第一次産業従事者、未知に挑む
まさかずっっっと前にお蔵入りという名の没にした作品のタイトルをサブタイとして再利用することになるとはこのリハクの目を持ってしても……
暴風の中、吹き飛ばされそうな身体と砕けそうな心をかろうじて持ちこたえさせつつ、ジョウロを片手に俺は叫ぶ。
その行為そのものにシステム的な意味がある訳ではない、だがそれでも叫ばなければ崖っぷちの心が砕けてしまいそうだから…………
「ちっくしょうがぁぁぁ! お前に俺の可愛い子供達を奪わせてたまるかぁぁぁ!!」
ああ゛あ゛あまたビニールハウスが吹き飛んだぁぁあ!!
クソがっ、だがこの程度で俺の子供達が屈すると……ぎゃああ土ごと大根を持っていくなぁぁぁ!?
激しく叩きつけられる雨粒のヴェールを突っ切り、ウィンドウを操作しつつ右手に持ったジョウロを勢いよく振り回す。肥料が含まれたエナジーウォーターが畑に撒かれ、作物達の品質が「特上」の状態に保たれる。
すかさずシステムウィンドウから範囲指定、金に糸目はつけぬと最高級のビニールハウスを展開し、畑のそばに突き刺した長杖を引き抜いて構える。
「他の中規模災獣ならともかく、最上位のてめーが不意打ち襲撃は卑怯だろうが……っ!」
視線の先、見上げに見上げてなお足りずに背を曲げるほどに見上げた先に見える奴の頭に俺は隠すつもりもなく舌を打ち唾を吐く。
見た目は雲にまで頭が届かんほどの巨体を誇るキリン、だがその実態は常に自身を中心に災厄の嵐を巻き起こす事で何もかもを問答無用で吹き飛ばすこのゲーム最強最悪の災獣「ゼピュラ・ジラ」……!
最上級の災獣なだけあって奴からすれば豆粒のような俺に敵意を向けるようなことはしない。
だが奴が通るだけで俺の子供達は、手塩にかけて育て上げた大根と茄子がダメになってしまう。
多少の損失は許容できる、だが僅かでも気を抜けば先程のように作物どころか畑の土ごと持っていかれる───!!
「うおおお上の空向いてねーでこっち気づけやぁぁ! 【イグニース・サイザン・フルブラステン】!!」
その世界にはその世界の摂理がある。この世界における最上位の火属性魔法が炎の魔神を模して巨神キリンへと飛翔し……タイミングがずれたのか下位の災獣であれば纏めてワンパンできるはずの魔神は蚊トンボの如く暴風に呑まれて消え去った……あゝ無情。
蝿がどれだけ己を鍛えたとて象をノックアウトさせる事は出来ない……そんな真理を教えてくれるゲーム、それがスリリングファーム……待って許して! そこには来季に植える種籾が置きっぱなんです! 嘘だろ合金製の小屋の耐久が目減りしてるんだが!? あーやめて! 今日の飯より明日の種籾だろぉぉぉぉ!?
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むくり、と現実世界で起床した俺はしみじみと一言。
「農家に感謝だな……」
全体の五割が嵐に消えたものの、最高品質の作物を叩き出す事に成功した。まぁ久し振りにやったにしては上出来だろう。
流石にここまでゲーム的ではないがやはりリアル生産職の方々への感謝を忘れちゃいかんね、それはそれとしてあのキリン野郎いつかぶっ倒す。
「……とりあえず朝飯食うか」
カップ麺最高! エナドリもキメれば敵無しだなうははははは!!
「さて」
時間は朝六時……調査船が新大陸に到着するのが九時だから……いや、一応雇い主のところに顔出した方が良いかな。
というわけでログイン、すぴょすぴょ寝ていたエムルを起こして頭に乗せつつ、起きがけ一発サンラ子ちゃんになって聖女ちゃんの元へ。
「時折この船からいなくなっていらっしゃったので、てっきり既に発たれているものと……」
「いえ、いえ。流石にそこまで不義理な事は致しませんとも」
こちらの行動をある程度把握していた、と……設定が強キャラすぎる。おい大丈夫かジョゼット、一歩間違えたらレイドボス「イリステラ」なんて事になりかねないぞ。
澄ました顔で「はぁあぁあ寝起きの聖女ちゃん可愛すぎかよ……」みたいな雰囲気を発しているジョゼットを半目で見つめつつ、俺は聖女ちゃんの次の行動を待つ。
「───ジョゼット、例のものを彼に」
「…………はっ」
何か引っかかったのか一瞬の間を置いたものの、ロールプレイに従ったジョゼットは何やらアイテムを俺へと渡す。
あれこれどこかで……ああそうだ、若干形状は違うがスクショアイテム、いや違うな録画アイテムに似てるんだ。
「この新大陸にて暗殺されんとする国王陛下と、第一王女殿下の救出……無理は承知の上ですが、そこにもう一つ達成の条件を加えても宜しいでしょうか?」
「聞きましょう、話はそれからです」
曰く、単に助けただけでは件の第一王子も「そりゃありがとう、じゃあ父上と妹は返してもらうね」となり暗殺エンドを回避できない。
であればこの新大陸にて処刑人を務める……やけにはっきりと断言された「第三騎士団」から言質をとって教会側で国王と王女を保護する必要がある。
「……つまり決定的な言葉を得るまで耐え忍び、その上で国王陛下を助けろと」
「……えぇ」
うーむ……このゲーム、リアルタイム進行だから色々と時機があるわけだが、それと同時にユニークシナリオやクエストなどの枠もあるわけで。
クエスト内で達成条件が変更された以上はやって出来ないことはない、と言うことではないだろうか。
理不尽の権化たるウェザエモンやリュカオーン、クターニッドですらなんらかの攻略糸口があったわけだし……行けるか?
