ロクハクナノカダイジェスト
それは船旅三日目の事だった……
「なぁエムル」
「なんですわー……?」
「お前が船旅楽しみって言ったんだからもっとこう、喜べよ」
「特に何をするでもなく三日間海ばっか見てたら流石に飽きるですわ」
「……まぁ、素材集めも粗方終わって、武器の完成を待つだけだからな」
準スイートルームとでも言うべき船室から、ぼーっと外を眺めながらそんな風に話し合う俺とエムル。
何分、プレイヤー達が甲板でタコやらワカメの怪物やらを釣り上げるのが「襲撃」の精々であるこの船は、まぁよっぽどのことが無い限り平和な船旅を続けている。
もう少し出航時間が早かったなら、もしかしたらこの船ごとルルイアスに沈められていたかもしれないが、生憎そっちは外道共の管轄だ。
「つっても、船内歩くと面倒なことになりそうだしなぁ……」
見た目をごまかしてもプレイヤーネームは誤魔化せない。すれ違うだけならともかく、人混みの中を観光していれば気づかれる可能性は自然と高くなるだろう。
とはいえ折角の船旅をずっと地上で過ごして時間になったら転移、はい到着ー……ってのもあまりに味気ない。
「釣り……だな」
「釣りですわー?」
釣り、父曰くそれは世界との対話であり大海洋への挑戦……じゃあ川釣りはどうなんだと聞いたら「海と繋がってるんだし細かいことは気にするな」とのことらしい、湖はどうした湖は。
まぁそれはそれとして、釣りというものは口を半開きにして空を見上げているだけでも目の前に釣竿があるだけで「とりあえず無駄な時間ではない」と自分を納得させられる高尚な趣味なんだと。
シャンフロにおいて釣りアクションはそこまで力が入れられたコンテンツではない。いや別に手抜きというわけではないのだが、見た目普通の釣竿で下手をすれば軽自動車サイズのモンスターを釣り上げたりするのだから、やはりそこらへんはあくまでもゲーム的な概念デフォルメと言うべきか……おっ、いい引き。
「…………」
「…………」
「………た、食べないでください」
食べれそうにはないなぁ……明らかに奴と同種族だったので言伝を頼んでリリース。
暇だなぁ、何か面白いことないか……いや待て思いっきり流したけど今の魚人族じゃねーか!?
ちょっ、カムバーック!!
「───と、まぁこんなことがあってさ」
「そうだったんですね……チャットで、その……荒ぶっていらっしゃったので、何事かと」
気づけば新大陸への船出から五日目、特に部活動をやっていない俺や斎賀さんは土曜、日曜をゲームにつぎ込むことが出来るわけだ。
秋津茜なんかは部活で土曜日ログインできない、と嘆いていたが聞いた限り結構なハードスケジュールをこなしてあのバイタル維持してるのは素直に凄いと思う。
「作業モードで重要なフラグ踏むのは危険だと最近認識したよ……」
まぁアラバに俺が新大陸の方に行っている、と伝わったならよしとしよう。
「あぁそうだ、貸したマシンの方はどう?」
「はい、特に故障することもなく使わせてもらってます」
「そりゃ良かった」
ぶっちゃけ斎賀さん……もといレイ氏が調査船に乗り込んだ時点でその役割を達成したと言っていいのだが、貸した側から故障なんてしたら貸した側としては申し訳なくなるわけで。
「そう言えば斎賀さん、「兎の国からの招待」をクリアしたってことはもうヴォーパル武器の真化はした?」
確かレイ氏がラビッツ入りした時に使ってたのはスレッジハンマーだったか、あれって何を参照してるのかいまいち分からないけど真化の場合武器種が変わることも結構あるからなぁ……うちの包丁なんか今や抜刀機能まで搭載されてるぞ。
「ヴァイスアッシュ、さんに強化してもらうの、ですよね? それでしたら」
「武器種変わったりとかした?」
「はい、ハンマーから鉄鞭に」
鉄鞭とはメイスの派生武器で、なんでも「打撃武器だが斬撃系スキルが使える」という武器種であるらしい。尤も、ダメージ判定そのものは打撃扱いになるらしいが……ちなみにマッシブダイナマイトが背負ってた鉄塊、あれも鉄鞭カテゴリに入るらしい。
「便利ではあるんですが、クリティカルを出しづらいのもあって……」
「ふーん……」
鉄鞭といい、対刃剣といい、本当このゲームパラメータ以外にも隠し要素多いな。
武器それぞれに派生系がある? いや、だとすれば対刃剣が片手剣二本からの派生である以上は双剣派生の武器種も……待て、それがあのトンファーエッジ? いやあれは打撃系って話じゃ………うーん
「あぁそうだ、武器で思い出した。ビィラックにはもう会った? 黒いボサボサした感じの、ヴァッシュはランダエンカだから実質あいつがラビッツの鍛冶枠だし」
「ビィラック……あの、気難しそうな……」
「気難しい?」
脳裏をよぎるビィラックのイメージ……ヴァッシュが鍛冶やる時は大抵頭のネジが抜けて……俺が素材提供すると大抵目を丸くして……あとマントに擬態する……
「……気難、しい?」
平時はまぁ気難しく、もあるのか……な?
