再会は必ずしも歓喜を共有するとは限らない
もうやめて! 君のセリフ書くたびにBANの影がちらつくのォ!(でもやめない)
世界が終わるまで一分。
フルダイブVRとは要するに夢のようなものだ。夢の中で刺されたところで現実で出血するわけじゃない、喉が枯れるほど叫んだとしても目が醒めれば普通に歌うこともできるだろう。
だがそれでも「これは確実にリアルに影響を及ぼすだろう」と直感できる疲労の中、俺が振り抜いた魔力の刃がその役目を果たしたとシステムが判断したことで消失し、俺と奴の間に僅かな沈黙が齎される。
「………今となっては全て手遅れだけど、それでも仇は討ったぞ皆」
もはやこの世界が……スペル・クリエイション・オンラインがサービス終了する事実を覆すことはできない。
事の発端こそ今俺が斬り捨てたプレイヤー……確か今は「ナッツクラッカー」とかいう名前だったか……こいつだが、ナッツクラッカーが齎した被害に対抗するため、俺達もまたいくつもの魔法にクソみたいな難易度の詠唱を設定したのだから。
オンゲーが過疎って内輪向けになる事は珍しいことではない、だけれども新規を拒むようになっては手遅れだ。スペクリはその果てにたどり着いてしまった。
「地雷プレイヤー同士が新規に迷惑をかけながら内ゲバしている」なんて悪評をおっ被せられたこのゲームは正式にサービス終了を決定し、シモネタニア帝国の馬鹿共も、それに抵抗した阿呆共も……
ある者はフレンドと別のゲームでの再会を約束した、ある者は何も告げずただ消えた。どちらにせよこの世界と、この世界で紡いだ繋がりは無傷でいる事はなく、どこかしらが途切れる事になる。
世界が終わるまで三十秒。
だからこそ、最後の最後にこいつから「決着」の誘いが来た時……これまで散々煽られた仕返しという以上に、どれだけBANされてもニタニタ笑いながら復活したこの野郎をこのゲームから勝ち逃げさせるわけにはいかないという思いが強かった。
今思えばどうしようもなくアホだったとは思うが、それでも同じ目的を持つプレイヤー達がワイワイ騒ぎながら作り上げた「魔法」は最後の最後で黒幕の打倒に役立った。
残り数十秒の猶予では勝利に浸る時間すらない、だけども確かに最後の最後で奴に敗北を叩きつけることができた。
「───あは、」
「……チッ、蘇生魔法かよ。最後くらい潔くデスポンしとけよ」
「あははは! 凄い、凄いよサンラクくぅん……まさか最後の最後で私を押し切るなんてねぇ!」
世界が終わるまで十五秒。
笑う、嗤う。ナッツクラッカーは最後の最後でこのゲーム最高! とでも言わんばかりに笑う。
「死鋼のフル版ってだけでも大概面白かったけどぉ……まさかこのボクが負けるなんてねぇ……」
「勝ち逃げだけはさせん、意地でもな」
「くくくくく……仇討ち、かね? 古き良き日本人の伝統というわけだ。いや、実に見事」
声が変わる。野太い男の声から老婆まで、下手をすれば今話している相手の声真似すら一瞬でこなす異様なリアル技能を持つナッツクラッカーが、楽しくて仕方がないと言わんばかりの笑みで俺を見つめる。
「最高だ……最高だぜサンラクくぅん……本気を出した俺に追いつける奴がいるなんて今でも信じらんねぇ」
世界が終わるまであと五秒。
もはやこれが互いに最後の言葉となるだろう。
罵倒の言葉は限りなく、選んでいる間に世界が終わる。だったらもう、シンプルに今の心情を告げてやろう。
そう顔を上げれば、向こうも同じ結論に至ったのか……このゲーム滅ぼした元凶とは思えないほどに澄んだ目で俺を見て、そして同時に告げた。
「───二度と会いたくねぇ」
「───また逢おうね」
これまでの声とは違う、初めて聞いた自然な声色。だがその声に込められた莫大な量の感情が俺の背筋に突き立てられるように……
世界が終わるまで零秒。
「嬉しいねぇ……嬉しいねぇえ……! いろぉんなゲームで君を探したけど全然見つからないし諦めてたんだがよォ……シャンフロで張ってて正解だったかしら?」
そりゃ、シャンフロ以前で俺がプレイしていたのはクソゲーばかりだからな、ワゴンを漁って見つけ出すような代物ばかりだ。それ以前に別ゲーで同じプレイヤーと再会する確率なんてリアル遭遇並に低いだろうに……こいつはずっと探してたってか?
