故にこそ死を忘るることなかれ
いい加減ソロ描写書くのもマンネリして来たのでそろそろパーティ組ませたい、この世捨て人め……
大鎌というカテゴリは観賞用武器だと俺は思っている。武器として役に立たないからという理由ではない、パラメータが最強なら木の枝でだって魔王を倒せるのがゲームだからな。
観賞用、というのは「自分で扱うにはあまりにも使いづらいから使える奴が戦ってるのを見るのが一番楽しい」という理由からだ。重心がクソだから振り回すにしても制御が難しいんだよフルダイブだと……まぁシステム側でアシストしてくれるタイプなら使えるんだが。
とはいえいい意味で変にセンスを拗らせた作品だと結構な割合で鎌という武器を見かける。それはつまり悪い意味でセンス拗らせすぎてクソになったゲームで鎌を使わざるを得ない状況は経験済みということ。
故にこそ、スキル補正がなくても一撃で倒せる雑兵共を壁にしたところでぇぇぇ……物の数じゃないんだよ!!
「どけどけどけぇ!!」
鎌は死神的に使うなら斧やハンマーと使用法が似ている。剣のように両手を近く握るのではなくむしろ離して握り、そして振り回す。
過剰伝達状態で軽く身を捻れば竜巻の如き回転にまで過剰な動作増幅が成され、倒れればその瞬間に死にかねないので細心の注意を払いつつ俺へと纏わりつく亡霊共を叩き斬っていく。
まさしく快刀乱麻、無双ゲーは分かりやすく強者になれるので嫌いではない。ただ、無双 (される)ゲーはダメだ……お前の事だぞコスモバスター。
だがしかし現状はその両方の中間を揺れ動いていると言っていい。兎にも角にも物量で押されている、黒天無塵鎌は有効打ではあるが範囲攻撃手段として有能であるかと言えばそうでもない。
鎌系のスキルも持っていない俺では精々が回転斬りを自前で再現するくらいしかできない、見てくれは再現できてもパラメータ補正が入っていないなら大した効果は発揮できまい。
「チッ……!」
舌打ちをしつつ遮那王憑き起動。モーション補正系は過剰伝達の事故率が上がるのであまり使いたくはないのだが、単純な行動であれば純粋なパンプアップとして使える。
プレイヤーとしては規格外の跳躍力で三メートルほど跳ね上がった俺はフリットフロートを起動し、思い切り前へと跳ぶ。
「くそッ……奴の走った軌道に無限湧きってか……!?」
妙にフォームの綺麗なダッシュで走るクソ姫、よくよく考えれば非物質存在だから物理的な衣服の阻害がないのか? ずるいぞ。
だが俺の身体はあくまでも跳躍による加速、慣性が尽きれば地面へと落ちるが定め。この鎌があれば、あの蠍共と比べれば亡霊に囲まれた程度で即袋叩きとはならないだろうが………
「……やるか?」
理論上は可能なはず、有効かどうかは副次的なものだから無視して構わない。重要なのは障害物への対処だ。
「遮那王憑きはまだ保つ……いくぞ!」
己を叱咤し、波打つ亡霊の渦中へと飛び込む。着地と同時に目の前にいた兵士らしき亡霊に鎌の先端を突き刺し、そのまま刃の向きを変えて何度目とも知れぬ回転斬り。
ぽっかりと俺を中心に空白が生まれ、それが埋まるよりも先に前へと進む。せめてこれが双剣であったならもっともっと楽に進めたのだが、鎌ってやつはマジで絶妙に使いづらい。
「だが、残り三十メートルもないだろう……行ける!」
インベントリア! こんなシケた場所でお披露目たぁな……だが安心しろ、目撃者の息の根は確実に止め直してやるよ!!
それは憎悪と恨みを根本として設定されたモンスターであり、そしてユニークシナリオをトリガーとしてのみ発生するキーモンスターでもある。
喪失のデュラハン、その失った筈の首を抱え逃げる亡国の悪姫霊は悦に浸った邪悪な笑みを絶やさない。
己が走る一秒一分が、あの夫婦の苦しみとなる。それこそが今の彼女に残された唯一の慰め、だからこそかつての民を、父を盾としてでも悪姫は逃げる。
「ようクソ姫ェ……てめーのシナリオは数百年前に終わった設定だろう? 今更出しゃばるもんじゃないぜ」
声が聞こえた。
背後より聞こえたその声は、己を捨てた忌々しい黒騎士のものではない。己の全身の骨が外気に晒されるよう開き殺した憎き女のものでもない。
だがその声は、あの女とは違う声で、それでもあの女と同じ喪服を纏って鎌を携えた女で……何故? 亡国の亡霊群による妨害をどうやって? あの背後に見えるアレは、一体……
悪姫霊を庇うようにかつて王と呼ばれた亡霊が前に出る。だが生前の肥えた姿のままに亡霊となった男は悲しいほどにサンドバッグで、娘を守る献身は一瞬程度の足止めにしかならない。
「別世界の言葉だが……死者は死者らしく眠りな、汝────」
喪服の女が口にしたその言葉の意味をAIが判断するよりも早く、
「──え、ってな。」
亡国の悪姫霊の首が黒天無塵鎌によって断ち切られた。
伝承に曰く。
その鎌が振るわれし後、死の静寂のみが広がる………と。
「はいキャッチィ!!」
よっしゃコラザマァ見やがれクソ姫が! だが勝利の余韻に浸る時間はない。黒天無塵鎌をインベントリにしまい込み、駆け抜けた道を一目散に駆け戻る。
アイスが溶けるようにその形を崩す亡霊の中を真っ直ぐ駆け抜け、クソ姫と俺とを隔てていた距離を詰めるために出した「モノ」をしまう時間すら惜しいと放置、どうせ引っ張って盗めるようなもんでもないしな!
