コミュニケート・ボスラッシュ
徘徊型ボス、実在したのか……っ!
奇妙な静寂の中、俺は老人と対峙する。なんだこれは、龍宮院 富嶽と言いリアル老戦士じみた実在人物多すぎません? 見ろよあの腕、鮫だって絞め殺せそうじゃないか。ステ振りどうしてるんだろう、STRは年齢補正で下がってそうだけどDEXとかを上げて……
「………はっ!?」
いかん、思考がゲームに侵食されていた。目の前にいるご老公が強キャラオーラ出しすぎなのが悪いな、うん。
とはいえ俺が拾ったこれが木の床から自生する筈もなく、であれば落とした者がいるのは当然と言えば当然。確か聞いた話では今のシーズンだと……
「あ、あぁ……すいません、どうぞ」
「うむ」
「鮭釣りですか? もう少し先が旬って聞きますけど」
そうあれはルアーだ、それも鮭釣り用の。父さんが嬉々として用意してるのを見かけたから覚えていた。
「いくら丼食うぞいくら丼!」とハイテンションになっていたが、市販の方がいろいろ安心感が……
「……ほう、詳しいのかね?」
「あ、しまっ……んぐ、ええまぁ……と言っても自分ではなく父が釣りキチ……じゃない、釣りを趣味としてまして」
さっさと渡して会話を終わらせておけばよかったものを……と選択肢ミスによるタイムロスに歯噛みしつつも、ストロングシルバー相手にギャルゲーでの経験をフル回転させながら会話を続ける。
「確か北の方ならもう釣ってもいいんでしたっけ?」
「うむ、今の季節であるならば鰹釣りも良いが友人の勧めでルアーフィッシングに挑戦してみよう、という事になってな」
「ルアーだと狙う魚も自然と大きいのになりますからね……小学生くらいの時、父に連れられてシーバスを釣りに行った事があるんですけど力負けして海に落ちた事あるんですよねぇ」
今思えばアレは結構凄い経験だった、父さんが「釣竿を離せ!」って叫んでる声は聞こえないし、絶対に釣り上げてやると子供心に意固地になったせいで危うく流されかけたって言う。
「……ふむ、それはまたなんとも」
いいねいいね、過去話から会話を盛り上げる応用テクニックだ。やり過ぎると自分語り判定が下って好感度マイナスになりかねないので警戒が必要だ。
「まぁ最終的に釣竿を手放して父に救助されたんですけど、そのあと別の人が滅茶苦茶でかいヒラマサ釣り上げたんですよ」
「話の流れ的に……」
「えぇ、そいつ食いしん坊だったらしくて。口からラインが伸びてるから引っ張ったら父のロッドが釣れたっていう」
「っはっはっはっ! 釣竿が釣られたというわけか!」
「はははお後がよろしいようで……」
一メートルくらいある巨大魚を釣り上げたおっちゃんが「坊主は将来すげー大物を釣り上げるかもなぁ!」と頭を撫でてくれたのは朧げながら記憶に残っている。
おっちゃん、あの時の坊主は電脳世界で鯨を一本釣りするまで成長しました……! あとウチの親父はカジキを釣るくらい釣りキチが悪化しました。
「ふむ……成る程、成る程……最初はシーバス釣り、ヒラマサに釣られた子供、釣竿が釣り上げられた……」
は、早く来てくれ斎賀さーーん! これ以上釣りトークを続行するのは無理だーっ! そろそろボロが出るぅ!
というかやっぱり中途半端に会話を始めたのが悪手だったじゃねーか! ここで今更「もう話す事ないので……」とか言えるわけないじゃん!
笑顔の仮面がボロボロと崩れ始めたのを必死に補修しつつ、救難信号を心の中で飛ばしていると……
「…………」
「…………」
襖の陰から顔の上半分だけを覗かせてこちらを見る斎賀さんとバッチリ目が合った。
「……っ!(襖の裏に引っ込もうとする)」
「………!!(高速で瞬きして救助を求める)」
助けて! 救援お願いします! ソロ攻略は無理なんです!
そんな願いが届いたのか、おずおずといった様子で襖の陰から斎賀さんが現れる。
「あの、お祖父様……」
「おぉ玲や、お前のご学友かね?」
「は、はい……! その、同じ学校の……陽務君、です」
「どうも……」
「ふむ……陽務、か……成る程」
先程から何が成る程なのか、一体俺の何を見た上でその言葉が出て来たのか。こういう時「現実」には攻略サイトが存在しない事が恨めしい、徘徊型ボスとか初見殺しにも程があるだろう……!
「では儂は失礼させてもらおうか……ああそうだ」
「ハイナンデショカー!」
「仙次君に宜しく、と伝えておいてくれるかね?」
ウチの親父殿は何晒してくれはっとりますかで御座るですわァ!!?
