竜よ、竜よ! 其の四
だんだん筆がノッて来ました
端的に言おう、状況は極めて悪いと言わざるを得ない。
足元に広がった赤溜まりから次々と出現する不恰好で悍ましいホラー重点のキメラは雑魚のくせに結構なタフネスがある、恐らくだが二、三人で対処する前提なんだろう。
「チッ……使うか? いや……」
ダメだ、碌に貪る大赤依本体を削れていない状況下で追い込みをかけるのはリスキーが過ぎる。墓守のウェザエモン戦のように蘇生手段が充実していたのなら選択肢としては有りだったが……
「サンラクくぅん! 四つん這いになって豚のように啼いてねぇ!」
「言い方ァ!」
「はい【殺到する敵意】どーん!」
いちいち神経を逆撫でしてくるが後方火力としての仕事はしっかり果たすディープスローターの魔法が発動、背後から迫る幾本もの光条を遮那王憑きの補正が入った宙返りで回避する。
ていうかその攻撃、軌道的に伏せたらケツに当たるじゃねーか!!
「失敬、サンラクくぅん事故なんだよぉ……オートホーミングだからさぁ……」
後ろを向く余裕がないので確かめることはできないが、きっとニマニマと笑みを浮かべているのだろう。ほんとマジで天誅案件では……?
だが魔法職……それもこの場所に到達している以上、レベルキャップを解放しているであろうプレイヤーの攻撃魔法は雑魚キメラの動きを封じ込めるだけの威力を持っているらしい。
体力が削れたことで弱った分体共の間を駆け抜けながらアラドヴァル・リビルドで斬り裂いていく。
「……揺れた、来るか!」
地中、水中、空中……場所はどこであれプレイヤーの手が届かない場所に逃げ込んだモンスターの次のアクションなど、奇襲以外の何があると言うのか。
古来よりゲーマーに伝わるホーミング攻撃に対する効果的対処方法「当たらないよう動く」を敢行しつつ、貪る大赤依のホーミング性能を測る。
「さぁ、スタミナケチって歩いてる獲物がいるんだ、襲うなら今だぞ……」
「何やってんのさサンラクくぅん! ほらちんたらしてないで走ろうよちんたらちんたら! 略してチンチ……」
「慎みMODとかインストールしてくれませんかねぇ!?」
……! 揺れた、地面が膨らんだ、三歩下がれば座標調整。おいおい、なんだこのクソホーミング……!
「くっ……退、ひぉお!?」
例えばの話だが。
地面に敷かれたハンカチと、その上に置かれたおはじきを想像してほしい。そしてそのハンカチのある一点を掴んで思いっきり引っ張り上げたとしよう。
さて問題です、ハンカチの上に乗ったおはじきは物理法則に従いどんな動きをするでしょうか?
「Zyrurururururrrraaaaaaaaaa!!!!」
「な……っめんな!!」
こちとらなぁ! 電車の上から飛行機の上ェ! 果ては宇宙戦艦のブースター直上で戦ってきたんだよ!
バグっていきなり奈落の落とし穴が生成される平原に比べりゃあなぁ……いきなりテーブルクロス引きされた程度で俺が屈すると思うな!!
「慣性をくれてありがとよっ!」
一秒前まで俺がいた場所が急激に膨れ上がり、それに呼応するように赤溜まりが一点へと集まっていく。
擬似的な足払い状態となり、頭から地面に落ちようとしている天地反転の身体をそれでも支えんと左手で地面を叩く。右手はどうしたのか? そりゃお前大事な右手で胸を叩くのさ。
「見さらせ! 習得時間四日ァ! 累計死亡回数四十三回と半死半生一回のぉ……!!」
必殺ぅ……!
