竜よ、竜よ! 其の八
あー、死んでしまったかぁ。
第二形態はある種の伏線だったか、第三形態開始時はただの尻尾だったはずなのに、気づいたら頭が生えてやがった。
しかも第一、第二形態じゃ物理一辺倒だったのにここに来てブレス解禁ですよ、しかも生えた首全部が同時に使って来るとかもうね。
「………い、……い……!」
しかし弱ったな、森人族が作った即興セーブポイントが畳まれた以上、最後にセーブした現存ポイントは多分スカルアヅチだ。逃げたトットリ達と合流するにしても手がかりなしで森を彷徨わなければならない。
「……おい……きろ、……ジで……!」
いやそれにしたってなんなんだあの第三形態、状況に応じてパーツの増減? 新規モーションの解放? いや何よりあの明らかに「先に破壊しないと難易度変わらないぞ」と言わんばかりの謎結晶……あーくそ、そんな事よりあの変態より先に負けたのがめちゃくちゃ悔しい! 絶対あいつ「早漏!? 早漏なんですかぁぁあ〜〜???」とか煽って来るぞ……斯くなる上はMPKなり京ティメットに依頼して俺の手を汚すことなく奴を始末……
「あー……エムル、さん頼む」
「お早うのお目覚めするですわキーック!!」
「ぶげぇぇぇ!?」
腹にインパクト……っ! ついでに地面を背に「く」の字に曲がった反動で後頭部を強打してツインパクト……っ!!
馬鹿な、スカルアヅチのベッドはこんな硬いはずが……あれ?
「サンラクサン正気に戻るですわっ! 戦いは終わってないですわーっ!」
「は? なんでエムル?」
お前普通にパーティ離脱したはずじゃ……っていうか、いや待て俺の眼の前で繰り広げられてるこれは……
「くっ……極力接近を避けろ! リアーヌとハルフォンの仇を……我らが故郷を取り戻すのだ!」
「ひぃっ! こっち見たぁ!」
「逃げるな! 立ち向かうんだ!」
強いてタイトルをつけるなら「ホラーゲー耐性絶無の人達がそれでも必死に攻略してる図」だろうか。悪趣味なのは承知の上だが他人が泣き叫んでいるのを側から見るのクソ楽しいからなぁ……つまり今俺は楽しい。
だがそれはいい、今はさして重要なことではない。今一番重要な点は、ここから離脱し前線拠点を目指していたはずの森人族達が何故か貪る大赤依を相手にチクチク攻撃している、という事だ。
「どういう事だ……トットリ」
「強いて言うなら……義を見てせざるは勇無きなり、ってやつか? それに俺が蘇生アイテムを飛ばさなきゃ普通に死んでたんだぜ? もっとこう感謝とかだな……」
「蘇生……マジか、じゃあまだ戦闘中か!」
未だに夢オチ説が二割ほど拭えなかったのだが、トットリが腕に装備したスリングショットをコンコンと叩いているのを見て、ようやく自分が蘇生されたのだという事に気付いた。
え、何それアイテムも飛ばせるの? クソ欲しいんだけど森人族脅せばいいの?
「いや、脅迫は一先ず置いといて……」
「脅迫?」
「置いとけ、端に置いておけ。んな事よりなんで森人族が戦ってるんだよ、あいつら故郷の奪還より生き延びる事重点だろ」
正直トットリが戻って来る可能性は僅かだが考慮していた。プレイヤーだしな、極論を言えば森人族にこだわり続ける必要性が無いわけで、初見のレイドモンスターを見たいと思ってもなんら不思議では無いと、そう考えていた。
まぁ実際は思っていた以上に没入するタイプだったらしく、まさかロールプレイの流れで戻って来るとは思わなんだ。
だが戻ってきたなら戻ってきたで、気になることがあるわけで。
「なぁオイ、まぁなんだ……エムルがここにいるのはまぁ分かる、だけどあと二人ほどお前に任せた筈なんだが……?」
「王様の方はレイモンドとラセッタ……あー、森人族の中でも比較的レベルが高い二人に任せてる、なんか狙われてる? らしいし流石に少人数で拠点に行くのは不味いかなって」
「王様の方は?」
おいおい、その言い方だとまるで王女の方は別の扱いって事にならないか?
「お姫様の方は……あー、えーと、非常に言いづらいんだが……モンスターの、囮をだな……」
「グッジョ……げふん! ごほん! お前何してんの!?」
「いや今お前の口から出かけた言葉の方が驚きなんだが……」
うるせー! 「あ、事故死なら合法じゃん」とか思ってねーよ! 顔がフェアカスなのが悪いんだよフェアカスなのがよぉ!!
「お前あれだぞ? お姫様が死んだら割とバッドエンドルートだぞ? 分かってんの?」
「戦闘中に説教は勘弁してくれ……別に見捨てたわけじゃねえし、あのお姫様なんかぶっ壊れアクセサリー持ってたから多分そう簡単には死なないぞ」
ぶっ壊れアクセサリー?
