ハウエバークソゲー中毒者
どうも話をしている限り、この斎賀長姉(仮称)はフルダイブVRにあまり肯定的ではないらしい。どうも俺の言葉に対する反応を見る限り酒やタバコと同じくらいの印象を抱いているように感じた。
とはいえフルダイブVRの根絶を声高らかに叫ぶ「現実主義者」とまでは行っていないようなので、俺の説明次第では無知ゆえの不信感を払拭する事はできるだろう。
身内が趣味に理解を示してくれないという悩みは色んなゲームで人と接していると結構な頻度で聞くことになる。
ウチの場合はそこら辺寛容というか無関心というか、一家のそれぞれにはっきり線引きがされているので基本不可侵な訳だが……まぁ我が家は特殊パターンだろう。
「そうですね……よくフルダイブVRを続けると身体が衰える、って言われますけどそれは間違いなんです」
「……そうなのですか?」
舌で唇を湿らせつつ、口車のエンジンが熱を帯びてきたのを自覚しながら続ける。
「いや、実際寝てるようなものなので筋肉が衰えたりはしますけども、そもそもフルダイブVRは健康な体を前提としているんです。生活に支障が出ない健康な身体を作った上でフルダイブを楽しむのが正しい形なんです、宇宙飛行士だって長期間宇宙にいると筋肉が衰えたりしますよね? だからこそ宇宙に行く前後で身体を鍛えるわけです」
Eスポーツと言うがまさしくその通りだ、フルダイブVRに疎い人達が一番勘違いするのがこれなのだがフルダイブは健康が第一の娯楽だ。肉体的に健康を損ねた状態でやっても自分の首を絞めるだけだ。
「身体を鍛える……陽務さんは何かトレーニングをされているので?」
「トレーニングというか……例えばジョギングやランニングをしたり、たまに腹筋とかをやったり……ですかね?」
ぶっちゃけ肥満にならない程度によく食って最低限コンビニに行くまで息切れしない程度のスタミナがあれば大体なんとかなる。
とはいえフルダイブVRについて語るだけならいい流れだ、少なくとも「斎賀さんは学校でどうですか?」とか聞かれても答えようがないし。
「───時に、陽務さんは愚妹達と同じ……ええと、ゲーム? をされているのですか?」
「愚妹……ええ、はい」
リアルで大真面目に愚妹とか言う人初めて見たわ、とはいえシャンフロで知り合ったわけだし肯定の返答を口にする。
「しゃん……風呂? なるものでは武士や忍者などの体験が出来る、と聞き及んでいるのですが……あの二人はどのような体験をしているのでしょう?」
「え? えーと………」
割とリアル捨ててますよねー、とか言っていいのか? 一応身内だし……いや、フルダイブにあまり親しくなさそうな人だしまさか「下の妹さんは割と現実捨ててますし上の姉はさらに現実捨ててそうですよ」とか言って家族会議にでもなったら俺では責任を持てない。
とはいえ下手に嘘ついても雰囲気氷点下になりそうだし……ここは当たり障りのない感じで。
「えーと、玲さんとは同じクラン……あー、団体? に所属していますが彼女は騎士として頼りにしています。百……さん? とはあまり接点はないんですけど…………なんだろう、魔法で剣を浮かせてそれを操る的な……あと、廃じ……いえ、不特定多数から頼られる力量を持つ団体の長を務めている? 事は知っています」
「????」
剣聖の戦法をファンタジーに疎そうな人に説明したらこうなるわな、というかサイガ-100との接点なんてつい最近までペンシルゴンが担当してたから大して知らないんだが。
「それは………」
「お待たせし……せ、仙姉さん!?」
斎賀さぁん!(歓喜)
「玲、お客様をお待たせするとは何事ですか」
「え……へ? あ、その、ごめんなさい……」
一見すると壊れているようには見えない、俺が持ってきたものとは別のVRヘッドギアと本体機を抱えた斎賀さんが目を白黒させながら斎賀長姉……もとい仙? さんに頭を下げる。
仙さんは俺の方を向くと軽く会釈して立ち上がる。
「陽務さん、それでは失礼させていただきます」
「アッハイ」
「非常に有意義なひと時でしたわ……時に玲」
「は、はい!」
「───しゃんふろなるゲームで不特定多数から頼りにされる程の地位を得るにはどれ程の時間を要するのですか? 具体的に言えば仕事と兼業して成し得るものなのかしら?」
「えっ」
「あっ」
すまんサイガ-100、流れ弾そっちに飛んで行ったかも。
