竜よ、竜よ! 其の五
筆は乗ってもスケジュールは詰まっていく世の無常……
「QooooooooooooOOOOO!!!」
「お前が……三つ目だ!!」
第一に複数の小型恐竜の胴体が接続された頭。
第二に大型翼竜の翼を多分虫か何かの胴体にくっつけた頭。
そして今、第三のティラノ頭……取り込まれたのだろう森人族の身体を頭部の左半分から生やし、右半分は角か何かがびっしりと生えた動けぬそれにとどめを刺す。
「……まぁ、爽快感は無いよなぁ」
ついさっきまで人と同じように振舞っていたNPCのなれ果てが形を崩して潰れていく光景に口を曲げつつ、検証の第一段階を達成した事にほんの少しだけ気を緩める。
そしてすぐさま勝利の余韻に緩んだ兜の緒を締め直して貪る大赤依、その本体の観測を開始する。
「まーた赤溜まり攻撃か……だが!」
好都合だ。
爆ぜ、拡散した赤色の溜まりからまたしてもキメラ分体が生み出され始める。
最初にこれを見た時は色々それどころではなかったが……観察し、考察する前提で見れば見えてくるものがある。
「ディープスローター!!」
「こっちでも確認したよぉー!」
奴の説が当たったわけだ、ムカつくが認める他ない。
見ればそこには翼竜の首が生えた森人族の下半身があり、大量の小型恐竜の頭だけがくっついたクソみたいなウニがあったり……あぁ、だがその中に一際目立つはずの「ティラノの首」も、「男性型の森人族」も存在していない。
「よう、お前……ストックが切れるとどうなるんだ? なぁ!!」
確証は持てない、別に弾切れしたってレイドボス性能なら殴れば相手は死ぬのだからこれ自体意味の無い行いである可能性も捨てきれない。
だが現状集められる情報ではこれを通していくしか方法はない。そもそも勝つ可能性の方が低いのだから、躊躇うだけ無駄だろう。清水の舞台からバンジーだ。
「だぁあ邪魔っ!!」
冥王の鏡盾を放り投げ、両手で握ったアラドヴァル・リビルドで足元から伸びた多分恐竜の腕を地面ごと突き刺す。おっとキメラ分体が沈み始めたな、よくよく見れば結構兆候あるじゃん。やっぱ冷静な判断に基づいた観察って大事だね。
踏みつけている赤溜まりの隆起から出現地点を割り出し、一帯の赤が一点に集まる瞬間を見て跳躍、フリットフロートを起動して空中をバック宙返りで跳びながら距離を離す。
「種が割れれば怖かねーんだよ!」
「種……つまりチャイルド……ごほん、【ディストーション・ヘイズ】!!」
今この瞬間ほど正眼の鳥面の目力に感謝したことはないだろう。眼力だけであの変態を牽制できるとか百万の追加VITよりぶっ壊れ能力だぜ、ていうかあいつマジで先にぶっ飛ばしてやろうか……
「サンラクくぅーん! 後ろ! 後ろーっ!!」
「わぁーってるっての!」
だから冥王の鏡盾を捨てた場所まで後退したんだろうが!
拾い上げた大楯と体の動きを連動させ、千切れかけの首をビッタンビッタンさせながら突進してきた貪る大赤依の身体に斜め方向から盾を叩きつける。真正面から受け止めれば質量と運動エネルギーの全てを受け止めることとなり死ぬわけだが、軌道がそれていれば奴と比べれば何十分の一ともわからぬ軽い俺の身体は弾き飛ばされ、死亡圏内から逃れることができる。
冥王の鏡盾をインベントリに格納しつつ、インベントリアに12個を12セット用意した回復ポーションを使用する。ミス、ミス、ミス、成功、ミス……クソ乱数かよ。
「まぁいい、八割保てりゃ削り殺されることはなかろうよ……!」
元より守勢前提のチキンプレイだ、二時間や三時間で倒せるとは思っていない。お前プレイヤー三人+NPC二匹で倒したリュカオーン分身やらソロ討伐した金晶独蠍やらなんかは一晩かかったんだぞ、フルダイバーなめんなよ。
「オラとっとと分体出せ! 出した端からぶつ切りにしてやる!!」
あっ、肉種はやめてああああ育っちゃーう!!