「パーティを組んだ他人のAGIとDEXを自身に反映するアクセサリーだとさ」
「えっ何それぶっ壊れアクセサリーじゃん」
俺一人いるだけでレイ氏やマッシブダイナマイトが超加速する超火力破壊兵器と化すんだが? え、なにそれぶっ壊れじゃんそれに比べればインベントリアも大したこと……あるけどさ、ナーフされたからってぶっ壊れ加減がマトモになったとか思うなよ。
そもそも非生物ならほぼなんでも収納可能って時点で頭おかしいんだよつーか有機物入ってんじゃん。
「まぁ、王家に代々伝わる〜とかそれっぽいこと言ってたから専用アイテムなんだとは思うけどな」
「あー、血筋系か……」
仮に結婚システムがあったとして王家に玉の輿したとしても、流石に使えることはないだろう。よくよく考えたらこの状況下でそのアイテム、ってもしかしてプレイヤーの歩幅にNPC側を合わせるためのアクセサリーなのか?
いや待て待て、アクセサリー談義に花咲かせてる場合じゃねーんだよ。あ、宙を舞うディープスローター……たまやぁ〜
「つーかそれを差し引いても王女NPCを囮にすんなよ……恐れ知らずか?」
「いや、だって本人が志願したし……あいつもお姫様やエリナばっかり狙うし……」
あいつ? とやらは気になるが成る程本人の志願か…………仮に死んだとしても不慮の事故、俺悪くない、なら良いか? 良くないわ下手すりゃヴォーパル魂が下がりそうだ。あれヘタレプレイするとガンガン下がるっぽいんだよな……ソースはエムルの態度。
というか、なんでこいつはこんな余裕そうなツラをしてるんだ? ディープスローターは相変わらずG並の生命力で吹っ飛んでるし、森人族達は口では勇ましいセリフを吐きながらも身体は正直にチキンプレイを徹底している。
今はあまりにも弓の威力が弱すぎて貪る大赤依自身も「この雑魚どもどれから殺せばええん?」みたいな動きをしているが……あっ、成る程貧弱すぎてヘイトが分散しまくってるのか。そりゃ如何にレイドモンスターと言えど蚊を潰すのに全力ブレスは放ちたくはあるまい。
だがそのグラついた均衡も、貪る大赤依が本格的に動き出せば……例えば物理攻撃で叩き潰す方針を固めたなら絶対に犠牲者が出る。だと言うのに何故……?
「なんつーかさ、多分だけど……「森人族の大移転」にはシナリオ上のボスモンスターがいるんだよな」
「いやそれ今関係な……………え、待て……待て待て待て、お前まさか」
「実はさ、お前らと会う前にも何度か前線拠点近くまで行ったことがあんだよ。でもその度にあいつに邪魔されてさ……割とガチで逃げないとずっと追いかけて来るし……」
だったらさ、とトットリが歯を見せる凶悪な笑みを浮かべる。それと同時に、貪る大赤依の動きによるものとは異なる質量移動によって引き起こされる振動が足元から俺の思考へと届く。
「じゃあいっそ、レイドモンスターにぶつけちまえば良いんじゃねぇか、ってさ」
既に誘導は済ませているのだとトットリは言う。
後はアーフィリアを連れた二人のエルフ……エリナとヘーシュが所定の位置まで走ってそれを最終ポイントまで誘導するまでの間、森人族総出で時間稼ぎをするだけだったのだと。
そして作戦を説明する為に現場に急行してみれば、尻尾から生えた頭のブレスが直撃した俺が消し飛んでいたので、有事に備えて一つだけ持っていた蘇生アイテムで俺を蘇生させたのだと。
「あぁ、紹介するぜサンラク。奴こそこれまで数多のプレイヤーを迎え撃って、ついにはあの午後十時軍の連合討伐隊にすら勝ってみせた……」
傷だらけの三つ首ティラノさんだ、背中に名前忘れたけど説明剣? みたいな感じの第三騎士団ちゃんと処理してくれました?
トットリがその正体を明かすのと、爆炎を伴った三つの首を持つティラノサウルス……全身にくまなく傷を持ちながらも、勝利の果てに自分は立っているのだと、敗北の弱さとは無縁であると言わんばかりの威風堂々たる帝王がその姿を現わすのはほぼ同時の出来事であった。
「「「グォォァァァァァアアア!!!」」」
いやこれ勝った方が俺達の敵になる奴じゃねーか!!
勇者は遅れてやってくる
トットリ達が戻ってくるまでにそれはもうドラマティックな展開がありましたが全ユザパです。
ちなみにエムルがサンラク武勇伝を語ってトットリに「あれこれまさか本当に二人だけで倒して俺除け者にされるんじゃ……」という猜疑心を抱かせたのも戻ってきた理由の一つ
ちなみにフェアカ……アーフィリアやエリナは森人族直伝の「木を隠すなら森の中隠密術」で離脱してます