大暴走劇的ビフォーアフター
予言、予知、未来視……呼び方はなんでもいい、古来より人は未来を観測することに一種の信仰じみた憧れを抱いて来た。
歴史上、預言者を名乗った人物なんて腐る程現れたし実際俺だって未来予知できる能力が貰えるなら貰っておきたい。
とはいえ、だ。その手の未来予知というものは大抵がアクティブ未来予知、とでも言うべきものだ。
そりゃあ未来予知が常時で発動していたら認識する情報と実際の時間が常にズレ続けることになる。五秒後の崖に気を取られて一秒後の穴に落ちたんじゃギャグにしかならない、つまり人間という生き物は都合のいいタイミングで任意発動できる未来予知が欲しいのだ。
長々と心中独白を行なっていたが、つまり何が言いたいのかといえば……
「……………………えぇ?」
あれ程までに強キャラオーラを撒き散らしていた聖女ちゃんの頬が引き攣っている。どうやら聖女ちゃんの未来予知はアクティブ系で、なおかつ何でもかんでも見通すというわけではないらしい……とはいえ、これを見せられて平気な顔をできるやつはそうはいないだろう。ジョゼットですらロールプレイの仮面が剥がれかけてるし。
聖女ちゃんを案内するプレイヤーが自信満々に指し示すそれは……なんだろうなこれ、「度し難い」という言葉が一番しっくりくる。
「こちら、聖女様のために大棟梁笑みリアが建築した「装骨天守スカルアヅチ」で御座います……」
城である。それも明らかに外敵の迎撃を主眼とした要塞である。
スカル、と名を冠しているだけあって城砦の外壁にぎっしりと敷き詰め貼り付けられた骨、骨、骨……これを作ったやつはぜってー素面じゃない、天守閣に不自然にポッカリと空いたスペースが不気味でならない。あそこに何が飾られるというのだ、聖女ちゃんを磔にでもする気か?
「こ、これは…………その、非常に個性的と、言いますか……」
つ……、と聖女ちゃんの頬を一筋の汗が伝う。いやこれはしゃーないよ、旧大陸と新大陸で人の住む場所のコンセプトが別物すぎるわ。
風の噂ではこの前線拠点、つい最近レイドエネミーの襲撃を受けて半壊したという話だったが単純な修理に留まらず、魔界風建築にリフォームしてやがる。
スカルアヅチなる白骨魔城だけではない、前線拠点を守るように張り巡らされた柵も同様に骨で作られているし、堀の底には肋骨と思しき槍のデストラップ。あれは……投石機? 石をセットする場所に椅子が取り付けられてるんだけどそういうことなのか? そういうことなのか?? ちょっとやって見たいと思ったのは内緒だ。
「なんつーか、前衛芸術家が「殺意」をお題にして骨でテーマパーク作ったみたいな……」
分かる。とポツリ呟いたのは……確かテチ? とかいう親衛隊所属のプレイヤーだ、割とロールプレイしていない側に属する小柄な少女アバター故、騎士装束に違和感しかないのだが立ち振る舞いそのものはゲームに慣れたプレイヤーのそれだ。見た目で油断を誘う戦術か……やりおるな。
「かつて忌まわしき黒竜ノワルリンドによって前線拠点はほぼ壊滅と言っていい被害を受けました……しかしながら! 我らが大棟梁指揮の元、前線拠点は生まれ変わったのです!!」
生まれ変わった、っつーか死体から何か恐ろしい怪物がネクロマンスしたとかそういう感じの邪悪な生まれ変わりでは……
なんだろう、新たに解放された新マップってもっとこう、夢と希望に満ち溢れてるもんじゃないの? 何この、一通り葬儀を終えてよっしゃ復讐しますかぁ! みたいなドス黒い陽気さは。
「実際のところこれ防御力どんなもんなの?」
「………(にっこり)」
やぁだ怖ぁい……何故そこで満面の笑みを浮かべるの……
「エムル、ここで問題です」
「はいな」
「今まで千人ちょいで運用されていた森に新規で数千人入った場合、その場所の生態系はどうなるでしょうか」
「んー……ぐっちゃぐちゃになるですわ!」
「賢いな、人参をやろう」
「わぁい」
まぁ当たり前といえば当たり前だ。いわば擬似的なサービス開始期の再現、今の今まで先発組の情報を見聞きするだけでお預けを食らっていたプレイヤー達が新大陸に到着してとりあえず寝よう、なんて選択肢を選ぶはずがない。というか別に本当に七日間船に揺られているわけでもなし、旅疲れているのはNPCくらいだろう。
まぁつまり何が言いたいかというと、だ。