「その執念を慈善事業とかに活かせないもんかね……」
「うふふふふふ、善意なんて所詮は電気信号の気まぐれに過ぎないんだよサンラクくぅん……」
何故ここに、とかはこの際もうどうでもいい。奴が何を目的としているのか……それだけが問題だ。
「一体何が狙いだ……リベンジか? 受けて立ってやるよ」
「それもいいねぇ……でもねサンラクくん、拙者としては好敵手たる君と仲良くしたいんで御座るよなぁ」
『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
「対面チャットエッチしようぜ!」』
速攻却下した。
『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
「対面チャットエッチしようぜ!」』
却下。
『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
「対面チャットエッチしようぜ!」』
拒否。
『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
「対面チャットエッチしようぜ!」』
……キャンセル。
『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。
「対面チャッ
「しつけぇ!!」
「承認するまで地の底だろうと追いかけるよぉ……?」
通報! 通報できないんですか!?
まさか使用する事態になるとは思っていなかった通報コマンドがどこにあるのかを必死で探していると……ええい腕を絡めようとするな!
ナッツクラッカー改めディープスローターを振り払いながらウィンドウを操作していると、混乱した様子のトットリが俺へと話しかけて来た。
「なぁ、ディプスロさんから別ゲーからの知り合いってのは聞いてたけど……なんかあったのか?」
「犯人お前かぁぁぁーっ!!」
この野郎共犯者だったのか……いや違う、明確にチクったわけじゃないな? この下ネタ野郎の得意なやり口だ、赤の他人と「良き友人関係」を築いて善意のネットワークを作る。
良かれと思っての行動で作戦が漏れたり、知らないところで弱点がバレたりと厄介極まりないんだよこれ。
ペンシルゴンの場合はビジネスライクな繋がりをよく使う、金だったりアイテムだったりで釣って味方を売らせたりな……どっちも大概だわ。
「っ……はぁぁあぁぁあぁ……なんつーか……別ゲーでの知り合いってのは合ってるけど、フレンドリーな関係じゃないんだよ」
「だからこれからフレンドリーになっていこうぜサンラクくぅん……」
「やかましいわ」
もうこの里はダメじゃ、この変態諸共焼き払うしかない。
俺がレッドネームもやむなし、と覚悟を決めたのを気取られたのかディープスローターは両手を挙げて無抵抗のサインを示すとにへらと笑いながら弁明を始めた。
「いやいや待って待ってサンラクくん、ほんとーに悪意あって何かしてるわけじゃないんだって。……そりゃ、あっしから下ネタを取ったら何も残りゃしませんのでこんな名乗りをしちゃあいますがねぇ……」
「違う声になったですわ……!」
「こんなこともできるですわ?」
「あ、アタシの声ですわ!?」
大人びた女性の声が一瞬のブレスを挟んですぐさま小者臭い男の声に変わる。そしてエムルの言葉にニヤリと笑った奴の口から飛び出したのは、声真似という範疇を超えた模倣によって再現されたエムルの声。
相変わらず声帯変更がお得意って訳か……
「トラストミー……ね?」
信じる信じないじゃなくて、俺の中でディープスローターは「敵」にカテゴライズされてるからそれ以前の問題なんだがな。
「これでも私、このゲームじゃまだ人口の少ない魔術師系最上位職業の「賢者」やってるから、頼れるよ……? まぁ一発ヤッた訳じゃないけどネ!!」
「ぺっ」
「おいおい、これがリアルだったらその吐き捨てた唾を採取してたところだぜ?」
「やはりここで始末するしか……」
「わぁぁジョークジョーク! 会話を盛り上げるための下ネタなんだからぁ」
かつて下ネタでゲーム潰した奴が言って信用できる台詞ワーストワンだな。
「その、事情はよくわからないけど落ち着けよ……ディプスロさんって転移門を使ってプレイヤーの大陸間移動とかしてくれるすげー人なんだぞ?」
「は?」
転移門、だと?
「やぁーっぱり、サンラクくんも「門」に心当たりがあるみたいですわねぇ。見たところ使えるのは君ですわ? 可愛い兎ちゃん?」
「あ、アタシの声で聞かないで欲しいですわっ!」
「……ジュテーム、愛らしいバニーちゃん。俺とずっぽしお話しようずェ?」
「ぎゃあああサンラクサンの声もやめるですわぁぁぁ!」
おいちょっと待て俺の声で悲鳴を上げるってどう言うことだ? 事と次第によっては第二回傑剣への憧刃体験会だぞ。それはそれとしてディープスローターは死にたいらしいな。
「………」
「おおっとサンラクくぅん、まぁた随分と剣を構える姿が堂に入ってるじゃなぁい? さては……誰か真似してるね?」
チッ……やはり聡い、まぁ当たり前っちゃ当たり前か。何せ……
見様見真似も、役割模倣も。元を辿ればこいつの技術を俺がパクったものなんだから。
サンラク:応用性と反応速度を高水準で両立している
シルヴィア:応用性を絞る代わりに極めて高い反応速度を持つ
ディプスロ:隔絶した応用性お化けだが反応速度は人並み
大体こんな感じ
特定ゲームのみならシルヴィアが圧勝するし、どのゲームでも時間をかければかけるほどディプスロは手がつけられなくなり、サンラクは基本的にどのゲームでも最初からそれなりに戦える