竜よ、竜よ! 其の十二
総合力は貪る大赤依の独壇場だ。しかし単純なパワーのみと「場」の制圧力は「傷だらけ」が優位で、小回りに関してだけは人間がアドバンテージを取っている。
「くっ……「傷だらけ」が怯んだ瞬間全員でこっち見やがって……!」
敵の敵だから味方、というわけではないが俺と「傷だらけ」が貪る大赤依を集中攻撃していること。
パーツが固定された第三形態になったことで先程までの攻撃手段も攻撃方法も不安定であった第二形態とは異なり動きを見切りやすくなったこと。
どれだけ「傷だらけ」が暴れても何故か俺しか狙わない尻尾の首……言い換えればその部位から攻撃が来ることを確信出来るからこそ、それを前提として動けること。
使っている素材は上等でも、崖と崖を繋ぐように雑に置かれた細い鉄板の上を全力で走らされている気分だ。
さっきはアリュールに強キャラムーブをかましたが……白状します、ひっどい運ゲーだよこれ。
「ぐ、のぉ……!」
盾の角度調整をミスった事で、真正面直角から撃ち込まれたレーザービームと冥王の鏡盾が激突する。
冥王の鏡盾は確かに魔法攻撃を反射する事ができるし、超過機構を使えば敵の魔力をも喰らう事ができる。
だが言ってしまえばそれだけなのだ、攻撃的な能力を持たない傑剣への憧刃を愛用しているのは「耐久度が減らない」という絶対的アドバンテージが俺の手持ち武器の中ではオンリーワンであるからに他ならない。
つまりは、だ。冥王の鏡盾とて幾度となく……それも、触れれば一発で身体が蒸発しそうなレーザーを幾度となく受け止めれば耐久度が無視できない程に削られるという事だ。
「くっそぉ……DPSが足りてねぇぞ「傷だらけ」!」
はぁーチクショウ分かってるっての! DPSが足りてないのは俺の方だってくらいなぁ! MvMに割り込むのは分隊に単独で奇襲を仕掛けるよりも難易度が高ぇんだよ!!
頭だらけの相撲で、しかもそのうちの一つは俺に熱視線を送る中、火力貢献など出来るはずがない。
くんずほぐれつ、と書けば可愛らしくも見えるがどう見ても体重表記がキロではなくトンで表記される連中だ、そんな危険極まりないくんずほぐれつに人間を一人放り込んでどうなる? 蠍共と散々おしくらまんじゅうしてきた俺は実感としてそれを知っている。
人とモンスターではありとあらゆる尺度が食い違う、奴らがたたらを踏むだけでも俺にとっては死の宣告になりかねない。死神達の社交ダンスってか? はははどっちもくたばっちまえ。
「く……兎にも角にもあの尻尾頭がウザすぎる」
胴体から生えた四つの首は「傷だらけ」にかかりっきりではあるが、あの尻尾ヤローだけはどれだけ経っても俺だけを狙い続ける。
それに何より、奴の頭を本体と繋ぐものは尻尾、それ故に可動域が異様に広いのだ。
「股下から頭伸ばしてレーザー叩き込むとか、曲芸かよって……つおお!?」
レーザー縄跳びとでも言うべきか、的確に俺のアキレス腱の両断を狙った横薙ぎのレーザーを慌てて回避。
攻勢に回りたいが、あの尻尾ヘッドは自分が尻尾の一部である事を承知しているらしく、遠慮なく自分の頭をメイスのように使って打撃を仕掛けて来る。
どうする? 奴に構い過ぎると「傷だらけ」と貪る大赤依の均衡が崩れかねない、だがいないものとして振る舞うには奴の放つ攻撃は殺傷力が高過ぎる。
「どうにかして無力化できないか……くそッ、火力が足りない」
あるにはある、打撃と刺突、そしてえっぐい粉砕を莫大な衝撃波と共に実行する煌蠍の籠手の超排撃であれば奴の頭を文字通り木っ端微塵に粉砕する事も可能だろう。
だがそれをやるにしてもあの縦横無尽に動く尻尾を固定しなければ難しいし、第一レイドモンスター相手に反動で動けない状況を作るのは避けたい。
今でこそ「傷だらけ」がヘイトのほとんどを受け持っているからこそちょっかいが出せるが、反動で死にかけてる状況で首四本に狙われたら死ぬ。
全くもって厄介だ、このレイド戦は極めてオーソドックスなパーティ編成を要求している。
血結晶の存在を見るに、本体を相手にするだけで十人、いやタンク五人は確定で十五人は欲しいところだ。残り三十人は遊撃で血結晶破壊な。
にしてもやっぱSF-Zooのタンク組いいよなぁ……この手の戦闘じゃよほどタンクキラーでもなければスタメンから外すビジョンが見えない。
単体ならジョゼットの方が上なんだろうが、負担五分割ってだけで爆アドだもんなぁ……無い物ねだりしても仕方がないか。
まぁともかく、少なくとも一頭(三頭?)と一人でやる相手ではないな、断じて。だがそれでもやるのだ、なんか頭の一つが爬虫類とは思えない感情のこもった目でこちらを見てる気がするが、お前に死なれるとマジで困るんだから過保護なくらい介護してやるからな……!