「それと、あと二つほど……」
「ん?」
俺の中で通称「サイガ案件」としてカテゴライズされている謎多き「神魔の剣」。どうも勇者武器や英傑武器、遺機装などのような通常とは異なる入手手順の武器ともまた異なる何か。
なんというか断片的な情報だけでも「とりあえず扱えてるけど本質的にはやばい武器」感がヒシヒシと伝わってくる大剣に対して、やはりというかヴァッシュからさらなる言及があったらしい。
「ヴァッシュはなんて?」
「───その剣の故を知る者はなく、真実は己の手で見つけ出すしかない……と」
いやその台詞を言ってる時点でお前知ってるじゃん、ってのは流石に禁句だろうか。
だが少なくとも分かったことが一つある。
「あの剣に関するフラグはNPCじゃなくてどこかしらの場所かアイテムってことだな」
「そう……なんですか?」
「それを知っている「誰か」はいなくても、それを知ることができる「何処か」「何か」はあるって事だろうし」
「成る程……」
この程度、攻略情報縛って隠し要素コンプするなら基礎も基礎ってやつよ。世の中には「隠しアイテム十個を集めて裏ボスに挑もう!(なお公式が誤植していたので実は十一個あった)」よりかはマシですわ、本編中でも徹底的に隠してたのに公式が自ら謝罪している光景には物悲しいものがあった。
まぁその問題の隠しアイテム十一個を揃える事で戦える裏ボスがバグのせいで本来は「猛攻に耐えながら祈祷コマンドを十一回行ってイベント進行」の筈が「挑発コマンド一回で何故か即死する」事実が発見された時は流石に乾いた笑いが漏れた、煽り耐性低すぎかよ……
「となるとレイ氏がファストトラベルを確保したのは僥倖か……新大陸側にそれがある、と明言された訳じゃないし例の地下空洞的に旧大陸側も完全に解き明かされた訳でもなし……ん?」
そういえば斎賀さん、二つほど伝えることがあるって言ってなかったか?
「もう一つ何か気になることが?」
「気になること、と言うか……ログイン中だとちょっと聞き辛い事なので……」
ログイン中だと聞きづらい? 一体何事かと斎賀さんを見ると、彼女は僅かに逡巡した様子を見せたが、意を決したように口を開いた。
「……ユニークシナリオ「ディアレの秘密特訓」って、ご存知ですか?」
とりあえず重要参考兎に事情聴取。
「ディアレおねーちゃんはアタシの憧れなんですわ! おねーちゃんはラビッツいちの大魔法使いで、アタシの魔法のおししょーさまなんですわ!」
「ほんほん」
「でもでも、最近は忙しいみたいであんまり会えないんですわ……」
「成る程………大体わかった」
要するに、新規にあっさり実力で抜かされちゃったら古参としてはメンツが立たないって訳ね。
これ半分くらい俺のせいだな?
そして、七日目がやってくる……!
魚人族とのコンタクトフラグを華麗にへし折る戦犯サンラク
魚人族の英雄にアポを取って別方向から遭遇フラグを立てるMVPサンラク
つまりフィフティーフィフティー無罪
ディアレ「……うん、いや別に妹に私の力が既にあいつに及んでいないと事実を知られるのが恥という訳ではないんだ。私とて妹が成長した事を疎むほど恥知らずではないからね、だがあいつの成長を見ると私の努力が足りていないのではと身に染みてね、父上の客人でありそのヴォーパル魂を認められた君に同行する事でより自分を高められると考えた次第なのだ。いや、だからエムルに修行しているところを見られるのが恥ずかしいとかそう言う訳ではなく、え? だったら彼や秋津茜殿でもいいじゃないか、だって? いや、そのぉ……ほら、シークルゥ兄上はあれで結構口が軽いからバレちゃうかもしれないし……というか常時半裸の殿方って仮に別種族としてもどうなんだ? というか、そもそも……いや違うぞ! 別に鳥の人と同行することに怯えている訳ではない! ただ私はエムルの前では格好つけたいというか……っは!? い、今のは違……っ、言葉の綾というか、あの、その……くっ、殺せ!」
怪文書系女騎士兎(ほぼ純魔)という新境地