竜よ、竜よ! 其の十一
「傷だらけ」は強い。恐らくこの樹海エリアの中じゃ最高クラスの戦闘力を持っているだろうし、ゲームならではの自然発火ではあり得ない……それこそテルミットの如き焼夷攻撃は地上依存の敵相手ならば強力なアドバンテージになり得る。
だがそれらを加味しても貪る大赤依を相手にした場合、決して少なくはない敗北の可能性をぬぐいきれない。
まず第一にレイドボス性能を差し引いてもダメージの蓄積が分かりにくい。
そもそも生きているのか死んでいるのか分からないし、首が千切れかけていても元気に暴れていた(というか増えた)第一、第二形態を見た後では、仮に身体の半分を消し飛ばしたとしても普通に戦闘継続してきそうな恐怖がある。
次に第三形態になった事で奴の行動パターンに変化が起きた事。
ただでさえ突然尻尾に頭が生えたり、あまつさえ全部の首からビームを吐いたりするのだ。俺はもう翼腕にある口や胴体の大口からビームをぶっ放してきたとしても驚かない。というか絶対やりますよね?
そして何より……この森人族の里、そのいたるところに発生した血結晶だ。
単なる弱体化ギミックならそれはそれで構わない。だが始源解帰なる謎覚醒をしたとはいえこれが最終形態と誰が保証してくれる? 最悪のパターンはクターニッド想像態のようにオブジェクトの残存数で性能が変動する形態が後ろに控えていた場合だ。
プレイヤー三人によるレイドモンスター討伐、しかも初見。冷静に考えて無理ゲーだ、逃走可能かを確かめた方がまだ有意義な気もするがレベルキャップ施設を人質に取られては戦わざるを得ない。
ぶっちゃけるが俺はディープスローターを信用していない、あいつはペンシルゴンと別系統とはいえ同じタイプなので「何故覚醒の祭壇が破壊されたのか?」という疑問に匿名でチクる。その点に関しては奴を信用しているよう俺は。
ペンシルゴンの場合は疑心暗鬼を煽るだけ煽って、迎撃できるだけの兵糧と設備、人員を整えた上でカミングアウトからの魔王プレイだな。どっちも性質悪ぃや。
「要するに、お前に死なれると俺のプレイライフがヤバくなる」
だからこその俺だ。後方支援性能が高いディープスローターではなく、アシストに向いた中、遠距離職のトットリでもなく。カテゴリ的にはアタッカーである俺が血結晶破壊ではなくこちらに来た理由。
「やっぱインベントリアはぶっ壊れアクセサリーだ、な……!」
単純にリソースの問題だ、常日頃から背水の陣でプレイする俺は大量の回復アイテムを抱えている。だからこそ雪合戦でもするようにポーションを投げまくる事でアイテム依存のヒーラーを担う事が出来る。
先程からダメージを食らってばかりの「傷だらけ」に回復ポーションを全力投球しつつ、彼がサンドバッグ兼火力装置として貢献してくれるお陰で幾らか得ることができた貪る大赤依の情報を纏めて即席の攻略情報を作り上げていく。
とりあえず分かったのはあのブレス攻撃は分類上は魔法攻撃であるということだ、地味に超重要案件だ。
次に分かった事はあの頭……多分全部が別のヘイト識別をしてやがる。じゃなきゃ尻尾の頭だけ執拗に俺を狙ったりするもんか。あいつマジで許さん……あの尻尾ヘッドだけは俺の手で叩き潰したい、部位破壊判定あるかな?