「えーと……努力次第では、兼ね得るものかと……」
「そうですか、少し百と話す必要がありそうですね」
ごめんなさいサイガ-100、流れ弾じゃなくて狙撃だわこれ。
微笑を一切崩さないまま去っていった仙さんを見送りつつ、その姿が離れていったところでようやく俺は肩の力を抜く。斎賀さんがいる前で失礼な気もしなくもないが、流石にサイガ・ボスラッシュは二連続で勘弁してほしい。
「あの、その、すいません……」
「いやいや、謝る事ないよ……ただ、家庭訪問に来た教師の気持ちが少しだけ理解できたかな……」
気を取り直して、斎賀さんが持ってきたヘッドギアを受け取った俺は持参した工具キットで両手で抱えなければいけない程度には大きい本体機のカバーを外して中身を調べ始める。
「んー……埃は詰まるって程でもないか……コード系が千切れてるわけでもないし……やっぱり出力系がイかれてるのかな」
「どう、ですか……?」
「とりあえず本体の方は目立った故障はない、もしかしたら出力パーツがダメになったのかもしれないけど……ヘッドギアの方も調べてみる」
「よ、よろしくお願いします……」
本体側に問題がある場合は修理に出さなくても疑わしきパーツを買い換えればなんとかなる、専門知識が無くても取り替えができる程度にはカスタマーに優しい作りだからな。
ただ、ヘッドギア側に問題がある場合はどうにもならない。本体と違って繊細度合いが二割り増しくらいあるのでこっちが壊れてる場合はヘッドギアだけ買い換えた方が早い。
「ギア側は…………外的破損は無さそうだけど……とりあえずウチにあった予備の出力パーツ付けて試してみることって出来る?」
「はい、大丈夫です」
「一応これ未使用品だし、あの時の消え方からして出力系に問題があるのは確実だろうし……もしこれでダメだったらヘッドギア側に問題があると思う、斎賀さんってどれくらい前にこれ買ったの?」
「ええっとぉ……二、三年くらい前、でしょうか……」
「へぇ……二年オーバーしてたら保険どうだったかなぁ……」
そこら辺は買った場所にもよるし微妙なラインだが、時間こそかかるがいっそ修理に出した方が確実に正常な状態にできるし。ぶっちゃけ外的損傷が無いなら俺にできる事は殆ど無い。
「………………あぅ」
「ん? どうかした?」
「えーと、その、ですね……お客様をいつまでも待合室に座らせたままだと、その……そう、仙姉さんに怒られてしまいますし、あの……その、ですね」
まるで喉につっかえた言葉を口に出すのに苦心するかのように口を開けては閉じ、目をそらしては俯きを繰り返していた斎賀さんであったが、意を決したように顔を上げ口を開く。
「わ、私の部屋に…………ど、どうぞ!」
「………………えっ」
「………」
「………え、いやどうしろと?」
思わずポツリと呟くが、斎賀さんは応えない。当然だ、今彼女はフルダイブ中だ、少なくとも三分は目を覚まさないだろう。
フルダイブって割とゲーム内にログインするまで時間がかかるんだよな、体感は一分かからないけど実際は一分半、長いと三分くらいは経過している。ちなみに五分以上経過してたら間違いなく故障してるので修理一択、レスポンスが遅れる状態でPvPとかギャグでも御免だ。
「さて……」
この部屋、椅子がない。ベッドが無い。
つまり畳が敷かれた和室である。
「女子高生の部屋」と「風流な和室」と「ハイテク」って共存可能なんだな……っていやいや、この状況で俺はどうすればいいんだよ。
斎賀さんは一体俺をどうしたいんだ……とりあえず正座して待機してるわけだが。
「暇だ」
目の前にはログイン中の斎賀さん、シチュエーション的にはR18な感じがしないでもないが、仮に行動に移した場合最終到達点がノンフィクションR18Gなので正直あの待合室に戻りたいというのが本音だ……林檎みたいに頭蓋割られそう。
くっ……なんなんだ、俺は一体どうすればいいんだ。おや斎賀さんの目尻に埃が。
「ふっ……ここで取りに動くのはギャルゲーの主人公だけさ」
そして指が触れたあたりで斎賀さんが目を覚まして殴られるまでがテンプレートな流れだ、そして斎賀さんがその流れをやると俺がノックアウトされかねない。
つまりこの場における正解はこのまま正座を続行する事……っ! これが最速にして最善、ですよね幼女先生!!
幼女先生「知るかバカ」
百万字書いてようやっとラブコメ的進展ってどうなん?