竜よ、竜よ! 其の十
「っつーわけで、結晶の中から出て来るモンスターは雑魚もいれば強敵もいる。捜索は森人族に任せるが破壊する時はトットリかディープスローター、手が空いてる場合のみ俺が近くにいることが条件だ」
ゴリラにライオンのたてがみを生やし、牛の角を生やした……場所が場所なら最凶のローキック猫パンチャーになりかねない怪物をサバンナ仕込みのローキックでトドメを刺した俺は続々と集まってきた森人族達に説明する。
「エムル、そこのお……殿下をお連れして指定ポイントまで連れて行ってくれ、その後は遊撃として戦況が不利な場所に加勢だ」
「はいなっ!」
「皆、俺は皆の決心を全力で支援しようと思っているし、もうこれ以上誰一人として欠けさせるつもりもない。全員でこの場所を取り返して……まぁこのままじゃ何もかも足りないから一度前線拠点に戻ってからになるけど、森人族の里を復興させようぜ!」
応、と森人族達の声が辺りへと響く。
……遠くの方から怒りを帯びた「傷だらけ」の咆哮が聞こえて全員ビクゥ! とヘタレったのはまぁ見逃してやるよ。
「さて、どうやら俺の助けを求める声がしたようだし……頼むぞトットリ」
「そりゃ頑張るけどよ……むしろお前の方が大丈夫なのか?」
「任せろ、MvM誘発に関しちゃ腕に覚えがある」
むしろこの作戦に関してはトットリ達の方が重要な部分を担っている、たかが介護プレイで時間稼ぎをするくらいどうってことはない。
「ねぇ私にはぁ? なにかこう、いきり立たせるような激励とかないのぉ?」
「なるべく多くの敵だけを巻き込んで自爆してくれ」
「おいおい流石の私も泣きそうだぜ……? まぁいいや、この戦いが上手いこと行ったらデートしようぜサンラクくぅぅん……?」
「デッドにならしてやるよ」
「殺し愛……!」
くねくね気持ち悪くなったディープスローターはさておき、非常に気は進まないが俺はフェアーフィリアの方へと身体を向ける。
「殿下、まさか御身自ら囮を買って出たと聞いた時は耳を疑いましたが……どうか御自愛を。これよりは激戦となりますゆえ、どうか陛下と共にお隠れを」
「えぇ……ですがサンラク様、最後に」
「ん?……じゃない、なんでしょう」
「どうか御武運を、貴方は私の英雄です!」
『どうか……ご武運を、貴方は私の英雄ですっ!』
「んぇっぐ」
それお前の魔の手から最後まで逃げ切ったけど途中退場させられたサブヒロインのストーリー上最後の台詞ゥーーーーーーッ!!
お前なぁーっ! お前がなぁーっ! それを言うのはタブーだろうがよーっ!!
フェアカスがド畜生すぎて相対的に人気投票ブッチギリの位置を獲得したサブヒロインちゃんをなーっ! お前ーっ! お前を庇ってラスボスに呪われたサブヒロインを無人島に置き去りにしたお前がなぁぁーっ!!!!
今世紀最大規模で心に吹き荒れたタイフーンをなんとか顔に出さぬよう渾身の力を込めて内側に抑え留め、かろうじてロールプレイを保った声と共に頭を下げる。
「みっ……みニァ、ミにアまる、光栄デス……」
許されない、これは許されないぞ天地 律……お前、これはお前……シャラハールちゃんに投票された三千五百人の英霊達がキレる案件だぞ……! ちなみに俺もシャラハールちゃんに投票しました。
っしゃオラ! 俄然殺る気が湧いてきたぞ! 天地 律もアーフィリアも殴れないならもうお前をフルボッコにするしかねーよなぁ!?
「よぉーし全員行動開始ィ! あの赤一色野郎をぶちのめすぞ!!」
ゲームのモチベーションは怒りで代用し得る、そう確信しながら俺は今この森人族の里で最も危険な場所と言っていい里外れの広大な草原フィールドへとやって来ていた。
トットリと森人族、エムルが合流したとは言えプレイヤーが五人にも満たないことは事実、三人のプレイヤーを限界まで酷使しなければこの戦いに勝つことは出来ないが、それでも俺という戦力の三分の一を投下しなければならない最重要事項がある。
「PiKyakyakyakyakya!!」
「飛び入り参加だオラァ!!」
先駆け一発、三つある首の内一つに噛み付いた竜の目ん玉へ銀光の鉄拳を叩きつける。
そして装備を変更しつつインベントリアから取り出したHP回復のポーションを三つ首ティラノ……「傷だらけ」のダメージエフェクトが噴き出す場所へと投げつける。
「俺の奢りだ、礼はいらんぞ」
「「「グルルルルルル……」」」
突然の乱入者にこちらを睨む「傷だらけ」、だが人間などという小虫よりも優先すべき敵が目の前にいるのだから猫の手ならぬ人の手は有効に使えよな?
「介護プレイだ、主役は譲ってやるからどうぞ存分に火力貢献してくれ」
さぁ、見せてやるよ貪る大赤依。金魚の糞Lv.99Extendのモンスターアシスト術をなぁ!!