「おっ、丁度いいところに」
「ひゃあぁ!?」
そして三つ目、これに関しちゃプレイヤー二人とも情報共有する必要がある。
ウツロウミカガミでヘイトを切り離しつつ、建物の陰からこちらを見ていた森人族の処へダッシュで駆け寄る。っつーかこいつアレじゃん、俺が脅した……じゃない、ご両親が食われた、あの……えーと、
「ドリール?」
「アリュールです!」
ニアミスだな、どうでもええわ。
「ディープスローターとトットリに伝言を頼めるか?」
「は、はひっ!」
「そうだな……「ギミック確定、全除去求む。目標未だ消耗見せず」……で」
「わ、わひゃりました!」
よし、明らかに不自然なタイミングで手空きの首が妙な方向に視線を向けるんだ、きっとその視線の先で起こった出来事は俺の予想を外れてはいまい。
む、そろそろ俺を執拗に狙ってくる尻尾の首がこちらに気付きそうだ。というか奴は何の恨みがあるんだ、ウツロウミカガミの虚像に執拗にブレス喰らわせてるけどそんな怒らせるようなことしてないだろう。
「あ、あの……」
「なんだ?」
と、今まさに戦線へ戻らんとする俺を呼び止める声。まぁ、他に人がいない以上はアリュールが呼び止めたわけだが。
「その……あの、勝てる、の、でしょうか……」
正直九……いや「傷だらけ」の参戦も加味しても六割くらい無理ゲーじゃね? とぶっちゃけそうになったが、流石にトットリのロールプレイをぶち壊すのもなんなので、ここはそれとなく強キャラ的なムーブで行く。
「未来は誰の手にも委ねられていない、であれば「勝てるかどうか」を思案するのではなく「勝つために如何にすればよいのか」を模索するべきだ」
運ゲーに頼るのは手持ちのリソースが全て尽きてからでいい、つまり回復ポーションだけでもあと千五百個ほど使い切るまでは負けじゃない、と……
「えと、あの、そうじゃなくて……」
「ん?」
「その、お身体の方が……」
あぁ、そういうことか。確かに見た目だけで判断した場合、今の俺は致命傷にしか見えないな。
俺は灼骨砕身の効果でヒビ割れ、身体を内側から焼いているようにも見える胴体をトントンと親指で示し、そのままサムズアップへと移行する。
「大丈夫、これ自発的にこうなってるだけだから」
「自発的に!?」
「そうそう、チャンスが来たら全身燃えるし気にすんなよな」
「燃え……、燃え……っ!?」
「しかも帯電もする」
「にんげんこわい……!!」
そうだよぉ? 下手に知性を持った生物が一番怖いんだよぉ……? 一個人の野望を元凶とするゲームなんてありふれてるからなぁ……!
「えと、その……サンラク……様」
「別に様なんていらないけど……何?」
……まぁ、なんだ。既に月の位置が明確に変わるくらいの時間は経過しているが、それでもつい先程両親を失ったばかりのキャラクターが何を願うかなんて決まっている。
「森人族は……私は、弱いです。どれだけ、怒っても……矢を放っても……あんな化け物には、勝てないです」
「そうだな」
聖盾輝士団のジョゼットや、午後十時軍のカローシスUQ、そしてサイガ姉妹みたいなガチ廃人が徒党を組んで挑むべき相手だ。ヘタレである点に目を瞑ったとしても、短弓でチクチク刺して倒せるなら俺はバグ報告メールを運営に送る。
「だから、どうか……どうか、父と母の仇を……取ってください!」
「…………」
今すぐにでも叫びを上げながら突撃したい衝動を、それ以上の恐怖が押し潰す。看過するには重く、忘れるには濃すぎる感情が涙と食いしばった歯に現れる。
無力に怒り嘆く、脆弱な森人族の願いを俺はただ黙って聞き……冥王の鏡盾を構える。
「え……きゃああああ!!?」
次の瞬間、一点集中のレーザーを思わせる血の如く赤い閃光が俺へと浴びせかけられ、されど死を帯びた閃光は深い海の輝きを宿す鏡によってその真っ直ぐな殺意はへし折れる。
「おいおい、熱視線ってそういう意味じゃないだろ……」
「……ひゃれ、生きて……なんでぇ?」
口からではなく、眼球を溶解させて無理やり作り出した砲塔から放たれた収束型の熱視線は、その細さ故に冥王の鏡盾で綺麗に反射することが出来た。
「アリュールだったか、覚えておけ……この世にはどうしようもなく覆しようのない運命ってやつがある。お前がアレに勝てないようにな」
だけども……そう、だけれども。
この世界における絶対の運命には勝てないとしても。
ある種演劇のような面を持つユニークシナリオではない、単純な戦力こそが達成の鍵となるレイド戦であるならば。俺は悲嘆に染まった森人族へと高らかに宣言してやろう、理論上ゼロでないならばそれは不可能とは呼ばない、そうですよねTAS先生……!!
「だが、今この瞬間がその覆せない運命だと俺は思っちゃいない。きっとトットリの奴も……ディープスローターのアホもな」
ついでに「傷だらけ」君も同じ思いを抱いているだろう。だから俺は告げようか。
「俺たちは勝つためにここにいるんだぜ」
「っ……、はい……っ!」
イベント敗北を除くありとあらゆるエネミーに絶対勝てる方法を知っているか?
百万発殴り終わるまで一発も被弾しなけりゃ神にだって勝てるのさ!!
……なんてかっこいいこと言ってるけど「傷だらけ」君が本気出すのを全力で足引っ張ってる奴がいるらしいっすよ?
ちなみに尻尾の首が主人公を執拗に狙っているのは驚異度の割合的な理由。つまり現在の主人公はクソ強三つ首ティラノの20%くらいの脅威と認識されてます