笑みでもなく……
「───今、楽しくないでしょ」
あの日、サービス終了の間際に見た「ナッツクラッカー」、その最後の笑みで俺へと問いかけた。
ダメージの数値に比例したステータス強化、およびダメージを受けた箇所に「自身が受けた攻撃に対する耐性」を付与する。
リュカオーンにムシャムシャされた人、リュカオーンになかなか会えない人、リュカオーンの顎にアッパーをかました人で組ませるのが最適解
ダメージ部位ごと破壊する、多彩な攻撃手段を用意する、スリップダメージなどでジワジワ削るなどが推奨