一斉に押し寄せた新規プレイヤー達の波によって前線拠点近辺のモンスターが一斉に虐殺されたわけで。そして「一定区域内のモンスターが短時間に狩り尽くされる」という条件が達成されたことで、奴が降臨する舞台が整ったわけだ。
「えっ、なん」
すぱーん、と名も知らぬプレイヤーの首が飛ぶ。壁タンクなのだろう、その防御力は俺のようなティッシュペーパーとは比べ物にならないくらい高いのだろう。だが即死だ、相変わらず理不尽すぎるなアレ。
「なんだこいつ!?」
「コクトウが一撃で!?」
初見殺し攻撃に驚愕すれど、この場に来ている以上ある程度の実力はあるわけですぐさま黒糖? なるタンクを葬ったそれに攻撃を仕掛けるパーティメンバー達。だが残念、奴はあらゆる攻撃を無効化する……分かっていてもクソすぎる耐性だ。
盗賊系と思しきプレイヤーが縦に割られる。魔法職と思しきプレイヤーが何らかの状態異常を喰らい、念のため俺が距離を離した瞬間全身からどす黒いダメージエフェクトを撒き散らして即死した。そしてその近くにいた聖職者プレイヤーがそれの攻撃を受けたわけでもないのに同様のデバフを喰らい……
「なんで、状態異常回復が…………あっ」
ぐしゃり、と死亡した。
「何つーかあれだな、前に一通り秋津茜が死亡パターン実演したから特に感想が出てこないな」
「ぶっちゃけ死にまくってるのに笑顔で突っ込む狐の人の方が怖いですわ」
まぁNPC的視点から見ればプレイヤーって狂人の類だしな……あんだけ死にまくっても笑顔が崩れない秋津茜も大概だとは思うが、トライアンドエラーはゲームに限らず娯楽の醍醐味だしな。
さて、奴………黒死の天霊に関して良いニュースと悪いニュースがある。先に悪い方から考えるか。
悪いニュースは「とりあえず行けるとこまで走ってみようぜ!」「いいですわねぇ!」と森に突っ込んだ俺は別にスローターに加担していないのだが、スローターされた地区にいるプレイヤーを皆殺しにする黒死の天霊にとっては関係なく俺も殺害リストに含まれているらしい。
良いニュースは単純明快、主に秋津茜の体を張った検証に付き合っていたおかげで俺もエムルも黒死の天霊に関しての情報を豊富に持っているということ。あいつがあらゆる方法で死んだお陰でお仕置きモンスターの行動パターンを完全に把握している上に、攻略法も既に割り出しているということだ。
「エムル、ポーションの用意は出来たな?」
「はいなっ! ガンガン投げるですわ!」
黒死の天霊くぅん………僕ぁねぇ……結構前から君に会いたくて会いたくて震えていたんだよぉ……?
君がクソカッコイイ鎌を落とすことは分かってるんだよォ……? まぁ、なんだ。
「ドロップアイテム落とせやオラァァァァ!!!」
「今更死の化身程度で怯えるほどヤワな兎じゃないですわァーっ!!」
死と、怨嗟と、絶望の化身が動揺している……俺の目にはそんな風に見えた。なるほど確かにお前はスローターをやらかしたプレイヤーをお仕置きするモンスターだ。だがな、クソカッコイイ鎌を落とすと判明した時点で………お前が狩られることは運営側が想定してるんだよ!!
・装骨城塞スカルアヅチ
先発組はどいつもこいつも森に挑んでばかりで拠点強化を手伝ってくれないのでコツコツ作り上げていた前線拠点。
正直に言えば貧相ではあるがそれでも頑張って作った前線拠点、それは儚くもノワルリンドと彼に焚き付けられたモンスターの暴走によって壊滅した。
原因は何か、プレイヤーの怠慢か? 違う、ゲーマーのプレイスタイルは誰か個人が縛り付けるものではない。
モンスターの群れか? 厳密には違う、結局のところあれはイベントであって明確にモンスター達が拠点を破壊しようとしたわけではない。じゃあ誰が悪い? 決まっている、ノワルリンドだ!
あくまでも趣味として取っていた「大工」の副業をメインに変えた上で上位職業「棟梁」への転職、同じくノワルリンドへのヘイトを持つプレイヤー達の全面協力の上で強化と改築を重ねた城塞は狩ったモンスターの骨を反応装甲とすることで補強され、対ノワルリンド用の防衛設備も充実した。
欠けた天守閣、ぽっかりと空いたそのスペースには何が置かれる? そんなことはわかりきっている。
笑みリア「貴公の首は天守に吊るされるのがお似合いだ」(パパパパパウワードドン)