気分としては曲がり角でいきなり刺された感じだ、ラスボスの口から「家族を捨てて蒸発した父親が実は世界と家族を守るために一人孤独な戦いを続けていたが力及ばず倒れた」事を伝えられた主人公キャラ的な……いやウチの父親は普通にピンピンしてるし、なんならつい最近生牡蠣に当たってたけど翌日にはケロっとした顔でフグ釣りに行ったからな? 死を恐れない狂戦士か何かかよ。
「か、家族ぐるみの、つ、つつ、付き合……っ!?」
「斎賀さん?」
「カゾグルミァイ!?」
「なんて?」
時折バグるのは相変わらずだが、流石は斎賀家の御令嬢と言うべきか……自宅で和服の高校生って初めて見たぞ。
「斎賀家すげーな……」
「そ、そなことないですよ…………そのっ、今日はわざわざご足労いただき……」
「いやほんと気にしなくて良いって、とりあえずハイこれ。掃除自体はしてたし普通に使えるとは思う」
本当ね、業務用はそこら辺のメンテも地味に大変でなぁ……何より嵩張るから動かすのめっちゃ大変なんだよ、お陰で俺の部屋を掃除するロボット掃除機がとても迷惑そうに業務用へゴンゴンぶつかるというね。
「あ、ありがとうございます……すいません、ちょっと私の奴を持ってきます……!」
「あ、うん。ここで待ってればいいかな?」
「はい! しばしお待ちを!」
たたた、と走り去って行った斎賀さんを見送りつつ緑茶を飲む。庶民舌なのでよく分からないが多分美味しい。
しかし父さんと斎賀グランパに繋がりがあるとは……世の中狭いな、いやむしろ合縁奇縁乱数が大成功した感じ?
「………」
「………」
待て、落ち着け。これは罠だ、反応した瞬間即死技が飛んでくるタイプの奴だ。反応型の即死行動は把握さえしてれば利用することもできるが、初見だと普通に怖いからなぁ……つまり今めっちゃ怖い。
「………」
「………」
なんだ、なんだこれは。実は斎賀さんもグルで一家ぐるみで俺にドッキリしかけてるとかそういうアレですか?
ごく自然に待合室に入ってきて俺の対面に座った和服の女性と無言で対峙する、という沈黙の時間がただ続いていく。目を逸らしたくて仕方がないのだが即死技が反応する時と同じような嫌な予感がするので表面上は平静を装いつつも非常に硬い動きで額の汗を拭う。
「………玲のご学友であるとか」
喋っ……!? いや当然と言えば当然だけど会話をご所望ですか! 嘘だろ裏ボスかよ。
「えぇ、ハイ。クラスは違うのでどちらかと言えば同好の士と言いますか」
「同好の……あの、頭に機械を付けて眠る……」
「フルダイブVRですね、それです」
どこか斎賀さんと似たような造形をしたその女性は全身から威圧感を漂わせながら俺をじっと見据える。成る程、刻傷や「呪い」に反応するNPCってこんな気持ちだったんだな。
「あれは……その、どういった仕組みなのでしょう?」
「どう…………あー、えーと……脳には電気信号があるわけで、外部から特定の信号を出すことで……」
うん。
「機械の力でみんなの夢を共有している感じです」
「成る程……」
確かサイガ-100が斎賀さんの姉という話だったが……この人がそうなのか? いや、喋り方というか雰囲気が全然違うしサイガ-100とは別の姉がいるとかなのか? 他人の姉妹関係とかいちいち覚えてないぞ、というか当たり前だがサイガ-100の本名すらそもそも知らねーよ!
「貴方は……えぇと、」
「陽務です、今日は斎賀……えーと、玲さんの機器が不調ということで修理から帰ってくるまで自分が今使っていないものを貸しに来たと言いますか……」
「───殿方が幾度となく使ったものを?」
スゥ、と女性が微笑のまま気温が氷点下にまで下がった、絶対下がった。
「いやいやいやいや、流石に汚れとかもありましたから綺麗にしてあります」
とりあえずヒトが生存可能な気温に戻った。うぅ、帰りたぁい……
「そうですか……えぇ、実のところ玲や百が熱中しているものに私も少々興味がありまして」
モモ? そういやペンシルゴンもそんな名前を……いや待てサイガのモモ? 斎賀 百? 姉妹揃ってキャラネが適当すぎやしませんかね。
「───ですので。二、三質問しても良いでしょうか?」
「みっ…………どうぞ」
身内に聞けよそんくらい、という言葉を水晶群蠍の外殻よりも固い意志で押さえ込みかろうじて返事をする。
なんだろうな、このラスボス倒した後にイベントシーン挟んでノンストップ裏ボス戦突入した感じ。
助けて斎賀さぁーーーーん!(本日二回目)
ヒロインちゃん「……消毒液の匂いがする」