ようし、じゃあここは俺もロールプレイと行こうじゃないか。
「……分かりました。その願い、仇討の剣が確かに聞き届けました。我ら剣は使い手の意志に従いますとも」
「ふふ、彷徨える剣に加わった新たなる一振り……信じていますとも」
うーん、これはガチ恋勢が徒党を組んでも致し方無い。
それはともかく、いよいよ新大陸の姿がはっきりと見えてくる。
第一陣として出航した新大陸調査船トルヴァンテ・ディスカバリエ号の姿も見えてくるとなれば、誰も彼もが甲板なり窓なりから外を見たくなるのは必然と言うべきか。
わらわらとプレイヤー達が顔を出しているのに混ざりつつ、俺もまた同様に新大陸の全容を眺める。
「サンラ子サンはすぐに王様と王女様を助けるですわ?」
「んー、聖女ちゃんの予言じゃ「人目につくと不味いから新大陸の奥地で事に及ぶ」って話だし、それに加えて今前線拠点はゴタついてるらしいから犯行はもう少し先じゃないかって話だし?」
国王陛下に第一王女殿下、NPCとしちゃ最上級の部類だ。世の創作物にはお忍びで城下町にやってくる権力者、なんてものはありふれているが流石にこんな場所で動けば足がつく。
奥地で暗殺するってんならそれなりの準備と理由のこじつけがあるはずだから、そこらへんを聞き込みすれば…………しまった、俺がそれやったら悪目立ちするじゃねーか。
「詰んだか?」
いや、まだだ。俺には心強い先輩がいるじゃないか!!
「───と、言うわけでご助力いただけませんかエロだ……ルティアパイセン」
「……今何か非常に不名誉な呼び方をしようとしなかった?」
「まさかそんなとんでもない!」
くっ、聡いなこのエロ大根。新大陸へと今まさに乗り上がらんとする調査船。誰もが新たなる地平を見て心躍らせる中、俺は船底にひっそりと開店された「海蛇と林檎」を訪れていた。マスター、りんごジュース一つ。
「……まぁ構わないわ、あの子の後輩として上手くやってくれているようだし、私達としても現国王の政策には少し思うところがあるから」
「幼女先生には良くしてもらっております、はい」
どうやら今現在も「仕事中」であるらしく、フードとマフラーを外すことなく席に着く賞金狩人ルティアと相対しつつも、俺は望ましい答えが得られた事に内心口の端を吊り上げる。
「それにしても、貴方……実は女だったの?」
「いや、基底部分は男ですのよおほほ」
「ああ、そういう趣味の……」
失礼な、キャラ固定のゲームで女キャラをプレイするという可能性も含めて考えればネカマ経験のないゲーマーは存在しないんだぞ? 人類皆ネカマ、ネカマと和解せよ。
とはいえこれでNPCの情報源を確保できた、あとは機を見て国王と第一王女を華麗に救助してクエストクリアだ。
視界を塞ぐウィンドウを振り払いつつも、俺は笑みを浮かべるのだった。
・災獣「ゼピュラ・ジラ」
スリリング・ファームに登場する超大型災獣。規格外の巨体を維持するための強心臓を保有しているもののあまりに出力が高すぎるためそのままだと過剰に体温が上がり続けて自滅してしまうため、嵐を自ら生成することで体力を低下させている。見た目は高層ビル並みの大きさを誇るキリン、危牧プレイヤーが首をへし折りたいエネミー二冠を達成している。
・災獣「ウルカヌ・ファント」
スリリング・ファームに登場する超大型災獣。こちらはゼピュラ・ジラとは異なりその巨体を動かすために自身のエネルギーを殆ど費やしているため、恒温動物でありながら生存可能な温度を自前で確保することができないという欠点を持っている。そのため雲を吸い込み鼻から噴出した体液を空中に展開、レンズとすることで太陽光を何倍にも増幅して背中の共生植物を活性化させエネルギーと温度を確保している。無論こいつが通過した後は日照り状態となり甚大な被害をもたらす。見た目はクソキリンほどではないが巨大な象、危牧プレイヤーが鼻を縛り上げたいエネミー二冠を達成している。
・災獣「レギオ・ダクスハウンド」
スリリング・ファームに登場する中型災獣。とりあえず存在するだけで牧場を荒らしていく他の災獣と異なり徹底的にプレイヤーを殺しにかかってくる。その爪は核シェルターの壁を掘抜き、どこにいようが優れた嗅覚で追いかけてくる。逃走ルートを吟味しないとファームを突っ切って追いかけてきたりするので超大型災獣とは別方向で厄介な災獣。見た目はリムジンサイズのクッソ凶悪なダックスフンド、中型災獣はプレイヤーが倒せるので嫌われてはいるがその分倒されてもいる。
息抜きにかつて封印した設定を新たに考えるの楽しすぎかぁ……?