「いっそ多少の無茶をして攻勢に……んん!?」
不味い、そういう感じか……!!
気づけたのは偶然だが、対処は必然だ。俺は尻尾頭の動きに警戒を割きつつ、右手に持ったアラドヴァルで「それ」を……里の方から飛び出してきた真っ赤な狼を斬り伏せる。
比較対象がアレなので比べるのも酷ではあるが、あっさりと一撃で両断された四つの目を持つ赤狼を一瞥だけするが、森人族の至る所から上がる咆哮や轟音に頭を抱えたくなる。
「……ああはいそうですか、自前で孵化しますか」
まずい、まずいぞこれは……極論を言えば森人族が肉壁になれば血結晶内のモンスターが一斉起動してもなんとかなるだろ、とか思いもしたが今の赤狼の動きを見るに……!!
「Vvvvvoooooooooooo!!」
「Grrrrr……Graw!!」
「Pqyaaaaaaaaaaaa!!!」
「わぁ、なんて邪悪な動物大行進……っじゃない!!」
思考ルーチンは「本体との合流」かっ!!
何かフラグ踏んだか……? いや、踏んだのは向こうか? 一定数の血結晶モンスターが倒された時点で一斉解放、ありえそうな話だ。
「くっそぉ……クターニッドとネタが丸かぶりしてんだよ……っの野郎が!!」
駄目だ、単体火力じゃどうにもならねぇ。「傷だらけ」君ここは一旦本体ではなく分体を……あーはいはい六つも目があるのに眼中になしってかぁ!? 六分の一くらい別の視点持とうぜおバカ!
だが十の目を持つ貪る大赤依君はとても広い視野をお持ちのようだ、次々と現れる血結晶モンスターを首で千切っては(大口に)投げ、千切っては(大口に)投げ……あっやばい。
「くっ……!」
武器を煌蠍の籠手に変更、明らかにクターニッド戦での「アレ」を思わせる食い溜めを始めた貪る大赤依を止めんと超過機構を使用せんとするが……嗚呼悲しきかな貧乏性。
「これで倒せなかったらどうする?」「火力だけなら「傷だらけ」で代用できるから無理して使う必要はないのでは?」という疑問が俺の身体を縛る、七日に一回という切り札であるからこそ使いどきを選んでしまう。
そしてその逡巡の間に、貪る大赤依が早食いを終わらせてしまう。
「AAAAAAAaaaaaaaaaaaaarrrr!!!」
「嘘だろオイオイオイ……のわっ!?」
はいこちら現場のサンラクです、現在我々は貪る大赤依を中心に発生した大規模衝撃波によって空を飛んでいまーす!! 「傷だらけ」の巨体が宙を舞うとか嘘だろ、足元でTNT起爆したってそうはならんだろ。イベント演出か? でも着地ダメージ保証してくれます? 不安なので自己解決で。
「ぐっ……やっぱり着地ダメージあるじゃねーか……っ!」
牛、猿、クラゲの触手を人の足にしたっぽい何か、足が長いワニ、二つ頭の鷲、エトセトラエトセトラ……とりあえずとっさに数えた限りでは十五、八? 体程の、皆一様に真っ赤な身体を持つモンスター達が次々と砕け、喰われ、貪る大赤依へと取り込まれていく。
回復ガチャを行ってはいるが、俺はそれから目を離すことができない。何故なら……
「AAAAAAAaaaaaaaarrrr!!!!!」
───赤い、竜巻。
小粒の何かが、大量に渦を巻く事で形成されているのだろう、巨大な竜巻を背中から生やした貪る大赤依がこれまでとは異なる咆哮を上げる。
成る程……太鼓判を押されなくても分かるさ、これが最終形態だな?
そうだと言ってくれ、これを突破した後に続きがあったら流石に泣ける。