「うおおおハイヒール走りづれえええええ!」
まさかここで過剰伝達が逆に助けとなるとは、ハイヒールでは全力で走ることができない。だが過剰伝達であれば爪先立ちのような状態のステップでも通常時のダッシュ並の速度が出せる。
駆けて、駆けて、駆けて……見えた! ヘイお二人さん、キスをするにしたって顔がなくちゃどうにも……
「………!」
「………っ!」
うわぁぁぁぁ修羅場ってるぅぅぅ!?
振り上げられた黒死の天霊の鎌、喪失骸将はAIのレベルが三世代前くらいに戻ったんじゃないかと疑いたくなるくらい愚直な剣の振り回しを続けている。てかあれAIバグってない? バグというかハメ技というか……ええい話は後だ!
「ありがとう神秘!」
リキャストは終了している、そして遮那王憑きはギリギリまだ効果時間!!
「うおおおおおお!」
大地を踏みしめホップ!
「間に合え……」
両脚に力を込めてステップ! 後押しするかのようにちょっとだけ回復!グッドタイミングだが…… へぇ、間接的なキルでも発動するのね。
「届けえええええ!」
大跳躍!!
馬上で剣を振るう喪失骸将よりも高く、制御を失いそうなギリギリのラインで踏ん張って宙を舞う喪服。
その手でしっかりと掴んだ首を振り上げて……
「お届け物でぇぇぇぇす!!」
ダンクシュート!!!
首の向きが若干ヤバいがそれくらいは許せ、元々リモートなんだから大差ないだろう。
「ふべっ!?」
ダンクシュートの軌道上、喪失骸将の肩に顔面を強打した俺はそのままズルズルと地面に落ち、ベシャリと土を舐める羽目になる。うぅ、なんかカビ臭い気がしてきた……あそこで回復してなかったら、封雷の撃鉄・災のデメリットが一定間隔での判定でなければ確実に死んでいただろう。
「だが……どうだ!?」
首のデリバリーは遂行したぞ、どうなった!?
「………」
「………」
おぉ……一秒を切った状態で爆弾の解除に成功したような。沈黙でこそあれ、危機的なものでも致命的なものでもない沈黙だ。
首を取り戻した喪失骸将は剣を振るう腕を止め、黒死の天霊が諦めと共に振り下ろさんとした鎌は喪失骸将の寸前でピタリと止まった。
無言のガッツポーズを行う俺を他所に、果ての果てまで成り果てたかつて愛し合った者達はゆっくりと、だが万感の想いが篭った手を互いに伸ばし……そしてそれは今度こそ触れ合った。
「……ヨハ、んナ」
「ヴ、ぃん、セン……と」
感動の再会だ、米の吹雪でも撒いた方がいいかな? それとも塩?
双方共にモンスター、それもユニークではないモンスターである以上はウェザエモンのように本人というわけではない。
かつていたのだろうヨハンナとヴィンセントは救われないまま死んだわけで、この二体がイチャついたところでその事実が変わることはない。
だがそれでも、残滓同士の傷の舐め合いであっても。たしかにこの場所で二つの未練が良き終わりを迎えたことだけは事実だ。
ゲームがゲームならスカートを巻き上げそうな一陣の風が吹く。それは俺を撫で、そして崩壊した二体のモンスターを攫うように渓谷を吹き抜けて去る。
後に残ったのは俺と、地面に落ちた鎖のように繋がり一つとなった二つの指輪。
『ユニークシナリオ「愛故に哀、故にこそ死を」をクリアしました』
『二度と別離たれずを入手しました』
あのクソ姫にも言った別ゲーの言葉だが……彼らにも贈ってやろうじゃないか。
「汝、死の安らぎあるが故に生の喜びあること忘れるべからず、故にこそ汝死を想え……ってな」
完璧だ……元ネタが不死身の衛生兵が跋扈するゲームじゃなけりゃ百二十点だったんだがな。
さて、水晶巣崖でヴォーパル魂と減りまくった鉱石を稼がないと。
亡国の悪姫霊の基になった人物は内陸出身
黒死の怨涙:強化アイテムでありエンチャントアイテムであり……これ単体でも色々使える
黒天無塵鎌:武器、だけど同時に……
R.I.P.:邪悪な魔法少女変身アイテム、鎌と違ってダブると本格的に使いどころが無い
二度と別離たれず:解かせる気がない知恵の輪、1+1=1