「過剰伝達連続バク転!!」
なお、あくまでもスキルアシスト無しでの習得時間なのでスキルのアシスト有りなら三回くらいで習得しました。
瞬刻視界起動、スローモーションの世界の中でパックリと開かれた竜骸の胸部が俺を喰らわんと大口を開く姿を一瞬の世界の中で目撃し……次の瞬間にはスローモーションだからこそまともに見える、だが実際にはエムル曰く「ぎゃぁぁあああキモいですわぁぁぁ!!」の一言で切り捨てられた人間大回転で死亡圏内から脱出する。
いやいや、ちょっと体操選手の連続バク転を倍速にしただけじゃん……俺以外の世界は等速だからギョルンギョルン回る半裸が高速で後ろに下がっていく光景になるわけだが。
「はいフィニーッシュ!!」
体操選手の動きを頑張ってトレースした二倍速バック宙返りで体勢を立て直し、その姿を再び固定させた貪る大赤依を睨め付ける。
すぐさま封雷の撃鉄・災を解除して……チッ、十秒経過していたか。減った体力を回復しようにも神秘「愚者」のせいでコイントスを強いられる、ここに来て俺の弱みが表に出て来たな……やっぱり、長期的に守勢に回ると弱い。あと片手での剣スキル!!
過剰伝達が無くとも、鍛え揃えてきたスキルがあれば距離を詰める速度に支障はない。
フリットフロートを絡めた空中機動でヒビだらけの骨(赤)が見えている貪る大赤依の首にアラドヴァル・リビルドを叩きつける。
「……おおっ?」
あっさりと落ちた竜骸の首に、一瞬驚いたものの……奴の足元に落ちた首がべちゃりと地面に落ちて赤溜まりになったのを目撃し、納得する。
「これ無理ゲーでは?」
部位破壊が意味を成さない、首を落としたところで赤溜まりになると言うことは先程の溜まり化をすればまた完全復活すると言うことだ。
「く……」
後衛と意見交換の必要がある、一旦休止符を入れるしかない、か……
致命秘奥【ウツロウミカガミ】起動、これまでに稼いだヘイトを全て切り離して距離を離す。ハンドサインでディープスローターを呼んでかつて森人族が住んでいたのだろう廃屋の一つに飛び込んで作戦会議を開く。
「おいおい……男女二人、密室、吊り橋効果……何も起きないはずもなくぅ!?」
「多分R18でもゴアな方のフラグしか立ってないぞ」
サメ映画とかゾンビ映画とかそっち系な、壁をぶち抜いて怪物が襲ってくる奴だ。
「さて……ぶっちゃけ、どう見る?」
「力押しで倒すのは無理でしょお、そもそも怯みこそするけどダメージが入ってるのかどうかすら分かんないしねぇ……マグロ?」
「全身赤身だしな……脂身無さそうだけど」
となるとギミック系か? いや、その可能性は低いだろう。最大四十五人でやる事が大縄跳び、をこのゲームがやるとは考えづらい。
レイドボス、つまりウェザエモンとは違い再度の戦闘が確約された存在である以上「攻略法」が存在する事は確かなんだが……
「なぁ、確かお前あの液状化した大赤依に攻撃したんだよな」
「んー……それなりの火力を叩きつけたんだけどぉ、倒せたってぇ感じはしなかったかなあ……」
オーケーフラットマイハート、そういう方言だと納得するんだマイハート。許容の精神は大事だ、じゃないとオンゲなんてやってられない。
「……詰みでは?」
「おいおい、ピストンの途中で中断するのは生殺しってやつだよぉ……? とはいえ、その結論だと頭数を増やしてマワしても勝てないって事になるしぃ……」
やはり何か攻略法がある、と?
言動はパッパラパーだが頭の方はちゃんと機能しているようだな、アウトプットが全てピンク色のクソプリンターだが。
「んんん……ねぇねぇサンラクくぅん、この私のマスターフィンガーにその身を委ねてみる気は無いかぁい……?」
「は?」
「おいおいそんな目で見るなよ、涙を流して濡れちゃうじゃないか」
頬だよね?
「ったく……呉越同舟にしたって悪魔と相乗りしてる気分だが……やってやろうじゃねーか!」
その世界観を楽しむのもゲーマーの華、それと同時に敵の全てをシステム的に明かすのもゲーマーの華って奴だ。
百花繚乱だな、これだからゲームはやめられないってなァ!!
「検証の時間だ!!」
ユニークモンスターは挑戦プレイヤーやNPCの数でステータスや攻略法が変動する
レイドモンスターは性能据え置きではあるが理論上は一人でも倒せる攻略法を持つ
二つ名系モンスターは単純にスペックが強化されてるので実力で勝てないなら一人だろうが百人だろうが叩きのめす