「安らかに眠れ……つーかマジ眠ってて……」
最後のキメラ分体、ティラノの胴体に大量のラプトルの首ともう一人の森人族の上半身が生えた怪物が地面に沈んだのを見つめながらそう呟く。くそう……見た目通りのタフネスしやがって……まぁ二人がかりで倒せたってことは弱体化……いや違うな、食われる直前の体力か何かを参照してるのか? そうなると首が三つむしられた時点での胴体の体力ってことか? そら二人がかりでも倒せるわな、死にかけじゃねーか。
「おいディープスローター、MPは大丈夫なのか」
「おいおいサンラクくぅん……魔法職はMPが尽きたら盾にすらなれない障害物になるんだぜ……? ああでも、穴や棒はあるわけだしドール的な需要が……」
「キルしなければセーフ」
「待ってサンラクくん二割削れた」
おっと、殺意で力が篭ったか。
ちろちろと執拗に瓶の口を舐めるアホを無視しつつ、俺は残弾を吐き出し切ったのだろう貪る大赤依を見る。
奴が出したキメラ分体を倒すたびに、その次の出現では使用されるパーツやそもそものキメラ分体の総数が減少していた。そして先ほどのラプトルヘッズティラノwith森人族一体のみの出現を攻略したことで、奴が喰ったのだろうモンスターのストックは尽きたと見ていい。
さてここからどうしたものか、という話ではあるのだが……レイドモンスターというのは得てして段階、形態、フェーズを持つと相場が決まっているのだ。特定アイテムが絡むのはシナリオ上のラスボスや中ボスの特権なので、レイドボスの場合は体力の変動や特定行動による条件達成で見た目、モーション、ステータスの変化が起きるのがセオリーだ。
そう考えると、明らかに暴食系モンスターである貪る大赤依の胃の中をからっぽにした、という行動は次段階への移行としては有力である可能性が高く………
そしてその仮説に対して貪る大赤依は行動で返答した。
「VaRrrrrrrrrrrrrrraaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAA!!!!」
「うおっ」
「血が出るのは最初の一回じゃなぁい? あっ焦げりゅう!」
真横に突き出したアラドヴァル・リビルドの剣の腹がじゅっ、と何か焼肉パーティしたのを手応えで感じつつ、絶叫とともに全身から血のように己の身体を撒き散らし始めた竜骸を睨み据える。
「なに……うをぉ!?」
そもそも貪る大赤依は竜の姿をしているわけだが、翼が生えた……いわゆる火を噴いて空を飛ぶタイプのドラゴン、というわけではない。いやそりゃ全身赤一色でいたるところ損傷しているってのもあるが……なんだろうな、どう見ても水棲生物なんだよね。
っていうかあんまり触れないようにしてたけど確か一匹、プレイヤーが干渉する前に死んでたドラゴンがいるって聞いたんですけど………狂える大群「青」が深海で封印されてることを鑑みてもあなたですよねエルドランザさん。
まぁそれに関しては今はいい、ストーリー的考察はこのシャンフロにおいてゲーム的考察に直結するわけだがエルドランザの死因は現状では重要度がそう高くはない。重要なのは奴が水棲生物的特徴……つまりエラやらヒレやらをもっているということが重要だ。
「なぁ、あれで叩かれたらどうなると思う?」
「思いっきりスナック菓子に張り手したみたいになるんじゃない?」
木っ端微塵ですね、はい。
奴の体から吹き出した赤色の飛沫は、ぐじゅぐじゅとやはり液体と固体の中間を思わせる蠢動を伴って奴の肉体、その輪郭を形成していた体のパーツを肥大化させ始めたのだ。というか頭が六つに増えてるように見えるんですが……
「おいセクハラフィンガー、お前の立案した対処でああなったんだが次善策は?」
「逝かないように寸止めで焦らしプレイかな、あっ頬がウェルダンになっちゃう!!」
アラドヴァル・リビルド……よもやこんな使い道があったとは。
要するに椅子取りゲーム、失業した奴は今就職してるやつから職業を奪い取るしかないのだ