「「「グロロァァァァァ!!」」」
三つが一つに重なった咆哮と共に、「傷だらけ」が貪る大赤依へと突撃する。単純、故にシンプルな計算で叩き出される物理ダメージが貪る大赤依の身体を後ろへと押し込む。
だが文字通り手数口数は貪る大赤依が上回っている、密着するほどの距離ということは捕食というモーションに大きな意味を持つ貪る大赤依の距離でもあるということだ。
「QoaaaaaAAA……!」
ぐばぁ、と貪る大赤依の胴体部分の縦に裂けた大口が横に開かれる、恐らく狙いは「傷だらけ」の真ん中の首だ。
貪る大赤依の複数の首が「傷だらけ」に組み付くかのように絡みつき、真ん中の首が悍ましい大口の射程圏内へと引き寄せられる。
「そこで俺の出番ってわけだ……な!!」
月光と、月狼の誇りと、煌蠍の籠手……まさしく夜こそが俺のメインと言ってもいいだろう。
月の光を浴びて溜まった魔力で打ち出された晶弾が俺の意思に従って柱と成る。如何に異形の姿とは言え手足を使って立っている以上、その質量によって体勢を崩す余地がある。
さらにスキルによって強化された拳で巨大な水晶柱による妨害でぐらついた後脚へ追撃を仕掛ければ、奴は体勢を崩してモーションを中断せざるを得ないということだ。
「どうよ「傷だらけ」さんよぉ! この俺の名アシストは!!」
どうやら水晶柱も貪る大赤依も目障りでたまらないようで、俺のすぐ真上を風を切って唸る尻尾が通過する。破壊力の塊じみた鞭の如き一撃が水晶柱を粉砕し貪る大赤依を叩き据える。背伸びしてたら逆ダルマ落としになってたな……それただの斬首だな?
「くっ……この程度じゃまだ絆は深められないってのか……っ!」
水晶群蠍達とはこれ以上ない程に絆を築けていると自負しているが、あれは幾度とない訪問と球技大会があってこその現在だ。あいつら対俺パターンが構築されてるのか、追い込み漁とか単純ながらも戦術を駆使し始めた上にだんだん洗練されてるからな、他プレイヤーさんごめんなさい。
いやそれはどうでも良いんだ、今は「傷だらけ」の好感度稼ぎだ。とりあえず先に俺を片付けますかぁ! なんて襲い掛かって来られたら元も子もない。奴には俺という存在に対して利用価値を見いだしてもらわないとな。
他ゲーなら如何にヘイトを標的に押し付けるか、が重要なのだがシャンフロの場合はモンスター次第ではあるが上等なAI持ちの奴がいる。そういう奴らは言葉が話せるか否か、以外はほぼNPCと言って良いだろう。
「だったら原始的コミュニケーション「行動で示す」を使う余地があるってもんだ」
勝手知ったるゲームであれば、無言であってもマルチは出来る。それ即ち言語の放棄、人とモンスターは行動で分かり合える……!
おっと「傷だらけ」君、口からネバついたゲ……痰? を吐き出してるが何事かな? なんつーか黄と白に黒を気持ち悪いマーブルな感じで混ぜた色をしてるのでますますゲr……た、痰にしか見えないのだが。
「うんうん、貪る大赤依を含めた周囲一帯にゲロをばら撒いて?」
何やら三つの首が首を上に向けて口をガチンガチンと閉じては開き、閉じては開き……おや、ゲロだと思っていたけどどうもこれ脂? と他に何か混ぜたものっぽいねぇ……しかも口からは現在進行形でなんか黒煙っぽい吐息を……おい待てコラ。
ガチンッ!!
「のぉぉぉぉぉぉおおお!?」
うはははははは! バッカじゃねーの!? バッカじゃねーの!!?
あの恐竜、ゲロでナパーム再現しやがったぞ! 樹海に棲むモンスターがやっちゃいけない攻撃ナンバーワンだろこれ!
獣は火を恐れ、人は火に惹かれた。そして単なる恐怖に収まりきらない感情を人は「畏怖」と定義する。
目の前でこんなファンキーな技を見せられちゃあこちらのテンションもヒートアップせざるを得ない。
火達磨になって絶叫する貪る大赤依の大音量に負けじと俺もまた歓声をあげる。
「良いね良いね、派手にやってくれるじゃねーの! そらこんな隠し球があるなら廃人連合だって殲滅できるわな!!」
どうやら貪る大赤依の全身だけじゃなく俺の心にも火が点いてしまったらしい。
これはあれだ、よくある「自陣営の決戦兵器的切り札を使うまで時間稼ぎしてくれ!」的展開だ、戦いに勝つと言う目的と同じくらい切り札を特等席で見る事が重要なんだ。
こんなに心踊る大技、今支援せずしていつ支援すると言うのか。
「さぁどんどんぶっ放していけよ「傷だらけ」、手助けなら俺がしてやるからさ!」
・傷だらけ君の切り札
捕食した生物の脂肪などから油を取り出し、体内で生成した可燃性物質と混ぜて吐き出す。そして顎を地面に叩きつけるようにして歯を打ち合わせることで火花を起こし一気に炎上させる生物的ナパーム。ご先祖様がクソ燃費バーニングティラノなので火属性とはシナジーがあるんですね
要するにスコーチのフレイムコア